第四十七話・水面に石を落とすと波紋が広がります
はい、第四十七話投稿いたしました。
なんと言うか、今回は長いです。
五番目くらいに長いんじゃないでしょうか?
そして、説明が難しいです。
わけがわからないよ、とか、こんなの絶対おかしいよ、と思う人はどうぞ書き込んじゃってください。
ぎゃーてー、第四十七話始まり始まり…
どうも、イーナこと伊那楓です。
キャリルさんについて行き、到着した部屋は書斎のような部屋でした。
窓からは明るい光が差し込み、床には模様が入った絨毯が敷いてあります。
壁際には本棚があり、テーブルとイスが置かれています。
静かで居心地のよさそうな部屋ですね。
「そこにかけてほしいのじゃ。今、お茶と菓子を用意させるのじゃ。」
私も椅子に座ると、キャリルさんがテーブルに置いてある鈴を鳴らしました。
「はい。お呼びでしょうか。」
鳴らした鈴が鳴り終わらないうちに、メイド服を着た女性が入ってきました。
「お茶とお菓子を頼むのじゃ。大事な友人じゃ、一番いいのを頼むぞ。」
「はい。分かりました。」
そう言って、メイドさんが出ていきました。
「それで、相談とはなんですか?私に相談しても、たかが知れていますよ?」
「そんなに急かなくても、時間はたっぷりあるのじゃ。お茶を飲みながら、ゆっくり話したいのじゃ。」
「まあ、それもそうですね。」
ルビアとリリウムは…大丈夫でしょう。
「イーナ、来てくれて嬉しいのじゃ。それにしても、この前の女性が【No.6】になったのは驚いたぞ。」
「ああ、覚えていたんですか。」
「当たり前じゃ。あの女性に誘拐紛いのことをされたんじゃからな。」
まあ、あの時は私にとっても衝撃的でしたからね。
「あの白い髪の女の子はどうしたのじゃ?この前はいなかったが…あの女性の子どもか?」
「子ども…まあ、そうですね。」
「そうか、子どもか…イーナはあの女性と女の子とどういう関係じゃ?」
「【家族】…という関係が適切ですかね。ここには来てませんけど、もう一人いますよ。」
「そうか…」
【緑竜】なんて知りませんよ。
あれは【家族】ではありませんから。
閑話休題
その後は【フィジカ】を発ってからの道程を話しました。
私が他の国での出来事を話すたびに、キャリルさんは目を輝かせながら聞き入っていました。
まるで、おとぎ話を聞く子どものようですね。
「イーナは凄いのじゃ!あの砂漠を横断したり【緑竜】を討伐したり!」
「いえいえ、そんなことはないですよ。ただ運が良かっただけです。」
「運も実力の内、ともいうのじゃ。それに、イーナは【No.9】じゃろ?実力もそれ相応あるということのじゃ。」
キャリルさんの興奮が止まることを知りませんね。
「はい。お待たせいたしました。ご所望いただいたお茶とお菓子です。」
「ぬ!?いつの間に入ってきたのじゃ!?」
キャリルさんが大げさに驚いています。
確かに、音を立てずに扉を開けて、足音も立てずに入ってきましたけど。
「はい。メイドですから。」
「メイドさんなら仕方ないですね。」
「イーナは納得するのか!?」
メイドさんが運んで来たのは、紅茶のような匂いがするお茶と、カステラのようなお菓子でした。
「ふむ、いい匂いですね。」
「そ、そうじゃろ?妾もこのお茶が好きなのじゃ。」
【地球】で飲んだ紅茶と、あまり変わりはありませんね。
カステラは…やはり、パサパサの触感はどうにも慣れませんね。
「うむ、この菓子もやはり美味しいのじゃ。イーナはどうじゃ?」
「…すみません。とてもじゃないですけど、食べられません。」
紅茶で口を潤します。
「む、気に入らなかったのか。じゃあ、妾が食べるのじゃ。」
私の食べかけを、美味しそうに食べています。
…平和ですね。
こういうのも、悪くはありませんね。
「ふう、美味しかったのじゃ。む、紅茶が無くなってしまったな。おかわりを頼むのじゃ。」
「はい。分かりました。」
メイドさんが足音を立てずに部屋を出ていきました。
「それでキャリルさん、相談とはなんでしょうか?【魔法】のことだと思いますが…」
「むう、楽しくて忘れていたのじゃ。そうじゃ、妾が昨日【魔法】は苦手と言ったじゃろ?」
「ええ、聞きましたね。攻撃的な【魔法】に限って上手く扱えないとか。」
「そうなのじゃ。それで相談なのじゃが…」
キャリルさんが私に頭を下げました。
「妾に【魔法】を教えてほしいのじゃ!」
「キャリルさんは王族なんですから、そう簡単に頭を下げない方がいいですよ。」
それにしても【魔法】ですか…
「そうじゃ、あんな凄い【魔具】を持っているのじゃから、きっと凄い【魔法】を使えるのじゃろ?」
お姉さんが【魔法】を使えるのに私に頼むなんて、きっとお姉さんを見返したいのでしょうね。
しかし…
「私は【魔法】なんて使えませんよ。」
「え…?」
私の持つ【霊力】では【魔法】なんていう奇跡の起こすことはできません。
これからどんなことが起きようと、この世界の法則が変わらない限り、絶対に…
「で、でも、イーナはあんなに凄い【魔具】を―――」
「確かに【魔具】は扱えます。しかし【魔法】を使える、なんて言った覚えはありませんよ?」
【魔具】が無ければ、私が行えることなんてたかが知れています。
「私は【魔法】を使えません。しかし【魔法】を使えるようにはできます。」
背負っていた袋から、一冊の本を取り出します。
元【No.3】であるアムザイさんが、運営していた図書館で見つけた本です。
譲ってもらった後、読み進めていたんですよね。
相変わらず、外道で非道な【魔法】ばかりが記載されていましたけど。
「ある街で譲ってもらった本です。この【魔法】を使えばいいんですよ。」
外道で非道な【魔法】以外にも、僅かにですが使えそうな【魔法】が記載されていました。
「む…?こ、これは!?」
キャリルさんが本を手に取り、内容を見た途端に驚いたような声をあげました。
「い、イーナ!この本、誰に譲ってもらったのじゃ!?」
「誰に、と言われましても…アムザイさんですよ。」
「アムザイって誰じゃ!?…アムザイ?確か、どこかで…」
キャリルさんが考え込んでいます。
「まあ、そんなことはいいんですよ。どうします?この本に載っている【魔法】を知りたいですか?」
「それは、もちろん知りた―――まさか、イーナはこの本を…」
「この本ですか?もちろん、読めますよ。」
この本は、体を再生させたり、意識を奪ったりなど、比較的マシな【魔法】も記載されていました。
「なんというか…イーナは本当に凄いのじゃ!」
「そうですか?」
「そうなのじゃ!イーナ…本当に騎士になってくれないのか?」
騎士ですか…
「前にも言いましたが、権力には興味ありません。それに、騎士になったところで面倒事が増えるだけです。」
城内の権力闘争や、王女たちへの暗殺、更には四六時中王女の近辺警護など、あげればキリがありません。
「むう…本当に残念じゃ…」
紅茶を飲みつつ、キャリルさんが言いました。
「それで、どうしますか?【魔法】はたくさんありますが…」
私が選ぶのも面倒ですね。
「キャリルさん、本を持ってください。」
「この本をか?汚してしまわないか心配じゃ…」
キャリルさんが恐る恐る本を手に取りました。
そんな簡単に破れませんよ。
「それでは、好きなページを開いてください。」
「む?こうか?」
キャリルさんが適当なページを開きました。
「開きましたね?それでは、そのままこちらに。」
ページを開いたまま、キャリルさんの持っていた本を受け取ります。
「わかりました。それではちょっと待っていてください。」
滅びた文明の言語は、現在の【人間】に発音することができません。
私にはきちんと発音することができるのですが、イントネーションが独特すぎて、教えることができません。
一文字を完璧に発音しようとするのに、およそ三日はかかりますかね。
それに加えて、この【魔法】は呆れるほど詠唱字数が多いですから。
一つの【魔法】を使うのに、十年はかかるんじゃないでしょうか。
そんなことを考えつつ、袋から紙とペンを出し、描き込みます。
「イーナ?なにをしておるのじゃ?」
紙に菱形を描き、その内部に正方形を描き入れ、菱形の頂点に接するように円を描き、更に円で囲みます
そして、円と円の間に詠唱文を書き込みます。
「先に言っておきますが、この【魔法】をキャリルさんに教えるのは不可能です。」
「な、なぜじゃ!?」
あ、ずれました。
大きな声を出さないでくださいよ。
「ああ、大丈夫ですよ。【魔法】が教えられないだけで【魔法】は使えるようになりますから。」
袋から絵の具と筆、パレットを出し、四つの正三角形にそれぞれ色を付けておきます。
赤、青、緑、黒の四色ですね。
「…む?どういうことじゃ?」
「ええ、この【魔法】…というより、この言語は発音が難しいんですよ。だから、その代わりに…はい、完成しました。」
B5ほどの紙の半分以上を使って描きました。
なかなか上手く描けたと思います。
「これは…なんだかおかしな【魔法陣】じゃのう…」
「一般の【魔法陣】は無駄が多すぎるんですよ。必要なものはあくまで詠唱文と正方形、それに円です。」
私が作った【魔法陣】が道程通りだとすると、一般の【魔法陣】はわざわざ遠回りするようなものです。
文字を付け加えたり、図形を描き込んだりと、要らないものまでつけて、効率が悪くなってしまっています。
「むう…イーナ。これはどんな【魔法陣】なのじゃ?」
キャリルさんが【魔法陣】を見ながら聞いてきます。
「その【魔法陣】は大丈夫ですよ。キャリルさんが攻撃的な【魔法】が苦手な原因ですが、恐らく心因的なものです。」
「しんいんてき?」
「一概には言えませんが。例えば…【魔法】で怖い目にあったとか。それが原因で攻撃的な【魔法】が使いにくいんだと思います。」
「むう、小さい頃…小さい頃…」
キャリルさんがうんうん言いながら、考え込んでいます。
「あくまで仮説ですから、そんなに真剣にならなくてもいいですよ。」
「むう…」
本当に恐ろしい出来事は、忘れようとしても忘れられないんですよ。
トラウマは、本当に嫌なものです。
「とりあえず、その【魔法陣】を起動してみてください。」
「む、分かったのじゃ。」
キャリルさんから【魔法陣】に向かって【魔力】が流れ込んでいるのが視えます。
「…なにか変ったのか?」
キャリルさんには分かりませんか。
「ええ、それはもう。」
先ほど使用した鉄塊を、右腕に出します。
この程度なら、大丈夫でしょうね。
「い、イーナ!?それはなんじゃ!?」
「ちょっとした実験です。そのままリラックスしてください。」
鉄塊を振りかぶり、キャリルさんに叩きつけ―――
「うぎゃー!…って、なんじゃこれは?」
キャリルさんの正面に半透明状の円が現れ、鉄塊が接触している地点が波打っています。
まるで、水面に石を落としたみたいですね。
「それが【魔力障壁】ですよ。見たことありませんか?」
基本的に【魔力障壁】は不可視です。
【魔法】と干渉した場合など、限定的な場合に限り可視化可能となります。
「これが…でも【魔力障壁】というのは、もっと…」
確かに【魔力障壁】というのは、展開させている本人を一定の厚薄で囲んでいるものです。
それも、受け止めて、限界が来たら破壊されるだけ。
「その【魔法陣】は【魔力障壁】に偏向性を持たせるものですよ。」
「へんこうせい?」
一枚の紙よりも、何枚にも重ねたほうが、当然のように強度が増します。
それと同じです。
【魔力障壁】を偏らせて、攻撃に対して無防備でも、自動で展開されます。
【魔法】は密度が高いほど小さくなり、それに伴い【魔力障壁】の密度も増します。
つまり【魔力障壁】を貫通させようとすればするほど、密度を高めれば高めるほど、貫通が不可能になります。
「場合にもよりますが、普段の【魔力障壁】の数十倍程度の強度はあるんじゃないでしょうか?」
「す、数十倍!?」
周囲に均一に展開されていた【魔力障壁】を一点に集中させていますからね。
それくらいが妥当でしょう。
「あ、もちろん欠点もありますよ。」
「欠点?そんなもの無いように思えるが…」
利点と欠点を言っておきませんと、図に乗ってしまいますから。
「まず利点です。その【魔法陣】を使うと、攻撃に対して自動で【魔力障壁】が展開されます。暗殺、不意打ち、闇討ち、あらゆる突発的な攻撃に対して有効です。」
「それだけで十分凄いのじゃ!」
「次に欠点ですが…」
鉄塊を左腕にも出し、キャリルさんの【魔力障壁】を両方の鉄塊で叩きつけます。
「む?さっきよりも薄いような…」
鉄塊を叩きつけた【魔力障壁】は先ほどよりも薄くなっています。
「攻撃箇所が増えれば増えるだけ【魔力障壁】の数も多くなります。もちろん、その分強度も弱くなりますよ。」
攻撃が二つくれば【魔力障壁】も二つ、強度は半分になります。
攻撃が八つくれば【魔力障壁】も八つになり、強度は八分の一になります。
「確かに、自動での防御は利点も大きいです。ただし、相手の手数が多いほど、自分の守りが薄くなってしまいます。」
以前の決闘の時も【No.4】が、数十もの土の槍を出してきましたから。
【魔法】を使っていく内に、そういったこともできるようになるんでしょうね。
「欠点は、複数の攻撃に対して脆弱になってしまうところですかね。」
「むう…便利だと思ったが、なかなか扱いにくいのじゃ。」
欠点があったとしても、十分に便利だと思いますが…
「それと【魔法陣】を起動する【魔力】は極僅かです。しかし、それを長時間維持するのに、結構な【魔力】が必要ですよ?」
キャリルさんは【魔力】も多いので、大丈夫だと思いますが。
「【魔力】は大丈夫じゃ。それにしても、イーナは羨ましいのじゃ。」
「羨ましい?どういうことですか?」
私に羨ましがられる要素なんて、ありませんよ。
「あの文字も読めて【魔法陣】も作れて…どうして旅なんかしているのじゃ?引く手数多じゃろ?」
滅びた文明の【魔法】と共に、それを再現した【魔法陣】そして、私の持っている【魔具】
キャリルさんにしてみれば、不思議だと思うでしょうね。
「いえ、私は興味がありませんから。」
「興味がない?」
「ええ、興味がないんですよ。だから、誰がどうなろうと…【家族】は別ですよ?【家族】に手を出したら、どんな手段を使っても…」
殺す、と続けようとすると…
「い、イーナ、顔が怖いのじゃ…」
「おっと、失礼しました。」
いけませんね。
つい、顔に出してしまいました。
「イーナ、興味が無いということは…わ、妾にも興味がないのか…」
キャリルさんが泣きそうな顔をしています。
「ああ、キャリルさんは友人として信頼していますよ。そうじゃなければ、わざわざお城に来たりはしませんよ」
「そ、そうか。よかったのじゃ…」
「では、そろそろお開きにしましょうか。リリウムも飽きていそうですし。」
「むう、もうそんな時間か。イーナ、楽しかったのじゃ。また会えると嬉しいのじゃが…」
席を立ち、扉に向かいます。
「大丈夫ですよ。大会が終わるまではこの国にいますから。」
そういえば、あのメイドさんはいつの間にか部屋を出ていました。
「それと、その【魔法陣】ですが弄らない方がいいですよ。ヘタをすると、爆発してしまうかもしれませんから。」
「ば、爆発!?」
「それでは、また。」
「イーナ!?ちょっと待つのじゃ!」
キャリルさんの声を聞きつつ、扉を閉めます。
さて、次の試合まで時間はありますし。
それまでに、行くとしますか。
【No.】もあることですし。
廊下を歩きながらそんなことを考えていると…
「あ…」
ふと、思い出しました。
「お土産を渡すのを忘れていました…」
はい、どうだったでしょうか?
書いていて、自分でもよく分からなくなってきました。
さて、この【魔法】が記載された本ですが、この他にも色々な【魔法】が記載されています。
しかし、それらは全てに利点と欠点が存在しています。
【魔力】が空になったり、一時的に【魔法】が使用不可になったりと、様々です。
しかし、中にはそれ以上のものもあったり…
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。