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第八話:後悔を拒む決意。死線で結ぶ「勇者の契約」

「勇者様、何を言っているんですか?」


「だから、僕と契約を……」


「だ・か・ら、何を言っているんですか? 私の話を聞いていましたか? このままこの場を離れれば……勇者様は助かるん……ですよ?」


「でも、それじゃ君は助からない!」


その言葉を聞いて、ビスカは目を丸くした。 言葉の意味をうまく理解できていないのか、理解できていて混乱しているのか。 僕は構わず、言葉を重ねる。


「ビスカ言ってたよね。契約すれば勇者に力を授けることができるって。なら、君と契約すれば、そいつと戦える力を得られる可能性があるってことでしょ。だから僕と……」


「それは無理ですよ、勇者様」


ビスカは目を伏せたまま、言葉を返す。


「確かに、私と契約すれば勇者様は女神の力を得ることができます。女神の力は強大で、有象無象ごときでは太刀打ちできないのは間違いありません。けれど今、私たちと相対しているその男は、有象無象ではなく……その力のすべてをもってしても互角か、それ以上の実力者です。そう簡単に退けられる相手ではありません」


「でも、互角ならまだ可能性が……」


「互角なのは、すべての力がある状態での話です。何度も言いますが、女神の力は強大。普通の人間の体では、その一部に耐えることすらできません。適性がある勇者様といえど、鍛えても慣らしてもいない、器として完璧ではない状態でその力のすべてを注ぎ込めば……ただでは済みません」


「ただでは済まないって、どうなるの?」


「許容量以上の力を注ぎ込まれた時点で、悲鳴を上げるほどの痛みが全身を走り、その状態で戦おうものならさらなる激痛が襲うでしょう。そして最後には力に耐えられず体に深刻なダメージを負い、よくて再起不能、悪ければ命を落とすことになります」


「そんな……」


女神の力があればなんとかなる。 そう思っていたミツギの幻想は、彼女から語られたその言葉により打ち砕かれた。 契約さえすれば彼女を助け、この場をしのぎ切ることができると思っていたのに。


結局は、見捨てることになってしまうのか……。


「でも、嬉しかったですよ」


「え……?」


「私を助けるために、あれほど嫌がっていた契約をする気になってくれたんですよね? だから嬉しかったです。やっぱりあなたは、女神に選ばれた勇者に値する人なんですね。こんなことなら、最初から『契約してくれなければ腹を切る』と言い張って、泣き脅す作戦にしておけばよかったです」


ビスカは再び目を伏せ、思い返すようにそう語った。


「さあ、早く行ってください勇者様。私がここで命を落とせば、元の世界に帰れます。もしまたこの世界に来るような機会があれば、きっと私の姉様たちの内のだれかが勇者様をサポートすることになると思います。その時は、姉様たちをよろしくお願いしますね」


彼女はそう言って、ミツギへと微笑んだ。 屈託のない笑顔で。


こんな顔は、以前も見た覚えがあった。 そう、あの時だ。 この命を助けられたあの時の、あの人の顔と一緒だ。


ああ、だからこそ余計に。 僕は。 彼女を。 見捨てることなど、できない。


「……女神の力をすべて注ぎ込んだ場合、僕の体はどれくらい持つの?」


「え?」


「あいつと互角に戦えるほどの力を注ぎ込んだ場合、僕の体はどれくらい持つの?」


「勇者様、だから力を注げば……」


「痛みなんてどうだっていい。あいつと戦える力を得た場合、僕の体はどれくらい持つの?」


「……本気なんですか、勇者様?」


「うん。逃げたほうがいいっていうのはわかってる。逃げてやり直したほうが、きっといいってわかってる。だけど……やっぱり君を、助けてくれた君を置いてここから逃げるなんて、後味の悪いことできない。きっとここで逃げたら、一生後悔することになる。ずっと、ずっと、僕は今のことを悔いていくことになる。だから僕は……戦うよ。僕だけじゃない、君も一緒に助かるために」

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