第四十話・笑顔の裏には何があるんですかね
はい、第四十話投稿いたしました。
本日はハロウィンでございます。
Trick or Treatですね。
カボチャの煮物食べたいなぁ…
え?
カボチャを食べるのは冬至だって?
いいんですよ、おいしいんだから。
よっこらせ、第四十話始まり始まり…
おう、セルナ・マーグナーだ。
イーナ達からは、セルナとかお兄ちゃんとか呼ばれてるけどな。
れっきとした女だからな?
勘違いするんじゃねえぞ。
まあ、そんなことはいいとして…
「はぁ…」
「なに溜息ついてんのよ?いっぱいお金も貰えたんだし、万々歳じゃない。」
袋を背負った【緑竜】が、隣を歩きながら言った。
「いや、金の事じゃねえんだよ。なんつーか、今から行く場所がな…」
この街の拠点のあの図書館に、この【緑竜】を連れ帰ったら…
「はぁ…ルビアに殺されそうだ…」
「またルビア!?あんたは…!」
【緑竜】が拳を振り上げた。
「ちょ、ちょ待て!だから!お前と同じ竜だよ!」
「は…?」
【緑竜】がポカンとした表情を浮かべ、拳は俺の眼前で止まっていた。
「あぶな!【赤竜】だよ!【赤竜】のルビアだ!お前も見たことあんだろ!?」
海で俺とリリウムを守ってもらってたしな。
まあ、今は擬態してっから…わかるのか?
竜同士だし、分かるはず…だよな?
「な…」
「あ?どうした。」
【緑竜】の拳がプルプル震えている。
なにか変なこと言ったか?
「なによそれー!」
頭を突き抜けるような衝撃が襲った。
顎を殴られ、薄れゆく意識の中…
結局…殴られるのか…
そんな諦観に似た気持ちが、俺の中にあった。
閑話休題
「ただいまーっと。」
顎を打ち抜かれ、少し気絶しちまった。
まあ【緑竜】はずっと傍にいたみたいだけどな。
そしてようやく図書館に着いた次第だ。
「へぇ…ここがあんたの住んでる場所なのね。言っちゃ悪いけど、ボロいわね。」
「まあ…確かにな。でもそれ、イーナの前で言わない方がいいぞ。なんだかんだで、ここ気に入ってるみたいだからな。」
「…そうね。あれはもうコリゴリだわ。」
ルビアはルビアでこええけど、イーナもイーナで危険で恐ろしいんだよな。
「で、あんたの言ってた【赤竜】はどこに―――」
「お兄ちゃん…?おかえりなさい…」
この声は…
「リリウムか。おう、ただいま。」
リリウムの頭に手を乗せ、ポンポン叩くと気持ちよさそうに目を細めた。
「ところで、イーナはどこだ?姿が見えねえけど…」
「お姉ちゃん…?お姉ちゃんは…お母さんとお話…してるよ…」
「そか、二階だよな?それと、これおみやげだ。」
袋から出したのは、途中の市場で買ってきたニベアって言ったか?
甘くて美味しいって勧められた買ってみたが、実際に美味かったからな。
「うん…ありがと…」
「そんじゃ、ついてこい…よ…?」
【緑竜】が俯いて黙っている。
「おいどうした?」
さっきまでは饒舌に喋ってたのに。
「な…」
「な?」
「な、ななななによこの子!すっごく…すっごく可愛いじゃないのよー!」
【緑竜】がリリウムを抱きしめた。
リリウムは目を白黒させている。
「ハァハァ…り、リリウムちゃんっていうのね。ハァハァ…あたしとイイことしない?一緒に―――」
「むぅ…苦しいよ…おばさん…」
「お、おばさ―――!?…でも許しちゃうわ!ハァハァ…だってこんなに可愛い―――」
「お前は変態か!おら、さっさと行くぞ!」
【緑竜】の襟首をつかみ、引きずっていく。
「ああ…なにすんのよ!せっかく触れ合ってたのに!」
「リリウムも驚いてただろが!お前のは一方的すぎだ!少しは自重しろ!」
「イヤよ!あんな可愛らしい【人間】の子どもは初めて見たわ!あたしのこの熱い想いは誰にも止められないわ!」
「暑苦しいしうぜぇよ!…ん?」
今こいつ、リリウムのことを【人間】って言ったよな?
「ああー…あのな、リリウムも竜だぞ。」
「…は?」
「リリウムも竜だ。それも【白竜】で、ずいぶん前だったな。いきなり【人間】に擬態して、それ以来【白竜】に戻れねえんだよ。」
あの出来事はハッキリと覚えている。
ルビアの水を溢したような表情と、俺の【魔法】が効かなかった時の無力感。
そして、リリウムに救われた時の安心感。
「で、でも擬態って永く生きないとできないのよ!?あの子、かなり若いわよね!?」
「リリウムの年齢なんて知らねえよ。本人に聞いたらどうだ?」
「も、もしかしてあの【人間】も竜なの!?」
「ああ、あいつは…」
【人間】だ。と続けようとして、言葉に詰まった。
いや【人間】…だよな?
そういや、あいつと初めて会った時にはリリウムもルビアもいたし。
もしかして、本当は竜だったり、実は【エルフ】だったり、大穴で【亜人】とか…
「…【人間】だぞ。…多分。」
「その間はなによ!あと多分って言ったわよね!?」
「ええい、うるさいうるさい!さっさとイーナんとこ行くぞ!」
「ちょっと!引きずるのは止めなさいよ!ちょ、階段は―――いたたたた!」
とにかく、早いとこイーナに袋を渡して、ルビアになんとか説明をしねえと。
閑話休題
イーナとルビアがいると思われる部屋の前で、思わず怖気づいてしまった。
「どうしたのよ?入らないの?」
「い、いや。入ろうと思うんだが…」
なんと言うか、嫌な予感がヒシヒシと…
こう、言葉では言い表せない、背筋が凍る感じだ。
「面倒ね。さっさと入るわよ。こら【人間】!さっさと話しを―――」
「あ。ちょま―――」
【緑竜】がドアを開け、さっさと入ってしまった。
と思ったら出てきた。
勢いよく壁を壊しながら…
そして、ルビアが壊れた壁からヌッと身を出してきた。
「セルナ…」
「な、なんだルビア。」
「正座です。正座をしなさい。正座を。」
「拒否権は…?」
「あるとでも?」
…あるわけないよな。
閑話休題
「まったく、誰が【人間】ではない、ですか。失礼ですね。」
ルビアに正座をさせられて、およそ十分。
ルビアの説教はすぐに終わり、イーナによる説教が続いた。
ちなみに【緑竜】は目が覚めないまま、ルビアに連れて行かれた。
…死ぬなよ。
「私は、正真正銘、嘘偽りのない、真っ当な人間ですよ。」
イーナは胸を張って堂々と宣言した。
「で、でもな。どうしてもお前が【人間】とは思えねえんだよ。竜は従えてるし、いろんな【魔具】は持ってるし、あと無駄に強いし…」
「別に、リリウムとルビアを従えてるわけでもないですし、あれは【魔具】ではありませんし、少し頑丈なだけなんですが…【人間】だと証明しろ、と言われても…ああ、そういえば…」
イーナが一枚の紙を渡してきた。
「ん…?ああ【アンヴィーラ】の大会か。これがどうかしたか?」
そういえば、そろそろそんな時期か。
一回だけ母さんに連れてってもらったが、ありゃ凄かったな。
「無条件で本戦に進めるのは【No.】持ちだけですが、一般参加でも予戦を勝ち進めば本戦に進むことができます。ほら、ここを見てください。」
そこには小さい文字で『一般参加枠も有』と書かれていた。
「まあ、予戦とでも言いましょうか?参加人数はわかりませんが、まあ、そこまで多くはないでしょう。」
「で…もしかして、これに出るつもりか?」
「ええ、ルビアもギルドに登録したいと言っていましたし、こういった催しも珍しいじゃないですか。それに、ここを見てください。」
イーナが指差した場所には…
「…なあ、これ本気か?」
そこには大きく『上位入賞者には賞金有』と書かれていた。
「ええ、本気も本気の大真面目です。ただ勝ち進んでいくだけで、上位には賞金が出るんですよ。出ないわけにはいかないでしょう?」
「でもな、今日の依頼で結構稼いだぞ?もう十分じゃねえか?」
「いえ、お金はいくらあっても困ることはありません。むしろ、あればあるだけ都合がいいです。」
「あ、でも登録期限あるぞ。…って明後日じゃねーか!これ、無理じゃねーの?」
【グラブス】から【アンヴィーラ】で、確か馬車で一日位だったよな?
「いえ、数時間もあれば着きますよ。明日の早朝には発ちますので、準備をお願いしますね。」
「準備ったって…」
「この図書館の蔵書を、全部この袋に入れてください。長い間空けては、本が盗まれてしまいますから。あの防犯装置は壊れてしまいましたし。」
「まあ、それは構わねえが…本当にそんなに速く着くのか?」
「ええ、勿論です。心配しなくても大丈夫ですよ。」
「ま、お前が言うんなら本当なんだろうな。」
イーナは今まで有言実行してきたしな。
「そうだ。今日お前、馬車を襲撃しただろ?」
「ええ、確かにそうですが…ああ、ギルドの依頼ですね。間違いありませんよ。私が奴隷商人の馬車を襲って、リリウムを連れ帰りました。」
「リリウムを連れて帰ったのは分かる。でもな、別に商人を殺さなくてもよかったんじゃねえか?」
商人を殺さなくても、イーナなら無力化できたはずだ。
あの【魔具】を使えば…
「何を言っているんですか。当たり前ですよ。」
イーナは口元に笑みを浮かべながら言った。
「私の【家族】に手を出したんですから。死ねばいいんですよ。それに、そういう【人間】をいくら殺そうが、私はなにも思いませんよ。」
「そうか…」
そういう奴だよな、お前は。
【家族】に手を出されたら殺して、それ以外はどうでもいい。
【人間】を殺しても、なんとも思わない。
なんというか…
「歪んでるよ…」
「ええ、否定はしませんよ。私は私の心の向くままに進んでいます。その結果、誰からどう思われようと、これだけは変わりません。」
絶対に、と続けた。
閑話休題
「それでは出発しましょうか。」
日が昇って、まだ数時間。
リリウムはルビアの背中で寝てるし【緑竜】はまだ寝ぼけ眼だ。
「んー…なんでこんなに早く起きるのよ…」
「あのな、俺が起こさなきゃ置いてかれてたぞ?」
【緑竜】はルビアに連れて行かれ、戻った後も気を失ったままだった。
ってか完全に寝てたな。
「さて、全員袋に入ってください。水も食料もありますし、たった数時間ですから大丈夫ですよ。」
袋に入る?
「袋に生き物って入れたっけか?」
「リリウムもルビアも入ったことがありますよ?セルナが袋を盗んだ時にも、ルビアが入っていましたし。流通している袋には入れないんですか?」
「んー…俺も詳しく知らねえよ。でも作ってる【エルフ】は森に引きこもってるから流通量は少ねえし。もし出回ってもかなり高価だからな。確かめようがねえか。」
「…面倒くさいわね。とっとと入りなさいよ。あたしはさっさと寝たいのよ。」
「ちょ、押すな。わかったから。」
袋に腕を入れ、次に頭を入れると…
「いってぇ!」
落ちた。
「いってぇ…ここが、袋の中かよ。しっかし、広いな…」
周りには、上下左右に本や果物や金が無造作に浮かんでいて、見渡す限り白い景色が広がっている。
てか、立ってるってことはここが地面のはずだよな?
それなのに、足元にも本やら何やらが浮かんでるって…
「あいたぁ!」
「ふん、風を操る【緑竜】が無様に落ちますか。滑稽です。」
「おお、ルビアに【緑竜】か。リリウムは…寝てるか。」
【緑竜】は体勢を崩して落ちてきたが、ルビアは慣れているのか優雅に着地した。
【緑竜】がベチャでルビアはトンって感じの音だ。
「私が入ったら出発すると言っていたので、もう【グラブス】を出ていると思います。」
「つっても、外の様子なんて分からねえよな?【アンヴィーラ】に到着したらどうすんだ?」
「ああ、それは…ちょっと待ってください。」
ルビアがリリウムを地面に寝かせ、浮かんでいた毛布をかけた。
「えっと、こうやって…」
ルビアが自分の頭の上に手を翳したかと思うと、頭が消えた。
「は…?」
「ふう…こんな感じです。頭の上に手を翳せば穴が開きますから、後は簡単に出られます。あと、到着したら知らせてくれるそうです。」
「へぇ…」
ためしにやってみようとすると…
「セルナ、危ないですから顔を出さない方がいいです。」
「は?なんでだ?お前は顔出してたじゃねえか。」
「いえ、すっごく速かったので、セルナが出たら飛ばされますよ?」
「…そんなにか?」
「はい、もうビュンビュンと。私でもあんなに速く飛べません。元々飛ぶのは苦手なんですけど…」
へぇ…竜にも得意不得意があるんだな。
「そうだ【緑竜】は飛ぶのが―――」
得意だよな?と聞こうとしたら…
「ん?なによ…あんた達は寝ないの?」
【緑竜】がリリウムの毛布に入って、一緒に寝ようとしていた。
「【緑竜】が…誰に断わって―――」
「黙れ【赤竜】この子が起きちゃうでしょうが。」
「うぐ…」
おお【緑竜】がルビアを黙らせた。
「それで、あんた達は寝ないの?朝早かったんだし…」
もう出発したみたいだし、本を読んでてもいいんだが…
「それもそうだな。」
なんか毛布もたくさん浮かんでるし、ちょうどいいな。
「そんじゃ、あんた達もとっとと寝たほうがいいわよ。おやすみ…ハァハァ…」
「ちょっと待て!やっぱお前と一緒だとリリウムがあぶねえ!」
なんというか、言葉には出来ないけど!
「うるさいわね。じゃあ…あ、あんたも一緒に寝なさいよ。」
「はあ?なんで俺が―――」
「い、いいから!早く入んなさいよ…」
そう言って【緑竜】がスペースを空けた。
「わ、私もリリウムちゃんと寝ます!」
ルビアはリリウムの隣に入った。
ま、偶にはいいか。
四人で一つの毛布に入り、少し経ち…
「ふふー…暖かいわ…ね…?」
「ん…?どした…?」
もう眠くなってきたんだが…
「ね、ねえ。なんかあんたの胸に膨らみがあるんだけど…」
「そりゃ…俺、女だし…」
あー…もうだめだ。
「じゃ…お休み…」
「ちょ、あんたどういう―――」
「いいから…寝ろ…」
「―――ッ!」
【緑竜】の頭を胸に埋めると、途端に静かになった。
そういや【緑竜】って呼びにくいよな。
なんかいい名前でも…
はい、どうだったでしょうか?
サブタイトルは以上のとおり。
サブサブタイトルは【緑竜】衝撃の事実を知る、でした。
それにしても、主人公は歪んでいますね。
どんな生物も生きるために他の生物を殺し、食しています。
では、主人公は?
…不思議なのは、同種族間での共食いはあまり聞かないんですよね。
人間同士共食いをしませんし、肉食動物同士の共食いと言うのも、あまり聞きません。
まあ、超えてはいけない一線というものがあるんでしょうね。
ちなみに、自分はカニバリズムとかは否定も肯定もしません。
人間というのは、危機的状況に陥ればどんな行動をするのか、予測すらできませんからね。
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。