不幸令嬢はもふ犬とともに成り上がる
疎む人と疎まれる人がいるではないですか。
世の中には。
ゴードン子爵家においてわたしは疎まれる側で。
よくある話です。
わたしの実母が亡くなって、継母や異母きょうだいとの折り合いが悪く。
よろしくないのは、血の繋がっているはずのガース父様にまで疎まれていることなのですよ。
わたしが家庭内の異分子だからか、継母達が父様にないことないこと吹き込んでいるせいかはわかりませんが。
鬱々とした日々を過ごしておりました。
わたしは一人で散歩が趣味でした。
貴族の令嬢というならあるまじきことなのでしょうけれど、わたしに従ってくれる使用人なんかいませんでしたし。
さらわれたならそれで構わんという意識だったのでしょう。
もっとも貴族の邸宅街の治安は悪くないですけれど。
「あら、可愛い」
ある日道端で箱入りの捨て犬を見つけました。
真っ白でもふもふの子犬です。
こんなわたしに対しても尻尾を振って愛嬌を振りまいてくれて。
この子にも味方がいないのねと思うと、急に情が沸いてしまいました。
犬の一匹くらい、飼うのを許してくれるわよね?
その犬を連れ帰ったところ……。
「シェリル、お前はバカか! お前の面倒さえ見切れんのに、犬なんか飼えるか!」
「で、でも……」
「ああ? 当主のわしに意見する気かっ!」
「わうわうわうわう!」
「何だこのバカ犬め! わしに吠えつきやがって。シェリルともどもとっとと出ていけ!」
呆然。
捨て犬を飼うことを許してもらおうと思ったら、自分の家までなくしてしまいました。
人生予想できないことってあるものだなあ。
「くうん」
「ごめんなさいね。あなたを飼ってあげようと思ったのですけれど、わたしまで追い出されてしまいました」
「わふ!」
「うふふ、元気付けてくれるのね。あなたのお名前はホープでどうかしら?」
「わふ!」
気に入ってくれたようですね。
どうしようと思いましたが、ホープと一緒ならどうにでもなる気がしてきました。
あの居心地の悪い家を出ることができるのは、むしろラッキーかもしれません。
物事は前向きに考えましょう。
ホープの捨てられていた場所よりもう少し人通りの多い場所に行けば、わたしとホープを拾ってくれる物好きな方もきっといるのでは?
不思議ですね。
妙に楽天的な気持ちでした。
ホープを抱っこし、街に向かって歩き出した時……。
「いきなりの声かけ、失礼は重々承知しておりますが、シェリル・ゴードン様。少々よろしいでしょうか?」
きちんとした身なりをした中年の男性に、丁寧に話しかけられました。
どなたでしょう?
「はい、シェリルです。ただ今ゴードン家を追い出されたところなので、ゴードンを名乗っていいかは怪しいですが」
「やはり。ダフニー奥様の見立ては正しかったです」
「奥様? あなたはどなたでしたでしょう」
「重ね重ね失礼をいたしました。私、ヒースウッド伯爵家の使いの者でございます」
「ヒースウッド伯爵家? あっ!」
母様の姉が嫁いだ?
ほとんど没交渉でしたでしたけれど、伯母様の名はダフニーでした。
「シェリル様がゴードン家でいい扱いを受けていないことは掴んでおりまして。いずれヒースウッド家で引き取ろうという目論見がありました」
「そうでしたか。ありがたいことです」
「……本当はもっと早くシェリル様を引き取るタイミングはあったのです。しかしゴードン家当主のガース様はその、エキセントリックな方でございましょう?」
エキセントリックですか。
思わず苦笑いです。
確かに犬を拾ったくらいで出ていけって言う人ですからね。
父様は大変に感情の起伏が激しい人ではあります。
「へそを曲げられると交渉になりませんので。遺憾ながらシェリル様が勘当ないし追放されるのを待っておりました」
「まあ」
追い出されるのが前提になっていたとは。
外からはそう見えていたのですね。
全然気付かなかったです。
「助け出すのが遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした」
「とんでもないです」
「ヒースウッド家にお越しください。マリエル様直筆の書状があります」
「亡くなった母様の?」
母様は今日のこの事態を生前に予測し、ダフニー伯母様と密かに連絡を取っていたのですか。
母様の愛情を感じますねえ。
「ゴードン家がシェリル様を捨てたという事実ができた今、ガース様が何をごねようとシェリル様のヒースウッド家への転籍は必ず認められます」
「そうなのですね? 心強いです」
「ではまいりましょうか」
「あの、この子を連れていってよろしいですか?」
ホープを見せます。
どうでしょうか?
「ハハッ、構いませんよ」
「わふ!」
よかったですね。
◇
――――――――――五年後、シェリル一二歳。
ヒースウッド伯爵家に引き取られて五年。
わたしは義父様と義母様(ダフニー伯母様)に大変可愛がってもらいました。
それこそ実の娘のように。
大変感謝しております。
色々なことがありました。
ホープは大きなもふ犬に成長しました。
とっても利口で可愛いのですよ。
ずっと仲良しです。
わたしは一度婚約したのです。
義父様と義母様の間には子がありませんで、わたしを引き取ったのもヒースウッド家の縁戚に連なる殿方とわたしを娶わせて、家を継がせるという構想があったそうで。
なるほどですよね。
ところが……。
「オレはシェリルとの婚約を破棄する!」
婚約を破棄されてしまいました。
五つも年上の方でしたので、子供っぽいというか子供のわたしは論外だったようで。
その元婚約者はヒースウッド家の親戚でしたので、継ぐのは自分だと決めつけていたようなのです。
わたしは必要ないと。
そう言えばその方にホープは懐きませんでしたね。
いつも唸っていて。
ホープはわたしの味方だからですかね?
結局その方は義父様と義母様に認められず、ヒースウッド家の後継ぎからは外されました。
風の噂ではその方、行方不明になってしまったそうです。
でも結果としては吉だったのですよ。
どういうことかと言いますと、義父様と義母様に跡継ぎの男の子が生まれたのです。
結婚して十何年も子供に恵まれなかったのにですよ?
おめでたいですねえ。
わたしもホープも大喜びです。
ホープは幸せの使者みたいなものだと思っているのですよ。
ホープが喜んでいるのですから、きっとヒースウッド伯爵家の未来は明るいです。
となるとわたしは他家に嫁ぐことになりますね。
王立学院に入学する年が近付いていることもありますので、学ぶことに全力です。
「わふ!」
いえいえ、ホープを可愛がることは忘れませんよ。
ヒースウッド伯爵家邸は貴族邸宅街の端っこ、王都の外れにあることもあって、ホープの散歩にはいつも王都の外まで行っています。
たくさん散歩していますので、ホープは大満足ですから。
王都の門番さん達は全員が知り合いです。
そうそう、言い忘れましたね。
わたしの実家ゴードン子爵家のことを。
奇矯なところのある父様は亡くなりました。
ちょっとしたことで口論、決闘になって、命を散らしたとのことでした。
ある意味父様らしいなあとも思いますが。
問題はこの後でして。
何とわたしが異母きょうだいと思っていた継母の子達は、父様の血を引かないことが判明しました。
死後わたしに届くようにされていた父様の手紙に、それを示唆することが書かれていたのです。
義父様義母様に相談したところ、爵位継承の差し止めの訴えを起こすべきということになりました。
異母きょうだい達が父様の胤でないことが魔道的に証明されると、爵位簒奪未遂を咎められ継母達は絞首刑に処されました。
父の血を唯一引くわたしがゴードン子爵家の後継者に擬せられましたが……。
「領地は信頼できる名代に任せているようなのですけれど」
「うむ、心配しなくていい。ヒースウッド伯爵家の名の下に監査を入れよう」
「ありがとうございます、義父様」
「王都邸はどうする? シェリルのことを庇わなかった使用人ばかりなのだろう? 全員クビにして、屋敷は不動産屋に管理を任せてもいいが」
「ではそれでお願いします」
悪いこともありますがいいこともあるものです。
わたしはそっとホープの頭を撫でました。
◇
――――――――――キュプリエ王国第一王子エドワード視点。
同い年のシェリル・ヒースウッド伯爵令嬢との出会いは、僕に強烈な印象を与えた。
僕が盗賊に襲われた日だったのだ。
いや、護衛を二人連れて王都の外周を見回っていて。
油断していたと言われるとその通りかもしれないが、まさか王都のすぐ外で一〇人近くの盗賊が出るとは。
治安はどうなっているんだ。
「わうわうわうわう!」
じりじりと王都外壁際に追い詰められていた時、割って入ってきたのは白く大きな犬だった。
「な、何だこの犬は?」
「スゲエ迫力でやすぜ!」
そう、結構な腕の盗賊達が気圧されるほどのすごい気迫の犬だったのだ。
僕に味方してくれるのか?
頼もしいガーディアンを得たような気持ちだった。
「門番さん、あそこです!」
「ピイィィィィィィ!」
「ちっ、撤収だ」
変事を知らせる呼子が吹き鳴らされると盗賊達は引き上げていった。
助かった!
「わふ!」
「よしよし、ホープはいい子ですね。大活躍でしたよ」
「殿下、おケガは?」
「平気だ」
「えっ? 殿下?」
「第一王子エドワードだ。御令嬢は?」
「失礼いたしました。ヒースウッド伯爵家の娘、シェリルと申します」
軽装でしかも一人だったので町娘かと思った。
言われてみれば奇麗なカーテシーだ。
「この大きな犬はシェリル嬢のか?」
「はい、ホープというんですよ。とても賢いのです」
「わふ!」
やあ、撫でろと頭を差し出してくる様は人懐こいじゃないか。
先ほど魔神のような迫力を見せつけた犬とは思えん。
「助力してもらって大変ありがたかった。おかげで助かった。礼をしたいのだが」
「それでしたらホープはお肉が大好きなのですよ」
「あ、うん」
いや、シェリル嬢に礼をしたかったのだが。
お肉と言った時の笑顔が輝いていてドキリとしてしまった。
あとでヒースウッド伯爵家邸に感謝状とたっぷりの肉を届けさせた。
半年後くらいにこの盗賊団の捕捉に成功し、壊滅させた。
その生き残りの供述によると、僕を襲えと指示したのは公爵派の者らしい。
我がキュプリエ王国に公爵家は一つしかなく、公爵派と言えばムーアナイルズ公爵家から父陛下の側妃となったデボラと僕の異母弟ザンディスらの一派を指す。
要するに次期キュプリエ王の座を僕と争うライバルの派閥だ。
元々先の陛下、僕の爺上がムーアナイルズ公爵家を嫌っていたこともあって、王妃である母上はハームズワース侯爵家から迎えられたという経緯がある。
しかし公爵の横槍で父上は側妃を娶らざるを得なくなり、爺上は退位させられた。
公爵の専横は目に余る。
爺上も反撃の機会を狙っているはずだが……。
僕個人の考えとしては、キュプリエ王国が平和に治まるなら僕が王でなくてもいいと思う。
しかし二つ下の異母弟ザンディスはどう見ても凡庸だしなあ。
王になったら公爵の傀儡になるのが目に見えている。
その公爵も権威にものを言わせた悪徳の塊だし。
まあいい。
この事件で僕の護衛は増員されるだろうし、公爵派も余計なことはしてこなくなるだろう。
間近に迫った王立学院入学のことだけ考えよう。
◇
――――――――――その後、王立学院にて。エドワード視点。
シェリル・ヒースウッド伯爵令嬢と王立学院で再会した。
いや、それはわかるのだが……。
「ホープではないか」
「わふ!」
シェリル嬢は学院に僕を救ってくれた大きな犬を連れてきていた。
何ゆえに?
「従者枠で通ってしまったのですよ。犬はダメという校則がなかったそうで」
「何と」
王立学院では従者一人を伴うことが認められている。
普通は護衛か侍女を従者とするものだし、その権利を行使しない者も多い。
教師にしてみれば犬というのは盲点だったろうな。
認めた学院は器が大きいと、少し愉快な気持ちになった。
ホープはすぐ人気者になった。
「わうわう!」
「どうしたホープ?」
「危険がある時の鳴き声ですね。あっ、ハチの巣です」
その後もこまごまとした注意をくれたり、校内に侵入した不審者を組み伏せたりしたので、学院生徒のホープへの信頼は絶大なものとなった。
それに伴って僕とシェリル嬢の距離も近くなった。
シェリル嬢は優秀で明るく可愛らしい令嬢なので、僕も好みなのだが。
伯爵令嬢では僕の婚約者としては少し家格が足りないか、と思っていたのだ。
ところが反対が出ない。
というか公爵派は、僕が伯爵家くらいの身分の令嬢とくっついた方が都合がいいと考えているようだ。
シェリル嬢とホープの人気もあって、婚約が認められそうな気配になってきた。
嬉しいやら嬉しくないやら。
僕が学院に入学して一年三ヶ月が過ぎた頃、理事長のフィリップ叔父と学院長に呼び出された。
フィリップ叔父も公爵派を嫌っている人であるが?
「レジナルド・ムーアナイルズ公爵が学院のサマーパーティーに参加する?」
「はい。孫であるザンディス第二王子殿下が来年学院に入学するから、雰囲気を体験させろと」
「ではザンディスも来るのですね?」
「エドワードはどう思う?」
サマーパーティーは学院の行事だ。
部外者の公爵は場違いではある。
警備も面倒になるが……待てよ、警備?
「公爵の参加を断ることは難しいと思います」
「そうだな。しかしレジナルド殿に企みがあるとすると、標的はそなただぞ」
「はい。ですから公爵とザンディスの参加を認める代わりに、ルール通り従者は一人まで、武装は認めないということでいかがでしょう?」
「身辺が不安だなどと言い出すのではないか?」
「そこはそれ、特別に近衛兵と宮廷魔道士を配備しますので御心配なくと伝えてくだされば」
逆に公爵が何かしようとしたら、近衛兵と宮廷魔道士で抑えるぞということだ。
フィリップ叔父が笑う。
「ハハッ、確かにレジナルド殿の私兵がいなければ大したことは起きぬか。エドワードは知恵者だな」
「では公爵レジナルド様にはそう伝えておきますぞ」
ということがあってサマーパーティー当日。
「わうわうわうわう!」
「な、何だこの犬は! 衛兵! 衛兵!」
ホープが公爵に襲いかかり、地べたの土を舐めさせている。
いつも自信たっぷりの笑顔を浮かべている公爵が、こんなに焦っているのは初めて見るな。
ちょっと面白い。
駆けつけた近衛兵や宮廷魔道士も、ホープの気迫で手が出せずにいる。
僕の出番だ。
「皆の者待て! その犬は危険を察知することのできる不思議な犬なのだ!」
「そうです! 私も転びそうになった時、クッションになってくれたことがありました!」
「オレもだ! 上から植木鉢が落ちてきた時注意してくれた!」
次々と生徒から声が上がる。
そのホープが公爵に対して大いに警戒しているということは……。
ん?
「御託はどうでもいい! この犬をどけろ!」
「公爵、平和なパーティーの場で帯剣は禁止なのですがね」
マントの裏からチラリと武器が見えた。
剣というよりダガーだな。
隠して持ち込む意図があったのだろう。
夏なのにマントを着ているのはおかしいと思った。
「そ、それは……護身用だ!」
「護身用でもです」
「犬に襲われるような危険なことがあるからなっ!」
「全く役に立っていないではないですか」
失笑が漏れる。
む、シェリル嬢が?
「エドワード殿下。ホープは公爵様の右手に拘っているようです」
「右手? ……公爵、その右手に掴んでいるロケットの中身は何ですか?」
「こ、これは持病の薬だ!」
「ほう、ではこの場で飲んでもらいましょうか」
「い、いや、この薬は……」
「宮廷魔道士に命ずる! あの薬を押収し、魔道分析にかけろ!」
「「「はっ!」」」
その後公爵が引っ立てられて強制退場という結構なイベントがあった。
パーティーに参加した生徒達にはかなり刺激的だったのではないかな?
現場を仕切った僕の評価が上がり、立ち竦んでいただけの異母弟ザンディスとの差を見せつけたと思う。
結果としてはよかった。
後に判明したことだが、公爵のロケットの中に入っていたのは毒だった。
大方食べ物か飲み物に入れて、僕に勧める予定だったのだろう。
ホープのおかげで助かった。
被害者がいないこともあり、公爵は厳重注意ですまされた。
が、その声望は地に落ちた。
このタイミングで先の陛下である爺上が動く。
ムーアナイルズ公爵家の細かい不正の証拠を次々と放出し、公爵は弁明に追われた。
ムーアナイルズ公爵家の信用は失われ、伯爵に降爵となった。
相対的に王権が強くなったことは、キュプリエ王国にとっていいことだったと思える。
◇
――――――――――サマーパーティーから半年後、王宮にて。シェリル視点。
ヒースウッド伯爵家は侯爵に昇爵となったのですよ。
キュプリエ王国の危機を未然に防いだとして。
ホープの手柄が大きいですね。
本当にいい子です。
ヒースウッド新侯爵家は、既に管理している旧ゴードン子爵家領とムーアナイルズ家から召し上げられた領地の一部の併合が認められました。
えっ? 旧ゴードン子爵家領はわたしのものであって、ヒースウッドと直接関係ないだろうって?
いえ、わたしには必要のないものになりましたから。
わたしはエドワード殿下の婚約者に指名されまして。
考えてみればエドワード殿下とは縁がありましたね。
わたしなんか実家に捨てられた娘に過ぎなかったのに、キュプリエ王国の次期王であろうエドワード殿下の婚約者ですって。
エドワード殿下は決断力と実行力を持つ、爽やかで素敵な王子様です。
夢みたいですねえ。
これもホープのおかげです。
今日は王宮でエドワード殿下とのお茶会です。
もちろんホープも招待されています。
「全てシェリルとホープのおかげだなあ」
「いえいえ、そんな」
「わふ!」
ホープはエドワード殿下に本当によく懐いているのですよ。
わたしの婚約者になることがわかっていたのかしら?
どこまで賢いのでしょう。
「国を治める上で、家臣の力が強過ぎるというのが問題になり得ることがあってな」
「はい、わかります」
ムーアナイルズ公爵家、今は降爵されて伯爵家ですか。
つい半年前までは大変に勢いがあって、横柄な振る舞いが多かったと聞きます。
もっともブイブイ言わせていた頃は、眉を顰める者はいても表立って非難する者はいなかったようですけれど。
今になってようやく悪評が私の耳にも入ってくるようになりました。
「異母弟ザンディスの母である側妃デボラはムーアナイルズ家の出でね。それで次期王には僕でなくザンディスを推す者も多かったんだ。今ではそんな動きはなくなったがな」
エドワード殿下に一本化ということですか。
ええ、エドワード殿下は凛々しく覇気もある立派な王子ですからね。
王に向いていると思います。
多分ホープも同じことを思っているのでは?
「ザンディス殿下は優しい方ですよね」
「む? ……なるほど、ザンディスを取り込んで旧公爵派を宥めておけという視点か」
「はい」
重要です。
ザンディス殿下御自身は毒にも薬にもならない方で、特に裏はないと思うのです。
であれば現在逆風の立場に置かれているザンディス殿下を取り込んでおくべきでは?
将来王弟として名誉ある地位につけてやれば、側妃様やムーアナイルズ家もエドワード殿下に感謝するでしょうから。
「そうしよう。シェリルは賢いな」
「いえいえ」
「わふ!」
「そうかそうか。ホープは不思議な犬だなあ」
エドワード殿下に撫でられて満足そうなホープ。
穏やかな子ですけれど、時にはとても勇敢ですしね。
「不思議というか、幸せを運んでくれる子だと思うのですよ」
捨てられたわたしの心の支えになってくれて。
エドワード殿下に引き合わせてくれて。
危機には立ち向かってくれて。
「ホープは幸せを運んでくれる犬か。よしよし、キュプリエ王国のためによろしく頼むぞ」
「わふ!」
任せろと言っているようです。
本当に言葉がわかっているのでしょうね。
撫でられて御機嫌のホープを見ているとわたしまで嬉しくなってきます。
エドワード殿下と視線が合います。
ニコと微笑みかけてくださいました。
これが今のわたしの幸せの形なのでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どう思われたか下の★~★★★★★で評価してもらえると、励みにも勉強にもなります。
よろしくお願いいたします。




