世界が終わるその日まで
王都の空は、今日も雲一つなく晴れ渡っていた。魔導城の事件から数年。復興は完了し、かつての賑わいを取り戻した街には、人々の活気と笑顔が満ち溢れていた。レヴィとガイは、相変わらず王国の英雄として、多忙な日々を送っていたが、彼らの間には、以前にも増して確かな絆が築かれていた。
レヴィは、魔導士団の拠点である塔の最上階で、新しく開発された魔導通信機を操作していた。その顔は真剣だが、時折、彼女の口元には微かな笑みが浮かぶ。彼女の魔力は、今や完全に制御されており、その「破壊」と「再生」の両面性は、この世界の安定に不可欠なものとなっていた。
しかし、最近、レヴィの胸に、拭いきれない違和感が募っていた。遠い世界から、微かに、しかし確かな「何か」の気配が漂い始めているのを感じるのだ。それは、魔王や「終焉の手」とは異なる、もっと根源的で、巨大な「脅威」の予感だった。王都の安全は保たれているものの、世界のどこかで、新たな歪みが生まれつつあることを、彼女の覚醒した魔力が告げていた。
「フォフォフォ……全く、世界ってやつは、本当に飽きさせないわね」
レヴィが、独りごとのように呟いたその時、執務室の扉がノックされた。
「レヴィ、いるか?」
ガイの声だ。レヴィは、顔を上げ、高笑いを響かせた。
「フォフォフォ! なによ、筋肉ダルマ! まさか、私様にまたプロポーズでもしに来たわけ!?」
ガイは、呆れたように肩をすくめながら、執務室に入ってきた。彼の腕には、騎士団から持ち帰ってきたらしい、大量の書類が抱えられている。彼の顔には、疲労の色が見えるが、その瞳は変わらず、まっすぐで温かい。
「まさか。お前が『忙しいから』と断っただろうが。それより、今日の報告書を渡しに来たんだ。……それに、何か悩んでいるように見えたが、気のせいか?」
ガイは、書類を机に置きながら、レヴィの表情の変化に気づいていた。彼は、レヴィが抱えているであろう不安を察し、いつものように無理に詮索しようとはしなかった。ただ、彼女の隣に座り、静かに寄り添う。
レヴィは、一瞬、戸惑ったような表情を見せた後、再び高笑いを響かせた。
「フォフォフォ! なによ、心配性ね、筋肉ダルマ! 私様が悩むことなんて、この世にあるわけないじゃない!」
そう言いながらも、レヴィは、テーブルに置いてあった焼き菓子を一つ手に取り、ガイの口元に押し付けた。ガイは、苦笑いしながらそれを受け取って食べる。二人の間に、言葉を必要としない、温かい空気が流れる。
「……でも、まあ、ちょっとだけね」
レヴィが、不意に小声で呟いた。ガイは、静かにレヴィの言葉を待つ。
「最近、変な気配を感じるのよ。どこか遠くで、世界がギシギシ音を立てているような……まさか、また魔王みたいなのが現れるとか?」
レヴィは、そう言って冗談めかしたが、その瞳の奥には、わずかな不安の色が宿っていた。ガイは、レヴィの言葉に、ゆっくりと頷いた。彼の騎士としての直感もまた、世界の異変をわずかに感じ取っていた。しかし、彼の表情には、一切の不安や怯えはなかった。
ガイは、レヴィの顔を真っ直ぐに見つめた。彼の瞳には、彼女への揺るぎない信頼と、そして共に未来を歩むという、確かな決意が宿っている。
「その時は、また一緒に戦おう、爆裂姫!」
ガイの言葉に、レヴィは目を見開いた。そして、次の瞬間、彼女は再び、けたたましい高笑いを響かせた。その笑い声は、王都の空に響き渡り、人々の心に、変わらぬ希望の光をもたらす。
「フォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォ!!!!!!」
「まったく、バカじゃないの、勇者くん! でも……そうね!」
レヴィは、高笑いを続けながら、ガイの肩に腕を回した。彼女の顔には、この上ないほどの満面の笑みが浮かんでいる。その笑顔は、かつて世界を壊すと恐れられた高笑いとは異なり、今や世界を守り、人々に希望を与える、温かい光となっていた。
「この世界が壊れても、あたしの笑いは止まらないわよ、勇者くん!」
レヴィの言葉は、王都の空へと吸い込まれていった。ガイは、彼女の言葉に、満面の笑みで応じた。
「その時はまた一緒に戦おう、爆裂姫!」
王都の片隅で、二人の高笑いと、力強い誓いの言葉が響き渡る。新たな脅威の気配がわずかに漂うとしても、彼らの心には、未来への希望と、共に歩むという確かな絆があった。世界が終わるその日まで、レヴィとガイは、互いの隣に立ち、笑い、そして戦い続けるだろう。彼らの物語は、まだ始まったばかりなのだ。