表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/28

小さな事件の解決と日常2

 王都の復興は着実に進み、レヴィとガイもそれぞれの任務に忙殺される日々を送っていた。レヴィは、旧王国の知識と「再生」の魔力を活かし、壊れた水道施設を修復したり、魔力を使った新たな農業技術を指導したりと、八面六臂の活躍を見せていた。その一方で、子供たちに好かれ、時には無邪気な笑顔を見せる彼女の姿は、王都の人々の間で「魔導姫殿下」というより「お姉様」のような親しみを込めて呼ばれるようになっていた。

 ガイは、騎士団の再編と、「終焉の手」の残党狩り、そして王都の治安維持に奔走していた。レヴィが戻ってきてから、彼の心は満たされていたが、多忙な日々の中で、二人がゆっくりと語り合う時間はほとんどなかった。すれ違う日々の中で、小さな誤解の種が芽生え始めていることに、二人はまだ気づいていなかった。

 ある日の午後、王都の広場で、ちょっとした騒ぎが起きていた。町の子供たちが、最近流行しているという「魔物カード」で遊んでいたところ、突然、カードに描かれた魔物が実体化し、広場を走り回っていたのだ。幸い、実体化した魔物は、手のひらサイズで、攻撃能力もほとんどない、臆病なものだったが、子供たちはパニックに陥り、広場は大混乱となっていた。人々が使う最新の通信魔導機からは、緊急連絡がひっきりなしに入り、騎士団の警備網に支障をきたし始めていた。

「フォフォフォ! なによ、こんな騒ぎになってるじゃない! また、くだらない魔物でも暴れてるんでしょ!」

 いつもの高笑いを響かせながら、レヴィが広場に現れた。彼女は、実体化した小さな魔物たちが、子供たちを追いかけ回している様子を見ると、呆れたように息を吐いた。そして、その手に淡い魔力を集め、魔物たちを捕らえる魔法を放った。瞬く間に、魔物たちは光の粒子となって消滅し、残されたのは、ただの魔物カードだけだった。

「まったく、こんなもので騒ぎを起こすなんて、バカじゃないの!」

 レヴィは、そう言って子供たちを軽く叱った。しかし、子供たちは、レヴィの魔法に目を輝かせ、すぐに彼女の周りに群がり始めた。

「魔導姫様、すごい!」

「どうやったの!? 私にも教えて!」

 子供たちに囲まれ、レヴィは顔を赤らめながらも、得意げに魔法の原理を説明し始めた。その様子は、まるで先生のようだった。

 その一部始終を、偶然通りかかったガイが目撃していた。彼は、レヴィが子供たちに囲まれている姿を見て、安心した。しかし、彼の目に映ったのは、子供たちが持っていた「魔物カード」だった。最近、騎士団内でも、そのカードが原因で小規模な騒ぎが起きているという報告が上がっていた。そして、そのカードに、どこか見覚えのある魔導の紋様が刻まれていることに、ガイは気づいた。それは、旧王国の魔導技術に酷似した紋様だった。

(まさか……レヴィが、こんなものを……?)

 ガイの脳裏に、先日、レヴィが旧王国の古文書に夢中になっていた姿がよぎった。彼女が、子供たちのために、面白半分で、このカードを実体化させる魔法を教えたのではないか。魔王を倒し、魔導城の暴走を止めたレヴィなら、これくらいのことは容易にできるだろう。彼は、レヴィが善意でやったことだとしても、その結果、王都に混乱が生じていることに、眉をひそめた。彼女の力が、再び「問題」を引き起こしていると誤解してしまったのだ。

 レヴィが子供たちに囲まれているところに、ガイが近づいた。

「レヴィ。今、広場で起きた騒ぎは、君が関わっているのか?」

 ガイの声は、普段よりも少しだけ硬かった。レヴィは、ガイの突然の問いに驚き、少しだけ怯んだ。

「な、なによ、ガイ! なんの話よ!? 私が何をしたっていうのよ!」

 レヴィは、いつものように高笑いで誤魔化そうとしたが、ガイの真剣な表情を見て、言葉に詰まった。彼女には、ガイが何を疑っているのか、すぐに理解できなかった。ただ、彼の声のトーンから、自分を責めているのだと感じ取った。

 ガイは、子供たちが持っている魔物カードを指差した。

「このカードだ。旧王国の魔導技術に酷似した紋様が使われている。まさか、君が子供たちに、これを実体化させる方法を教えたのか?」

 その言葉に、レヴィは目を見開いた。彼女は、ガイが自分を疑っていることに、大きなショックを受けた。自分は、ただ子供たちのいたずらで実体化した魔物を、魔法で戻しただけなのに。彼の言葉は、まるで自分の力を、軽々しく使って、騒ぎを引き起こしたとでも言われているようだった。

「バカじゃないの!? なんで私が、そんなくだらないことするっていうのよ!」

 レヴィは、怒りと、そして心に刺さった悲しみが混じり合った声で叫んだ。彼女は、これまでの苦難を乗り越え、自分の力を信じて、人々のために使おうと決意したばかりだった。それなのに、最も信頼しているガイに、疑いの目を向けられたことが、彼女の心を深く傷つけた。

 ガイもまた、レヴィの激しい反応に、一瞬戸惑った。彼女が、これほど怒るとは思っていなかったのだ。彼の言葉が、レヴィの心を傷つけてしまったことに気づき、後悔の念が押し寄せる。

「いや……そういうわけじゃ……」

 ガイが弁解しようとしたが、レヴィはもう彼の言葉を聞く耳を持たなかった。彼女は、顔を真っ赤にして、そのまま広場から走り去ってしまった。子供たちが、戸惑った顔でレヴィの背中を見送っている。

 残されたガイは、ただ呆然と立ち尽くしていた。小さな誤解が、二人の間に、大きなすれ違いを生んでしまった。王都の広場に、夕焼けが差し込み、二人の間に生まれた不穏な影を長く伸ばしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ