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祠の秘密と融解する心

 古びた祠の中は、外観からは想像もできないほど広かった。ひんやりとした空気が肌を撫で、奥からは微かに、しかし確かな魔力の脈動が感じられる。漂うカビの匂いと、微かな土の匂いが、時間の流れを感じさせた。ガイは剣を構え、レヴィは魔力を高めながら、慎重に足を踏み入れた。

 祠の最深部には、祭壇のような石台があり、その上に、黒い結晶が鎮座していた。その結晶からは、禍々しい魔力が放出されており、それが村の植物を枯らし、魔力の乱れを引き起こしていた原因だとすぐに理解できた。しかし、その結晶は、どこか見覚えのある紋様を刻んでいた。それは、「終焉の手」が使用していたものと酷似していたのだ。

「……これ、まさか、また『終焉の手』の仕業じゃないでしょうね」

 レヴィが、忌々しそうに呟いた。彼女の顔には、警戒の色が浮かんでいる。ガイもまた、眉をひそめ、結晶を凝視した。

「ああ。間違いないだろう。だが、こんな辺境の村に、なぜこんなものを……」

 その時、結晶から、黒い靄が立ち上り始めた。靄は次第に形を成し、半透明の魔物の姿となって、二人に襲いかかってきた。それは、これまでに見たことのない、粘液質の体を持つ魔物で、その動きは素早く、攻撃を受け流すのも困難だった。

「フォフォフォ! 面白いじゃない! こんな雑魚、私が一瞬で片付けてあげるわ!」

 レヴィは、高笑いを響かせながら、魔力弾を放った。しかし、魔力弾は魔物の体をすり抜け、効果がない。ガイが剣で斬りつけようとするが、それもまた、粘液質の体に吸収されてしまう。

「くそっ……効かないのか!?」

 ガイが焦りの声を上げた。レヴィもまた、普段の余裕を失い、額に汗を浮かべていた。魔物の攻撃は、触れたものの魔力を吸い取る性質を持っているらしく、二人の魔力や体力は、じりじりと削られていく。

「こんなところで、くだらない魔物にやられるなんて、屈辱よ!」

 レヴィは、苛立ちを募らせながら、次々と魔法を放つが、どれも決定打とならない。焦りからか、彼女の魔力は、わずかに乱れ始めていた。

 その時、ガイは、レヴィの言葉から、ある閃きを得た。この魔物は、魔力を吸い取る。ならば、逆に魔力を集中させ、一度に大量に叩き込めば、どうなるか。

「レヴィ! 魔力を、一つに集中させてくれ! 一点にだ!」

 ガイが叫んだ。レヴィは、一瞬戸惑ったが、すぐにガイの意図を察した。彼は、自分の剣にレヴィの魔力を乗せ、強力な一撃を放とうとしているのだ。しかし、以前の誤解以来、レヴィはガイとの連携を拒んでいた。

(……でも、このままだと、やられる……!)

 レヴィは、迷いを振り払い、ガイを信じることを選んだ。彼女は、自身の全魔力を右手に集中させ、ガイの剣先へと流し込んだ。彼女の魔力と、ガイの騎士としての力が共鳴し、剣先が眩い光を放ち始めた。

「フォフォフォ! いくわよ、筋肉ダルマ!」

「ああ! 頼むぞ、爆裂魔導姫!」

 二人の声が重なった瞬間、ガイは魔物を目掛けて、渾身の一撃を放った。光を帯びた剣は、魔物の粘液質の体を貫き、内部にレヴィの魔力を一気に叩き込む。魔物は、断末魔の叫びを上げ、爆発と共に黒い靄となって消滅した。残されたのは、ただの黒い結晶だけだった。

 魔物を倒すと、祠の奥から、清らかな魔力の流れが溢れ出した。それは、村の枯れた植物に生命力を与え、祠の中に、温かい光をもたらした。二人の間に、安堵の沈黙が流れる。

 レヴィは、息を整えながら、ガイの方を向いた。

「……あんた、まさか、私の魔力が効かないことに気づいて、あの連携を考えたの?」

 レヴィの問いに、ガイは少し照れくさそうに頭を掻いた。

「ああ。君の魔法が破壊だけでなく再生の力を持つと知ってから、応用できないかと思っていたんだ。それに、俺たちは、あの時、互いの力を信じるって、誓っただろう」

 ガイの言葉に、レヴィの顔が赤らんだ。彼が、まだあの日の告白を覚えていてくれたこと、そして、自分の力を信じてくれていたことに、彼女の胸は温かくなった。

「なによ! 今さら、そんなこと言わないでよ!」

 レヴィは、高笑いを響かせながら、ガイの肩を軽く叩いた。それは、いつもの照れ隠しだったが、その表情には、感謝と、そして以前よりも深い信頼が宿っていた。

 祠から出ると、村人たちが不安そうに外で待っていた。二人が無事な姿を見て、村人たちは歓声を上げた。祠から溢れ出した清らかな魔力によって、枯れていた植物が芽吹き始め、村は再び生命の息吹を取り戻しつつあった。長老は、二人に深々と頭を下げた。

「勇者様、魔導姫様! まさに奇跡です! これで、また村に恵みが戻ります!」

 村人たちの感謝の言葉に、レヴィは顔を赤らめながらも、得意げに胸を張った。ガイは、そんなレヴィの姿を見て、微笑んだ。祠の小さな事件は、村に平穏を取り戻しただけでなく、レヴィとガイの間の気まずい空気を溶かし、二人の絆をさらに強くするきっかけとなったのだった。王都への帰路、馬車の中では、以前のような沈黙はなく、二人の楽しげな会話が響いていた。


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