エピローグ:『笑う魔導姫と叫ぶ勇者、その後』
世界を揺るがした魔導城の事件から、さらに数年の時が流れた。王都は完全に復興し、旧王国の技術とレヴィの再生の魔力によって、かつてないほどの発展を遂げていた。
ガイは、その功績が認められ、騎士団の最高位である「総騎士長」にまで昇進した。その厳格な規律と、揺るぎない正義感は、多くの騎士たちの模範となっていた。彼の執務室には、毎日山のような書類が積まれており、彼はその一つ一つに真摯に向き合っていた。
一方のレヴィは、評議会からの正式な要請を受け、「民間協力魔導士」として再登録された。これは、彼女が魔導士団に縛られることなく、王国の内外を自由に巡り、その強大な魔力と旧王国の知識を、より広範な人々のために活用できるようにするための措置だった。彼女は、王都の魔導士たちの指導にあたることもあれば、遠方の村々の魔力的な問題解決に赴くこともあった。時には、王国の歴史の謎を解き明かすために、古文書や遺跡の調査に没頭することもある。
それぞれの立場は変わったものの、レヴィとガイは、重要な任務の度に再会し、共に戦い、そして互いの成長を見守り続けていた。彼らの関係は、未だに「恋人未満」という曖昧な状態のままだったが、その絆は、血の繋がりよりも強く、もはや誰にも否定できないものとなっていた。彼らは、互いの存在が当たり前となり、欠かせない一部となっていたのだ。
ある日の午後、王都の訓練場で、ガイは騎士候補生たちの訓練を指導していた。その傍らでは、レヴィが、魔導の基礎を教えている。訓練の合間に、かつて孤児だった少年、カイトが、幼い頃に魔物カードの件でレヴィに懐いていた頃の無邪気な笑顔を見せながら、二人の元へ駆け寄ってきた。今や立派な騎士候補生となったカイトは、少し照れくさそうに、しかし、ストレートな問いを投げかけた。
「あの……ガイ総騎士長と、魔導姫殿下って、どうやってお付き合いしたんですか?」
カイトの突然の問いに、ガイとレヴィは、同時に固まった。周囲の騎士候補生たちも、興味津々な目で二人を見つめている。
レヴィは、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げ、耳まで熱を持っているのがわかる。そして、いつものように、けたたましい高笑いを響かせた。
「フォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォ!!!!!!」
「な、なによ、カイト! なにバカなこと言ってるのよ! 私様が、こんな筋肉ダルマと付き合ってなどないわよ!」
レヴィは、そう言ってガイを肘で小突いた。その表情は、普段の傲岸不遜な態度とは裏腹に、まるで動揺を隠せない乙女のようだった。
一方のガイは、レヴィの反応に慣れた様子で、苦笑いを浮かべた。彼は、カイトの頭に手を置き、優しく微笑んだ。
「ははは。カイト、俺たちは別に『付き合う』とか、そういうんじゃないんだ。でもな……」
ガイは、そこで言葉を区切り、レヴィの方をちらりと見た。レヴィは、顔を背けていたが、その耳は、ガイの言葉にじっと聞き入っているのが分かった。
「……もう、家族のようなもんだ!」
ガイの言葉に、レヴィはピクッと反応し、そのまま顔を真っ赤にしてフン、と鼻を鳴らした。
「な、なによそれ! 勝手なこと言わないでよ!」
そう言いながらも、レヴィの表情は、どこか嬉しそうで、満更でもない様子だった。
王都の平和な日常の中で、二人の「恋人未満」の関係は、ゆっくりと、しかし確実に、唯一無二の形へと進化し続けている。新たな脅威が訪れる日が来るのかもしれない。しかし、彼らは、その時が来ても、きっとこの場所で、変わらない笑顔と、軽妙な口喧嘩を交わしながら、共に立ち向かうだろう。
このふたり、世界が終わってもケンカしてるだろうな。