第七十一話・旅はゆっくりじっくりと
はい、第七十一話投稿いたしました。
夏休み突入後二度目の投稿。
そして前回の投稿より二週間ぶりの投稿。
…どうもすみません。
さっそく、第七十一話始まり始まり…
「乗り心地はどうですか?セルナ。」
「ん、乗合いのより振動も少ないし、やっぱ高いだけはあるな。」
セルナが言うように、馬車にしては振動が少ないです。
サスペンションでも取り付けてあるんでしょうかね?
「それで、これからどうすんだ?」
「もちろん【アプライド】に行きます。夕方にはこの国を発てるでしょう。」
もともと【アプライド】に行くために馬車を探していたんですから、行かないんだったら本末転倒です。
馬車の走る音と人混みの喧騒が馬車の中に聞こえてきます。
そして景色がゆっくりと後ろに流れ、涼風が吹き抜けます。
もちろん、その馬車を牽いているのは…
「クロさん、この先の角を曲がったところです。用意をしてきますから少しだけ待っていてくださいね。」
「ウォン!」
『分かりましたぜ姐御!』とでも言っているかのように、しっかりと馬車を牽きながら小気味よく返事を返してきます。
この馬車を牽いている黒狼…クロさんは、あの店にいた狼です。
楽しかったので、つい本気で戦ってしまいました。
まあ、どちらも大きな怪我もなく済んでよかったです。
「それにしても、クロさんは強かったですね。危うく死ぬところでした。」
「ワウワウ!ウウゥゥ…バウッ!」
クロさんは『いえいえ、自分ごときが姐御に歯向かったのが馬鹿でした。これからは姉御に誠心誠意尽くさせて頂きます!』とでも言っているかのように吠えています。
「…なあ、ちょっといいか?」
クロさんの話を聞いていると、セルナが話しかけてきました。
「なんでしょうか?」
「お前さ、なんだ、その…狼と話せんのか?」
「なにを言っているんです。無理に決まってるじゃないですか。ねえ、クロさん。」
「ウウゥゥ…!バゥッ!」
私に続けてクロさんも『その通りです!自分ごときが姐御と話せるわけありません。ふざけんな【亜人】が!』とでも言っているようです。
まったく、私なんかが動物と会話をするなんて不可能に決まっています。
「クロさん、そんな乱暴な言葉を使ってはいけませんよ。」
「ウ、ワゥ…」
少しキツく言うと、シュンとした様子で頭を下げ『す、すみません姐御…』とでも言っているかのように、弱々しく吠えました。
「そうだ、クロさん。セルナの他にも【亜人】の子がいますけど、くれぐれも驚かさないようにしてくださいね。」
クロさんは大きい狼ですから、気弱なヒナが見たら驚いて気を失ってしまいそうです。
「ウォン!ワウワウ!」
『任せてください姐御!子どもの世話は得意なんですよ!』とでも言っているように張り切っています。
「では、お願いしますね。」
「…うん、まあ、いいや。」
セルナは、疲れたような様子で空を見上げてしまいました。
「どうしたんでしょうね?」
「ワン!ヴァウ!」
クロさんは『ゆっくりさせてあげましょう姐御。きっと疲れたんですよ!』とでも言うかのように、セルナの方を見つめながら吠えました。
「それもそうですね。ああ、着きました。少しだけ待っていてくださいね。」
セルナの手を引いて馬車を降り、宿屋の扉を開けます。
すると…
「む、イーナ!久しぶりじゃ!」
「キャリルさん、お久しぶりですね。先日はお見舞いに来て頂いてありがとうございます。」
そこには、なぜか机で食事をしているキャリルさんがいました。
【レーダー】で確認した限り、周りに護衛などはいないようです。
「どうしたんですか?こんなところに一人で来て。自分の国に帰ったのでは?」
そもそも、大会が終わってもう一週間は経ちますし、この国にいるのもおかしい話ですが。
「うむ【アプライド】が襲撃された事件があったじゃろう?あれのせいで予定が狂ってしまったのじゃ。」
他の国の王様もこの国に集合していた最中の、あの事件でしたからね。
混乱するのも当然でしょう。
「しかし、母上も父上も他の国の王も混乱している中で、いつの間にか解決してしまったのじゃよ。」
まあ、ルビアを連れて行かれてキレていましたからね。
目立ちすぎましたかね?
「それも、その当日に解決したのじゃ。しかも【アプライド】の王も何があったのかは口を閉ざしておるし。」
ああ、王様は喋っていないようですね。
でも、喋ったところで証拠が残るようなことは…そういえば門をぶち壊しましたね。
まあ、なんとでも言い逃れはできますからどうでもいいですね。
「それで、今日はなぜここに?」
「今日の夕方には姉上たちと一緒に帰るのじゃ。その前にイーナに渡したいものがあったのじゃ。」
キャリルさんがゴソゴソと懐を探り、一枚の紙を差し出しました。
「これは?」
「うむ、それがあれば【フィジカ】に入国するときの税が免除されるのじゃ。妾のサインも入っておる。」
渡された紙は手触りがよく、上質なそうな紙でした。
その紙には、噛み砕いて言うと『この者は大切な客人だから税金なんて取るなよ?絶対だぞ?絶対だからな?フリじゃないからな?』と書いてあります。
「まあ、これから先、行くことがあったら使わせて頂きます。」
「そ、そうか。もしよければ、その…妾と一緒に【フィジカ】に行かぬか?」
「いえ、これから【アプライド】に行く用事がありますから、遠慮させてもらいます。」
「な、なんと!?それは…まさかイーナ、あの事件に関わっているのか?」
「さあ?どうでしょうね。」
キャリルさんがジトッとした目で私を睨んできます。
「…はぁ、今のは聞かなかった事にしておくのじゃ。それで、実際の所はどうなのじゃ?」
「ご想像にお任せしますよ。私が関わっているのか、そうでないのかは秘密です。」
さらにジトッとした目で睨んできました。
「まあ、いいじゃないですか。それに来ましたよ?」
「来た?何がじゃ?」
ドン!と入ってきた扉が吹き飛び、大きな音を立てて転がりました。
「な、なにごとじゃ!?」
キャリルさんがその音に驚き、そこに目を向けるとそこには…
「キャーリールちゃーん!迎えに来たよー!」
キャリルさんの姉、ヴェルマさんの姿がありました。
「あ、姉上!どうしてここが!?」
「ふっふーん!愛だよキャリルちゃん!」
「なるほど、愛ならば仕方ないですね。」
「イーナお前もか!」
「そういえば、セルナは遠目に見ていただけでしたね。こちら【フィジカ】の第一王女のヴェルマさんです。」
私たちのことを眺めているだったセルナを招き、ヴェルマさんの紹介をしました。
「セルナって名前だよね?お話は聞いてるよっ!」
「あ、はい、どうも…」
ヴェルマさんがセルナの手を握ってブンブン振り回しながら笑顔で喋っています。
しかし、セルナの表情はどうにも苦笑いが浮かんでいます。
「さ、挨拶も済んだし、帰るよキャリルちゃん。」
ヴェルマさんがキャリルさんの手を引き、破壊した扉から出て行こうとします。
「イーナ!それじゃ待っておるぞ!」
まるで台風のように、辺りを散らかしてあっさりと帰って行きました。
「さて、準備を始めましょう。私たちは食料品を用意しますから、セルナたちは衣料品をお願いします。終わり次第集合してください。」
「分かったよ。みんな呼んでくっからサボんなよ?」
「もちろんです。セルナこそサボらないで下さいよ?」
閑話休題
さて、衣糧品の用意も終わり、あとはこの国を発つだけになりました。
食料は数日分を馬車に積み込んで、終わり次第袋から出して補充することにしました。
あまり多くすると、クロさんの負担になってしまいますから。
クロさんは『気にしないで下せえ姐御。自分は力持ちですから。』とでも言うかのように吠えてくれましたが、それでもです。
リリウムはクロさんを見ても恐れも見せずに撫でに行きましたが、ヒナは終始怯えていました。
リリウムに手を引かれてなんとかクロさんの正面に立ちましたが、顔を舐められて気絶してしまいました。
ルビアが近づくと、なぜかクロさんがお腹を見せてゴロゴロしていました。
野生の勘というのはすごいですね。
「さて、みんな乗りましたか?」
「はい!大丈夫ですイーナさん!」
馬車の御者台に座り、荷台にいるルビアの声に後ろを振り向いて確認すると…
「ねえ、セルナ。今日も…ね?」
「いやいや、今日から野宿だからな?【アプライド】に着いたら…な?」
セルナが【緑竜】に膝枕をされて横になって、場所を弁えずにもイチャイチャしています。
まあ、個人の恋愛は自由ですからなにも言いませんが。
「大丈夫だよ…お姉ちゃん…」
「うーん…」
未だ気絶したままのヒナを介抱しながら、静かな声でリリウムが返事をしました。
本当の姉妹のように仲が良く、見ていてほのぼのします。
「…うん、大丈夫よ、イーナさん。」
セルナにカンナと名付けられた【エルフ】も、みんなから少し離れた距離から返事を返しました。
「そうですか。では、クロさんお願いしますね。とりあえず南に進んでください。細かい方向は指示しますから。」
「ウォン!」
『分かりました姐御!』とでも言っているかのように返事をして、元気よく馬車を牽きはじめました。
「イーナさん【アプライド】まで何日です?」
クロさんが馬車を牽きはじめてすぐ【アンヴィーラ】を出る門の辺りで、ルビアがそんなことを聞いてきました。
「そうですね。クロさん次第ですが、早くても十日ほどかかりますね。」
「そんなにかかるんですか!?やっぱり、イーナさんが飛んで行った方が…」
「ルビア、馬車での旅も風情があるというものですよ。それに、急ぎの用事でもありません。ゆっくり行きましょう。」
【家族】たちとゆっくり過ごすのもいい物です。
まあ、一匹だけ邪魔な奴がいますが。
「ルビア、隣に来てください。」
「はい、イーナさん…」
私の隣にルビアが座りました。
ゆっくりと立ち上がり、ルビアの膝に腰掛けます。
「い、いいいイーナさん!?」
「ほら、ルビア。こうやってゆっくり行くのもいいでしょう?」
「は、はははい!もちろんです!」
豊満なルビアの胸に頭を乗せると、ルビアがギュッと抱きしめてきます。
「イーナさん…大好きです。」
私の耳元で囁くように、ルビアが言いました。
「ええ、私も大好きですよ。」
【家族】は大好きです。
だって【家族】ですから。
はい、どうだったでしょうか?
馬車って、今でも販売しているんですね。
調べていて初めて知りました。
それと、そろそろ番外編でも書きましょうかね?
ネタみたいなのもありますから。
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