崩壊の城と未来の扉
レヴィの真の覚醒は、「終焉の手」のリーダー、レオナルトの計画を大きく狂わせた。彼は、レヴィの魔力を用いて「真なる封印」を解放しようとしていたが、彼女の覚醒は、その封印を別の形で起動させてしまったのだ。王都の空に浮かぶ、旧王国の巨大な「魔導城」が、不気味な唸り声を上げ始めた。城の周囲には、黒い亀裂が走り、不安定な魔力の波動が、王都全体を覆い尽くさんばかりに広がっていく。
「馬鹿な……こんなはずでは……!」
レオナルトは、焦燥に満ちた表情で魔導城を見上げていた。彼の計画は、レヴィの魔力を完全に制御し、「真なる封印」を意図した形で起動させるはずだった。しかし、レヴィの覚醒は、封印の力を暴走させ、魔導城そのものを不安定な状態に陥れてしまったのだ。魔導城から放たれる魔力の奔流は、王都の建物に無差別な破壊をもたらし、人々は再びパニックに陥っていた。
「フォフォフォ! 見てごらんなさい、レオナルト! あんたの計画は、私の覚醒で台無しよ!」
レヴィは、高笑いを響かせながら、空に浮かぶ魔導城を見上げた。彼女の瞳には、覚悟の光が宿っていた。このままでは、魔導城の暴走は止まらず、王都どころか、世界全体が崩壊しかねない。彼女の全記憶が蘇った今、魔導城の仕組み、そしてその暴走を止める唯一の方法が、レヴィには分かっていた。それは、城の中枢に、莫大な魔力を流し込み、その暴走を強制的に停止させること。だが、それは同時に、その魔力を流し込んだ者自身の存在を消滅させる、自爆行為に等しいものだった。
「この魔導城を止めるには……私が行くしかない」
レヴィは、迷いなくそう決意した。自分の力で魔王を倒し、世界を救った。そして、自分の血が、この魔導城の暴走を引き起こしたのだとすれば、その責任は、自分自身が取らなければならない。彼女は、王女クレメリア=レヴィアナ=アークラストとしての、最後の使命を果たす覚悟を決めたのだ。
「レヴィ! どこへ行く気だ!」
ガイが、レヴィの異変に気づき、叫んだ。レヴィの全身から放たれる魔力が、まるで別れを告げるかのように、周囲の空気と共鳴している。
「フォフォフォ! なによ、筋肉ダルマ! あんたも私を止める気!?」
レヴィは、高笑いで誤魔化そうとするが、その瞳は、ガイをまっすぐに見つめていた。その眼差しには、隠しきれない悲しみが宿っていた。
「私が行くしかないのよ。この魔導城の暴走を止める方法は、これしかない」
レヴィは、そう告げると、躊躇なく魔導城の内部へと飛び込んだ。彼女の体に、魔導城から放たれる暴走した魔力が容赦なく叩きつけられる。しかし、レヴィは怯まなかった。かつて、親友を失った悲しみと、自分の力を恐れていた弱き少女は、もうどこにもいなかった。彼女は、真の力を覚醒させ、世界を守るために、自らの命を賭すことを選んだのだ。
「レヴィッ!!」
ガイの叫びが、議場に響き渡った。彼は、レヴィの意図を瞬時に悟った。自爆覚悟で、魔導城の中枢へと向かったのだと。彼の脳裏には、決戦前夜に交わした言葉が鮮明に蘇る。「一緒に未来を生きたい」。その約束が、このままでは永遠に失われてしまう。
「待て、レヴィ! 勝手なことをするな!」
ガイは、評議会議員たちの制止を振り切り、魔導城の内部へと続く通路へと駆け出した。彼の足は、レヴィの後を追うように、必死に動く。全身から、騎士としての、そしてレヴィを守る者としての、強い意志が溢れ出していた。魔導城の崩壊と、レヴィの犠牲。ガイは、そのどちらも認められない。彼は、レヴィと共に生きる未来を掴むため、暴走する城の奥深くへと、必死に彼女を追いかけた。王都の空に浮かぶ魔導城は、崩壊の音を響かせながら、二人の運命を乗せて、激しく揺れ動いていた。