再会と誓約
魔導城の中枢。暴走する魔力の奔流が全てを飲み込もうとする中で、レヴィは自らの命と引き換えに、その輝く魔力を城の核へと注ぎ込んだ。轟音と共に、城の暴走はぴたりと止まる。だが、その直後、巨大な魔力の反動がレヴィの体を襲い、彼女の存在は光の粒子となって、空間の彼方へと霧散した。
「レヴィッ!!」
ガイの叫びが、崩壊寸前の魔導城に響き渡った。彼は、レヴィを追いかけて中枢へと辿り着いたが、そこで目にしたのは、光となって消えゆくレヴィの最後の姿だった。手を伸ばすも、その指先は虚空を掴むばかり。彼の心は、かつてないほどの絶望と後悔に打ちのめされた。
(また……俺は、守れなかったのか……)
魔導城は奇跡的に暴走を停止し、ゆっくりと下降を始める。王都は、かろうじて壊滅を免れた。だが、ガイの心には、レヴィを失った喪失感が、重くのしかかっていた。
魔導城の暴走は止まったものの、レヴィの行方は分からなかった。彼女の魔力反応は完全に消失し、どこを探しても見つからない。ガイは、自身の負傷も顧みず、レヴィを必死に探し続けた。王都中を駆け回り、わずかな情報でも手に入れようと奔走する。レオナルトは、レヴィの覚醒によって力を失い、拘束されたが、彼もまたレヴィの行方については何も知らなかった。
ガイの心は、絶望の淵にあった。あの決戦前夜の告白。共に未来を生きるという誓い。それが、まるで幻であったかのように、レヴィは彼の前から姿を消してしまったのだ。夜ごと、レヴィの最後の姿が脳裏に焼き付いて離れない。彼の世界から、希望の光が失われたかのように感じられた。
それから一ヶ月が過ぎた。王都の復興は進み、人々の日常も少しずつ戻り始めていた。しかし、ガイの心だけは、あの日のまま時が止まっていた。彼は、任務をこなしながらも、どこか上の空だった。レヴィのいない世界は、色彩を失った絵画のように、どこか味気なく感じられた。
そんなある日、王国の遠く離れた辺境の小さな村から、一報が届いた。
「魔導の力を持つ者が、傷を負って倒れていたと」
その報せに、ガイの胸は激しく高鳴った。彼は、その情報がもたらされた瞬間に、それがレヴィだと確信した。すぐさま、騎士団の許可を取り、その村へと駆けつけた。
村の小さな診療所。漂う消毒液の匂いと、薬草の独特な香りが混じり合う中、ベッドに横たわる、痩せ細った赤い髪の女の姿があった。その顔は、まだ血の気がなく、深い眠りについているようだったが、紛れもなくレヴィだった。
ガイは、震える手でレヴィの頬に触れた。温かい、確かに生きている感触。彼の中に、抑えきれない安堵と、激しい感情が込み上げてきた。
「レヴィ……」
ガイが、掠れた声で名を呼んだ瞬間、レヴィの瞼がゆっくりと開いた。彼女の瞳は、まだぼんやりとしていたが、ガイの姿を捉えると、微かに微笑んだ。
「……ガイ……?」
その声は、ひどく弱々しく、しかし、紛れもなくレヴィの声だった。ガイは、レヴィの手を固く握りしめた。
「レヴィ! 無事だったのか……! ずっと、ずっと探したんだぞ……っ!」
ガイの目から、大粒の涙が溢れ落ちた。それは、彼女を失った絶望の日々を乗り越え、再会できた喜びの涙だった。レヴィは、そんなガイの姿を見て、どこか悪戯っぽく笑った。その顔には、いつもの高笑いはなかったが、確かに彼女らしい、愛おしい笑みが浮かんでいた。
「フォフォフォ……なに泣いてんのよ、筋肉ダルマ……相変わらず泣き虫ね」
そう言いながらも、レヴィの瞳からも、一筋の涙が流れ落ちた。それは、再会できた喜びと、ガイが探し続けてくれたことへの、温かい感謝の涙だった。
「あんたの声が……聞こえたのよ。あの光の中で……」
レヴィは、そう言って、ガイの手をぎゅっと握り返した。彼女の体が光となって消え去ろうとしていたあの瞬間、遠くからガイの叫び声が聞こえたのだという。「レヴィ! 勝手なことをするな!」と叫んだ、彼の声が。その声が、レヴィの意識をこの世界に引き留め、奇跡的に彼女の存在を繋ぎ止めたのだ。
「だから……戻ってきたのよ……あんたのところに……」
その言葉は、レヴィにとって最大の告白だった。彼の声が、彼女を救い、この世界へと繋ぎ止めた。ガイは、レヴィの言葉に、何も言えず、ただ彼女を強く抱きしめた。温かいレヴィの体温が、ガイの全身に染み渡る。
二人の再会は、失われた希望の光が、再び世界に灯った瞬間だった。そして、彼らは、もう二度と、互いを手放さないと、深く心に誓い合ったのだった。