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私が行く・異世界冒険譚  作者: ちょめ介
蒔かれた種はどんな木に育つのか
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第十七話・猫、時々、人間

はい、第十七話投稿いたしました。


そういえばこの小説って残酷な描写がありますよね?


しかし、残酷描写指定はしません。


なぜなら私はちょめ介だから。


やっとこさ、第十七話始まり始まり…

どうも、イーナこと伊那楓です。


ようやく【オーガニー】に到着しました。


頭に乗っている【白竜】はリリウムで、横でグッタリしているのが【赤竜】のルビアです。


擬態をしているので見た目は【人間】ですけどね。


「お前すげーな。俺の全力に付いてくるなんて。」


こんなことを言っているのは猫の【亜人】のセルナさんです。


砂漠で偶然出会って【オーガニー】まで案内をして…


あれは案内と言えるんでしょうかね?


1時間の間、ただただ全力疾走を続けましたよ。


私は【霊力突進】を続けていたのでそこまで疲れてはないですけど…


「イーナさ…少し…休…憩を…」


ルビアは息も絶え絶えですね。


【赤竜】と言えども体力は変わらないんですかね。


「じゃあ、袋に入っていてください。疲れが取れたら出てくればいいですよ。」


「す…すみま…せ…ん」


そう言ってルビアは袋に入りました。


「さて、ありがとうございまし…どうかしましたか?」


セルナさんが呆然としています。


何かおかしいところでもありましたかね?


「いやいやいや!おかしいだろ!なんでそんなちっさい袋に入れるんだよ!」


ああ、そのことですか。


「どうも【エルフ】が作った物らしくてですね。なんでも入るんですよ。」


「へぇー、あの【エルフ】がか…見せてもらってもいいか?」


「いいですよ。」


そう言って袋をセルナさんに渡します。


「おお!ホントだ!底に手が付かねーぞ!…売ったらいくらになるんだろーな。」


質量保存の法則を軽く無視した袋ですからね。


欲しい人はいくら出しても買うでしょうね。


「それじゃ、そろそろ行きますので…」


「ああ、悪いな…あ!ジャラスが空を飛んでる!」


そう言ってセルナさんが私の後ろを指さします。


空飛ぶジャラス!?


ジャラスが空を飛ぶはずがないのに!?


つい後ろを向いてしまいました。


しかし視線の先には青空が広がっているだけです。


視線を戻すとセルナさんが走っています。


「悪いなー。どうしても金が必要なんだー」


そう言いながら人ごみの隙間を全力で走っていきます。


「あ!ちょっとー!」


「キュー!」


こんなに人が多くては【霊力突進】も使えません。


もたついている間にセルナさんは人ごみに消えてしまいました。


「ぬ、盗まれた…」


「キュー!キュー!」




閑話休題(ギルド到着)




幸いギルドカードはポケットに入れてあったので、依頼を受けることはできます。


しかし、依頼よりも先にやらなくてはいけないことが出来ました。


それは…


「じゃあ【亜人】は裏街にいるんですね?」


ギルド【エアスト】の受付の人に【亜人】がどこに住んでいるのかを聞き、そこに行ってみようと思います。


「はい【亜人】は例外なく裏街にいます。表通りに家を持てない【人間】が主ですが…そもそも【亜人】は裏街以外に住むことを禁止されていますから。」


【人間】がただ単に排除しようとしてるのか、それとも【亜人】が問題を起こすから排除されるのか…


まあ、考えた所で変わるわけでもありませんが。


「そうですか…ところで、セルナ・マーグナーって知っていますか?」


盗み方から逃げ方まで、やけに手馴れているようでしたが…


まあ、私の不注意もありましたけど。


受付の人は何やら資料を捲っています。


「ああ、最近ギルドに登録した【亜人】ですね。高額の依頼だけしか受けないのでこの辺では有名ですよ。まあ、確実に遂行しているので文句はありませんが…」


「そうですか…」


それだけ聞けば十分です。


ギルドを出て、裏街に向かいます。


そろそろ日も暮れてきそうですね。


急ぎましょう。




閑話休題(裏街到着)




目的の場所に到着しました。


それにしても、ここが貧民街ですか。


表通りから路地に入ると薄暗く、ゴミが散乱していました。


ゴミ一つ落ちていなくて日が当たる表通りとは大違いですね。


まるで表通りの要らなくなったものを押し込めたみたいです。


人通りが少なく、活気もなかったです。


そして私達は一軒の家の前に立っています。


「ここがセルナさんの家ですか…」


「キュー」


どうやらこの界隈ではセルナさんは、良い意味でも悪い意味でも有名みたいですね。


名前を出しただけで家の場所を教えてくれましたよ。


猫の形を模したドアノッカーがあったので、叩いてみました。


鈍い音が響き、中から足音が聞こえます。


「はい…どなたでしょう?」


ドアを開けたのは、やんわりとした雰囲気の【人間】の女性でした。


「えっと…セルナさんはいらっしゃるでしょうか?」


「セルナ?あの子は外に出てますけど…セルナのお友達?」


「いえ、助けてもらったもので、お礼を言いにきたんですよ。」


間違いは言ってませんよ?


「まあ、そうですか。それじゃあ、あがって待っていてもらえます?あの子もそろそろ帰ってくると思いますから。」


そう言われ家の中に通されました。


「それじゃあ、座っててください。今お茶を出しますから。」


そう言って奥に行ってしまいました。


私はテーブルとイス、クローゼットが置いてあるだけの簡素な部屋に通されました。


まあ、待っていましょうか。


座るとテーブルに置いてある紙包みが目に留まりました。


なんでしょうかね?


紙包みからはなにやら独特のにおいがします。


「このにおいは…」


紙包みを手に取ろうとするとドアが開かれました。


「お待たせしました。」


【人間】さんがお茶とお菓子を持ってきてくれました。


「そういえば名前を言っていませんでしたね。私はロウザ・マーグナーです。あなたは?」


「ああ、すみませんでした。私はイーナと言います。頭の上の【白竜】はリリウムです。」


「キュー!」


リリウムも挨拶をするように一鳴きしました。


「イーナさんとリリウムさんですか。そういえば、助けてもらったと言ってましたけど…」


「はい、砂漠で迷っていたところをセルナさんに【オーガニー】まで案内してもらったんですよ。」


「そうなんですか…あの子が…」


「はい、本当に助かりました。ところでロウザさん。顔色が悪いようですが…」


「分かります?実は数か月前に倒れちゃいまして、それからずっと…」


「病気…ですか?」


「はい、あの子の為に働いていたのに病気で働けなくなって、今はあの子が私の為に働いていて。本当に…ダメな…」


ロウザさんは顔を伏せ、涙声で呟いています。


「あの子は…とても強くて、とても優しくて、でも…」


そこでロウザさんが顔をあげました。


「すみません。暗くなっちゃって。こんな話を聞いても困りますよね。」


「いえ、話すことも大事です。誰かに話したら少しは軽くなりますよ。」


「…はい、ありがとうございました。」


そう言ったロウザさんの目は赤くなっていました。


「あ、お茶なくなっちゃいましたね。入れてきます。」


ロウザさんが立ち上がった時に異変が起こりました。


「ケホッすみま―――ケホッ…ゲホゲホッ!」


ロウザさんが急に咳きこんだかと思うと倒れてしまいました。


「大丈夫ですか!?ロウザさん!?」


ロウザさんの口元からは血が流れています。


「すみま…ゲホゲホッ…せん。はぁはぁ…その…ゲホッ…薬を…」


ロウザさんはテーブルの上の包みを指さしました。


「これが薬?何を言ってるんです!これは―――」


その時、玄関から声が聞こえました。


「姉さーん。帰ったよー。…あれ、いないのかな?姉さーん。」


この声は…


「姉さーん。姉―――げ!お前、なんでここに―――姉さん!?」


セルナさんは、私をみて驚いたかと思うと、それとはまた違う驚きの表情を浮かべました。


「姉さん!?姉さん!しっかりして!今薬を…!」


セルナさんが包みを開けてロウザさんに飲ませました。


それで落ち着いたのか、ロウザさんの咳は治まり、穏やかな呼吸が聞こえてきました。


「テメェ…何故姉さんに薬を飲ませなかった!」


物凄い剣幕で私に掴みかかってきます。


「お前もか!やっぱりお前も【亜人】と暮らしてるからって見捨てるのか!」


「落ち着いてくださいセルナさん。苦しいです。」


「少しの間でも信じた俺がバカだった!【人間】なんて―――ガアァ!」


ちょっと苦しかったので【霊力急転】で振りほどきました。


セルナさんはクローゼットに突っ込んでしまいましたね。


「自分の事を棚に上げて何を言ってるんですか。裏切られたのは私ですよ。」


クローゼットの破片をまき散らしながらセルナさんが立ち上がり、こちらを睨んでいます。


「とりあえずロウザさんを寝かせましょう。話したいこともありますし。」




閑話休題




ロウザさんを二階にあったベッドに寝かせ、私とセルナさんはもといた部屋のイスに座っています。


「で、あの薬とやらは、どこで、どういう説明を受けて買って、いつから飲ませているんですか?」


「…なんでお前にそんなこと言わなくちゃいけねえんだよ。」


まったく、この期に及んで何を言うかと思えば…


「あなたはお姉さんを殺す気ですか?」


「あ?」


どうやら興味を示してくれたようですね。


「どういうことだ?俺が姉さんを殺す?そんなことするわけないだろうが!」


手を叩きつけたせいか、テーブルが真っ二つになってしまいました。


「…ナロティという植物を知っていますか?」


「ナロティ?なんだそりゃ?」


「主に【アプライド】周辺にのみ生息していて、主に鎮痛剤として利用されています。」


「鎮痛剤?それなら問題は―――」


「問題なのは、使われている箇所なんですよ。」


「箇所?そんなの、どこでも同じじゃ…」


「ナロティが鎮痛剤として使われる場合は、葉を磨り潰して患部に塗布したり、乾燥させて煎じて飲むんです。」


「それがどうした?」


「そして、ナロティの種を乾燥させて粉にして服用すると、強い鎮痛作用が得られます。それがあの薬の正体です。」


他国で栽培できないように、ナロティの種の持ち出しは禁止されているはずです。


それがあるということは…


「何言ってんだ?強いんなら―――」


「それが強すぎる(・・・・)んですよ。」


「強すぎる?どういうことだ?」


まだ気づかないんですか…


「戦争では、兵士に飲ませていたんですよ。痛みを忘れさせて、死ぬまで戦わせるために…」


「な!?」


もう薬じゃない、麻薬と同じ…


依存性が無いだけ、まだマシですが…


「あなたは、それをロウザさんに飲ませていたんですよ。もう一度聞きます。いつから飲ませているんです?」


「…姉さんが倒れてから、ずっと…」


「ロウザさんは数か月前に倒れたと言っていましたが…ナロティの種には鎮痛作用しかありません。病気を治す作用なんてありませんよ。」


この数か月の間、ロウザさんはどんな思いでいたんでしょう。


知らずに飲んでいたのか、それとも…


「…もう、手遅れかもしれませんね。」


「姉さんが…死ぬ?」


「今までが奇跡だったんですよ。なんの処置もせずに、痛みがないだけマシですが…衰弱死していてもおかしくありませんでしたよ?」


「…」


最初の勢いはどこへ行ったのやら、すっかり意気消沈していますね。


「これで私の話は終わりですが…あの袋はどこに売ったんですか?」


「…」


セルナさんは呆然としていますね。


まあ、仕方がありませんか。


「徐々に効きにくくなっているはずです。もう、薬は飲ませない方がいいですよ。」


袋を売った分のお金もあるはずですから、それでまた買ってきたはずです。


「すべてを打ち明けて…お姉さんを楽にしてあげてください。」


もう、回復の見込みもありません。


残酷なようですが…


「…えに…」


セルナさんが何かを呟いています。


「お前に…お前に何が分かる!俺が【亜人】だからと差別されても!【亜人】と一緒にいるからと差別されても!一緒に生きてきた…たった一人の家族なんだよ!」


そう叫びながら、私に拳を繰り出してきますが【霊力障壁】を貫通するには至りません。


「俺を拾ってくれて!俺と一緒にいてくれて!俺は…俺はまだ姉さんに恩を返せてねえんだよ!」


眼鏡を通して視るセルナさんの【魔力】は、右腕に集中しています。


あの【魔力】の濃度なら【霊力障壁】を貫通しますかね?


「俺は!」


右腕は【霊力障壁】と一瞬拮抗しましたが【霊力障壁】を貫通しました。


「…その気持ちはわかります。しかし、お姉さんをこれ以上苦しめるつもりですか?」


「な!?」


ただ、右腕を受け止めただけですよ?


ルビアに比べたらまだまだですし。


「今でも十分苦しいはずなのに、薬で誤魔化して、僅かに生きながらえて、それをいつまで続けるつもりですか。」


「黙れ…」


「あなたがやろうとしていることは…お姉さんを苦しませるだけです。」


「黙れええぇ!」


右腕の圧力が強くなってきましたね。


しかし、放すわけにはいきません。


「セルナ…」


「姉…さん?」


ロウザさんがセルナさんの背中から覆いかぶさるように抱きしめました。


私の手からセルナさんの拳が離れます。


「姉さん!寝てないと!」


「聞いてたよ…全部。」


「!」


「セルナ…あのね…私…」


「姉さん…ごめん。今まで苦しめて…」


「ううん。セルナが謝る事じゃないよ。私が…いけなかったんだよ。」


「どういう…こと?」


「セルナが買ってきた薬もね…私の病気もね…全部わかってたんだよ。」


やはり、全部知っていたんですか…


「どうして!?あんな薬、飲まなきゃ―――」


「もう…十年だね…覚えてる?あなたが…表通りで泣いていて…」


「うん…忘れるわけ…ないよ。」


「初めのころは…全然懐いてくれなくて…」


「うん…」


「私が…食事を作っても…食べてくれなくて…」


「うん…」


「セルナ…一回だけ…聞いてきたよね…『どうして私を拾ったか』って…」


「うん…でも、姉さんが…」


「あの時はごまかしちゃったけどね…今だから言うよ…私も…さみしかったんだよ…」


「え…?」


「私もね…セルナと同じ…捨てられたの…親に…」


「姉さんも…?」


「始めはね…同情だったの…でもね…一緒に暮らしていくうちにね…だんだんと…なんて言うんだろうね…これが母親なのかなぁ…って」


「でも…俺…姉さんに…何の恩も…」


「ううん…セルナがいてくれたから…一緒に生きてくれたから…私も生きてこれたんだよ?セルナが生きてくれることがね…私にとって一番の恩返しなんだよ?」


「姉…さん…」


「そんなセルナとね…一秒でも…刹那の間でも永く…一緒にいたかったから…」


セルナさんから嗚咽が聞こえます。


「ほら…泣かないで…セルナには…笑っていてほしいから…」


「うん…うん…」


「最後にね…お母さんって呼んでほしいな…」


「母さん…母さん!何度でも呼ぶから!最後なんて言わないでよぉ…」


「ごめんね…ダメなお母さんで…本当に…ごめんね…」


眼鏡を通して視るロウザさんの【魔力】が急激に減っています。


「でもね…セルナと出会えて…よかった…本当に…一緒に生きてくれて…ずっと…一緒にいてくれて…本当に…」


掠れるような声で、しかしハッキリと…


最後の、言葉を…


「     」


「母さん!」


ロウザさんの体から【魔力】が完全に消滅しました。


【魔力】が回復することは二度と無く【亜人】と共に生きた一人の【人間】がこの世界から消えて行きました。


「母さん…母さん…」


セルナさんがロウザさんの亡骸を抱きしめています。


「母さん…私も…ありがとう…育ててくれて…」


ロウザさんの顔には、穏やかな微笑みが浮かんでいました。


セルナさんと共に暮らした日々を、走馬灯にでも見たんでしょうか…


静かに、音をたてないように、家を出ます。


もう辺りは暗くなっていますね。


「ちょうどいいですね。」


さて、薬屋はどこでしょうか?


私は、私のやりたい事をやるだけです。


誰かが死んだとか、誰のせいで死んだとかは関係ない。


私の、感情の赴くままに…

はい、どうだったでしょうか?


まともな話になっているでしょうかね?


それにしても、薬物って怖いですね。


薬物。ダメ。絶対。


さて、主人公はこの後どこへ行ったのか?


【赤竜】はどうなったのか?


【亜人】の今後は?


次話で明かされる!


…かもしれない。


感想、意見、その他諸々、お待ちしております。

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