第五十六話・日焼けをするとヒリヒリします
はい、第五十六話投稿いたしました。
うん、すまない。
深夜のテンションで書いてしまったんだ。
サボりはするものではないですね。
さあさ、第五十六話始まり始まり…
向かい側にある入り口から、一人の女性が出てきました。
白いマントを肩にかけ、腰には一振りの剣を差しています。
まるで王者の風格でも漂ってくるかのような服装ですね。
まあ【No.5】と言っても【アプライド】の王様ですからね。
『【No.5】フィリス・オストヴァルド対優勝者イーナ選手!それでは…試合開始です!』
先ほどの失態を気にも留めず、いつも通りの放送が入りました。
「どうも、お久しぶりですね。どのくらいぶりでしょうか?」
「ええ、久しぶり。と、言っても、一週間ほど前にあなたを見かけたわよ。」
一週間前。
一週間前、というと…
「あのパーティーに来ていたんですか。声をかけてくれればよかったのに。」
「いや、見つけたんだけど…すぐに【フィジカ】の王女と話し込んだでしょ?その後も王女と一緒にどこかにいって、機会がなくって。」
「キャリルさんとは友人ですからね。ちょっとした相談を受けていたんですよ。」
「あの王女と…?それに、気難しいあの王女から相談事なんて…」
「いえいえ、キャリルさんはいい子ですよ?ちょっと素直じゃないところもありますけど。まあ、年相応と言えますね。」
私にもあんな頃がありましたね。
ちょっと大人ぶって、背伸びをしたくなる年頃が…
「それに、あなたは王様なのでしょう?キャリルさんも王族として、弱いところは見せられないんでしょう。」
弱みを見せてしまうと、色々と問題もあるのでしょう。
「む、それもそうね。私もあれくらいの年頃は、妙に大人ぶったこともあるわ。」
「そうでしょう?友人になれば、本当の一面も見えますよ。」
「それもそうだわ。でも、こんな話をしていていいの?」
こんな話…ああ、確かにそうですね。
「そういえば、なぜ王様との模擬試合なんです?【No.5】との試合なんて聞いていませんよ?」
ヴェルマさんとの試合が終わってすぐでしたし、こんなことを前もって知らせないなんて、余程性格が悪いのか…
「今年から優勝者と上位【No.】持ちが戦うらしいわ。いや、私も今朝に聞いたのよ。優勝したのがイーナだったから、私が名乗り出たの…迷惑だった?」
「いえ、知らない【No.】と戦うよりはまだマシです。あ、そういえば賞金とかはどうなるんでしょう?負けたら取り消しとかはイヤですよ?」
「優勝はもう決まったから、取り消されるようなことはないんじゃない?まあ、この国の王は性格が悪いから、確約はできないけど…」
よかったです。
賭けたお金も無駄にならずに済みます。
「それを聞いて安心しました。それでは、私はきけ―――」
ん、と続けようとしたところ、ガキン!と金属質な音が聞こえました。
剣で【霊力障壁】を斬りつけた王様が、目の前にいます。
「イーナは【No.6】でしょ?最近は手応えのある相手がいなくって、私も鈍っているの。」
「いえいえ、私は【No.9】ですよ。【No.6】はルビアで【No.7】はヴェルマさんです。」
それに、赤い【魔力】が剣に纏わりついています。
剣が触れている場所から、ジリジリと【霊力障壁】が削れています。
「それで、なんのつもりですか?剣なんかで斬りつけて、危ないでしょう?」
棄権と言おうとしたらこれですよ。
戦わなくてもいいのなら、それに越したことはありませんし。
正直、これ以上は面倒くさいんですよね。
長い刀身が特徴のレーザーブレードを出し【霊力障壁】と拮抗している剣を弾きます。
普通の剣なら直接斬りつけることもできますが【魔力】を纏っているとそれもできません。
「いや、ようやく私と同じくらいに強い相手に会えたのに、これを逃すつもりは…ない!」
ガキン!ガキン!と【魔力】と【霊力】が対消滅し、細かい粒子が飛び散っています。
しかし、眼鏡をかけている私以外には見ることはできません。
…こんなに綺麗なのに、見れないなんて勿体ないですね。
「どうした!余所見をするな!」
視線を戻すと、フィリスさんが剣を持った腕を引き、水平に打ち出すような動作をしています。
突き―――と考えた瞬間には【霊力障壁】を貫通し、鈍く光る両刃の剣が眼前数センチまで迫っています。
【霊力急進】を起動し、距離をとりつつ、レーザーライフルを取り出し牽制します。
しかし【魔力】を纏った剣で、それも斬り落とされます
「ふぅ、あれを避けるとは…」
「今のは危なかったですよ。下手をしたら目が潰れていました。」
一瞬でも【霊力急進】の起動が遅かったら…と思うと、ゾクゾクします。
「うむ、素晴らしい。やはり、このままでは失礼だな…」
フィリスさんの持っている剣に、赤い赤い【魔力】が流れ込んでいきます。
それと呼応するように、鈍く光っていた剣も赤く光り輝き…
「だから…本気でいく!」
その声が聞こえるとともに、剣から炎が溢れ出し、巨大な大剣となりました。
まったく、この大会では火を見てばかりです。
「行くぞ!本気で反撃しろ!」
言葉遣いも乱暴になっていますし、戦闘狂なんでしょうか?
「まあ、いいですよ。気が済むまでやり―――」
私が言い切らない内に、轟と音を立てながらあっという間に距離を詰め、巨大な炎剣を私に振り下ろしました。
「―――っ、重たいですね…」
【霊力障壁】を粉砕されつつ、レーザーブレードで受け止めますが、巨大な炎剣と細身の長剣では相性が悪すぎます。
それに加えて、私の体格では炎剣に呑み込まれそうです。
「いいぞいいぞ!しかし、まだだ!」
鍔迫り合いをしたまま炎剣が赤く輝き、四方八方に炎が撒き散らかされます。
「ハハハハ!こんな気分は久しぶりだ!」
「熱っつ―――ふぅ、なんですかその剣は…」
とりあえずは【霊力急進】で距離をとりましたが、軽い火傷で済んだのは幸運でしたね。
「ん?この剣?なに、ただの剣よ。ちょっと過剰に【魔力】を通した、ね。」
未だ炎を吐き出している炎剣を肩に乗せ、ゆっくりとこちらに歩いてきます。
過剰に【魔力】を通すとそんな現象が起きるんですか。
それは初耳ですね。
「まあ、ちょっと特殊な鉱石を使っているけど…特別な処置はしていない、普通の剣、だ!」
巨大な炎剣を地面に突き刺すと、軽く地面が揺れ…
「油断大敵、と言う奴だ。相手が不審な行動をしたら周囲を警戒。まあ、警戒と言ってもしようがないか…」
地面を破った巨大な炎の柱が、私を飲み込みました。
「間欠炎、ですか…」
【霊力障壁】は再展開されていたので致命傷ではありませんが、体のあちこちがヒリヒリします。
「まったく、この大会で火炙りになるのは何度目でしょうか?そろそろ願い下げなんですが…」
この大会が終わったら【火属性魔法】の対策でも立てましょうか。
「…まさか、これでも無傷なんて。信じられない…」
「いえ、無傷ではありません。この手を見てくださいよ。赤くなってヒリヒリします。」
「ハハハ…そんな火傷で済むなんて…」
【霊力突進】を起動し、フィリスさんの懐に潜り込み、フィリスさんを蹴り飛ばします。
「え―――うぐっ!きゃっ!」
「油断大敵、ですよ?」
スピードに乗った蹴りに吹き飛ばされ、手から炎剣が零れ落ちました。
持ち主の手を離れた炎剣は、相も変わらず赤い炎を吐き出しています。
「…試してみましょうか。」
炎剣を見ると、柄頭の部分に透明な…宝石でしょうか?
それが埋め込まれており、見る角度によって色が妖しく変わっています。
柄を持ち【霊力】を流してみます。
私の持っている【魔具】と同じく、自分の手足の延長のように…
すると、徐々に炎が治まり、元の鈍く輝く剣に戻りました。
…重いです。
炎剣のときは重さは無かったんですけどね。
「つまらないですね。では、もっと過剰に…」
恐らく【魔力】を過剰に注げば、その属性に合った刀身が発生するのでしょう。
では、私の【霊力】はどうなのでしょう?
この世界には存在しない【霊力】を注ぐと…
「…ふむ、興味深いですね。」
金属の刀身が光に呑まれ、白い光の刃が発生しました。
刀身は消滅しているのか、重さは柄の部分しか感じられません。
しかし、これではレーザーブレードと目立った違いはありません。
試しに、立ち上がりつつあるフィリスさんに向けて、一振りしてみると…
「な!?」
「おお、これは凄いですね。どうにか複製できませんかね?」
横薙ぎに斬り払うと、それに追従するように白い光波が発生しました。
フィリスさんは伏せて間一髪回避しましたが、壁にぶつかった光波は爆発し…
『ちょっ!イーナ選手!なんですかこれ!なんですかこれえええぇぇ!?』
どうやら結界が巻き込まれて消滅してしまったようです。
まあ、関係ないでしょう。
「そ、その剣は…」
「ああ、これですか?フィリスさんと同じ事をしただけです。ほら、こうやると光波が出るんですよ。」
縦、横、斜めに撫で斬ると、それぞれに追従して光波が発生します。
『イーナ選手!?客席に来てます!危ないですってばぁ!』
そういえば、結界が消滅していたんでした。
「仕方ないですね。これは返しますよ。」
柄だけになった剣をフィリスさんに投げ返します。
それを拾うと【魔力】を流したのか、鈍く光る剣を経て、炎剣に様変わりしました。
「…なんのつもり?せっかく奪った武器を捨てるなんて。」
「いえいえ、おもしろい事も見れましたから。これで終わりにしましょう。」
左手に出した武器は【霊力】を溜めて、放つ、それだけの禍々しい形をしたライフルです。
「なによ、それ…」
【霊力】を流すと、まるで空間が歪んでいるような、緑色の輝きが発生します。
「ただ【溜め】ているだけですよ。肌で感じ取れるでしょう?」
時間が経つ毎に歪みが大きくなり、ついにその輝きは最高潮に達しました。
「さて、避けるか受けるかあなた次第です。私は避けることを推奨しますよ?」
ガシャリと音を立てながら、フィリスさんに狙いをつけます。
「ッ!舐めないで!私は【アプライド】の王よ!私に敗走はないわ!」
「忠告はしましたよ?それでは…」
さようなら。
緑色の凶弾が、赤い世界を、塗り潰した。
はい、どうだったでしょうか?
久々に登場いたしました王女様。
しかし相手が悪かった。
迎え撃つは主人公。
さあてさてさてその結果?
続きは次回。
また来週。
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。