第五十六話
オレはグレアとともに地下訓練場へときていた。
これはグレアの訓練だ。
グレアのことを見る人間はやはり、
「獣人族だ……」
「獣人じゃねえか……」
「怖い。獣人族怖い」
というふうな反応だった。
たしかに獣人族の魔法は異常な威力である。
とはいえ、見た目がこんなに可愛いのに、何もそんな反応をすることはないんじゃないだろうか。
確かにグレアの魔法は頭がおかしいレベルで高いけれど、何もそんなふうな反応をすることはないじゃないか。
グレアかわいいじゃん。
その魔法は頭おかしい威力だけど、グレアかわいいじゃん、
けもみみだって生えているし、けもしっぽだって生えているんだぞ。
このグレアの可愛さをほかの人にも伝えてあげたいけれど、それはなかなか伝わらないようだ。
異世界人と異世界召喚者では考え方が違うのだろうか。
グレアもまた、人間に嫌われていることがわかっているのか、村の人たちに怖がられているのがショックなのか、うつむき加減だった。
距離があった。
地下訓練場にいるのはトール。
トールは言った。
「おう。お前らまた訓練か。本当に好きだねえお前ら訓練が。グレアちゃんもおはよう」
というトール。
グレアは物珍しい人を見るように、トールのことを見上げていた。
トールもまたグレアを見て普通の対応をしている。
普通にグレアに笑顔を浮かべている。
グレアもまた、普通の対応をしてくれる人間は珍しかったらしい。
トールのことを見上げて、自分のことを怖がっていない、なんだこの人は? ということを確認していた。
まあそうだろう。
グレアは魔法さえ使わなければ、ただの可愛い女の子なのだからな。
普通に可愛い獣人だからな。
魔法を使うと、頭がおかしい獣人族になるだけだ。
「で、今日はどんな訓練をするんだ?」
「目標に向かって、魔法を使う訓練をするかな。まあやるのはグレアだけど」
「本当にサトウは訓練をするのが好きだな。そんなに強くなってどうする気だよ」
というトール。
まあ最強になるまで訓練をするつもりだ。
最強になるまでレベルを上げるつもりだ。
そしてこれはグレアが怪我をせずにクエストに行くためのレベル上げでもあった。
やりすぎかもしれないが、グレアを怪我させないためにも、こんなに可愛い獣人族にけがをさせないためにも、万全を尽くしたほうがいいだろう。
グレアはそもそも壁を破壊するだけでレベルが上がるのだし、山を吹き飛ばすだけでレベルが上がるのだし、グレアのレベル上げは決して難しくはない。
レベルを上げるためにはモンスターを倒せばいいと思っていたけれど、そうすればレベルが上がると思っていたけれど、その考えはどうやら古かったようだ。
今は障害物を倒すだけで、壁を破壊するだけで、大地を攻撃するだけでいいらしい。
ゲームでもそういうのあったかもしれない。
障害物を倒して経験値が手に入るのが。
「じゃあ目標を設置するな。グレアちゃん、この目標を狙って、魔法を使ってくれよ。オレはあぶねえからできるだけ遠くから見てるから、何かあったら呼んでくれよ」
といって、トールは遠くへと移動する。
遠くへと避難する。
トールよ、ちょっと遠くに行きすぎじゃないか。
離れすぎだろ。
お前どんだけグレアのことを危険だと思っているんだよ。
たしかにグレアは危険なやつだけどさ。
なんつうか、まあ気持ちはわかるけど、できるだけ魔法の被害にあわない場所まで移動しているトール。
何もそんなに遠くまで行かなくてもいいじゃないか。
とオレは思いながら、トールを見ていた。
「サトウさん、魔法を使ってもいいですか? 魔法を目標に向かって、魔法をぶっ放してもいいですか?」
というグレア。
「お、おう。まああんまり派手にやりすぎるなよ。みんながびっくりするからなっ。みんなが遠くからグレアのことをびびった目で見ているからな」
「はい」
グレアはそういって、目標をもらって、魔法を詠唱し始める。
かと思ったら、詠唱なしで魔法を使いやがった。
こいつ、無詠唱でも魔法を使えるのか。
っていうか、詠唱なしで魔法って使えるんだなっ。
「ファイアーボール」
目標の的が燃えてなくなった。
そしてファイアーボールは目標の的を燃やし尽くしたあと、勢いがそれだけではとどまらず、後ろにある壁まで向かっていき壁を燃やし尽くす。
壁を破壊する。
壁には黒い燃えたあとがつき、その壁には破壊された穴が開いている。
「すげえな」
「また破壊しているぞ」
「獣人族ってまじでやばい」
「でもサトウさんと一緒にいるってことは、紅蓮の炎のメンバーってことなのかな。紅蓮の炎のメンバーってことなら、怖がらないほうがいいのでは?」
と、いう冒険者。
冒険者はそんなことを遠くからはなしている。
そしてトールが用意してくれた目標の的がまた出てくる。
「ウォーターボール」
水の玉が目標の的へと命中する。
水びたしになるだけかと思いきや、その水はものすごい勢いで的にあたったあと、的を破壊し、そして後ろにある壁まで破壊し、そこには水で穴をあけたような穴が、また開いていた。
「すごいな。なんというか、また破壊してしまったのか……」
とりあえず魔法を使えば、何かを破壊するのだな。
獣人族というのは魔法を使えば、何かを壊すんだな。
そんなふうに思った。
「アースクエイク」
トールが用意してくれていた目標の的に、アースクエイクが向かっていく。
アースクエイクは目標の的をぶっ壊すと、そのまま壁までは向かっていくことはなかった。
そのまま的を破壊し、その後ろにある壁まで土が伸びていって、後ろにある壁を破壊していた。
またやってしまいましたか。
「ふう。まあ今日はこの辺にしておきましょうか。あまり壊しすぎるのも考え物ですからね」
とため息を吐いていうグレア。
まあ今日はこのくらいにしておいてやる、とかいうグレア。
とはいえ、ファイアーボール、ウォーターボールでさんざん地下訓練場の壁は壊れてはいるのだが。
かなりぶっ壊れているんだが。
冒険者たちがまじかよあいつ、みたいな顔をして、獣人族またものを破壊しているよという顔をして、こっちを見ているんだが。
まあなんつうか、獣人族というのは、魔法の威力が強すぎて、魔法の威力が異常に高すぎて、怖がられているんだな。
まあオレはグレアがどんなに強くても、どんな化け物になったとしても、別に怖がったりはしないが。
しないつもりだが。
「グレア、お前は相変わらずすごいな。相変わらずやばいな」
「そんなことないです。わたしよりも、サトウさんのほうがずっともっとすごいです。だってわたし、どんなに頑張っても、どんなに本気を出しても、腕立て五回もできないしっ」
「いや、お前のほうがすごいだろ。オレは光魔法しか使えないし、光魔法を使ってグレアのフィギュアを作ることくらいしかできない」
「サトウさんって獣人族が大好きだよね。わたしのフィギュア? みたいなものがなぜか宿屋の部屋にいっぱいあるもんね。サトウさんって獣人族のことが好きなの?」
というグレア。
オレは獣人族が大好きだ。
そのけもみみが大好きだ。
そのけもしっぽが大好きだ。
だからどんなに獣人族が嫌われていても、オレは獣人族のことを嫌いになんてならない。
むしろ人気者にしたいくらいだ。
だがまああんまり人気者になりすぎて、オレのところからいなくなっても悲しいのだがな。




