第六十話・寿命は目に視えません
はい、第六十話投稿いたしました。
やはり、休暇中は更新が滞ってしまいます。
夏休みの時よりはマシですが…
ふいぃ、第六十話始まり始まり…
「た、たふけてふ―――」
ガボン!とくぐもった音が聞こえ、男の頭部が吹き飛びました。
「さて、と…」
ショットガンを腕に持ったまま、周りを見渡します。
頭が吹き飛んだ死体、半身が抉れた死体、焼け焦げた死体、原型を留めていない死体など、生きているのは私一人です。
結局、ルビアの居場所を聞き出すことは出来ませんでした。
本当に知らなかったのか、しらばっくれていたのかは知りませんがね。
「王様の居場所は聞き出せました。まずは…」
目指すはお城の一室、同じ場所にルビアも居ればいいんですが…
閑話休題
「殺せ!どんな手を使ってでも殺―――」
爆発が。
「ま【魔法】が!?なんなんだよあい―――」
血飛沫が。
「う、腕が!腕が!私の腕が―――」
老いも若いも、男も女も。
「皆殺しです。逃がしませんよ?」
逃げる【人間】にはスナイパーライフルで、向かってくる【人間】にはショットガンで。
【魔法】を放とうが、剣を振り下ろそうが【霊力障壁】には無駄なことです。
「まったく、面倒ですね。門でたくさん殺したハズなんですが…さすがはお城ですね。」
兵士が山ほどいますね。
殺しても殺してもキリがありません。
【レーダー】を見ても、赤い点と白い点だけ。
「ルビアは…いませんか。もう少し歩き回って…」
ルビアが居るのなら【レーダー】に緑色の点が表示されるはずです。
今確認できる限りでは、赤い点が無数と、白い点が一つだけ。
白い点は敵でも味方でもなく、私にとってもどうでもいい生物です。
しかし…
「いない?」
【レーダー】の示す場所を見ても、なにもありません。
あるのはただ、純白であったであろう、血に塗れた絨毯のみです。
【レーダー】の異常…も考えにくいですし、興味深いですね。
「君も…あいつの仲間か…止めを刺しに…?」
あいつ?
と言うより、何もない場所から声が。
「あいつと言われても…ああ、あの【教団】がとか言っていた男ですか?ところで、あなたは?」
私がそう言うと、空間から滲み出るように一人の【人間】が姿を現しました。
光学迷彩の類でしょうか?
「あいつの仲間じゃない…ま、いいか…もう【魔力】も限界だったし…」
息も絶え絶えに、血に塗れたお腹をおさえています。
「ところで、ルビアはどこでしょうか。知っていたら教えてくれますか?」
「ルビアって…ああ…この前君と一緒に…いた女の人…か…」
この前…ああ、私が倒れた時のことですね。
あの出来事も、もう数か月前…そろそろでしょうね。
ゆっくりと、力を振り絞るようにして廊下の先を指差しました。
「向こうだよ…王様もいるからさ…頼むよ…」
「嫌ですよ。でも、あなたは敵ではないようですから。自分で行ってきてください。」
「無理だよ…【魔力】も足りないから…【水属性魔法】は使えないし…もう…」
そんな言葉を聞き流しつつ、ポケットから取り出したのは【魔法陣】を書き込んだ一枚の紙です。
「なんだい…?それは…」
この世界に来て【魔法】を見て、羨ましいと思い、そして同時に疑問に思いました。
果たして【魔力】とは、どこから生まれるのか。
この世界は【地球】とは全く違う世界を、私に見せてくれました。
生活水準も中世の【地球】に準じており、車も飛行機も電気もない。
広大な森と澄んだ空、大気汚染も海洋汚染も無く、太陽と共に起き、月と共に床に就く…そんな世界です。
森には【魔獣】や野獣、そして【地球】では空想上のものでしかなかった竜など…
弱肉強食を基礎とした【地球】では考えられないような、どう足掻いても見ることのできない世界です。
しかし、私には、この世界がどうしようもなく綺麗で、感動的で…
そして、この世界に来て、様々な人の死を視てきました。
それがどんな死に方であれ、この眼鏡を通すと、儚くも美しく、幻想的で蠱惑的な光景が視えました。
【魂】とでも言いましょうか。
【魔力】は、この【魂】から発生し、それが体内を駆け巡り、体を動かしています。
【魔法】とは、この【魔力】を使い、様々な現象を起こしています。
だから【魔力】が少なくなれば疲れますし、空になれば気を失ってしまいます。
この【魔法陣】は【魂】を削り、普段と同じ【魔力】に戻す…そんなくだらない代物です。
「今、ここで死ぬか。それとも、寿命を削ってでも生き延びるか。選びなさい。」
【魂】とは、つまり寿命と同意義です。
それを削るから、寿命も減る。
それが数年か、数十年か、それとも寿命がなくなるのか。
どうなるのかは知りませんがね。
「そんな【魔法陣】…聞いたことないよ…?」
「それはそうですよ。今はありませんから。」
【文明】があった時代の【魔法】が載った本の、今では読める人など居るはずもない言語で書かれていた【魔法】を【魔法陣】に起こしたものですから。
「それじゃ…その【魔法陣】を借りようかな…それで…対価は必要かい…?」
対価ですか…
「あなたは王様に雇われていたんでしょう?王様に請求することにしますよ。」
「はは…これじゃ死ぬまで…ここで働くことに…なりそうだ…」
「その辺りは、自分で交渉をしてくださいね。」
そう言って【魔法陣】を渡しました。
「どうやって…使うのかな…?」
「【魔力】を流せば使えますよ。それと…これもですね。」
もう一つ渡した【魔法陣】は、体を元に戻すものです。
その時の傷の程度に比例して、使用される【魔力】も多くなりますが…
「それでは、私は行きます。ああ、二つ目の【魔法陣】ですが、使うととても痛いので、覚悟してくださいね。」
体を無理矢理治すのだから、当然と言えば当然ですね。
そして、指を刺した方へ歩みを進めます。
廊下を曲がり、階段を下り、邪魔なものを排除しながら進むと、金属製で頑丈そうな、物々しい扉がありました。
どうやら、ここのようですね。
押しても引いても、ガチャガチャ音が鳴るだけで、開く気配がありません。
射突型ブレードを出し殴りつけると、大きな音を立てて扉が吹き飛んでいきました。
「さて…」
中を覗き込むと、薄暗い室内に格子で囲われた狭い牢屋がいくつもありました。
牢屋を見ながら奥に進んでいくと、見たことのある人影が見えました。
「ああ、いましたね。どうですか?調子は。」
牢屋に閉じ込められ、後ろ手に手枷を嵌められていたのは…
「まるで裸の王様ですね。家臣も兵も、そして城も。果てには国まで奪われそうになって。」
「…」
見るからに覇気がない、憔悴したフィリスさんでした。
「私としては、どうでもいいんですよ。この国がどうなろうが、あなたが処刑されようが。」
「じゃあなんで…ここに…」
どうにも元気がないようですね。
まあ、肩に包帯を巻かれただけのような処置では、痛みなど取れないでしょうから。
「剣を返すためですよ。ほら、忘れて行ったでしょう?」
格子の隙間から剣を落とすと、ガシャンと音を立てて床に刺さりました。
「助けて…くれないの…?」
「ええ、目的は果たしました。助けはその内に来ますよ。えっと…透明な人でしたね。」
そういえば、名前を聞いていませんね。
まあ、別にいいですか。
「お腹から血を出して倒れていましたが、その内に来ると思いますよ。」
「っ…ワン君は、大丈夫なの…」
「放っておけば死んでいたでしょうね。でも、治しましたから。寿命を削って激痛に耐えて、それでも生きようとしていました。」
「そんな…」
「それで、あの人を治した対価ですが…あなたに請求しますよ。」
「…今の私には…なにもないわ…」
「大丈夫ですよ。あの男を殺せば、それで解決するでしょう?私としても、あなたとしても、損にはならない。」
「信じて、いいのね…?」
「ええ、もちろん。お金でも人でも、この国の利益になっているような場所は請求しませんよ。」
「ルビアもここにはいないようですし。あの男が連れて行ったんですかね?」
「ごめんなさい…わたしも、ついさっき、気づいて…」
「別にいいですよ。ところで、玉座はどこでしょうか?」
「この城の、最上階よ…滅多に行かない、けど…」
それだけ聞ければ十分です。
「それでは、私は行きますよ。お城のあちこちが壊れていますが、気にしないでくださいね。」
門に大穴が空いたり、壁や床が崩れていたり、色々な場所が赤くなっていたり。
「ちょっと、待って…」
牢屋を離れようとすると、フィリスさんに呼び止められました。
「あなたの目的は、なんなの…?」
「愚問ですね。言ったでしょう?この国が滅びようが、どうだっていい。しかし、あの男は、私の【家族】に手を出した。それだけで殺すには十分な理由です。」
しかしこれも、目的ではない。
目的なんて、一つに決まっている。
「私の目的はですね。ルビアを連れ戻すことですよ。あなたに剣を返すことも、その過程にたまたまあるからです。」
「私は…運が、よかったのかも、ね…」
ルビアが攫われなければ、傍観するつもりでしたから。
「助けが来たら、そのまま隠れていてくださいね。来ても邪魔なだけですから。それと、落ち着いたら連絡をください。色々と話したいですし。【アンヴィーラ】の安い宿にいますから。」
それだけ言い残し、牢屋のあった部屋を後にします。
目指すは最上階、玉座の間です。
はい、どうだったでしょうか?
途中で出てきた透明だった人は、番外編で出てきた人だったりします。
ちょっと口調が違うような気がしますが、気にしないでください。
そして、あの工学迷彩風の【魔具】とは…
感想、意見、その他諸々、お待ちしております