第三十八話・金は決して錆びません
はい、第三十八話投稿いたしました。
そういえば、ふと思ったんですが、この「」の最後に句読点っていらないんですかね?
まあ、修正も面倒なので、直すつもりはありませんがね。
これも個性ってことで。
文章の基本?
こまけえこたぁいいんだよ!
そーれ、第三十八話始まり始まり…
おう、セルナ・マーグナーだ。
なんだかんだで、ようやく街に戻ってこれた。
しっかし、疲れた。
戻る途中で、擬態した【緑竜】になんやかんやイーナについて聞かれたし。
てか、イーナの事なんてほとんど知らねえよ。
小さな村の出身だとか、無駄に強いだとか、変な【魔具】をいくつも持ってるとかしかな。
それに、イーナは【緑竜】を討伐して、先に帰っちまった。
つまり、俺がギルドまで報告に行けってことか。
てか…
「どうすっかなぁ…」
「なに悩んでんのよ。それ持ってけば、その【No.】になるんでしょ?楽でいいじゃない。楽で。」
今問題なのは、手に持っている【No.12】のカードだ。
血溜まりから見つけたせいで、所々が赤く染まっている。
イーナはどうにも【No.】には興味がないらしいし。
これを持ってきゃ、俺も【No.12】になれるし、イーナも好きにしていいと言ってたし、隣を歩いている【緑竜】も持っていけばいいと言ってるが…
「やっぱり、ダメだよなぁ…」
【火属性魔法】を使って、カードを焼やした。
「ちょ…あんた何してんのよ!せっかくのチャンスなんでしょ!?なんで燃やしちゃうのよ!?」
【緑竜】がそんなことを言ってくる。
「いいんだよ。実力があるわけでもないし、あっても邪魔なだけだ。」
特に【亜人】ってだけで襲撃してくる輩もいるしな。
分不相応な【No.】を持ってても、あいつらに迷惑をかけちまう。
「ふぅん…あんたも色々考えてんのね。」
「まあ、俺も薬について教えてもらうために、イーナに同行してるんだ。」
それだけじゃなくて、この街に来て、図書館で一緒に暮らして。
イーナが本を読んでて、ルビアと口喧嘩をして、リリウムが薬作りを手伝って失敗をして。
時々呆れて、時々怪我をして、時々苦笑いをして。
でも、それが楽しかったんだよ。
「俺にはイーナみたいな【魔具】も無けりゃ、ルビアみたいな力もないし、リリウムみたいに可愛くもない。」
自分でも分かってるさ、俺は平々凡々な【亜人】だってことくらい。
「でもな…いや、だからこそ。あいつらが怪我をした時くらいは俺を頼ってほしいんだよ。」
イーナには【水属性魔法】で回復させることは出来ないし、リリウムはまだ子どもで、ルビアは…まあ、大丈夫だけど。
俺にしかできないことが、一つくらいあってもいいんじゃないか?
傷つけた【人間】を助けても、傷ついた【亜人】を助けても、倒れている【エルフ】を助けても、所詮は偽善で慈善だけどな。
でも、一緒に暮らしてる、そうだな…【家族】を助けるのは、偽善でも慈善でもない。
「へぇ…あんた、やっぱり優しいのね。」
「いーや。俺はただの臆病者で【人間】一人助けられない、ただの【亜人】だよ。」
イーナと出会ってなけりゃ…
いや、もしもの話なんて、考えても仕方ないか。
「ふぅん…で、そのルビアとリリウムって誰よ。」
突然に【緑竜】がそんなことを聞いてきた。
なんか声に抑揚が無かったけど。
「ん?言ってなかったか?お前と同じ―――」
「あたしと同じ!?女!?女なのね!?」
「いや、まあそうだけど。お前と同じりゅ―――」
「りゅ!?りゅって何よ!ごまかす気なの!?まさか…この…!」
【緑竜】が腕を大きく振りかぶった。
「え、ちょ、ま―――」
「うわきものー!」
瞬間、腹に途轍もない衝撃が走った。
ああ…俺も飛べたんだな…
上級の【風属性魔法】は使えなかったんだけどな…
閑話休題
「本当に、死ぬかと思った…」
「だからゴメンって言ってるでしょ!まったく…」
「いや、謝って済む問題じゃねえよ、こっちがまったくだよ。まったく…」
結局、あの後激痛に悶えながらルビアが誰とか、リリウムが誰とかを説明した。
【緑竜】は驚いてたけどな。
「でも、あの時の【赤竜】が…もう、ホントにあの【人間】は何者なのよ。」
「俺に聞くな、本人に聞けよ。」
「…や、やっぱりいいわ。触らないなら【人間】に撃たれることもないわね。」
まあ、俺も気になってたし、今度聞いてみるか。
そんな話をしながら街道を進み、ようやくギルドに到着した。
「やっと着いたな。まったく、誰かのせいで時間がかかっちまった。」
「う、うるさいわね!あんたがちゃんと説明しないからよ!」
説明しようとしたら殴られたんだが…
「まあ、それはもういいや。あと…一つ注意な。」
「ん、なによ?」
「殺すなよ?」
「は?何言ってんのよ。」
「お前のあの【魔法】な。普通の【人間】にゃ見えないし、避けれないし、当たったら木端微塵だからな。自重しろよ。」
【緑竜】の肩に手を置き、真摯に頼んだ。
いや、ホントにこの【緑竜】は邪魔だからってあの【魔法】で皆殺しにしかねないからな。
「わ、わかったわよ。誰も殺さないから安心しなさい。てか、顔近いわよ…」
「あ、悪いな。」
なんか【緑竜】の顔が赤くなってたけど、俺に惚れる女なんていないよな。
まあ、注意もしたしギルドに入った。
ギルドの中は、相変わらず【人間】が多かった。
扉を閉じると、筋肉質な【人間】が近づいてきた。
はあ…またか。
どうせ、俺が【亜人】だからって、嫌味を言ってくんだろうな。
まあ、もう慣れたが…
「ああ?【亜人】がこのギルドになんの―――」
ガオン!
と、聞き慣れたけど、もう聞きたくなかった音がした。
「邪魔よ。どいてなさい。」
【人間】の足元には拳くらいの穴がポッカリと空いていた。
あの【魔法】かよ…
だから、こういうのをやめろと言ったんだが…
「ひ、ひいっ!な、なんだよ!俺はなにも―――」
【人間】が尻餅をつき、這いつくばるようにしている。
「はぁ?あたしは邪魔だって言ったのよ?なんでそこにいんの?あたしはどけって言ってんのよ!」
あの歪んだ塊をいくつも出現させ【人間】に当たらないように、器用に床を貫いていく。
「ひ、ひいっ!だ、誰か!助けてくれぇ!」
【人間】が助けを求めているが、チラチラと見ている奴はいるが、誰も助けようとしない。
「あのな、こういうのをやめろって言ったんだよ。」
「なによ。殺してはないでしょ。」
いや、それはそうだけどな。
「だけどな、壊した床はどうすんだよ。修理費は壊した奴が持つんだぞ?」
床にいくつも空いた拳大の穴。
【緑竜】は床を一瞥し…
「…ほら、依頼も終わったんだし、さっさと証拠を見せて行きましょうよ。」
【緑竜】に背中を押され、カウンターに近づいた。
「はぁ…まあ、金も入るしいいか。」
なんか周りの【人間】が近づかねえな。
楽でいいんだが…
「は、はい。な、なにかご用でしょうか。」
…職員も怯えてんじゃねえかよ。
「ああ、この依頼終わったから、証拠を…」
「は、はい。承りまし―――【緑竜】の討伐ですか!?」
「ああ、そうだ。で、証拠は…」
「は、ははは…証拠は!証拠はどこだ!嘘でも言ってんじゃねえか!?だいたい【No.12】のチームも行ったはずだ!そいつらはどうしたってんだ!」
今まで這いつくばっていた【人間】が水を得た魚のように、ここぞとばかりに言ってくる。
「いや、だから…面倒だし、ここに出してもいいか?」
「は、ひゃい!どどどどうぞ!」
いや、だから落ち着けよ。
とりあえず、イーナから受け取った袋から、ズルリと【緑竜】の死体を取り出した。
「な!?」
「あわわわわ!」
ギルドが広くて助かったな。
狭いと部屋が壊れてたかもしれないし。
でも、やっぱり、この袋おかしいよな?
【緑竜】の死体を袋に近づけたら、急に光って、いつの間にか袋に入ってたんだよ。
何回か試したけど、袋の中で掴む感覚で取り出したら取り出せたし。
「で、これでいいか?」
「ひゃひゃひゃい!ももももちろんです!」
「そりゃよかった。それじゃ…」
「う、嘘だ!こ、こんなのありえない!」
はぁ…うっせーな。
「だ、だいたい【No.12】はどうしたんだよ!?あのチームも―――」
「ああ、あいつら死んでたぞ。この【緑竜】に殺されたんだよ。」
「だ、だが【No.12】は【白竜】を―――」
「いくつかのチームで討伐したんだろ?だったら一つのチームで【緑竜】が討伐できるわけねーだろ。」
イーナもそう言ってたしな。
「ど、どうせ【緑竜】を討伐して疲弊してた【No.12】を襲ったんだろ!だから【亜人】は野蛮で粗暴で暴力的で―――」
「それがどうした?ギルドの規則、覚えてるよな?完全実力主義だ。もしそうだったとしても、依頼も受けずに、ただギルドに入り浸ってる奴に、言われる筋合いはねえな。」
「な―――!」
それっきり、突っかかってきていた【人間】は黙りこくった。
「で、いいか?んじゃ報酬を…って大丈夫か?」
「だだだだ大丈夫です!わわわ私は大丈夫です!」
いや…まぁ、いいか。
「んじゃ、これが依頼書な?よろしく頼む。」
「はははい!ししし少々お待ちください!」
そう言って奥に戻って行った。
「ねぇねぇ、それで何が貰えるのよ?」
「ん?ああ、確か120万Sだったっけな。」
しかし、竜の討伐で120万Sか…
もうちょっと、高くてもいい気がするんだが。
「120万S?それって何?お茶が何杯飲めるのよ?」
「Sってのは金だ。ってか、お前はお茶にしか興味がねえのか?そもそも、あのお茶はイーナのオリジナルだから、どこにも売ってねえぞ?」
「な、なんですって!?あの【人間】の…ど、どうすればいいのよ…」
「まあ、俺からも頼むから。気を落とすな。」
目に見えて落ち込んでる【緑竜】を慰める。
「あ、ありがと…やっぱり、優しいわね…」
だから、なんで顔が赤いんだよ。
「お、お待たせ、しました。」
「お、やっと来た…か…」
目に入ったのは、金色、金色、金色で眩い光だった。
「は…?」
「ふぅ…すみません。貨幣だと持ってくる事が出来なくて、金塊でなんですが、よろしいでしょうか?」
いやいやいや、これって絶対120万Sじゃねえよな。
大体金塊だと?
120万Sで金塊の出番なんて…
「【緑竜】討伐の報奨金1200万Sです。一本当たりの価値120万Sの金塊で10本ですね。依頼書にある通り―――」
1200万S?
「ちょ、ちょっと待った!依頼書もっかい見せてくれ!」
「は、はい。構いませんが…」
ちょっと待てよ、もしかしたら…
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せんま…あ…」
ゼロ一つ、数え間違えてた…
閑話休題
街の門から走って10分くらい経ったか。
「あー…もう疲れた…」
「何言ってんのよ!疲れたのはあたしの方よ!まったく、お人よしなんだから…」
まあ、その通りかもな。
あの後、金塊を袋に突っ込んで、ギルドを急いで出ようとしたら…
「すみません!緊急の依頼が入りました!」
受付から大きな声が聞こえ、ギルド内が一気に静かになった。
「門を強行突破した大型の馬車を確認しました!馬車は【土属性魔法】のゴーレム!現在【アンヴィーラ】方面に向けて逃走中です!」
ギルド全体に声が響き、言葉が続いた。
「犯人は奴隷商人の模様!尚リーダーとみられる男の写真があります!」
そう言って、どこからか大量の紙を取り出した。
「依頼の報酬金は2万Sです!速やかにリーダーと思われる男の身柄を確保してください!」
「どうしたのよ?行きましょうよ。あの【赤竜】もいるんでしょ?」
「あー…金塊じゃ換金しねえと使えねえし、ちょっと現金あったほうがいいな。」
「あの依頼も受けるの?」
「ああ、どうせついでだ。それに、周りの奴らは…」
周りを見ても、誰も依頼書を受け取ろうともせず、ただ静まりかえっている。
「誰も動こうとしないしな。それに、奴隷商人だろ?ちょっと頭にきた。」
「…まったく、仕方ないわね。あたしも行くわ。そのかわり、あの【人間】にお茶を頼みなさいよ?」
そう思い返して、手元にある紙に目を落とす。
そこには、男が鮮明に写っている。
やっぱり、どこのギルドにもあの【魔具】はあるんだな。
たしか、かなり高価だったと思うが。
「まあ【アンヴィーラ】まではほとんど一本道だしな。その内見つかるだろ。」
【身体強化】を使っているしな、馬車よりもちょっと速いくらいか。
「別にいいわよ。走ってるだけなら疲れないし。」
「…お前【身体強化】使ってるのか?」
「【身体強化】ってなによ?」
まあ、いいや。
竜に常識は通じないってのは、ルビアで分かってたよ。
「それにしても、この依頼なんて受けなくてもよかったんじゃないの?別に【人間】がどうなろうと、構わないじゃない。」
まあ、それもそうなんだがな…
「奴隷ってのにはムカつくんだよ。女を犯して、男を嬲って、飽きたら捨てて。胸クソが悪くなる。」
「ふぅん…ま、いいわ。それに、もう近いわよ。」
「へ?なんでわかるんだ?」
まだ何も見えねえけど…
「あたしには分かるのよ。風にのって、においがね。」
「へぇ、そりゃすごいな。今はどんなにおいなんだ?」
「今は…血のにおいね。あと、焦げたにおいとなんか…変なにおいがするわね。」
血のにおい…?
「急ぐぞ。まだ間に合うかもしれねえ。」
「はいはい…わかってるわよ。」
閑話休題
破壊されたゴーレムとボロボロの馬車。
そして…
「なんだよ…これ…」
腹に大穴が空いた死体、頭から血を流している死体があった。
「ふぅん…あ、この【人間】ってその紙に写ってた【人間】でしょ?こいつを持ってけばいいんじゃない?」
【緑竜】が持ち上げたのは、確かに写真に写っていた男だ。
腹に大穴が空いてるけど…
「あ、ああ、そうだけど…ちょっと待ってろ。」
確か、ギルドで奴隷商人って言ってたよな。
馬車を覗くと、たくさんの【人間】と少しの【亜人】がひしめき合っていた。
まだ成人もしていなさそうな子供が多いな。
全員が、首輪をしている。
「おい、何があった。」
「わ、わかんない。ぼく、気付いたら、ここに、いて。」
声をかけたのは【人間】の子どもだった。
全身を震わせて、よっぽど怖かったのか。
「わかったから落ち着け。誰かいないとか、わかるか?」
「ぼ、ぼくは―――」
【人間】の子どもを抱きしめる。
俺も、小さい頃は母さんにこうやってもらって、落ち着いたもんだ。
「…落ち着いたか?大丈夫だったら、ゆっくり話せ。」
「そ、そういえば、ひとり、いない。いちばん、さいごに、きた。おんなのこ。」
「いないって、この馬車が襲われた時か?」
「た、たぶん。いきなり、おっきなおとが、して。すこしして、だれか、はいってきて。」
くそ、誰か攫われたのか。
「くろいかみで、ちいさいひとが、つれていった。」
黒い髪で、小さい人?
まさか…
「そのいなくなった奴って、白い髪だったか?」
「う、うん。そうだよ。」
まさか、イーナか?
はい、どうだったでしょうか?
さて、今回で【亜人】が間違えた桁ですが、よくあることですよね?
ゼロが何個もあると、混乱しちゃいますよね?
…しないって?
…ま、まあ、いいんですよ、はい。
あ、あとここで出てきた馬車とは、幌馬車のことですよ?
馬車とは、馬が荷車を引いている状態の総称だと考えていますので、この場合は幌が被さっている荷車ですね。
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。