私、エルフですよ?なのに護衛の傭兵が全然なびきません
私は、自分が美しいことを知っている。
自惚れではない。
……たぶん。
少なくとも、人間の街を歩いていて誰にも見向きもされない、なんてことは一度もなかった。
理由は分かっている。私がエルフだからだ。
長く伸ばした銀色の髪。
エルフ特有の尖った耳。
新緑を溶かしたような瞳。
人間よりも少しだけ長い手足に、細い腰。
エルフの中では特別目立つ容姿というわけではない。私たちの種族は、そもそも人間から見れば美しいらしいから。
けれど、私はその中でもかなり評判が良かった。エルフの割には胸が大きいかららしい。弓を射るのにも走るのにも邪魔なだけなのに人間の美的センスはよく分からない。
少なくとも、これまで私に言い寄ってきた男の数を考えれば、自分の容姿に自信を持つくらいは許されると思う。
「リュシア様、どうか私を護衛に!」
「いや、私のほうが腕は立ちます!」
「いやいや、俺のほうが!」
「私なら命に代えてもお守りします!」
「ピンヒールで踏んでください。はぁはぁ」
……そんな調子だった。
エルフの私が人間の国を旅すると知れば、男たちは勝手に集まってきた。
冒険者。
騎士。
商人の息子。
時には貴族まで。
最初は少し嬉しかった。
私を見て顔を赤くする人。
髪を褒めてくれる人。
瞳が美しいと言ってくれる人。
中には詩まで贈ってくる人もいた。
けれど、さすがに何度も続くと面倒になってくる。
だから今回、長旅の護衛を一人だけ雇うことにした。複数人雇う方が安全だろうがあまりに言い寄られると鬱陶しい。せめて一人ぐらいなら躱せるだろうという思いで依頼することにした。
条件は簡単。
腕が立つこと。
口説いてこないこと。
そして、私の邪魔をしないこと。
その条件で紹介されたのが――。
「俺が今回の護衛をすることになった」
目の前にいる男だった。
名前はガルド。
年齢は三十歳前後。
茶色の髪に、少し伸びた無精髭。
服装は地味な革鎧。
腰には長剣を一本。
背中には荷物。
顔立ちは……悪くない。
ものすごく良いわけでもないが、かといって醜いわけでもない。
人間の男としては、まあ普通。
第一印象はそんなものだった。
「えぇ、よろしく頼むわね」
私は丁寧に頭を下げた。
相手の反応を見るためでもある。少し襟口が大きめの服を着ながらやるのがポイントだ。
これまでの経験から言えば、ここで大抵の男は少し慌てる。
エルフである私に頭を下げられた。
それだけで顔を赤くする人もいた。
中にはあからさまに胸部から視線を動かさない人もいる。
けれど。
「……ああ」
ガルドはそれだけだった。
「?」
私は顔を上げる。
すでに彼の視線は私ではなく、私の荷物を見ていた。
「その荷物、自分で持てるか?」
「ええ」
「ならいい。重かったら言ってくれ」
それだけ。
終わり。
「……」
「……」
沈黙。
私は少し待った。
何か言ってくると思ったからだ。
例えば、
『エルフの方と旅ができるとは光栄です』
とか。
『とても美しいですね』
とか。
『その銀髪は珍しい』
とか。
何でもいい。
ところが。
「出発は明日の早朝でいいか?」
「……え?」
「早いほうがいい。森を抜けるまで三日はかかる。途中に盗賊が出るって話もあるからなるべく駆け足で行きたい」
「ええ……」
「なら明日の朝、日の出と一緒に出る」
「……は、はーい」
「今日は早く休め」
「……わかったわ」
「では明日の日の出、門のところ集合だ」
終わった。
本当にそれだけだった。
私は自分でも不思議なくらい、ぽかんとしていた。
「……ねえ」
「なんだ?」
「あなた」
「ああ」
「私、エルフよ?」
「見れば分かるが?」
「……」
知っている。
それは分かっている。
耳が尖っているのだから、さすがに分かるだろう。
「珍しくない?」
「何が?」
「エルフが人間の街で旅をするのよ?」
「確かに珍しいな」
「そうでしょう?」
「ああ」
「……」
「……?」
ガルドが首を傾げる。
その様を見て私は思わず拳を握った。
何なの、この男。
もう少し何かないの?
「あなた、私を見て何も思わないの?」
「何かって?」
「……えっと、その……」
私は髪を指で摘まんだ。
銀色の髪が、陽の光を受けてきらきらと輝く。
「綺麗だとか」
「ああ、綺麗だな」
「!」
来た!
私は思わず目を輝かせた。
やっぱり分かるじゃない!
「でしょう?」
「ああ」
「……」
「……?」
「え?それだけ?」
「他に何かあるのか?」
私は絶句した。
あるでしょう。あるでしょうよ!
普通はそこから続くでしょう!
髪が綺麗だ。
瞳も綺麗だ。
美しい。
可愛い。
もっと見ていたい。
少なくとも今までの男たちは、そこから先を噴水のようにいくらでも言ってくれた。
なのに。
「……あなた、根っからの傭兵ね」
「ありがとう」
「褒めてないわよ」
「そうか」
ガルドは気にした様子もなく、荷物を確認し始めた。
私はその横顔をじっと見つめる。
……本当にエルフに、いや、私に興味がない。
どうして?
私は自分の顔を撫でる。
鼻がおかしい?
目?
髪?
服装?
もしかして今日はお肌の調子が悪い?
……いや、そんなはずはない。
朝、鏡を見たときはいつも通りだった。
「ねえねえ」
「なんだ?」
「私、何歳に見える?」
「エルフの年齢なんぞ分かるわけがないだろう」
「そうじゃなくて、当てずっぽうでも言ってみなさいよ!ほら、当たったら何かご褒美があるかもよー?……ってそんなんじゃあんたは動かないか。よし、もし当てたらボーナス出すわ!」
「よし、乗った」
「何歳に見える?」
「……三十歳くらいか?」
「実際は百三十二歳よ」
「……そうか」
「驚かないの?」
「まあエルフだし」
「……」
なんなのよ、この男!
私はこれまで、自分が美しいということを隠したことはない。
むしろ利用してきたまである。
人間の街では、私が笑えば店員がサービスしてくれることもあった。
困った顔をすれば、男たちが勝手に助けてくれた。
それを悪いことだとは思っていない。
美貌だって才能の一つだ。
使えるものは使う。
それが私の考えだった。
なのに……この男には、まったく通じない。
「……ねえ」
「今度は何だ?」
「あなた、女の人に興味ないの?」
「ある」
「!」
私は勢いよく振り向いた。
「あるの!?」
「ああ」
「じゃあ、好きなタイプは?」
「強い奴」
「……」
思っていた答えと違った。
「強い女性?」
「ああ」
「……私、魔法なら結構強いわよ」
「そうなのか?」
「そうよ」
「なら頼もしいな。危なくなったら頼む」
「……」
違う。
違う。
そうじゃ……そうじゃない。
私はもっとこう……。
「私が強いから好き、とか?」
「まだ会ったばかりだろ。何を言ってるんだ?」
「……それはそうなんだけど」
「そもそも、俺は護衛だ。雇い主に手を出す気はない」
「雇い主?」
「依頼人、と言えば分かるか?」
「わ、分かってるわよ!」
思わず声を荒らげる。
ガルドは少し驚いたように私を見る。
「怒ったのか?」
「怒ってない!」
「そうか」
「……」
私は顔を背けた。
何だか調子が狂う。
この男と話していると、私のほうが変な人間になったような気がする。
翌朝。
私たちは予定通り街を出た。
街道を歩く。
私は馬車を使うことを提案したのだけれど、ガルドは首を横に振った。
「馬車は狙われやすい。車輪や馬を狙われたらお終いだ」
「でも疲れるわ」
「早く死にたければ馬車に乗れば良い。オレは歩く」
「……傭兵ってみんなこんなに容赦ないの?」
「それに関しては俺が特別かもしれないな」
そんなことを言いながら、ガルドは私の少し前を歩いている。
一定の距離。
私が遅れれば速度を落とす。
私が疲れていれば休憩を提案する。
喉が渇けば水を渡し、夜になれば安全な場所を探して火を起こす。
食事も作るし片付けも手早く無駄がない。
完璧だった。
完璧すぎる。あとご飯美味しい。
だから余計に腹が立つ。
「……ねえ」
「なんだ?」
「私のこと、もっと見てもいいのよ?」
「何で?」
「護衛なんだから」
「護衛だからこそ、周囲を見てるんだが?」
「そ、そうじゃなくて!」
私は髪を払った。
「ほら」
「?」
「髪」
「何かついてるのか?」
「違うわよ!」
「じゃあ何だ?」
「……もういい」
私は頬を膨らませたまま歩く。
しばらくして。
「……エルフ」
「何?」
「怒ってるのか?」
「怒ってない」
「そうか、ならいい」
「……」
「……」
「あなたって、本当に根っからの傭兵ね」
「ああ、ありがとう」
「褒めてないわよ!ってかそれ、喜ぶところじゃないから」
私はため息をついた。
けれど不思議だった。
これまでの男たちなら、私が少し不機嫌そうにすればすぐに機嫌を取ろうとしてきた。
花を摘んできてくれたり。
甘いものをくれたり。
綺麗だと何度も言ってくれたり。
それが当たり前だった。
なのに、この男は何もしない。
ただ、必要なときだけ手を差し伸べる。
「危ない」
突然、腕を掴まれた。
「え?」
次の瞬間。
私の目の前を矢が通り過ぎた。
「――っ!」
茂みの奥から男たちが飛び出してくる。
盗賊。
十人ほど。
「エルフ、下がれ」
「分かってるわ!」
ガルドが剣を抜く。
その顔から、さっきまでの気の抜けた表情が消えた。
一歩。
また一歩。
盗賊たちへ向かって歩いていく。
「おい、兄ちゃん」
盗賊の一人が笑う。
「金目のもんと女を置いていけば、命だけは助けてやるぞ」
「断る」
「何?」
「この女を守るのが仕事だ」
「へえ。じゃあ死ね!」
男が斬りかかる。
ガルドは避けた。
剣が閃く。
一撃。
盗賊の剣が腕ごと宙に舞った。
「な――」
二撃目。
男が地面に倒れる。
次の男。
さらに次。
まるで何でもないことのように、ガルドは盗賊たちを倒していく。
私は思わず息を呑んだ。
強い。
ただ強いだけではない。
無駄がない。
必要な動きしかしていない。血の一滴も浴びていない姿はまるで散歩でもするかのように盗賊達を切り伏せた。
最後の一人が逃げようとした。
……が、ガルドは追わなかった。
「……逃がしちゃうの?」
「依頼には盗賊の討伐まで入ってない」
「……」
私は思わず笑った。
「確かに、タダ働きになっちゃうわ。本当に根っからの傭兵なのね」
「最初からそう言ってるだろ」
「そうね」
ガルドは剣についた血を拭った。
「怪我は?」
「ないわ」
「そうか」
「……」
「どうした?」
「なんでもないわ」
私は胸に手を当てた。
心臓が、少しだけ速い。
怖かったから。
……たぶん。
きっとそう。
ガルドに心配されたのが嬉しかったとかそんなんじゃない。
私はそう自分に言い聞かせた。
けれど、その夜。
焚き火の向こうで座りながら眠るガルドを見ながら、私は何度も考えていた。
どうして、この人は私に興味がないのだろう。
どうして、私はこの人のことがこんなに気になるのだろう。
「……おかしいわ」
小さく呟く。
私は今まで、追いかけられる側だった。
誰かを振り向かせたいなんて、思ったこともない。
なのに。
「……もっと私に興味持ちなさいよね」
眠っているガルドに向かって、私は頬を膨らませた。
「本当に……少しくらい、私のこと見てくれてもいいじゃない」
返事はない。
私はますます腹が立った。
「ちょっと!交代よ!起きなさい!あーあ、歩きすぎて疲れちゃったわ。私、朝まで起きないからよろしくね!」
でもなぜか、その夜はなかなか眠れなかった。
翌朝。
私は目を覚ますと、まず自分の髪を整えた。
寝癖なんて、絶対に許さない。
別に、ガルドに見られるとかではない。絶対に違う。
エルフとしての身だしなみだ。
……そう。
身だしなみ。
決して、昨日からずっと気になっている鈍感傭兵に見られるためなんかではない。
「おはよう」
焚き火の向こうから声がした。
「おはよう」
顔を上げる。
ガルドが朝食を作っていた。
「サンドイッチだ。食べるか?」
「……食べる」
「はい」
木の皿にサンドイッチが置かれる。
私はそれを受け取った。
「ありがとう」
「ああ」
それだけ。
私はパンを一口齧った。
サクッ。
……美味しい。
ハムの塩みと少し焼いたパンの香ばしさが相まって……悔しいけれど、美味しい。
「あなた、相変わらず美味しいわね」
「傭兵だからな」
「傭兵って何でもするの?」
「いつ死ぬか分からないからな。『このサンドイッチが最後の食事かもしれない』そう思うと一回一回の食べ物は美味しい方が良い」
「ふーん」
私はパンを食べながら、ちらちらとガルドを見る。
昨日のことが頭から離れない。
盗賊に襲われたとき、気配察知に自信があった私がまさか矢に当たりそうになるなんて……。
それだけ集中力を欠いてしまうくらいガルドに意識を持っていってしまっていた。
そんな私を咄嗟に助けてくれたこと。
そして、あっという間に盗賊を倒したこと。
あの時の彼は、普段とはまるで違った。
鋭い目。
無駄のない動き。
私を守るためなら迷わない。
それなのに、戦いが終わればいつもの無愛想な鈍感傭兵に戻ってしまった。
「ねえ」
「なんだ?」
「昨日、私を助けてくれたでしょう?」
「ああ」
「どうして?」
「護衛だから」
「……」
やっぱり。
「怪我してほしくなかった」
とかは言ってくれない。
「じゃあ、仕事じゃなかったら?」
「庇わない」
「即答なのね」
「当たり前だろ」
「……」
私は頬杖をついた。
「鈍感傭兵」
「なんだそれは?」
「あんたは知らなくて良いのよ」
「俺が何かしたか?」
「何もしてないわよ」
「そうか」
ガルドはまったく気にしていない。
私はため息をついた。
この男と話していると疲れる。
なのに、もっと話したくなる。
自分でもよく分からなかった。
旅は続いた。
街道を抜け、森へ入る。
昼頃。
ガルドが突然立ち止まった。
「止まれ」
「どうしたの?」
「魔物がいる」
私は周囲を見渡した。
何も見えない。
「どこ?」
「あっちだ」
「分かるの?」
「ああ」
「どうして?」
「臭いがする」
クンクンクン。
まったく分からない。
「臭いなんてしないわよ?」
「生まれつき魔気独特の臭いが分かるんだ。傭兵になってからこれにはだいぶ助けられた」
ガルドは剣に手を添えた。
「この先に三匹。右側の茂みに二匹。たぶんウルフ系だ」
「……」
私は耳を澄ませた。
微かな音。
枝が折れる音。
確かにいる。
「……あなた、結構すごいのね。エルフの私ですら言われてやっと分かるレベルよ?」
「傭兵だからな」
「それ関係ないわよね」
その時、魔物が飛び出した。
ガルドが前へ出る。
私は魔法を使った。
「――風よ」
風刃が魔物を切り裂く。
一匹。
二匹。
残った魔物をガルドが倒した。
「今の魔法、良かったな。詠唱から発動までほとんどロスが無い」
「……え?」
私は固まった。
「何だ?」
「今……褒めた?」
「ああ」
「私の魔法を?」
「そうだ」
「……」
胸が少しだけ熱くなる。
今まで、容姿を褒められることは何度もあった。
でも。
私の魔法をちゃんと見て、褒めてくれた人は意外と少なかった。
「……ありがとう」
「ああ」
ガルドはそれだけ言って歩き始める。
私はその背中を追いかけた。
「ねえ」
「なんだ?」
「もう一回言って」
「何を?」
「さっきの」
「……魔法?」
「そう」
「良かった」
「……聞こえない。もう一回」
「良かったぞ」
「……ふふ」
私は笑った。
なんだ。
ちゃんと褒めてくれるじゃない。
ただ、私が欲しかった言葉が少し違っただけ。
そう思った。
その日の夕方。
私たちは小さな村に到着した。
宿を取り、食事をする。
そして、いつものようにガルドは私の周囲を確認する。
「今日はもう休め」
「あなたは?」
「少し外を見てくる」
「一人で?」
「ああ」
「私も行く」
「駄目だ」
「どうして?」
「宿のほうが安全だ」
「私も魔法使いよ」
「知ってる」
「なら――」
「それでも駄目だ」
ガルドは即答した。
「お前は護衛対象だ」
「……」
また、それ。
私はむっとする。
「あなた、本当にそればっかりね」
「仕事だからな」
「仕事、仕事、仕事……」
私は腕を組んだ。
「あなた、仕事が終わったら私のことなんて忘れるでしょう?」
「……」
ガルドが黙った。
私は少しだけ期待した。
けれど。
「たぶんな」
「……」
胸が痛かった。
……分かってる。分かってはいたが思ったよりもずっと胸が痛んだ。
「そう」
私は笑った。
「じゃあ、早く忘れてもらわないとね」
「?」
「なんでもない」
私は部屋へ戻った。
扉を閉める。
ベッドに腰掛ける。
「……何よ」
自分でも驚くほど、胸が苦しかった。
たかが護衛。
たかが傭兵。
それなのに……どうして。
「……私、馬鹿みたい」
その夜。
村の外で大きな音がした。
私は飛び起きた。
「何?」
窓の外。
火が見えた。
「ガルド!」
部屋を飛び出す。
村の入り口で、魔物が暴れていた。
巨大な熊型の魔物。
村人たちが逃げ惑っている。
そして。
「ガルド!」
彼は一人で魔物と戦っていた。
「来るな!」
「でも!」
「宿に戻れ!」
魔物の爪が振り下ろされる。
ガルドが受け止める。
身体が吹き飛んだ。
「ガルド!」
私は魔法を放った。
「――風よ!」
風刃が魔物を切り裂く。
魔物が怯む。
その隙にガルドが踏み込んだ。
剣が魔物の喉を貫く。
巨体が倒れた。
「……はぁ……」
ガルドが膝をつく。
「ガルド!」
私は駆け寄った。
「怪我は?」
「少しだ」
「少しじゃないでしょう!」
腕から血が流れている。
私は治癒魔法を使った。
「じっとして」
「……悪い」
「謝らなくていいわ」
「いや」
ガルドは私を見る。
「助かった」
「……」
まただ。
この人は。
いつも必要な言葉しか言わない。
でもその言葉だけは、妙に胸に残る。
「ねえ」
「なんだ?」
「私がいなかったら、どうしてたの?」
「ああ……死んでたかもしれないな」
「……そんなこと、平気で言わないでよ」
「事実だ」
「そういうところが嫌い」
「そうか」
「……」
私は唇を噛んだ。
「……でも」
「?」
「死なないで」
ガルドが黙った。
「あなたが死んだら……困るから」
「依頼人としてか?」
「違う!」
思わず叫んだ。
村人たちがこちらを見る。
私は顔が熱くなる。
「……もう」
私は小さく呟いた。
「本当に鈍いんだから」
翌朝。
村を出る。
目的地まではあと少し。
旅の終わりが近づいていた。
それが分かると、私は急に不安になった。
この旅が終われば……ガルドとはお別れだ。
護衛契約も終わる。
きっと彼はまた別の依頼を受けるのだろう。
そして私は、自分の国へ戻る。
それだけ。
たったそれだけなのに。
「ねえ」
「なんだ?」
「今回の仕事が終わったら、どうするの?」
「次の仕事を探す」
「……そう」
「お前は?」
「私?」
「ああ」
「……分からない」
私は前を向いた。
しばらく歩いてから。
「ねえ、ガルド」
「なんだ?」
「もし……もしだよ?」
少しだけ息を吸う。
「もし、私がもう一度あなたを雇ったら?」
「内容による」
「……私の護衛」
「いいぞ」
「……本当に?」
「ああ。報酬次第だが」
「……」
私は笑った。
「じゃあ、ものすごーーっく高い報酬を払うわ」
「それはありがたい」
「だから――」
私は彼の隣に並んだ。
「これからも私の護衛をして」
「……分かった」
ガルドは前を向いたまま答えた。
私は少しだけ嬉しくなる。
でも。
「ただし」
「何?」
「次からは、依頼人としてじゃなくて――」
そこまで言って、口を閉じた。
「……やっぱり何でもない」
「そうか」
「本当に鈍いわね」
「よく言われる」
「もう!」
私は思わず笑った。
最初は、私に興味を持たないことが気に入らなかった。
私を見ないことが悔しかった。
私の美しさに気づかないことが腹立たしかった。
でも今は違う。
この人が私の髪ではなく。
瞳でもなく。
エルフという種族でもなく。
私自身を見てくれることが嬉しい。
だから。
今度は私の番。
この鈍感な傭兵が、私を一人の女として意識するまで。
「覚悟しておきなさいよ」
「何を?」
「秘密っ!」
「……?」
ガルドは首を傾げた。
私は笑う。
きっと、この人はまだ気づいていない。
でも。
それでいい。
今度は私から、ゆっくり追いかけてみよう。
いつかこの人が私を見てくれる、その日まで。
「……ふふ」
旅は、まだ終わらない。
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