小さな事件の解決と日常3
レヴィとガイの間に生じた小さなすれ違いは、すぐに解決することなく、気まずい空気となって二人の間に漂っていた。レヴィは、ガイが自分を疑ったことに心を閉ざし、ガイは、自分の言葉がレヴィを深く傷つけてしまったことに後悔の念を抱いていた。互いに謝罪の言葉を口にできないまま、二人は沈黙を保ち、業務上の会話以外はほとんど交わさなくなっていた。
そんな中、彼らに新たな共同任務が下された。王都から数日離れた、山間部の小さな村で、原因不明の魔力の乱れが観測され、農作物が枯れるという被害が発生しているという。住民の避難が困難な地域のため、早急な調査と対処が求められていた。
王都を出発し、馬車で数日。道のりは険しく、道中には魔物の痕跡も散見された。漂う土の匂いに、枯れた植物の僅かな腐敗臭が混じり合う。ガイは周囲を警戒し、レヴィは窓の外の景色を険しい表情で見つめている。馬車の中には、重苦しい沈黙が続いていた。
目的地である村に到着すると、村人たちは彼らを温かく迎え入れた。素朴で、しかし温かい人々の笑顔が、レヴィとガイの心を少しだけ和ませる。村の長老が、二人に深々と頭を下げた。
「これはこれは、勇者様、魔導姫様! はるばるこんな僻地まで、ようこそおいでくださいました。皆様のおかげで、ようやく平穏な日々が戻りつつあります」
長老は、レヴィとガイをまるで夫婦かのように並び立たせ、にこやかに言った。
「お二人のご活躍は、この村にまで届いております。まさか、このように若くて素晴らしいご夫婦が、この世界の英雄だとは……村の者たちも、さぞ驚くことでしょう」
その言葉に、レヴィとガイは同時に固まった。
「「へ……夫婦!?」」
二人の声が、驚きと動揺を隠せずに重なった。レヴィの顔は、真っ赤に染まり、耳まで熱を持っているのがわかる。ガイもまた、顔を少し赤らめ、視線を泳がせた。
「フォ、フォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォ!!!!!!」
レヴィは、盛大に高笑いを響かせ、長老の言葉をかき消そうとした。その笑い声は、完全に照れ隠しと、その場を誤魔化すためのものだった。
「な、なによ、じいさん! 何を言ってるのよ! 私様が、こんな筋肉ダルマと夫婦なんて、ありえないでしょ!」
レヴィは、そう言ってガイを肘で小突いた。ガイは、不意打ちに「うぐっ」と声を漏らし、それでも長老に慌てて弁解する。
「い、いえ、長老。私たちは、騎士団と魔導士団の、ただの同僚でして……」
ガイの説明に、長老は首を傾げた。
「おお、そうでしたか。しかし、お二人からは、夫婦のような深い絆を感じますな」
長老は、悪気なくそう言い放ち、レヴィとガイは再び顔を見合わせて気まずい沈黙に陥った。村人たちも、二人の反応を見て、面白そうに顔を見合わせている。
その日の夜、村が用意してくれた質素な宿舎で、二人は夕食を囲んでいた。昼間の出来事以来、二人の間には、昼間とは異なる種類の、しかし相変わらずの気まずい空気が漂っていた。漂う薪の燃える匂いと、村人たちの賑やかな話し声が、二人の沈黙を際立たせる。
レヴィは、煮込み料理をスプーンでつつきながら、時折、ガイの方を盗み見ている。ガイもまた、レヴィの視線を感じ取っては、慌てて視線を逸らす。
(まったく、何よあのじいさん! 夫婦だなんて……!)
(いや、しかし、レヴィもあんなに動揺するとはな……)
互いに相手の反応に動揺し、そして、どこか意識してしまっている自分たちに気づきながらも、素直になれない二人だった。
翌日、二人は村の周辺の調査を開始した。魔力の乱れの源を特定するため、森の奥深くへと足を踏み入れる。周囲の植物は、生命力を失い、土は痩せ細っている。ガイは、剣を構え、警戒しながら進む。レヴィは、自身の魔力を使い、乱れの方向を探っていた。
「ガイ、こっちよ。魔力の乱れが強いわ」
レヴィが指差す先には、古びた祠がひっそりと佇んでいた。祠の中からは、微かに不気味な魔力が漏れ出している。二人は、顔を見合わせた。この小さな村で起きている事件は、二人の関係にも、新たな変化をもたらすかもしれない。そう予感しながら、彼らは、その祠の中へと足を踏み入れた。