第二十九話・人の夢は儚い、だからこそ夢なのです
はい、第二十九話投稿いたしました。
さて、この小説もそろそろ三十話に届こうかというところ。
とりあえずは、三十話で一区切りにしたいと思います。
まあ、木曜日ですね。
詳しいことはその時にまた…
けれど、第二十九話始まり始まり…
こんにちは。
イーナこと伊那楓です。
結局、あの【エルフ】のお爺さんはなんだったんでしょうね。
敵意も悪意も無かったようですし、本当にランダル君を見守っていただけなんでしょうね。
疑問も多々ありましたが…
でも、急に消えたのは【魔法】でしょうか?
そんな【魔法】は聞いたことはありませんが…
近いうちに会えるとも言っていましたし、その時にでも聞きますか。
さて、ランダル君たちはどうなったのでしょう。
まあ、どちらに転んでも、どうでもいいんですがね。
閑話休題
図書館の中は、相変わらず、カビと埃が混ざったような独特なにおいがします。
「さて、二人はどこに…」
【レーダー】を確認すると、カウンターの奥の部屋、書庫でしょうか?
そこに、二人がいるみたいですね。
書庫に入ってみると、閲覧室とはまた違った古い本がズラリと並んでいました。
二人はもう少し奥のようです。
二人の元に向かっていると、ふと、本棚の本が目に入ってきました。
その本棚は、他の本棚と違い三冊の本だけが収められていました。
「なんでしょうか、この本は。根本から文字体系が違うようですが…」
この世界【ケミスト】の文字でもない、かと言って英語でも、ロシア語でも、今まで見たことのないような、文字とも図形とも記号とも言えるモノで綴られています。
いくつか同じようなモノが並んでいますが、さすがにこれだけで読めと言うのは無理があります。
しかし、この世界にあるからには【ケミスト】の文字に違いはありません。
そして、神様は私に【ケミスト】の文字を読めるようにする、と言っていました。
つまりは…
「…なるほど、読めるわけがありませんね。」
私が、この世界の文字だと認識した瞬間、その本の文字が読めるようになりました。
その本は、滅びた文明の失われた言語で書かれており、そして…
「不老不死、ですか…」
あらゆる種族を【吸血鬼】と化し、それに伴う不老不死化についてが、事細かに記載されていました。
【地球】でも、太古の昔より追い求められ、それでも実現されなかった、叶うはずのない夢…
どうやら、吸血鬼化に伴って発生するはずの太陽への弱体化は、不老不死化で補完されているようですね。
太陽で肌を焼かれても際限なく再生し、心臓を杭で貫かれても死ねず、肉体を粉々にされても復活する。
確かに、不老不死には違いありませんね。
肉体の成長も止まり、永遠の若さも得られますし。
そのかわり、生き物を吸血し【魔力】を補填することが必須になるようです。
それでも、吸血は数年に一度でいいらしいですね。
この【吸血鬼】は【亜人】として存在する吸血種族とは、似て非なるもののようですね。
吸血種族も、生き物を吸血し【魔力】を補填できますが、不老不死とは言えませんし。
「しかし、不老不死に、なんの意味があるんですかね…」
残る二冊の本を読んでみても、死人を蘇らせる【魔法】や記憶を消す【魔法】に、生物を即死させる【魔法】や生物を操る【魔法】など、外道な【魔法】ばかりが記載されていました。
どの本も、現在使用されている【魔法】とは、全く違う方向性の【魔法】が記載されています。
「どうなっているんですか、この図書館は…」
一般には公開されてなくても、このような街の図書館にあっていい本ではないです。
それこそ、博物館や研究機関といった場所にあって然るべきものばかりです。
この世界に、そのような機関があるのかは、疑問ですが…
「まあ、読む事が出来ないのが、せめてもの救いですね。」
滅びた文明の、失われた言語ならば解読するのが、まず不可能だと思います。
【地球】でも、まだ解読されていない言語がありましたからね。
発見してから、たかが数年で、全てを解読するなんて不可能ですね。
「それでも、処分するに越したことはありませんが…」
この本を、どこで見つけたのかを…
「誰です!そこにいるのは!」
本棚の陰から、この図書館の館長であるアムザイ・シーボーグが、杖を突き付けてきました。
「館長さんですか。どうも、お久しぶりです。」
「あなたは…イーナさんですか?」
「はい、イーナです。ランダル君の様子はどうですか?」
「あなたでしたか…お恥ずかしながら、ランダルと会ったのもあの子が生まれて以来でしたから、今更何を話せばいいのやら…」
そう言ってアムザイさんは、恥ずかしそうに頭をかきました。
「今まで何も出来ずに、今更父親面して…私に親の資格なんて、ないんですよ…」
「親であることに、資格なんて必要ありませんよ。」
「え?」
「私の育った地では、生みの親より育ての親、と言われています。あなたがランダル君を生んだわけでも、育てたわけでもありません。しかし、これから育てて行けばいいんです。あなたの奥さんと一緒にです。」
「しかし、妻は…」
「【エルフ】のお爺さんから、手紙を預かっています。あなたの奥さんを保護しているらしいです。」
そう言って【エルフ】のお爺さんから預かった手紙を渡しました。
「【エルフ】の…あのお爺さんですか。それなら安心です。」
「怪我は治ったらしいですが、それでも、傍にいた方がいいんじゃないですか?」
「はい、それはそうですが…」
アムザイさんは、周りの本を気にしているようですね。
「今を拾って未来を捨てるのか、今を捨てて未来を拾うのか。夢は、もう叶ったんでしょう?」
「全部、知っているんですね…」
「全て【エルフ】のお爺さんに聞きました。【No.3】であったことも、夢の為に全てを捨てたことも、ランダル君のことも。もう、十分捨ててきたでしょう?最後の一つくらい拾ったらどうですか?」
この人は、一体どれだけのモノを捨ててきたんでしょう。
唯一拾えたモノは、図書館の館長という夢と、愛する人と一緒になる事。
その一つも、捨てようとしています。
「…はい。私にとっての一番は、やはり家族です。今まで、随分と迷惑をかけてしまいましたから…」
「十年という年月は、決して短いモノではありません。しかし、これから何十年とあるんです。取り戻せないモノではありませんよ。」
「はい…ありがとうございました。」
そう言って、アムザイさんは頭を下げてきました。
「さて、私はこれで戻りますよ。ランダル君にもよろしく―――」
言葉を続けようとすると、扉がバーンと開く音がしました。
【レーダー】で確認すると、緑色の点でした。
おそらく、セルナでしょうね。
「また、ですか…」
なにやら、アムザイさんが険しい表情をして、杖を構えました。
「どうしたんですか、杖を構えたりして。それに、また、とはどういう事です?」
「実は【教団】の連中が、この図書館の明け渡せと、このところ押しかけてくるんですよ。」
「【教団】ですか?」
「はい。およそ百年前に創設されたんですが、ここ数十年で急に力を付けてきたんですよ。遥か昔に失われた文明の【遺産】を発掘したとかで…」
【地球】の宗教団体と同じ様なモノですかね?
「そんな【教団】が、何故この図書館に?」
「それが、失われた文明の手掛かりがあるという話で…その度に追い返しているんですが…」
手掛かりですか?
「もしかして、この本の事ですかね?」
「その本が…ですか?」
「はい、その古代文明の歴史が…」
「その本に書いてあることが解るんですか!?」
アムザイさんは、驚愕の表情で私を見てきます。
あー、そういえば古代文明の事って、一般人には知られていないんですよね。
墓穴を掘りましたね。
まあ、アムザイさんも一般人とは言えない立場ですがね。
「その本は、どれだけ文献を調べても、文字一つの手掛かりも見つからなかったんですよ!?それを、歴史書だと、解るんですか!?」
アムザイさんは、私の肩を掴んでガクガクと揺さぶってきます。
それにしても【教団】ですか。
何やら、不穏な事を聞きましたね。
失われた文明の【遺産】ですか…
どんなモノか、気になりますね。
そんな時に、ふと、目の片隅にセルナの姿が見えました。
「イーナに…何してんだ!テメエは!」
セルナが凄いスピードで走ってきて、ジャンプをし、慣性の法則に従って、速度を維持したまま、アムザイさんの頭に蹴りを叩きこみました。
手早く言ってしまうと…
「ドロップキックですか…」
さすがに、不意打ちに近いモノを避けられるはずもなく、アムザイさんは物凄い音を立てて、本棚に突撃し、本に埋もれてしまいました。
「変態が!イーナに近寄ってんじゃねえ!」
本に埋まっているアムザイさんに向けて、罵詈雑言を吐いています。
「セルナ、その辺にしておいてください。私は別に―――」
「と、父ちゃーん!」
ランダル君が本棚の裏から飛び出し、必死に本をかき分けています。
「ん?ランダルが父ちゃんって言ってるってことは…」
「ええ、ランダル君の父親ですよ?」
「…元【No.3】のか?」
「はい。」
「…」
セルナの顔色が、徐々に青くなっていますね。
「だ、大丈夫かー!」
セルナも、ランダル君と一緒に本をかき分けていますね。
まあ、元【No.3】なんですから、これしきの事は大丈夫でしょう。
閑話休題
「すみませんでしたー!」
セルナが、目を覚ましたアムザイさんに土下座をしています。
なんだか、セルナの土下座も板に付いてきましたね。
「いえ、私もつい興奮してしまいました…」
アムザイさんも、セルナの土下座を見て気まずそうにしています。
「さて、ランダル君。」
「ん?どうしたんだ、姉ちゃん。」
「アムザイさんとは、どうですか?」
「…うん、今はあんまり喋れないけど、もう少し一緒にいれば、きっと。」
「そうですか。」
まあ、心配するほどでもないでしょう。
両親と一緒に暮していれば、自然と慣れてくるはずです。
「そう言えば…アムザイさん。」
「はい、なんでしょうか?」
「この本は、一体どこから?」
三冊の本を本棚から取り出し、アムザイさんに聞きます。
「実は、この図書館を開く前なんですが…」
アムザイさんが言う話では、この図書館を購入し、元々置いてあった家具を全て整理した時に見つけたらしいです。
どうも、壁に【魔法陣】で仕掛けがしてあって、解除して開いた扉の中に、十冊ほどの本が入っていて、その【魔法陣】を解除したらあらゆる方向から上級魔法にも匹敵するほどの【魔力】が襲ってきたらしいです。
かろうじて回避したものの、その【魔力】のせいでほとんどの本が消滅してしまい、残ったのがこの三冊の本、とのことです。
その【魔法陣】は消滅してしまい、二度と現れなかったらしいです。
「なるほど…」
「今も【魔法陣】で【魔法】を発現できますが、あそこまで膨大な【魔力】を溜めこむことはできません。今思えば、あれも古代文明の【魔法】だったのかもしれませんね。」
確かに、この本にも古代文明の【魔法】について書いてありましたがね。
他の、消滅した本に書いてあったんでしょうか?
「ところで…イーナさんはその本を読めるんですよね?」
「はい、読む事はできますが…」
アムザイさんが、興味津々と言った目でこちらを見てきます。
「…聞きたいですか?」
「是非とも!」
アムザイさんが、ノートとペンを取り出し、メモを取る体勢になりました。
…どこから出したんでしょうか?
「まあ、いいです。この本に書かれている内容はですね…」
その時、ふと思いました。
「…アムザイさん。一つ聞いてもいいですか?」
「はい?何をです?」
今まで見ていたノートから視線を上げ、こちらを見ました。
「もしも…もしもの話ですが、あなたの最愛の人が無くなったとします。その時に、その人を蘇らせることが出来たとしたら…どうしますか?」
「…それは、その本に関係する話ですか?」
「…」
私の沈黙を肯定と受け取ったのか、アムザイさんはノートとペンをしまいました。
「…そうですか。やはり、その本の内容は話さなくてもいいです。」
「…すみません。」
「いえ、例えそうだとしても、希望に縋ったら、それに頼りきりになってしまいます。別れは…何度もするものじゃないんですよ。その本も差し上げます。私は【魔法】に縋るつもりはありません。」
そう言って、ランダル君の方を向き。
「さあランダル。一緒に、母さんの所に行きましょう。」
その言葉に、ランダル君は体をビクリと震わせました。
「…でも、俺、母ちゃんに捨てられて…」
「大丈夫です。全部、嘘だったんです。大丈夫です…母さんは、あなたの事を愛しています。」
「本当?本当なの…?母ちゃんは、俺を、捨て、てない、の?」
ランダル君は鼻をすすりながら、喋っていますね。
「さて、セルナ。」
「ん、どうした?」
今まで土下座をしていたセルナが、顔を上げます。
「そろそろ戻りますよ。ルビア達も待ちくたびれていると思います。」
「お、おい。ランダルは…」
「あの二人は、もう大丈夫です。」
図書館を出て、宿に向かいます。
家族というモノは、一度捨ててしまうと、二度と手に入れることはできませんからね。
だからこそ、貴く、儚く、愛しく、そして…
「羨ましい、ですね。」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ…なんでもないです。そう言えば、セルナ。」
「どうした?」
「どうしてランダル君を…いえ、ランダル君の母親を助けたんです?」
「…さてな、俺にもわかんねえや。」
「…そうですか。」
「お、てめ、何笑ってんだよ!」
本心を隠すセルナに、つい…
「いえ、セルナも優しいんだな、と思いまして。」
セルナが何やら騒いでいますが…
「私は、セルナのそんなところが、大好きですよ。」
「す、好きって…」
セルナが狼狽していますね。
「さあ、急ぎますよ。ルビアが怒ったら、こんな小さい街なんて、一瞬で消し炭ですよ。」
「おま、恐ろしいこと言うんじゃねえよ!」
そう言いながら、ゆっくりと宿に向かいます。
今は、こんな平穏が嬉しいです。
神なんて、信じないことに決めていましたが…
ありがとうございます。
感謝しますよ。
神様。
はい、どうだったでしょうか?
とうとう登場しました【教団】という謎の組織。
はいはいよくあることです。
活動目的がイマイチ不明瞭ですね。
滅びてしまった古代文明とは!?
そして【教団】が発掘した、古代文明の【遺産】とは!?
色々な、謎という名の伏線を残し、次回以降へ続く!
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。