第二十五話・ペンは剣よりも強く、姉は妹に弱い
はい、第二十五話投稿いたしました。
課題がマッジで忙しいっす。
それと、あと一か月ほどで夏休みです。
気が早いですが、たーのーしーみーです。
夏休み中の更新は…恐らく半停止状態ですね。
今のうちに執筆を進めて、予約投稿という手段もあるのですが…
なかなかに厳しいです。
それと、登場人物のプロフィールやらですが、要望が無かったので今回は見送りという事で…
そーい、第二十五話始まり始まり…
「ん…うん…ここは…」
目が覚めました。
イーナこと伊那楓です。
目が覚めて、まず最初に目に飛び込んできた光景は…
「むにゃ…すぅ…」
白い髪が肩まで伸びた、小柄な少女が、静かに寝息立てて私の隣に寝ています。
誰でしょうか?
それに、ここはどこでしょうか?
とても広い部屋に、私たちが寝ているベッドが一つ。
更に、窓からは街並みが見えます。
確か、私は【アプライド】に着いてすぐに倒れてしまって…
「宿じゃ…ありませんよね。」
それに、リリウムとルビアとセルナもいませんし…
「どこに行ったんでしょうか?」
扉を押しても引いてもビクともしませんし。
右腕に射突型ブレードを出そうとした時です。
「むにゃ…あれ…お姉ちゃん…?」
少女が目を覚まして、寝ぼけた目でキョロキョロしています。
「あ…お姉ちゃん…どうしたの…?」
私がお姉ちゃんですか?
私を見つけると、その少女は笑顔でパタパタと走り寄ってきました。
その少女は、目が大きくパッチリしていて、肌が白く、白い髪がよく映えている赤い眼をしています。
身長は私と同じくらいですが…
「ところで、あなたは誰でしょうか?」
いえ、本当に知らないんですよ。
自慢じゃないですが、今まで会話したことのある人は忘れることはありません。
私のことをお姉ちゃんと呼んでいるようですが、話したことはありません。
「え…?私がわからないの…?」
少女が驚いたように答え、涙目になってしまいました。
「うっ…えっ…酷いよぉ…えぐっ…ずっと一緒にいたのに…忘れるなんてぇ…」
ずっと?一緒に?
この世界に来てから、ずっと一緒にいるというと…
「リリウム…ですか?」
そう考えると白い髪と白い肌、そして赤い眼は【白竜】の特徴と合致しています。
「うん…そうだよ。リリウムだよ…お姉ちゃん…」
パァッと明るくなり、笑顔で抱き着いてきました。
頭を撫でると、気持ちよさそうに、和らげな表情を浮かべました。
「ところで、なんで擬態ができるんですか?ルビアは300年ほど生きていないと擬態ができないと言っていましたが…」
リリウムは、まだそれほど生きていないはずですが…
「うんとね…お姉ちゃんの【魔力】がね…とっても美味しくてね…いっぱい食べてたらね…私の【魔力】もたくさん増えたの…そしたらお姉ちゃんが倒れてね…助けたい!って思ったらね…できたの…」
私には【魔力】がありませんから【霊力】のことを言っているんでしょうね。
それにしても【霊力】が美味しい、ですか…
「ところで、ルビア達はどこですか?見当たりませんが。」
「お母さん…?お母さんは…」
その時、扉がノックされました。
「イーナ、起きてっか?」
この声はセルナですか。
「はい、起きてますよ。早く開けてください。」
この扉、こちら側から開かないんですよ。
まるで牢屋みたいですね。
扉が開き、部屋に入ってきたのは…
「おう、元気そうだな。飯持ってきたからな、食っとけよ。」
「イーナさん…すみませんでした。」
食事を持ったセルナと、なぜか私に謝ってくるルビアでした。
「はい、元気ですよ。それと、どうしてルビアが謝るんです?」
「お前、覚えてねえのか?」
「何をです?」
私は【アプライド】に着いて、すぐに倒れて、ずっと寝ていたはずですけど…
「そういえば、ここはどこでしょうか?あの宿じゃないようですし。それと、右腕も治っているようですけど…」
そういえば、右腕に痛みを感じません。
指を開いたり閉じたり、腕を振り回しても、痛くありません。
「あ…それはね…リリウムが治したんだよ…?」
「リリウムがですか?」
「うん…そうだよ…?」
リリウムが頭を撫でてほしいような顔をしています。
「それで、ここはどこです?」
リリウムの頭を優しく撫でながら、セルナに質問をします。
「…まあ、食ったら説明するから、とりあえず食え。二日も寝てたんだ。腹減ってんだろ?」
そういえば、お腹が減りましたね。
「わかりました。それじゃ、いただきます。食べ終わったら説明してくださいよ?」
「ああ、わかってる。」
それにしても、いいにおいですね。
閑話休題
「ふぅ、ごちそうさまでした。」
食前にはいただきます、食後にはごちそうさまを忘れてはいけませんよ?
それにしても、なかなかの量でしたね。
小食の私にとっては、少し多かったです。
しかし、残してはいませんよ?
作ってくれた人にとっても、失礼ですから。
「…美味かったか?」
セルナも食べたかったんでしょうか?
「ええ、もちろんです。さて、説明をお願いします。」
「…わかった。説明すんぞ。とりあえず、お前はどこまで覚えてる?」
「どこまで、と言われましても…」
【アプライド】に着いて、すぐに倒れて、ルビアを送り出して…
「とりあえずは、ルビアが買い物に言ったところまでは覚えていますけど。」
「そうか…」
そう言って、セルナがルビアと目を合わせます。
どうかしたんでしょうか?
「よし、まずは今この場所だが、城だ。」
「城ですか?」
まあ、薄々感づいていましたが、それにしても城ですか。
「なぜお城なんかに?」
「まあ、それなんだが…」
セルナが頬を掻きながら、言いにくそうにしています。
「実はな…あー、なんて言やあいいんだろうな…」
セルナは更に言いにくそうに、頭を掻いています。
それにしても、中身は女性なんですから、もう少し身なりを整えればいいのに。
せっかくの整った顔が台無しですね。
「セルナ、難しく言わなくてもいいですから、簡単に言ってください。二十字以内で。」
「ルビアが王を攻撃した。お前がそれを助けた。」
「残念ですね。句読点を入れて二十一文字です。後で薬草のテストです。」
セルナが喚いていますが、放っておきましょう。
何がいいですかね?
見分けがつきにくいアコニとテミシアでいいでしょう。
まあ、それにしても…
「私が王様を助けた、ですか。」
ルビアに攻撃された王を庇い、私が怪我をして、リリウムがそれを治したんですか…
「イーナさん。本当にすみませんでした。」
ルビアが私に頭を下げてきます。
「私が軽率なことをしなければ…」
「いいんですよ。私は何も覚えていませんし、その王様は死んでいないんでしょう?それに…」
私の後ろにいたリリウムを、ルビアの前に出します。
「リリウムも擬態ができるようになって、話せるようになりましたし。」
「お姉ちゃん…抱っこ…」
リリウムがこちらを向いて、抱っこをせがんできます。
まったく…
「ほら…」
私が腕を広げると、リリウムが飛び込んできました。
妹がいたら、こんな気持ちなんでしょうね。
「そういえば、リリウムは擬態を解けないんですか?」
「擬態…?どうやって解くの…?お母さん…」
「え?ええっと…こう…ギュッとなっている体をバッと解き放つ感覚で?」
どうにも抽象的で分かりにくいですね。
竜ごとに感覚が違うんですかね?
まあ、普段行っている動きを説明しろ、と言われても難しいですからね。
指をどう動かしている?と聞かれても、答えようがありません。
つまり…
「リリウムは【白竜】に戻れないんですか?」
「ふぇ…?」
「えっと、もうちょっと大きくなれば、できたりできなかったり…」
「じゃあ…もう…お姉ちゃんの頭に…乗れないの…?」
そう言いながら、目を涙で潤ませています。
そんなに気に入ってたんですか?
「ほら、手を繋いであげますから。泣かないでください。」
手を差し出すと、リリウムがその手を取りました。
「うん…」
まったく、可愛いですね。
「それでセルナ、いつまでここにいればいいんでしょうか?」
まだこの国を見ていませんが、そろそろ他の国に行きたいですね。
「ああ、そのことなんだが…」
セルナが何かを言おうとした時に、扉が開けられました。
「失礼する。王が件の少女をお呼びだ。すぐに来てほしい。」
扉を開けたのは、腰に剣をさした動きやすそうな服を着た、青年でした。
私をお呼びですか…
「ま、無視するわけにも行きませんし、ちょっと行ってきます。」
扉から出ようとしたら…
「リリウム?」
「お姉ちゃん…」
リリウムが私の手を離してくれません。
「大丈夫ですよ。すぐに戻ってきますから。」
「戻ってきたら…抱っこしてね…?」
「はいはい。」
リリウムの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めました。
「それじゃ、リリウムを頼みますね。」
「はい、気を付けてくださいね。」
「おう、任せとけ。」
そして、部屋を出ました。
扉が閉まり、青年が歩き出しました。
それについていくことにしましょう。
「まったく、王は何故こんな少女に会いたがっているんだか…」
道すがら、青年が愚痴をこぼすように言いました。
「さあ?あなたは聞いていないんですか?」
「ああ、王が独断でな。それに【亜人】やら、見知らぬ女性や子どもを連れ込むし…」
よく分かりませんね。
私を何のために城に入れたのか、何のために呼びつけたのか。
「まあ、王様に聞けばわかるでしょう。もう着くのでしょう?」
「ああ、その角を曲がれば王の執務室だ。」
角を曲がり、突き当りには一つの扉がありました。
簡素なその扉には、貼り付けられたプレートに執務室とだけ書いてありました。
「ここで王がお待ちだ。くれぐれも粗相のないように。」
そう言って扉を開きました。
この青年は扉の前で待っているらしいですね。
中に入ると…
「ああ、来てくれたの。その辺に座ってて。」
そこにいたのは、喋る書類の山…ではなく、天井付近まで積まれた書類に囲まれた女性が座っていました。
「少し待っていてちょうだい。これが終われば…よし、終わったー。」
女性は座ったまま背伸びをしています。
「うーん…うわっ、と…うきゃん!」
女性が、背伸びをしてバランスを崩したのか、椅子ごと後ろに倒れてしまいました。
机に積み上げられていた書類もろとも、ガシャーンと倒れてしまいました。
あーあ、あんなに大きい音を立てて…
「どうかしましたか…王!?大丈夫ですか!?」
扉の前で待っていた青年も入ってきてしまいました。
「貴様!王に対する狼藉!許さん!」
そう言って腰にさしてある剣に手をかけ…
「痛ったー…止めなさい。ここは執務室よ。剣を抜くのなら訓練場に行きなさい。」
女性が書類の山から這い出し、青年を咎めました。
「…はい。仰せのままに。」
「それに、その子は何もしてないわ。私が勝手に倒れただけだから…」
そう言うと、青年は訝しげに部屋を出て行きました。
「さて、助けてくれて感謝するわ。私は【No.5】兼【アプライド】の王のフィリス・オストヴァルトよ。あなたは?」
そう言って手を差し出してきました。
握手でしょうか?
「私はイーナです。人間の、しがないギルド員です。」
「イーナ?それだけ?それにただのギルド員?」
「はい。【No.】も何も持っていない、専属ギルド員でもない、ただのギルド員です。」
そう言ってギルドカードを見せます。
「ふーん…珍しいわね。まあいいわ。座って。」
そう言われ、来客用のソファーに座ります。
「さて、改めてお礼を言うわ。あなたが守ってくれなければ、私は確実に死んでいたわ。本当に、ありがとう。」
そう言って、オストヴァルトさんが頭を下げます。
「一国の王が、一般人に頭を下げるものじゃありませんよ。兵士に見られたら、あらぬ誤解を受けてしまいます。」
「いえ、本当に、感謝するわ。」
「経緯は聞きました。と言っても、私は何も覚えていませんが…」
「本当にありがとう。それにしても…」
「どうしましたか?」
「何も持っていない生身の体で、どうやって【赤竜】の息を受け止めたの?」
ああ、その質問ですか。
「さて、どうやってでしょうね?【No.5】が恐れた攻撃を受け止めたことに、恐怖でも覚えましたか?」
「…いえ、そんなことは。」
「沈黙がすべてを物語っていますよ。私は誰の敵になるつもりも、誰の味方になるつもりもありません。まあ、その時の気分で対処は違いますが。」
この世界に来たばかりの時の盗賊退治も、リリウムを助けたのも、ルビアを助けたのも、セルナを助けたのも、その時の気分ですし。
一歩間違えれば、誰かがいなかったかもしれませんし、もっと増えていたかもしれませんね。
【人間】が他の種族を見下したりするのは、やはり個体数が多いからでしょうかね?
私は【亜人】や【エルフ】に偏見は持っていません。
なぜなら私は…
「…ハッキリ言って、私はあなたが怖いわ、恐ろしい。【赤竜】の息を受け止めるのもそうだけど【赤竜】があなたに従っているのも【白竜】がいたのも、あなたの意志一つで一国を滅ぼすことのできる戦力が存在している。」
「さっきも言ったでしょう?私は、敵にも味方にもなるつもりはありません。」
「…あなたとだけは、敵対したくはないわね。」
そちらが何もしなければ、私は何もしませんよ。
「そう言えば、一つ聞きたいんですが…」
「え?何を?」
「この国はナロティが採れますよね?」
「ええ、ナロティの取引は、信頼できる薬屋に任せているわ。この国の建国当時からの老舗のドラグって薬屋ね。」
「それで、ナロティの種はどうなっていますか?」
「それは全部、この城に納められているわ。使い方次第では危険なものだからね。」
まあ、他の薬草と調合すれば、依存性が発生することもありますからね。
「それなんですが、これを見てください。【オーガニー】の薬屋で売っていた物らしいです。」
セルナが持っていた、薬を袋から取り出します。
「これは…ナロティの種の粉末!?なんでこんなものが!」
知っているようで助かりました。
話が進みます。
「なにか心当たりはありませんか?」
「そう言えば…最近店主が高齢で引退して、息子が引き継いだらしいけど…」
「内政に干渉する気はありませんが、早々に対処した方がいいですよ。既に他国にも広まっていますから、この国にも蔓延しているかもしれませんね。」
「忠告感謝するわ。早速証拠を集めないと…」
「いえ、ついでですから。」
やっぱり、直接潰すのはリスクが高いですから。
【オーガニー】では気分で潰しましたけど。
国家権力には盛大に動いてもらいませんと。
「それと、私たちはこの国を出ようと思いますが、構いませんよね?」
「ええ、それは構わないけど…」
オストヴァルトさんは忠告するように言いました。
「【赤竜】がこの国に出没したって情報が出回ってね。【オーガニー】から【ベルクマン】が来ているらしいわよ。」
そう言えば【オーガニー】のギルドでそんなことを言っていた気がしますね。
「忠告感謝します。まあ、適当にあしらえばいいでしょう。」
「一応【No.11】と【No.16】が組んでいるチームなんだけど…【赤竜】がいれば楽勝かしらね。」
「それでは、ナロティの件が解決することを願いますよ。」
「ええ、私もあなたの無事を願うわ。」
最後に握手をして執務室を出ます。
部屋の外に出ていた青年が入れ違いに部屋に入っていきました。
それにしても、聡明な王でしたね。
私のことを詳しく聞かず、無暗に干渉をしない。
と言うより【赤竜】が従っている時点で、私の強さを見抜いていたんですかね?
そして、私をひきこみもせず、援助も求めない。
自分の国の揉め事は自分の手で、ですか。
でも…
「それだけじゃ、決着がつかないこともあるんですよ。」
閑話休題
滞りなく城から出ることができました。
「さて、これからどうしましょうか?」
リリウムは私と手を繋ぎ、ルビアとセルナは後ろで横に並んで歩いています。
傍目から見れば、家族のようにも見えますね。
「そうですね。じゃあ【アンヴィーラ】に行きませんか?私もギルドに登録してみたいです。」
「お姉ちゃん…私も…してみたい…」
「んーそうだな。【アンヴィーラ】にも薬草があるらしいし、行ってみてえな。」
「わかりました。それじゃあ【アンヴィーラ】に―――」
門への道を曲がったところに、一人の少年が倒れていました。
「ん?どうした―――ってあいつは…」
セルナが倒れている少年に近づきます。
「おい、どうした。怪我だらけじゃねえか。」
セルナが【水属性魔法】を使い、少年の怪我を治しています。
「知り合いですか?セルナ。」
「ああ、イーナが倒れてた時に、ちょっとな。」
そう言っている内に、少年の怪我がある程度治ったようです。
「よし、もう喋れんだろ?何があった?」
「兄ちゃん…母ちゃんが…母ちゃんが…」
「母親がどうした?薬草は渡しただろ?あれを付けてりゃ…」
「違うんだよ…母ちゃんが…」
その後に続いた言葉は、私にとっては聞きたくない言葉でした。
「母ちゃんが…俺なんて、息子じゃないって…俺、捨てられて…」
「捨てられたぁ?どうしてだ。」
「【亜人】に助けてを求めたのが【人間】として恥ずかしいって…そんな奴はもういらないって…」
少年は涙声になっていますね。
「家に入ろうとしても、知らない男に殴られて、蹴られて、すごく痛くて、動けなくて。」
「つか、母親はどうした。まだ治ってねえだろ?」
「ううん。兄ちゃんが連れてかれた二日後には、もう治ってて…」
「は?たった数日で治るわけねえだろ。」
「でも!母ちゃんが元気になって、元気になったら俺の事を構ってくれるかも、って。そしたら…」
少年が黙り込み、静かに泣き出しました。
「セルナ、どんな薬草を使ったんですか?」
「ああ、とにかく傷だらけだったからよ。傷口にフィルマとナロティを混ぜたのを塗ったんだ。」
「確かに、それだけならそんなに速くは…何か【魔法】でも使いましたか?」
「そうだな…そういえば【水属性魔法】で軽く治癒させてから塗ったが…」
「ああ、きっとそれですね。」
【魔法】と薬草を併用する、という考え自体がこの世界では異端ですからね。
【魔法】が使えないから薬草を使い【魔法】が使えるのなら薬草なんていらない。
そんな考えがまかり通っていますから。
「それでもな、数週間かかると診たんだぞ。それが、たったの数日で…」
「【魔法】はそれほど強力な物という事ですよ。それに、傷にピッタリの薬草を使ったんでしょう。それはセルナの手腕ですが…」
「おう、それは保障できるぜ。」
「それで、少年はどうしますか?」
泣いていた少年が、私を見ました。
「このままここで泣いていても、その内誘拐でもされるのが目に見えています。かと言って、帰る家もない。」
少年は、ビクリと肩を震わせました。
「お、俺は…」
「その前に、少年の名前を聞いてもいいですか?いつまでも少年じゃ、呼びづらいので。」
「ああ、こいつの名前な、ランダル・シーボーグっていうんだ。」
シーボーグ?
確か【グラブス】の図書館で…
「てか、シーボーグって元【No.3】のファミリーネームだよな?アムザイ・シーボーグって、お前の父親だよな?」
少年…ランダル君が今までの声とはうって変わって、憎々しげに言います。
「俺に、父ちゃんなんていない…」
まあ、アムザイ・シーボーグという名前を聞き、確信が持てました。
「予定変更です。【アナリティカ】に行きますよ。」
「どうした?【アンヴィーラ】に行くんじゃねえのか?」
「いえ、ランダル君の父親に心当たりがあります。けど、どうします?行きたいのなら連れて行ってあげますが?」
「お、俺は…うわぁ!」
何かを言う前に、セルナがランダル君を持ち上げました。
「グチグチと言ってねえで、とっとと行くぞ。」
「は、放せよ兄ちゃん!俺は、あいつの所になんて―――」
暴れていたランダル君の腕が、セルナの胸に当たりました。
「あ、あれ?兄ちゃん、なんで…」
「ああ、そういや言ってなかったな。俺は女だぞ。」
まあ、一度や二度見たくらいじゃ、普通気づきませんよ。
「…」
「どうした?いきなり黙りこくって。」
ランダル君が急に黙ってしまいました。
何やらランダル君の顔が赤くなっていますね。
「それでは行きましょうか。」
【アプライド】に来る途中のゴーレムも気になりますが、ランダル君が先決ですね。
それに【グラブス】は【アナリティカ】の近くですので、ちょうどいいです。
「すみませんね。ルビアとリリウムの登録はもう少し先になりますけど…」
「いえ、私は気にしてませんよ。時間はたくさんあります。」
「お姉ちゃん…私も…気にしてないよ…」
そう言いながらも、リリウムはガッカリしているようです。
仕方ないですね。
「ほら、抱きしめてあげますから、そんなにガッカリしないでください。」
「ガッカリなんて…ふにゃ…むにゃ…はふぅ…」
リリウムを抱きしめると、眠たそうな、気持ちよさそうな声を出しました。
なんだか、ルビアの視線が強くなりましたね。
「どうしたんですか?ルビア。」
「い、いえ。なんでもないです。」
なんだかルビアの様子がおかしいですね。
「ほら、セルナも、そろそろ行きますよ。」
「おう、わかった。じっとしてろよ。動くと持ちにくいからな。」
「う、うん。」
それにしても、あの館長が【No.3】だったんですね。
それほどの人が、なぜあんな場所で…
まあ、いくら考えても仕方ありません。
直接聞くことにしましょうか。
はい、どうだったでしょうか?
【人間】の子どもが一時合流しました。
なぜ元【No.3】が辺鄙な町で図書館の館長をしているのか。
なぜ【No.3】という称号をなくしたのか。
分かってくるかも?
それと、王様と面会しました。
特に何事もなく終わりましたね。
まあ、王様の内心はハラハラでしたけどね。
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。