第二十話・円周率は3.14以下略
はい、第二十話投稿いたしました。
マジで暑いです。
寒いのも苦手ですけど、暑いのも苦手なんですよ。
それと、活動報告に目を通してくれると嬉しいです。
ほれほれ、第二十話始まり始まり…
どうも、イーナこと伊那楓です。
この前は大変でしたね。
セルナが泣いたり、セルナが弱気になったりと。
【アプライド】もそろそろ見えてくるはずですが。
海に面している国は【アプライド】と【アナリティカ】の一部だけなので、楽しみですね。
しかし、それにしても…
「この森、やけに広くないですか?」
私の頭の上にはリリウム、前を先行するようにセルナが、そして隣にはルビアが歩いています。
「イーナさんもそう思います?」
「いや、だけどな。方位磁石は、ちゃんと南をさしてるぞ」
セルナが先行して、方位磁石を確認しながら歩いているので、間違いないはずですが。
「でも、森を歩き続けて、もう三日になりますからね。さすがに、おかしいと思いますよ」
「だがなぁ…」
セルナはどうにも腑に落ちないようです。
「私がこの森を出た時は、空を飛んでいましたが、こんなに広くはなかったはずですよ?」
「…それって、何年前だ?」
「え?えーっと…100年…くらい…前かな。」
「100年前て…」
セルナが呆れていますね。
まあ、ルビアは少々世間離れしている部分もありますから。
その時、ふと気付きました。
「…ルビア、セルナ、ちょっと来てください。」
「どうしました?イーナさん。」
「どした?イーナ。」
「あれを見てください。」
私が指さしたのは、一本の木です。
「この木がどうしたんだ?」
「その木の根元です。よく見てください。」
「んー…ん?この木、イーナが採ってたキノコが…あれ?なんだってこんな場所に?」
「そう言われてみればそうですね。どういうことです?イーナさん。」
その木には、私が採取したキノコと同じものが生えていました。
私は根こそぎ採取することはしませんから、採った痕跡が残ります。
「…まだハッキリとは言えませんが、セルナ、いいですか。」
「おう、なんだ?」
「ちょっと頼みがあるんです。」
閑話休題
「イーナさん。セルナに何を頼んだんです?」
あの日から、ルビアもセルナをちゃんと名前で呼んでいます。
怒った時はその限りではないですが。
「ええ、ちょっとした確認ですよ。」
私がキノコを採取したはずの木が、再び目の前に生えていた。
私たちは、ずっと南に進んでいたはずです。
セルナが、方位磁石を見ながら進んでいたので、これは確かです。
では、どうして、また同じ木があったのか。
私がセルナに頼んだのは『方位磁石を持って、全速力で南に向かってほしい』ということです。
セルナの全速力は、時速およそ80km程。
私の考えが正しければ…
「ありゃ?なんでイーナが?」
セルナが進行方向とは逆側から現れました。
およそ5分というところですね。
それが分かればこっちのものです。
「おい、どういうことだ?なんでイーナが前にいんだよ。」
「ちょっと待ってください。説明しますから。」
セルナの時速を秒速に換算して、円周は2πrですから、それを変換して…
「おい、イーナ!」
「…分かりました。説明します。」
二人を集め、落ちていた枝を使って、地面に円を書きます。
「さて、二人とも、これを見てどう思いますか?」
「何って、円だろ?これが関係あんのか?」
「キュー」
リリウムも丸くなっています。
まるでボールのようですね。
この世界の数学は、加減乗除くらいしかありません。
細かい式なんて、使い道がないからですかね。
「セルナ、質問です。あなたは南にずっと真っ直ぐに走りましたか?」
セルナは怪訝な顔をしています。
「当たり前だろ。南にずっと走ってたんだ。それなのに、イーナが前にいやがるしよ。」
「では、これを見てください。」
円の一部分を囲み、その部分を大きく一本の線で表します。
「これはどうですか?」
「ただの線だろ。」
「そうです。それが重要なんです。」
「は?」
「一つの円も、部分部分を拡大して見れば、直線の集合として見ることができます。」
そう言いながら、細かい直線を円を描くように重ねて行きます。
六角形を思い浮かべると、分かり易いですね。
辺を増やし、内角を緩めて行けば…
「このように、セルナが走ったと思っている直線は、微妙に曲がっていたんですよ。こう…円を描くように。」
気付かないのも、無理ありません。
かなり大きな円です。
「だが、方位磁石は…」
「ですから、方位磁石も狂っているんですよ。」
方位磁石なんて、ちょっとした原因があれば狂ってしまいますから。
「ここからおよそ1.3kmほどの地点、セルナが走った円の内側に、何かあります」
方位磁石を狂わせるような、何かが…
「いつから迷っていたのか、ハッキリとは分かりませんが…あの木に気付かなければ、いつまでも迷い続けていましたね。」
「なるほどな…」
「さて、どうします?磁石が正常になるまで離れるか。それとも、この異常の原因を叩くか。」
「決まっていますよ。イーナさん。」
今まで黙っていたルビアが、間を置かずに言いました。
「ああ、決まってるな。イーナ。」
セルナも同じ考えのようですね。
「それじゃ、行きましょうか。」
「はい」
「おう」
「キュー」
リリウムも乗り気のようですね。
それにしても、何があるのやら…
閑話休題
円の中心を目指して歩いていると【レーダー】に反応がありました。
「ルビア、セルナ、何か来ますよ。気を付けてください。」
数は3、紫色の点が、私たちを取り囲むように迫ってきています。
紫色の点は、無生物を表しています。
そう言えば、最近【レーダー】の範囲が広がってきた気がしますが…
慣れてきたんでしょうかね?
「数は3、おそらくゴーレムだと思いますが、すぐに再生してしまいます。破壊するだけ無駄ですから、道を塞ぐゴーレムだけを破壊しますよ。」
ゴーレムは、術者を叩かない限り【魔力】の続く限り再生しますから。
それに、3体のゴーレムを出し、一度に操作するには、相当熟練しないと難しいはずです。
【魔力】切れは期待できませんね。
「急ぎますよ。もう、近いはずですから。」
右腕に、射突型ブレードを出しておきます。
ゴーレムには、これが一番効果的ですよ。
「おい、イーナ。なんでそんな事分かんだよ。」
そういえば、言っていませんでしたね。
「まあ、あとで説明しますよ。それよりも…」
木を薙ぎ倒しながら、前方からゴーレムが現れました。
見た印象は、とにかく大きいです。
この前見たゴーレムよりも、数倍も大きいです。
しかし、ただ大きいだけではなく、よりシャープになり、より人型に近づいていますね。
「な!?上級魔法の【アースゴーレム】じゃねぇか!なんでこんなのが!?」
どうにも大きいと思ったら、上級魔法ですか。
まあ、あまり関係ありませんが…
しかし、おかしいですね。
私たちの位置を、正確に捉えてきています。
どこかで見ていない限り、こんな動きは不可能なはず…
「とりあえず、破壊しますか。リリウムをお願いしますよ。」
リリウムをルビアに預け、ゴーレム破壊に向かいます。
大きくなったということは、その分だけ動きも緩慢になっているはずです。
私を狙い、拳を放ってきたので【霊力急進】で避け、懐に入り、足元に射突型ブレードを撃ちこみました。
足元が崩壊し、大きな音をたてて倒れこみました。
やはり、前のゴーレムと変わりませんね。
あまりにも大きいので、修復にも時間がかかるようですし。
「それじゃ、先に―――」
その時、眼鏡を通して視るゴーレムに変化がありました。
ゴーレムの胴体のヒビから、赤い【魔力】が漏れ出ています。
赤い【魔力】は【火属性魔法】の証。
それが、何故ゴーレムの中から…
「イーナさん!逃げ―――」
その声を聞き終わらない内に、圧倒的な熱量が、膨大な熱の塊が、赤い爆発が、私を包みました。
【霊力障壁】で辛うじて耐えていますが、今にも破壊せんと襲いかかってきます。
しかし、これが【魔力】で構成されているのなら…
【霊力爆発】
視界が一瞬真っ白に染まります。
【霊力障壁】を攻撃に転用した【霊力爆発】で、爆発を構成している【魔力】ごと消し飛ばしました。
「なんとか…なりましたかね。」
「イーナ!お前、腕が真っ赤じゃねえか!待ってろ、薬草を…」
セルナが焦った声を出しながら、袋に手を突っ込み、薬草を探していますが、それを制します。
「それよりも、早く行きましょう。さすがに、次はまずいです。」
あちこちに軽い火傷を負ってしまった上に、数十秒間は【霊力障壁】を展開することが出来ませんが、これくらいで済んで万々歳です。
あの爆発は【霊力障壁】をかなりの勢いで減衰させていましたから【霊力爆発】をしなければどうなっていたやら。
ゴーレムも再生を始めていますし【レーダー】には、他のゴーレムも確認できます。
こんな爆発が何度もあったら、さすがに堪えます。
「障壁もねぇじゃねえか!…は?なんで―――」
セルナの後ろにゴーレムが一体、腕を大きく振り上げていました。
どうして…速すぎます…!
一瞬、右腕の射突型ブレードを構えようとしましたが、ダメです。
破壊したらまた爆発を…
この近距離で【霊力障壁】もない状態であの爆発を浴びたら…
それ以前に…
「セルナぁ!」
「ぐあっ…!てめぇなにし―――」
【霊力急転】による回し蹴りで、セルナを蹴り飛ばしました。
ゴーレムの振り上げた腕の勢いはそのままに、私に直撃し、ゴギャッ!と鈍い音が鳴りました。
右腕を曲げ、左腕を添えて防御をしながら、直撃した瞬間に打撃方向とは逆に【霊力急進】で加速して、どうにか勢いを殺すことができました。
【霊力浮遊】でスピードを緩めつつ、50mほど飛ばされたところで、ようやく止まることができました。
内臓は無事のようですが、右腕は…さすがに折れましたかね。
木で遮られて見えませんが、爆発音が聞こえてきます。
まさか…
木の間を駆け抜けて元の場所に戻ると、ルビアが単身で2体のゴーレムを相手にしていました。
さっきの爆発音は、あの爆発したゴーレムですか。
しかし、そのゴーレムも修復を始めています。
「ルビア、大丈夫ですか。」
「大丈夫です!イーナさんは!」
「私は大丈夫です。それより、このゴーレムは構わない方が賢明です。行きましょう。」
「そんなこと言っても!」
ルビアの前に【霊力急進】で割り込み、グレネードで2体を撃ち破壊します。
…この二体は爆発しませんか。
「いえ、対処法が分かりました。二人とも、私に近づいてください。」
【霊力障壁】の出力を上げ、ルビアとセルナをすっぽりと覆うようにします。
修復を終えた3体のゴーレムは、目の前にいる私たちを尻目に、動きを停止させました。
「これは…どうなっているんです?」
「恐らく、このゴーレムは【魔力】に反応して、自動で攻撃を加えているようです。」
私が殴られた時も、最初はセルナを狙っていたようですし。
飛ばされた私を、追撃もしませんでした。
「私の障壁で二人を覆いました。これで、二人の【魔力】は認識できていないはずです。」
「…なんか、お前に【魔力】が無いって言ってるみたいだな。」
「はい、私は【魔力】をほんの少しも持ってない、ただの人間ですよ。」
ルビアもセルナも、きょとんとしています。
「いや、そんなこと言ってもな…」
「そうですよ。【魔力】を持ってない生き物なんていません。」
「それじゃ、私は生き物じゃないんでしょうね。」
私がそんなことを言うと、ルビアは目を瞬かせ、セルナは眉をしかめました。
「イーナさんは【人間】じゃないですか。イーナさんが冗談を言うなんて珍しいです。」
「…」
「さて【アプライド】に向かいましょうか。この先に何があるのかも気になりますが、方位磁石も治ったようですし。」
方位磁石もきちんと南をさしています。
「離れないでくださいよ。またゴーレムが動き出してしまうかもしれませんからね。」
「はい。イーナさん。」
「…ああ、わかってるよ。」
二人とも、私のなるべく近くに寄ってもらいます。
リリウムもいつの間にか、頭の上に乗っています。
さて【アプライド】までどれほどでしょうかね。
それにしても、右腕が痛いです。
その辺に、ナロティでも生えてないでしょうかね。
…冗談ですよ。
はい、どうだったでしょうか?
骨折って痛いですよね。
経験者ならわかるはず、あの独特な痛みが…
さて、森の奥には何があったのか…
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。