第七十話・鳴かぬなら鳴かせて見せましょ狼を
はい、第七十話投稿いたしました。
夏休み中は、やはり投稿が遅めになったり。
ポチポチと執筆はしていますが、やっぱり一話書くのに時間がかかってしまいます。
さってと、第七十話始まり始まり…
カチャリと扉を開けると、外よりももっと濃い、動物の独特のにおいが漂っています。
なんというか、動物園のようなにおいですね。
まあ、動物園なんて最近めっきり行っていませんが。
そんなことを考えていたら、いきなり目の前に土の散弾が飛んできました。
飛んでくるというには生易しく、思いきり叩きつけられたかのような衝撃です。
「まあ、どうってことはないですけど。」
もちろん、それは【霊力障壁】で遮られバラバラと地面に落下していきます。
散弾が落ちた瞬間、融けるように地面に吸い込まれ、それが形を成します。
それは円錐状の形を造り、表面には螺旋の溝が掘りこまれています。
まるで、それは…
「ドリル…ですか?」
土でできたドリルが生成され【霊力障壁】に突き刺さりました。
その【魔法】がドリルのように回転しながら強引に【霊力障壁】に捻じ込まれています。
貫通力の高い土の【魔法】が継続的に【霊力障壁】に加えられ、今にも突破されそうです。
以前にも言いましたが【霊力障壁】は貫通力を持った持続的な攻撃に弱いんですよね。
射突型ブレードを取り出しドリルを殴りつけると粉々に砕け散りました。
それっきり【魔法】は止み、馬小屋の中に静けさが戻ります。
「まったく、躾のなっていない【魔獣】ですね。殺してやりましょうか?」
でも、そうするとセルナに馬車を牽かせないといけませんね。
それも面倒ですし、さっさと終わらせましょうか。
「早く来たらどうです?隠れていてもつまらないですから。」
そう言うと、物陰に隠れて今まで見えなかった敵影が確認できました。
物陰から姿を現したそれは、私の目を睨みつけながら目線を外そうとしません。
「犬…いや、狼ですか?そういえば、馬とは一言も言っていませんでしたね。」
確かに店員は馬とは言っていませんでした。
ただ【魔獣】がいると言っただけ。
しかし、この黒狼は大きすぎますね。
全長は軽く2mを超えていますよ。
まあ、馬車を牽けるのならばなんでもいいです。
それにしても、狼なんて久しぶりに見ましたね。
「ウヴヴゥゥ…!」
私に牙を剥き出し威嚇するようにして喉を唸らせ、その黒狼は敵意を明らかにしています。
それにしても、こんなモフモフとした毛並みの狼なんて…
「いいですね。気に入りました。」
人間と比べて分かりやすい思考をしていますから動物は好きですね。
まあ、この黒狼は【魔獣】らしいですけど。
「私はイーナと言います。実は馬車を牽ける動物を探しているんですよ。どうです?一緒に来ませんか?」
「グルゥゥゥ…ウルヴァァァ!」
その咆哮と呼応するかのように地面が波打ち、馬小屋そのものが軋んでいます。
まるで『面白い…力を見せてみやがれ!』とでも言っているようですね。
黒狼と一触即発の雰囲気の中、射突型ブレードの中でも最低威力の鉄塊を取り出します。
「そうですか。では、そうしましょう。」
【霊力急進】を前方に発動して黒狼の側面に接近し、勢いを保ったまま鉄塊を打ち付けます。
鈍い音が重い手応えと共に響き、黒狼の体がほんの僅かに浮かび上がりました。
殴打した場所を見ると、鈍く光る金属が確認できました。
瞬間、空いていた左手に重ショットガンを出し、零距離で発射します。
「ギャウッ!」
悲鳴を上げ、支柱を破壊しながら吹き飛び、砂埃が立ち込めます。
「まったく、壊してしまって。一体誰が弁償すると思っているんですか?」
右手を軽く動かすと少し痺れますが痛みもなく、問題はありません。
しかし【魔力】が視えないというのは不便極まりませんね。
相手がどの程度弱っているのか分かりませんから。
まあ、これが普通なんですけど。
「さて…」
朦々と砂埃が立ち込める中、その静寂を破るかのように。
「グルヴァアアァァァ!」
耳を劈くようなその声は地面に亀裂を入れ、その眼は最高の獲物でも見つけたかのように血走っています。
未だ戦意は衰えず意気軒昂。
その体毛から溢れ出る血にも構わず、地面を力強く蹴り、疾走してきます。
その行動は確実に体力を削り、命を縮めています。
にもかかわらず、命乞いなどせずに、まるで笑っているかのようです。
「羨ましい…」
動物という物には羨望が湧きます。
自分の為に生き、群れの為に生き、それらの為に死んでいき、後悔は持たずに後腐れなく死んでいく。
私のように惨めったらしく生に執着は持たず、一瞬一瞬を精一杯に生きていく、そんな動物に。
「本当に、羨ましいですね。」
だからこそズルはいけない。
元々持っている以外の、訳の分からない卑怯な力なんて、持ち出すべきではない。
「本気で行く。本気で来い。」
それに憧れるのならば、元々の私の力だけで。
私の技術だけで、能力だけで。
【霊力障壁】など使わず、武器も使わず。
「―――!」
黒狼の鳴声が成立していないのではなく、もはや聞き取ることができない。
たった数mの距離を駆ける黒狼の動きがゆっくりと、緩慢に動作をし、まるで走馬灯のような光景が広がる。
その顎は私などを簡単に食いちぎり、その牙は私などを容易く貫き、その爪は私なんて軽く引き裂くでしょう。
絶対的な【魔獣】と人間の、スペックとしての単純な差。
どう足掻いても埋める事なんて不可能な、生まれ持っての圧倒的な差が、そこには存在する。
しかし…
「死ねない。」
【家族】がいるから。
【家族】の為に、絶対に。
「死ねるか!」
はい、どうだったでしょうか。
主人公は動物好き。
小型も好きだけど、大型はもっと好き。
特に長毛でモフモフでフワフワなゴールデンレトリーバーなんて見た日には、ついその毛に埋もれてしまうとか。
動物も動物で主人公によく懐き、大人しくしているともっぱらの噂です。
体格が小さいので、大型犬の背中に乗らせてもらうことが最近のブーム。