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第四話:帰還の希望と、忍び寄る影

「まあ、ありますよ。肉体ごと元の世界に戻る方法」


ビスカは頭を抱えているミツギを見据えながら、さらっとそんな重要なことを喋る。


「あるの!? あるなら、なんで最初に言わないの!!」


「こちら側としては、帰らずにこのままこの世界を救ういしずえになっていただけた方がいいので」


「またさらっと怖いこと言ってる気がするけど、まあいいや。で、その方法っていうのは?」


「そうですね。説明する前に、まずいろいろと知っておいてもらった方がいいことがあります。まずはこの部屋を出ましょう。埃っぽいし薄暗いし、女神の使いと勇者が語り合うべき場所ではありませんから」


ビスカはそう言って「こちらです」と促す。 軋む音がするほど立て付けの悪い扉を開け、彼女は部屋の外へと出て行った。


「ちょっと、置いていかないでよ!」


光継は部屋を抜けたビスカの後を急いで追う。


扉の先は、上へと続く階段だった。 僕は急いで階段を上り、彼女の背中を追う。


何度かの階段と暗い通路を通り抜け、重い扉を開けたとき。 その向こうから光が溢れ出した。


暗闇に慣れていた目には眩しすぎる。 手で視界を遮りながら扉の先へと出ると、そこには――。


鬱蒼と茂る木々と、その向こうに見える緑色の平原。 そんな景色を、自分はかなりの高所から見下ろしていた。


「ここは一体……」


「先ほど言った通り、ここは昔使われていた砦。そして、ここはその城壁の上です。改めて、ようこそおいでくださいました。ここが異世界フェリオトです」


彼女がそう語ると同時に、強い風が自分の周りを吹き抜けていく。


風に煽られながらも、僕は目の前に広がる未知の世界を城壁から見下ろした。 ただの森と平原……といえばそれまでだが、都会に馴染み、自然とはあまり縁のない生活を続けてきたミツギにとっては、未知の場所にいるという不安と高揚が入り混じった複雑な感情が起こる。


「どうです? 少しはわくわくしてきましたか? この世界に生きて、この世界で命を終える覚悟もできましたか?」


「ちょっとわくわくしてきたのは認めるけど、この世界で生涯を終えるつもりも覚悟もさらさらないよ……」


「そうですか。外に出れば少しは気持ちも変わると思ったのですが」


「右も左もわからない世界に、いきなりすべてを捧げられるほど潔くないよ。それで、さっき言ってた『肉体ごと元の世界に戻る方法』っていうのは……」


「では――私のことを、好きにしていいと言ったら?」


「はい?」


ビスカは唐突に、理解が追いつかないことを口走る。


「言葉の通りです。勇者様がこの世界に留まり、この世界を救ってくださるというのなら……私のことを好きに、それこそ好き放題してもよいです。この美しい容姿も、瑞々しい唇も、布に隠れた柔肌も、全部あなたがお好きなようにしてかまいません」


「あなたが望むなら、私は全力で、あなたが好むような奉仕をいたしましょう」


そう語りながら、ビスカはグイグイと自分の体を見せつけるようにミツギへと近づいてくる。


「いやいやいや、何を言って……」


しかし、間近に迫ってきた美しい少女を前に、思考がよからぬ方向へ働いてしまう。


「勇者様、今一瞬悩みましたね? 我慢はいけません。ここは欲望に従い、一線を越えて共に世界を救いましょう」


してやったり、というような邪悪な笑みを浮かべるビスカ。


「女神の使いが、そんなよからぬ言葉と恐ろしい表情を浮かべていいの!?」


「目的のためなら、手段を選んではいられません。さあ、あきらめてこのまま……おや?」


今にも二人の距離が密着しそうになったところで、ビスカは後ろを振り向き、遠くを見つめ始めた。


「どうしたんだいきなり。突然後ろの方を見つめて……」


「……まずいですね、これは」


「まずい?」


「勇者様、急いでここから移動しましょう。どうやら、見つかってしまったようです」


「見つかったって……何に?」


「敵です」


「敵……敵!? まだ僕、君以外誰にも会ってないし面識もないのに?」


「勇者という存在自体が気に食わない奴らがいるのです。どうやら、勇者様をこちら側に召喚したことが察知されてしまっていたようですね。だいぶ慎重に、しかもこんな辺鄙へんぴなところを選んだというのに、まさか察知されるとは」


険しい顔をするビスカを他所に、事態をうまく呑み込めないミツギだったが、ふと「勇者の敵」といわれて思い当たる節があった。


漫画やゲームなどの知識ではあるが、もしここが女神のいう通り「そういう世界」であるならば、その敵とはもしかすると――。


「勇者の存在が気に食わない奴らっていうと……もしかして」


「ご推察の通り。我々女神の一派や勇者様と対立する永遠の宿敵――魔王軍です」

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