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私が行く・異世界冒険譚  作者: ちょめ介
蒔かれた種はどんな木に育つのか
13/81

第十三話・爪が剥がれるとすごく痛いです

はい、第十三話投稿いたしました。


前回が短かった分今回は長いです。


しかし、なかなか指が動かず、意味不明な場所があるかも?


あと、ちょっとだけ残酷な描写が有ったり無かったり。


さてさて、第十三話始まり始まり…

【アンヴィーラ】を出て二日ぐらい経ちましたかね?


イーナこと伊那楓です。


そして頭の上に乗って寝ている【白竜】はリリウムです。


今日は朝早くから歩き続けていますから、そろそろ着きそうです。


そう思っていたら町が見えてきました。


「ほら、リリウム、そろそろ着きますよ。」


「キュ…キューッ」


頭の上で背伸びをするとは…中々に器用ですね。


こら、髪で涎を拭わないでください。


なにはともあれ【コーラル】に到着しました。




閑話休題(町に入りました)




えーと…


なぜこんなことになっているんでしょう?


門が開けっ放しで、門番もいなかったので入ってみたんですよ。


周りには、弓を構えた人がズラリと。


ええー…


「この町に何の用だ!」


リーダーのような男が叫びました。


「いえ、私はギルドの依頼で―――」


「頭に竜を乗せた奴の言うことなんて信じられるか!」


いや、まあそうなんですけどね。


「ほら、リリウムのせいですよ?」


「キュ、キュッキュー…」


リリウムはションボリしてしまいました。


そんなに気にしてはいませんがね。


「とりあえず、町長さんを呼んでくれませんか?この通り、依頼書もあるので。」


そう言ってギルドの依頼書を見せます。


【コーラル】の中は【アンヴィーラ】と比べると、どうにも活気があるとは思えません。


まあ、こんな森の近くにあれば、当然なのでしょうか。


「…そこで待っていろ。動くんじゃないぞ!」


私から依頼書を乱暴に奪い、町に消えて行きました。


町長さんの所にでも行ったんでしょうかね?




閑話休題(数分後)




弓を向けられたまま立ち尽くしていると、先ほどの男性と一緒に、まだ若い男の人が走ってきました。


「す、すみませんでした!みんな、弓を下げて!」


町長と思われる男性が号令を出すと、一斉に弓を下げました。


「失礼しました。私は【コーラル】の町長をしています。ラザラス・コルベと申します。」


「いえ、当然の行動だと思いますよ?私はイーナと申します。頭の上の【白竜】はリリウムです。」


「キューッ!」


リリウムも声を上げて挨拶をしました。


やはり、挨拶は大事ですよね。


「イーナさんですか?わかりました。それと、その【白竜】は…」


「大丈夫ですよ?勝手についてきただけです。」


「まあ、いいでしょう。それでは、こちらへどうぞ。」


町長さんに先導され、他の家より立派な家に案内されました。


「よく来てくれました。どうぞおかけください。」


家に通され、ソファーに座りました。


「それで、依頼の件なんですが…」


「あ、ちょっとその前にいいですか?」


「はい、なんでしょうか?」


「この町に入った時に気づいたんですが、少し竜に神経質すぎじゃありませんか?」


この町に入った途端に弓を向けられた。


竜を警戒するのは正しいが、警告なりなんなりして、追い返してもいいはずなのに。


それに、あの時の、あの男の目は…


「それはですね。率いていた男がいたじゃないですか?」


「あなたを呼んだ男ですか?」


「あの男は、リンドン・コルベと言いまして、私の父親なんですよ。」


「父親ですか?」


「はい、元はこの町の町長をしていたんですがね。もう…二十年ほど前になりますか。一匹の【赤竜】がこの町を襲いましてね。」


「【赤竜】ですか…」


「【赤竜】の火の(ブレス)で、家は燃え、人が焼け、ここは【フィジカ】からも近いですから【土属性魔法】が使える人しかいませんでした。しかしそれが裏目に出てしまった。」


「裏目に…ですか?」


「【赤竜】の火の息で、土はマグマに、岩は火炎弾に、もう地獄でしたよ。私はその時十歳程でしたが、今でも時々夢に見るほどです。」


PTSDですかね…


過去のトラウマ…竜なんて二度と見たくもないでしょうね。


「あの人達は…【赤竜】によって家族を失った人の集まりなんですよ。」


「では、ラザラスさんも…」


「いえ、死ぬ間際の母に言われたんですよ。『死んだ人を思って後ろを見ていたら、前には進めない。過去は思い出すだけ、未来を見て生きろ。』とね。」


「…」


「それがあったから、私は前に進むことが出来た。でも…父親も、あの人達も…過去の…あの事件に囚われているんですよ。もしも【赤竜】が町を襲わなかったら、もしも【赤竜】を退治できていたら。そんな幻想にね。過去を変えることなんて出来るはずがないのに…」


誰しも変えたい過去の一つや二つはあるはず。


しかし、それは不可能というものです。


それを受け入れて、自分を変えるしかない。


「あの時の出来事を忘れろと言うわけじゃない。でも…あの人達は、後ろを向いている。前を…未来を見ようとしていない…」


未来を見ようとしない、か…


「それで、ラザラスさんのお父さんは…」


「あの事件を期に父親は町長を辞め、同じ境遇の人を集めて、自衛隊【スタラング】を作りました。あの弓隊は【魔法】が使えない人たちが主でしてね。【魔法】が使える人たちは魔法隊に入っています。」


「そうなんですか…」


「イーナさんも一刻も早くこの町を出た方がいいです。竜がこの町にいるなんて知れたら【スタラング】に狙われてしまいます。いえ、もう情報が伝わっているかもしれません。」


「いえ、依頼は終わらせますよ。案内をお願いします。」


「しかし…」


「わざわざ【アンヴィーラ】のギルドに依頼を出したこととも関係があるんでしょう?」


「それは…そうですが…」


「善は急げ、とも言いますし早く行きましょう。」


「…わかりました。では行きましょう。」




閑話休題(十数分後)




「これが破壊を依頼した大岩です。」


案内された場所には、私の何十倍もありそうな大岩が道を塞いでいました。


「なるほど、この岩が道を塞いたから【フィジカ】との交通が断絶された、ということですか。」


「はい、数日前ですかね?夜中に物凄い音がしたんですよ。見に来てみるとこの岩が道を塞いでいて…」


「他に道はなかったんですか?」


「小さい道や、森の中にならあるんですが、馬車が通れなかったり、危険だったりで通ることができないんですよ。」


「けど【魔法】を使える人もいるでしょう?」


かなり労力を使うことになるが、破壊することは不可能ではないはずです。


「いえ、この町ではギルドよりも【スタラング】に依頼が多く行く状態でして。その【スタラング】に依頼を受け付けてもらえなかったんですよ。」


報酬が少なかったからか、何か理由があったかはわかりませんがね。


「まあ、いいです。それより早く終わらせましょうか。」


さて、この大きさだと…


「やはりこれですかね。」


そういって右腕に出すのは、あらゆる物体に対して絶大な破壊力を持つ兵器。


射突型ブレードです。


動いている物体にはまず当たりませんが、動かない物体は格好の的です。


グレネードやバズーカでもいいんですがね。


音がうるさいので…


「危ないので離れていてくださいね?それと、リリウムもですよ。袋にでも入っていてください。」


「キュー…」


少々不満げながらも、渋々と袋に入ってくれました。


これで大丈夫ですね。


「イーナさん、それは?」


「これは…まあ、ちょっとしたおもちゃですよ。」


「はあ…」


そう言ってラザラスさんは私より後ろに下がりました。


…まあ、大丈夫でしょう。


大岩に近づき、射突型ブレードを構えます。


カツン…


となるべく弱く、ゆっくりと岩に当てます。


その瞬間、先端部の杭が射出され、大岩が数m吹き飛んだかと思うと、鼓膜を震わせるような轟音が轟き、岩が粉々に砕けました。


…やっぱり破壊力が大きすぎますね。


弱めにやったつもりでしたが…


「さて、終わりま…どうしたんですか?」


ラザラスさんが口を開けて呆然としていました。


「え?いや?あれ?大岩は?」


「はい、破壊しましたのでもう大丈夫ですよ。」


あれだけ粉微塵に破壊してあれば、交通の邪魔にもならないでしょう。


「いや、岩を破壊したのは…」


「言ったでしょう?おもちゃですって。さて、リリウム出てきていいですよ。」


そう言うと、リリウムが袋から出てきて頭の上に乗りました。


ふむ、なんだかリリウムが頭に乗っていると、私も落ち着いてきますね。


「それじゃあ、私はこれで…ところで報酬は?」


「え…ええ。これがそうです。」


渡された袋には、報酬の500Sが入っていました。


「はい。確認しました。それでは…」


さて、向こうの方角ですかね…


「ああ、ラザラスさん。町の外は危ないので、はやく戻った方がいいですよ。」


「え?それは…」


返事を聞く前に【霊力突進】で平野を突き進みます。


さてと…




閑話休題(数分後)




【霊力突進】で突き進み数分経ち、森の開けた場所に着きました。


ここなら大丈夫ですかね。


「いるのは分かっているんですから、出てきたらどうですか?」


【レーダー】には、十数の赤い点が表示されています。


私がラザラスさんと町を出た直後から分かってましたよ?


無視していただけです。


「まさか、ばれていたとはな。」


木陰から出てきたのはラザラスさんの父親…リンドン・コルベと、ローブを目深にかぶった人たち数名と、弓を携えた人たちが十人ほど。


「話に聞いていた【スタラング】が直々にお出ましですか…」


「まあ、気づかれていても関係ない。単刀直入に言う【白竜】を渡せ、そうすれば命は助けてやる。」


そうコルベが言うと、魔法隊は杖を構え、弓隊は弓を引きしぼりました。


「話し合いは…無駄ですか。」


「当り前だ。俺たちは竜を殺すためだけに【スタラング】をつくったんだ。そこに丁度いい獲物が現れたんだ。逃がすわけにはいかない。」


「それが、何の罪もない竜の子どもでもですか?」


「そうだ。竜なんて生きているだけで、存在するだけでも罪だ。【人間】が、竜に何度滅ぼされそうになったか。【亜人】や【エルフ】の中には竜と友好的な奴もいるらしいが…所詮化け物同士、同じ穴の貉だ。」


「あなたは【人間】以外がすべて化け物とでも?そんな考えが世の中で通用するとでも思っているんですか?」


【亜人】も【エルフ】も一部の国や町では、差別される傾向にあるが、一部の貴族や王族の中だけです。


「そんなことは露程も思ってはいない。しかし、竜に滅ぼされた村や町や国は無数にある。その生き残りを見つけ出し【スタラング】に勧誘していく。【魔法】を使える者もいるだろう。最終的には国を造る。竜や【亜人】【エルフ】を排除した【人間】だけの国をな。」


そう言ってコルベは高笑いを上げる。


しかし…


「バカバカしいですね。」


「なんだと…」


「国を造る?寝言は寝て言うから許されるんですよ?国を造るというのがどれだけ大変か…大体【コーラル】に【赤竜】がいること自体がおかしいんですよ。」


「…何が言いたい。」


「【赤竜】が本来生息するのは、南の【アプライド】です。それがわざわざ、北の【フィジカ】に近い【コーラル】を襲う?そんなことありえません。」


「何故そんなことがわかる!実際に私たちの町は【赤竜】に襲われたんだ!」


弓を持っていた一人がそう言いますが、無視して話を続けましょう。


「それに、およそ二十年前は【アプライド】と【フィジカ】は戦争寸前の膠着状態でした。あなた、元町長だったんでしょう?」


「…そうだ。」


「まあ、私の想像ですがね。【アプライド】と【フィジカ】は戦争が近かった。しかし、相手国の情勢がわからない。そんなときに送り込むのが間者…いわゆるスパイです。そして【アプライド】が目を付けたのが【コーラル】です。」


「…」


「もともと【フィジカ】と繋がりがあった【コーラル】なら【フィジカ】を調べても怪しまれませんからね。それに町長が加担していればなおさらです。」


『本当か?』


『そんなまさか…』


と魔法隊も弓隊も騒ぎ始めましたね。


「しかし、それも無駄になってしまった。理由は分かりませんが【アプライド】と【フィジカ】が友好条約を結んでしまった。さて、ここで困るのが【コーラル】の町長…あなたです。」


『本当か!?』


「あなたは【アプライド】から報酬を受け取り【フィジカ】の情報を流していた。このままでは、あなたは甘い汁を啜れない。そこであなたはこれをネタに【アプライド】を脅迫した。おそらく自分のやったことを【フィジカ】に明かそうとした。」


どこの世界でも、恐ろしいのは人間の欲ですね。


「それで【アプライド】は考えた。町ごと証拠を消してしまおう、とね。」


『まさか…』


「どうやったかは知りませんが【アプライド】は【赤竜】を送り込んだ。天災の象徴である竜をね。そこで二十年前の事件に繋がります。」


【スタラング】全員が、コルベに目を向けました。


「以上の事は推測にすぎませんがね。どうですか?元町長さん。当たっていますかね?」


「…悪いが二つほど違うな。」


「おや、どこが違うか教えてもらっても?」


「俺は【アプライド】に雇われてなどいないし【アプライド】は【赤竜】を送り込んでなどいない。」


「どういうことでしょうか?」


「簡単なことだ。俺は元々【アプライド】のスパイだ。【フィジカ】との戦争前から【コーラル】に住みつき、町長としての信頼を勝ち取る。簡単なことじゃあなかったさ。あんな何もない町に何十年といたんだからな。」


「それは、自白と受け取っても?」


「ああ、構わないさ。それとあの町を襲った【赤竜】だが―――」


【レーダー】に反応ですか。


速い…


これはまさか…


その瞬間、木をなぎ倒すほどの突風が吹き荒れました。


【スタラング】は魔法隊と弓隊数人を残し、吹き飛ばされてしまったようです。


「―――俺が【赤竜】に襲わせた(・・・・)んだよ。」


突風がやむと、コルベの前におおよそ7mはあるかと思われる【赤竜】が堂々と仁王立ちをしていました。


「【赤竜】!?そんな、何故!?」


【スタラング】の面々が慌てふためいています。


慌てるくらいなら、さっさと逃げればいいのに…


「それじゃあ、お前らには死んでもらう。俺は【白竜】を手土産に【アプライド】に戻るさ。」


「戻るつもりだったんですか?なら、何故【スタラング】を?」


「元々【スタラング】を手土産に【アプライド】に戻るつもりだったんだが、丁度良く【白竜】を連れた奴が来たんだ。その方が価値があるだろう?」


『そんな!?俺たちに語ったあの理想はなんだったんだ!?』


「そんなの嘘に決まってるだろう?国を造る?竜を滅ぼす?【亜人】を【エルフ】を滅ぼすだと?馬鹿を言うのも大概にしろ。お前らみたいなのが何人集まったところで、そんなの無理に決まってる。」


『そんな…』


何か落ち込んでいますが、その考えに賛同した以上、同情するに値しませんね。


「ところで、町を【赤竜】に襲わせたときに、あなたの奥さんも亡くなったはずでしたが…」


「ああ、いい女だったぜ。別に、死んだところでどうとも思わなかったがな。もういいか?」


「ええ、私は構いませんが…あちらの皆さんは何か言いたいみたいですよ?」


少し離れた場所には、魔法隊と弓隊がコルベに杖と弓を向けていました。


「お、俺たちは、あんたの理想を信じて、竜に復讐するためだけに…その為だけにあんたについてきたんだ!あ、あんたが竜に町を襲わせただと!?許せるか!」


魔法隊は初級魔法を、弓隊は弓を、コルベに向けて撃ち出しました。


しかし…


「そんなちっぽけなもんが【赤竜】に通用するとでも思ったか?」


【赤竜】がコルベの盾になり、それらをすべて受け止めました。


【赤竜】に初級魔法、ましてやただの弓が通用するわけがありません。


「ダメか!魔法隊、中級魔法を―――」


その時【赤竜】が(ブレス)を吐きました。


炎が彼らを包み込み、残ったものは何もありません。


「さすが【赤竜】の火の(ブレス)ですね。骨一本残りませんか。リリウムもあんな風になれればいいですね。」


「キュッキュキュー!」


【白竜】が(ブレス)を吐くのかはわかりませんがね。


まあ、楽しみにしていましょうか。


「残ったのは、飛ばされた奴らとお前だけか。いいな【白竜】は殺すなよ。」


「グゥゥグオォォ」


そう言ってコルベは森に消えて行きました。


飛ばされた人たちを探しに行ったんでしょうね。


それよりも目の前にいる【赤竜】ですね。


「ところで【赤竜】さんはどうしてあんな男に従っているんですか?」


「グゥゥグオォォォ!」


嘶き声をあげたかと思うと、火の息が私を包み込みました。


聞く耳持たず、ですか。


竜の(ブレス)は【魔力】を使っているものですから【霊力障壁】で大幅に減衰することができるので無傷です。


【霊力障壁】でも熱は完全には防げないので、少々熱いですね。


まあ、手加減はしてくれたようですけど。


「グ?グウォォ!?」


「さて【赤竜】さん。どうしましょうか?今のが【白竜】を殺さず、私を確実に殺すギリギリだったんでしょうがね。これ以上やると【白竜】共々死んでしまうかもしれない。」


「グウォォォ!」


また火の息を吐く気でしょうかね。


「まあ、話を聞いてください。あの男のやり口から…おそらく脅迫でもされているんですかね?子どもを盾にされて…従うしかなかった、でしょうか。」


「グ…グウゥゥ」


どうやら、そのようですね。


竜を従わせるには、それが一番手っ取り早いですから。


「私はあなたの言葉がわかりませんが…永く生きているんでしょう?擬態とかできませんかね?」


「グウゥゥ…」


【赤竜】が強烈な光に包まれ、徐々に光弱まってきたと思うとそこには…


「すみません!息子が捕まって、助けたければ言うことを聞けと言われて―――」


赤い髪がよく似合う、綺麗な女の人が立っていました。


え?まさか【赤竜】ですか?


「―――二十年前にあの男に息子が捕まって、助けるために、あの男に従ってきました。」


「二十年前ですか?あの事件も…」


「はい、しかし息子は帰ってきませんでした。それどころか更に要求を…」


なるほど、母性の強い竜をうまく使いましたね。


「でも、これが終われば息子を返すといわれて…」


「そうですか。ところで…その子が捕まって今まで会ったことは?」


「いえ、捕まってからは一度も…」


「そうですか…」


まさかとは思いますが…


「だから…あなたを殺して、その子をあの男に渡せば!それなのに…」


私は殺せずに、それどころか傷一つ負わなかった、ですか…


「じゃあ、こういうのはどうでしょうか?」


「え?」


「あなたの願いも叶うと思いますよ?」


その子に会える、という願いは…




閑話休題(数分後)




「おお、終わったようだな。」


どうやら他の人たちは消し終わったのか、コルベが戻ってきました。


「なんだ、あいつは殺さなかったのか。まあ虫の息だろうしな【白竜】さえ生きていればいいさ。」


「グウゥ…」


【赤竜】はリリウムをコルベに渡します。


え?私ですか?


私は地面に倒れています。


細かく言えば、服が所々焦げています。


あの時【赤竜】に出した提案ですが…


『そういうことで、私に火の息を…」


『いいんですか?本当に…』


『ええ、大丈夫です。けど、手加減してくれるとありがたいですね。』


そして【赤竜】は擬態を解除し、私に火の息を…


『グウォォォ!』


ええ、とても熱かったです。


手加減してるとは言え、さすが【赤竜】ですね。


私を倒したように見せかけ、リリウムをあの男に渡し、そして【赤竜】の息子を取り戻し次第、私がリリウムを取り返す。


リリウムも賛成してくれましたよ。


同族のよしみって言うんですかね。


そして今、コルベにリリウムが渡されたんですが…


「ご苦労だったな。それじゃあお前の子どもだが…」


「グウゥゥ!」


そう言って男は持っていた籠を投げつけます。


「そん中に入ってる。後は好きにしな。」


そう言い、森を駆けて行きました。


【レーダー】で追跡はしていますから、どこに行ったかは一目瞭然です。


【赤竜】は擬態して、籠を開けようとしています。


しかし、鳴き声一つ出さないところを見ると、やはり…


「坊や、今開けるからね。」


そして籠を開けると中からは…


「え?坊…や?あ…ああ…ああああああ!」


まだ小さかったんでしょうね。


竜の骨が落ちてきました。


【赤竜】が慟哭しています。


まあ、当然ですか。


「坊や!坊やぁぁぁ!殺す!殺してやる!あの男!」


「まあ、待ってくださいよ【赤竜】さん。」


「うるさい!邪魔をするならお前も―――」


「今のあなたは、他の【人間】も見境なく殺してしまいそうなので。止めさせてもらいますよ。」


両手にレーザーブレードを出し【赤竜】を切り付けます。


人間に擬態していて助かりましたね。


あまりにも大きいと切り付けるのが大変なので…


「あぁぁっ!殺す!殺してやる!」


やはり最強種と呼ばれている竜ですね。


一回や二回切り付けただけじゃ【魔力】は尽きませんか。


まあ、いいです。


【魔力】が尽きるまで切るだけです。


「あああああ!」


【赤竜】が火の息を吐きます。


へぇ、擬態していても火の息を吐けるんですか。


でも、竜の時と比べたら…


「断然弱いですね。」


これくらいならブレードで…


「な!?」 


ブレードで切り、(ブレス)を掻き消します。


【赤竜】が驚いている隙に【霊力急進】で一気に接近し、更にブレードで切り付けます。


「私が…私が死んだら!誰があの男を!」


近づいた所にカウンターを合わせられましたが、それを【霊力急進】で回避します。


【赤竜】の拳が地面に当たりましたが、地響きと共に、小さなクレーターができました。


これは…回避していなかったらと思うとゾッとしますね。


【霊力急進】を繰り返し【赤竜】の背後に回り、ブレードで一刀両断にします。


「あ、あ…ぼ、坊…や…」


【赤竜】気を失い、地面に倒れました。


しかし、さすがは竜ですね。


【エルフ】を圧倒的に引き離す【魔力】と【亜人】を上回る力。


冷静さを欠いていたから良かったものの…


まあ、共感はしますが、同情はしませんが。


今は【赤竜】よりもリリウムですね。


幸い【レーダー】の索敵範囲外には出ていないので【霊力突進】を使えば大丈夫でしょう。


この距離なら、二十秒程で…


【霊力突進】で一気に距離を詰めます。


…見えてきましたね。


コルベがリリウムを抱えて走っています。


「さて、どこまで逃げるつもりですか?」


【霊力突進】を止め、道を遮ると、コルベは何やら驚いた顔をしています。


「てめぇ…【赤竜】にやられたんじゃねえのか?」


「【赤竜】にですか?それはもちろん。かなり熱かったですよ。」


おかげであちこちにやけどがありますよ。


「それで、リリウムを取り返しに来たんですが…」


「リリウム?ああ、この【白竜】か。何を言ってやがる。返すわけないだろう?」


まあ、それはそうですね。


「それじゃ、実力行使ということで…」


「は?―――がぁッ!」


【霊力急進】でコルベの後方まで移動し、片足を軸にしたまま、前方に【霊力急進】を…


そこで発生した遠心力を利用して回転する。


これが【霊力急進】の応用技【霊力急転(クイックターン)】です。


軸足が捻挫しそうになるので、あまりやりたくはありませんが…


今回は勢いを乗せて、回転と同時にコルベの背中を蹴りました。


蹴った時にコルベの手が緩んだのか、リリウムが小さな翼をパタパタさせて私の頭の上に乗りました。


「大丈夫でしたか?リリウム?」


「キュッキュキュー。キュキュ?」


『大丈夫だよ。所でおばさんは?』とでも言っているのでしょうかね?


「そうですか。それならよかったです。それと、あの【赤竜】は大丈夫ですよ。」


目を覚ましたらどうなるか、それは分かりませんがね。


「てめぇ!殺してやるよ!」


そう言ってコルベは杖を取り出しました。


【魔法】を使うつもりですか。


「中級魔法【ソイルクロー】!」


【土属性魔法】の中級魔法【ソイルクロー】ですか。


接近戦用の【魔法】ですね。


自分の腕に土でできた爪を出し、相手を切り付ける。


中々の強度を持ち、まともに当たれば、骨の一本や二本は簡単に持って行かれます。


【基礎魔法】の【身体強化】も併用しているせいか、なかなかの速さです。


しかし…


「な!?【ソイルクロー】が!?」


私の【霊力障壁】に触れた瞬間に【ソイルクロー】が崩壊を始めました。


【魔力】で構成されている【魔法】である以上【霊力障壁】で減衰されます。


まあ【土属性魔法】は、土を【魔力】で繋ぎとめているので、減衰されたのは【魔力】の方ですが…


「近づいておいて呆けているんじゃ、救いようがありませんね。」


近づいてきた所をレーザーブレードで切り付けます。


「てめぇ!【魔力】を!」


「そうですが…なにか問題でも?」


コルベが離れようとしますが、そうはさせません。


ハンドガンを出し、足を撃ち抜きます。


「があぁぁ!足がぁぁ―――がばッ!」


「うるさいです。黙りなさい。」


膝をついたコルベがうるさいので、顎を蹴り抜きます。


歯が折れたようで、口から血を垂れ流しています。


「さて、あなたは動けずに、一方的に蹂躙される立場にいます。」


「あ゛あ゛あ゛あ゛!」


「あなたをどうするか…わかりますかね?」




閑話休題(数分後)




ふう、重たかったです。


【霊力浮遊】を使い、地面を引きずるようにして運んできました。


あまり乱暴にして死んでしまったり、気を失ってしまったら困りますし。


せいぜい恐怖を味わってもらいませんとね。


戻ってきたのは【赤竜】と戦闘になった場所…


【赤竜】が倒れています。


とりあえずコルベをロープで縛り、動けなくしておきます。


「さて【赤竜】さん。起きてください。」


袋から水を出し、倒れている【赤竜】の顔に水をかけます。


「…ゲホ、ゲホッ」


「ああ、起きましたか【赤竜】さ―――」


「あああああ!」


まだ錯乱しているのか、目を覚ましたと同時に、その【亜人】を超える力を持った拳を、私に向けて放ってきました。


【霊力障壁】と拮抗しましたが、それも一瞬のことです。


拳が【霊力障壁】を貫通してきました。


【霊力障壁】で威力が殺されたといえ、それでもかなりの威力、スピードですね。


直撃したらただではすまないでしょう。


しかし…


「―――まったく、危ないですね。」


私はそれを片手で(・・・)受け止めます。


この前はかなりの速度で木に激突しても、打撲程度で済みましたからね。


これくらいなら大丈夫だと思いましたが、さすがに腕が痺れますね。


「さて、落ち着きましたかね?」


「はぁ、はぁ…」


「あなたが錯乱しているのは分かります。とりあえず聞いてください。」


【赤竜】を落ち着かせるために語りかけます。


「現実を受け止めてください。現実から目をそらさないでください。そうしないと、心が壊れてしまいます。」


「う…ああああああ!」


受け止めている拳に力がこめられます。


「現実を見て、自分で自分に決着をつけてください。それでも、あなたの心が壊れてしまいそうだったら…」


コルベを【赤竜】の前に引きずり出します。


「この男を殺せばいい。私は、復讐は正当な権利だと思いますよ。」


「ヴー!ム゛ー!」


コルベには猿轡をしてあるので、声を出しても、まともには喋れません。


「あああああ!よくも坊やをおぉぉぉ!」


【赤竜】はコルベにその拳を放ちました。


このままだと相当にスプラッタな光景が展開されるでしょうね。


私はそれを止める気もなければ、コルベを守るつもりもありません。


しかし【赤竜】に向けて、これだけは言っておきます。


「その男を殺しても、あなたの子どもは戻ってきませんが…」


【赤竜】の拳がコルベの眼前で急停止しました。


「何を戸惑っているんです?当たり前でしょう。死んだ命は二度と戻ってきたりはしませんよ?」


コルベは泡を吹いて気絶しましたね。


【赤竜】は悲痛に歪んだ顔をしています


「なら!私は!私は…どうすればいいんですか…」


【赤竜】が泣きながら崩れ落ちます。


しかし、私はそれに答えることはできません。


「自分で決めてください。自分で判断してください。あなたの心は、まだ壊れてはいませんから。」


「キュ!」


その時、リリウムが私の頭から飛び降り【赤竜】の前に着地しました。


「キュッキュキュ!キュッキュッキュー!」


「リリウムちゃん?そう…ありがとう。でも…」


「キュ…キュキュッ!キュー!」


「リリウムちゃん…本当に?本当にいいの?」


「キュー!」


「ありがとう…本当に…」


【赤竜】が涙を流しながらリリウムを抱きしめます。


リリウムと【赤竜】の間でどんな言葉が交わされたのか、私にはわかりません。


しかし、何となくですが【赤竜】が救われたような気がしました。


さて、この男は…


その辺りにでも埋めておきましょうか?

はい、どうだったでしょうか?


【赤竜】がリリウムと何を話したかって?


…内緒ですよ。


竜同士ではデフォルトで会話をすることができます。


ご都合主義なんてなんのその。


感想、意見、その他諸々、お待ちしております。

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