第三話:死ななきゃ帰れない!? 勇者の帰還条件が絶望的
「命の火が消えるときって……つまり、死んだらってこと?」
「はい、その通りです、勇者様」
ビスカと呼ばれた少女は、表情を変えることなく淡々とそう言った。
「死なないと、僕は元の世界に帰れないってこと?」
「はい、その通りです、勇者様」
変わらず、ビスカは淡々とそう口にする。
「なんだよそれ!! 意味が分からないんだけど!?」
「意味はそのままです、勇者様。別段むずかしいことは申し上げておりません」
「いや、突然わけのわからないところに呼び出されて“死ぬまで帰れません”って、理不尽でしかないし納得できないから!!」
「……勇者様は、そんなに元の世界に帰りたいのですか?」
ビスカは理解できないというように、きょとんとした顔でそう訊ねてくる。
「なんでそんな“わけがわからない”みたいな顔してるの!?」
「確か、“異世界に飛ばされて冒険する”のは、あちらの世界のナウでヤングな若者たちにバカウケだと主様がおっしゃっていましたよ? はやりの遊びではないのですか?」
「異世界に行くのがそんな気軽にできるわけないよ!! というかそれは漫画とかアニメとか創作の話であって、実際に異世界に飛ばされた人なんて聞いたことないよ!? あとその言葉遣い、なんかすごく古くない!?」
「まぁ……そうなんですか。申し訳ございません、主様からしか話を伺ったことがなかったもので」
ビスカは、わざとらしいほど大げさな動作で「びっくりです」と口にした。
「まあそれは置いといて、とにもかくにも勇者様は死ぬまで元の世界には帰れませんので、頑張って世界を救ってください」
「世界を救うのと“死ぬ”のがイコールになってない、それ?」
「英雄はいつだって命をなげうつ者です。……もしそれで巨悪と刺し違えられなかったら、私が介錯いたしますのでご安心を」
「なんで“刺し違える前提”で、しかも“命を失うためのフォロー”までしてくるのさ!?」
ついさっきまで修学旅行の帰りの飛行機にいたはずなのに、どうしてこんなことになってるんだろう。
……いや、まて。 もしかしたら、まだこれは夢という可能性があるかもしれない。
そう考えながら、光継は頭を抱える。
「勇者様、そんなに頭を抱えて悩まれても、状況は変わりませんよ?」
「いや、まあそれはそうなんだけど……君に言われるとなんかすごく複雑な気分というか、腹が立つな……」
「そんなに命が大事ですか?」
「大事だよ! 命は一つしかないんだから当たり前だろ! ……あれ、ちょっと待てよ」
ふと、光継の頭に一つの考えが浮かぶ。
「仮にここで自分の命を落としたとしても、あっちの世界には戻れるのか?」
「戻れますよ」
「そっか。じゃあ最悪、高いところから飛び降りたりすれば――」
「ちなみに。戻るのは“魂”だけで、あちら側での肉体も死亡しますのでご注意ください」
相も変わらず表情を変えず、ものすごく大事なことをさらっと口にするビスカ。
「詰みじゃないか!? この世界に来た時点で、元の世界には生きて帰れないってこと!?」
「そんなに命が大事ですか?」
「大事だよ!! なんで大事じゃないと思うの!?」
「そうですか……」と口にしながら、腕を組んで考え込むビスカ。
――いや、そんなことで悩む必要ある!? 光継は口には出さず、心の中で全力のツッコミを入れるのだった。




