第五十七話・ヒロインは攫われることが多いです
はい、第五十七話投稿いたしました。
ようやくACVのパーツ調整が行われましたね。
バランスはよくなった…のかな?
それ以前に、もうちょっと腕を上げないとなぁ…
活動報告に番外編がひっそりと掲載されていたりするので、よければ閲覧をしてください。
とてとて、第五十七話始まり始まり…
緑色の閃光がフィリスさんを呑み込み、視界が一色に染まりました。
『な、な、なんですかこの光はーっ!?な【No.5】は!?イーナ選手は!?』
【霊力】を極限まで圧縮した緑色の凶弾は次第に霧散し、空気に溶けるように消えていきました。
光が収まると、片手に鈍く光る剣を掴んだまま、ピクリとも動かずに倒れているフィリスさんが見えます。
「審判さーん。私の勝ちでいいんですかー?」
終わったのなら、早く終わりにしてほしいですね。
こうやって大勢の目に触れるのは、得意ではありませんし。
『で、では、イーナ選手の勝―――』
私の勝利が宣言される瞬間、剣が投げ付けられました。
ガキン!と音を立てて【霊力障壁】にぶつかり、カラカラと地面を転がりました。
最後の足掻きと言うことですか。
【魔力】も無いのに、よくもまあ動けるものです。
「ま、まだよ…まだ、私は負けてないわ…!」
「まったく、諦めが悪いですね。まあ、嫌いではありませんが…」
せっかく剣を投げつけられたんですし、これを使いましょうか。
剣に【霊力】を流すと、再び白い光の刃が発生しました。
光剣を振り下ろし、光波で止めを刺そうとすると…
「これは…?」
【レーダー】に反応がありました。
私の真後ろから赤い点がなにかを投擲し、真っ直ぐこちらに向かってきます。
「私は【No.5】…【アプライド】の王よ…!こんな所で…負けられ―――」
私の頭上を通過した一条の黒い光が、フィリスさんの右肩を貫きました。
右肩を貫きながらも黒い光…黒い槍の勢いは収まらず、骨を砕く音と共に、フィリスさんは地面に倒れました。
「あ…」
もう限界だったのでしょう。
掠れた声を出し、それきりピクリとも動かなくなりました。
肩から槍を伝ってドクドクと血が流れ、地面を赤く染め上げています。
『え…?な、何これ…き、救護班!急いで!早―――』
巨大な【魔方陣】が地面に展開され、徐々に光が強まっていきます。
この【魔方陣】は転移の…?
輝きが最高潮に達し、目が眩むほどの光が止むと【魔方陣】と共にフィリスさんの姿が消えていました。
そして、代わりに一人の男が立っていました。
「ん?…まあいい。よお、久しぶりだな。ガキ。」
久しぶり?
…ああ、どことなく見覚えがあります。
確か【コーラル】で襲ってきた男ですね。
治療中に行方不明になったと聞きましたけど、生きていたんですね。
「ええ、久しぶりですね。それに…」
眼と喉を潰して指を切り取って、体中に短刀を突き刺したハズですが…
「どうして治っているんです?そんな【魔法】なんてありましたっけ?」
私の持っている本には、蘇生や再生の【魔法】が載っていましたけど、他にも写本があったんでしょうか?
「くかか【魔法】?そんなちゃちなモンじゃあねえさ。俺たち【教団】の技術だ。」
【教団】…いつか、アムザイさんが言っていましたね。
数十年前に古代文明の【遺産】を発掘して、力をつけてきた集団だとか。
あまり興味が無かったので、話半分に聞いていたんですけど。
「それで、何の用です。目的はあの王様でしょう?」
あの黒い槍も、転移の【魔方陣】も、どうせこの男の仕業でしょう。
「ああ、そうだそうだ、そうだったな。仕事は済ませねえとな。」
すぅ、と息を吸って、大声で、バカにしたかのような口調で…
「繊弱で脆弱で劣弱な【人間】共!よーく聞け!【アプライド】の王は【教団】の手中にありまーす!三日後に処刑するんで、助けたりして恩を売りたいんなら来れば?まあ、どんなに足掻いても間に合わないけどね。ギャハハハハハ!」
さも楽しそうに、嘲るような言葉で、挑発をするように言いました。
「くかか、これで俺の仕事は終わりだ。そうそう。お前と一緒にいたあの赤い髪の女だが…」
赤い髪…ルビアのことでしょうか?
今は宿で休養を取っていますが…
「すげぇ美人だよなぁ?ああ言うのを見ると、どんなことをしても俺の物にしたくなる…」
こいつ、まさか…
「ああ、俺が―――って、危ねえ。急に斬りかかんなよ。気の短いガキだ。」
【霊力急進】で距離を詰め、光剣で斬りかかりますが、紙一重の所で避けられてしまいました。
「お前…私の【家族】になにをした?」
こいつの指や目が再生した…そんなことはどうでもいい。
ルビアをどうしたのか。
大事なのは、それだけ。
「くかか、さっきの試合の余裕はどうした?まあいい…テメェはあの女を大層大事にしてたからな。攫ってやっただけだ。なに、ただ復讐だよ。俺をあんな姿にした…お前へのな!」
それだけ言い残して【魔方陣】を展開し、強烈な光を残して男の姿が消えました。
『な、なにが…【No.5】は…?』
【教団】が処刑目的で王様を攫った?
そんなことに興味なんてない。
あの男がルビアを攫ったと言う、その事実。
それだけが重要であり、重大な要素です。
もしも、それが本当なら…
閑話休題
「それでは行ってきます。お昼前には戻ってきますので。」
大会が終了して、一時間程度経ったでしょうか。
男が消えた後、会場内は案の定パニックに陥りました。
しかし、それを【アンヴィーラ】の王が一喝して収束させました。
老齢ながら、その言葉には重みがあり、歴戦の勇士だと感じられました。
すぐに【アプライド】に向かう集団が結成されましたが、まあ、無駄でしょうね。
この国から【アプライド】までは、馬車でおよそ一週間程度。
間に合うはずがありません。
「お姉ちゃん…リリウムは…ダメなの…?」
「ええ、危ないですから。セルナと一緒に待っていてください。」
リリウムの頭を優しく撫でると、ションボリと俯いてしまいました。
宿に戻ると、ルビアはいませんでした。
争ったような形跡は無かったので、寝ているところを【魔方陣】で転移させられたんでしょう。
「まあ、大丈夫だと思うけどさ。気をつけろよ?それと、明日はどうすんだ?」
セルナが言っているのは、オークションのことでしょう。
こんな事態になっても、関係なく行われるのは当たり前です。
裏の世界に表の世界の出来事は関係ありませんから。
「始まるのはお昼過ぎでしたね。大丈夫です。間に合いますよ。」
【霊力浮遊】を起動し、地上数十メートルまで浮上します。
高いところが怖い?
そんなこと【家族】を助けるためなら、関係ありません。
「一応言っとくけど…ルビアのことは頼んだわよ。」
「あなたなんかに言われなくても、そのつもりです。」
【霊力突進】を起動すると、景色が高速で後ろに流れていきます。
馬車なんかとは比較にもならない速さです。
「二時間程度…待っていてください、ルビア。」
片手にはフィリスさんの剣を持っています。
目的はルビアを迎えに行くこと。
ついでに男を殺して、帰りがけにこの剣を返しましょうか。
はい、どうだったでしょうか?
さて、物語は急展開を迎えました。
今までに張ってきた伏線のようなものは回収できるのか…?
自分でも多少把握できなくなっていますので、矛盾点があったら教えてもらえれば幸いです。
そして、この小説のヒロインはルビアさんです。
異論は認める。
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。