第三十六話
冒険者ギルドの地下の訓練場にはいつものようにトールがいた。
オレは今日はトールに用があったのだ。
その用とは光魔法の使い方である。
光魔法の使い方を聞いても、誰もその光魔法の使い方がわからないといったので、地下訓練場で先生をやっているトールなら、魔法の使い方がわかるかも、光魔法の使い方がわかるかもと思って今日はここに来たのだ。
「トール」
「おう。サトウじゃねえか。で、今日はなんの用だ?」
「今日は魔法を教えてもらおうと思ってきたんだ」
「は? 魔法?」
その言葉を聞くと、トールは困った顔をする。
どうしたのだろうか。
トールはまさか光魔法が使えないのだろうか?
魔法が使えないのだろうか?
魔法も使えないのに、Cランクの冒険者なのだろうか。
Cランクの冒険者なのだから、剣も魔法も使えて、当たり前だと思うのだけれど。
当然のことだと思うのだけれど。
「ああ。魔法かよ」
トールは困ったように頭をかいた。
まさか光魔法を使えないのか。
魔法を使えないのか。
そうだとしたら、一体誰に光魔法の使い方を教わればいいのだろうか。
オレにできる光魔法なんて、空中に光の玉をぷかぷかと浮かばせるくらいのことだ。
そのぷかぷかと浮いた光の玉をぴかぴかと光らせることくらいのことだ。
発光させるくらいのものだ。
この光の玉、ちょっとおかしんだぜ。
なぜか光るんだ。
光魔法だからか知らないけど、なんだか光るんだ。
オレが知っている光魔法って、勇者が使える光魔法のはずなんだけど。
これは光るだけなんだよ。
おかしくね?
この光魔法、宿屋の壁を壊すだとか、目標物を壊すだとか、モンスターを一撃で倒すだとか、そういったものではない。
ぴかぴかと光、相手の攻撃を邪魔するだけのものである。
やはりオレは無能なのだろうか。
魔法を覚えても、光魔法すら使いこなせずに、ぷかぷかとぴかぴかとそれを浮かびあがらせ、そして光らせることしかできないのだから。
「ああ。困ったな。オレに魔法が使えたらよかったんだが……あいにくオレが教えられるものは剣術と槍術と斧術と武術くらいのものだ」
十分教えられるらしい。
自慢だろうか。
いろいろできるという自慢だろうか。
トールは言った。
「魔法は使えん。光魔法なんて普通の人間が使えんような魔法、オレに使えるわけがねえじゃねえか」
「ええ!? トール、Cランクの冒険者なのに魔法が使えないの!? それっておかしくない?」
というオレ。
「当たり前だろ。オレを一体なんだと思ってるんだよ。Cランクの魔法使いなら魔法を使えるかもしれないが、オレは使えねえよ。そもそも魔法使いじゃねえし」
トールはCランクの冒険者である。
つまり、Eランクの冒険者であるこのオレよりも、優れた冒険者のはずだ。
トールはあきれた顔をして、言った。
「あのなあ、サトウ、普通の冒険者ってのはな、普通はBランクのモンスターなんて倒せないし、大ガエルなんて倒せないの」
「はあ……」
そういうものなのだろうか。
オレは無能な人間なのだが。
無能なはずなのだが。
城から追放されたわけだが。
トールは言った。
「ましてや紅蓮の炎なんていう、上級のパーティーに誘われるやつが無能なわけないの。お前がどうして自分のことを大したことがない人間だと思っているのかわからないが、理由は聞かないが、サトウは普通の冒険者よりもずっと優れてんの。オレが最初にお前に出会ったときにいっただろうが。お前はすごい冒険者になるかもしれねえって」
まあそういってたけどさ。
オレ、異世界召喚されたけど、城から追放されたんだぜ?
「だからオレはその辺にいる普通の冒険者だけど、お前は違う。英雄にまでなれる可能性のある冒険者なんだ。だからな、サトウ、もうオレにはお前に教えられることは何もない。サトウ、お前はこれからはもっと強い冒険者になるために、剣術や、魔術を自分自身の手で高めていくしかないんだ。ほかのもっと優れた魔術師や、剣術士にそのことを聞くしかないんだ。オレにはもうお前に教えてやれることはなにもないんだ」
というトール。
「ええー」
そんなの困る。
A級の冒険者の教えってのは、ずどーん。
ぼかーん。
どっかーん。
こういうふうにやればいいのよ。
さあ、やってみなさい。
みたいな教え方なので、トールのような普通の教え方ができる冒険者はいないのだ。
貴重な存在なのだ。
トールは指導者の才能がある。
そして、B級の冒険者であるエレン、アレク、サックは戦闘の才能があるということだろう。
でもA級の冒険者であるエルマは戦闘の才能はあるけれど、指導者としての素質があるかというと、微妙である。
ないんじゃないだろうか。
「そんなことよりもさ、」
と、トールは言い出した。
「ん?」
「オレはお前に言いたいことがあるんだよ。冒険もいいけどさ、クエストもいいけどさ、それだけじゃないだろ? 人生ってのは」
「あ?」
そうだろうか?
人生というのはクエストがすべてじゃないだろうか。
冒険だけがすべてじゃないだろうか。
デイリークエストがすべてじゃないだろうか。
「あー、やっぱり何もわかっていなかったか」
というトール。
「お前な、自分が最近女に人気あるの、わかってるか?」
「は? んなわけねーだろ」
オレが女に人気がある?
そんなわけはない。
オレはミリカさんとか、ユイカとか、エルマとかと仲良くやっていることを思い出す。
でも別にそれは普通に仲良くやっているだけだ。
人気があるかというと、別に人気などないだろう。
おっさんだし。
ただまーユイカの評価は上がってきたような気もするけれど。
ミリカさんの評価も上がってきたような気もするけれど。
エルマはどうなんだろうか。
よくわからん。
と思っていると、トールが言った。
「サトウ、お前最近、期待のルーキーって呼ばれているの知ってるか?」
期待のルーキー。
この年になって、このおっさんの年にもなって、ルーキーと呼ばれているのはどうなのだろうと思うのだけれど、それでもオレはこの異世界ではルーキーと、期待の新人と呼ばれているのだった。
だが期待のルーキーと呼ばれれば、女の子の評価は上がるのだろうか。
上がるのかもしれない。
っていってもなあ、女の子にもてるって言われても、何をすればいいんだ?
ゲームとかだと、デートに誘うとか、そんな感じだけど。
こんなおっさんにデートに誘われて、嬉しいのだろうか?
ミリカさんをデートを誘ってどこかに出かけるというのはありなんだろうか?
ユイカをデートを誘って、どこかに出かけるというのはありなんだろうか?
エルマをデートに誘って、どこかに出かけるというのはありなんだろうか?
トールと一緒にどこかに出かけるというのはありなんだろうか?
紅蓮の炎の男メンバーを誘って、どこかに出かけるというのはありなんだろうか?
ゲームとかだと、女キャラだけじゃなくて、男キャラとどこかに出かけて友好を深めるということもあるしな。
絆を深めるために、男キャラとも一緒に出かけて何かをするとかあるしな。
でもなあ。
オレは魔法の修行があるしなあ。
女と遊ぶって言うのも、男と遊ぶってのも、やっていいのだろうか。
遊んでいていいのだろうか。
そういうのは、もっとすごい冒険者になってからでいいんじゃないだろうかとか。
もっとお金を稼げるようになってからでいいんじゃないだろうかとか、そんなことを考えてしまうのだけれど。
と、トールは言った。
「サトウ、お前、せっかく女にもてはじめているんだからさ、お前、女との絆を深めておいたほうがいいぞ。紅蓮の炎に加入したお前なら、サトウなら、女の一人や二人、三人や四人と、絆をふかめ放題だろ」
というトール。
絆をふかめる、か。
なんだかゲームみたいだな。
まあそういったゲームがあるのは知ってはいるのだが。
女と絆を深めて、全員を彼女にする、なんていうゲームがあったはずだ。
ハーレムを作るとかあったはずだ。
クリスマスに全員とデートの約束をして、そしてデート当日に全員にどういうことなの? と問い詰められるとかあったはずだ。
男と絆を深めて友情を深める、なんていうゲームもあったはずだ。
つまり仲間との絆を深めるのは、強くなるためには必要なことなのだろうか。
必要なことなのだろう。
トールは言った。
「サトウさ、お前がこれからやることは仲間との絆を深めることだとオレは思うんだよ。それで魔法を覚えたり、新たなるスキルを獲得したり、そういったことだって起こりえることだとオレは思うぞ」
と言ってくるトール。
まじかよ。
でもなあ、仲間とどこかに出かけるって言われてもだなあ。
オレ、おっさんなんだけど。
ユイカだとか、ミリカさんだとか。
エルマだとか、あんな美少女たちとどこかに出かけるのか?
年齢だって一回り違うぞ。
そんな若い人たちと出かけるなんて、恋仲になるなんて、絆を深めあうだなんて、そんなことができるだろうか。
犯罪じゃないんだろうか。
トールは言った。
「サトウ、お前は苦手な光魔法なんて練習してる場合じゃねえよ。仲間との絆を深めて、新たなるスキルを覚えることのほうが大事だろ」
というトール。
トールは言った。
「せっかくサトウはEランクの冒険者になれたんだ。期待のルーキーになれたんだ。だからここはその勢いに任せて、宿屋の娘との絆を、冒険者ギルドの人気受付嬢ミリカとの絆を、回復術師との絆を深めてもいいんじゃねえか? お前なら、やれる。お前ならできる」
というトール。
トールはもうオレ以上にその気になっていて、オレの肩をどんどんどんと叩いている。
いや、オレさ、地下訓練場には光魔法を覚えるために来たんだけど。
仲間との絆の深め方を聞きに来たわけじゃないんだけど。
オレはそんなことを思いながら、ユイカのことを考えた。
ユイカは明るくてとても元気な女の子だ。
そして冒険者ギルドの人気受付嬢ミリカさんのことを考えた。
ミリカさんは冒険者に、男女問わず冒険者に人気のある女性だ。
あんな人気のある人達と絆を深めあうことなんてできるのだろうか?
ゲームならできるんだけどな……。
ゲームのようにうまくいくのだろうか、そんなことを思いながら、オレは彼女たちのことを思った。




