旧王国遺産と敵の真意
王都に広がる不穏な噂と、評議会の動きは、確実にレヴィの居場所を狭めていた。旧時代の魔導研究所跡に潜伏して数週間。レヴィは、古文書の解読を進める中で、自身の血筋と、かつて遠い地方にあったとされる旧王国との関連性を確信するに至っていた。しかし、その真実を知ったことが、新たな危機を呼び込むことになる。
ある夜、研究所跡に、不気味な気配が忍び寄った。漂う微かな土と湿気の匂いに、金属が擦れるような嫌な音が混じる。ガイは、すぐに異変を察知し、レヴィを庇うように前に出る。
「レヴィ、伏せろ!」
研究所の入り口が、轟音と共に爆破された。土煙が舞い上がる中、姿を現したのは、「終焉の手」の残党だった。彼らの目的は、レヴィの持つ旧王国の血、そしてその魔力だった。レオナルドによく似た、不気味な笑みを浮かべる男が、冷たい声で宣言する。
「ようやく見つけたぞ、旧王国の最後の血よ。お前の力は、我らの悲願を成就させるために必要だ」
彼らが狙っていたのは、魔王の封印を解くことだけではなかった。彼らは、レヴィの血と魔力を用いて、この世界に眠る「真なる封印」を解放しようとしていたのだ。その封印の先にあるものは、古文書には明確には記されていなかったが、それは魔王をも凌駕する、世界を根底から変えるほどの力、あるいは存在であると示唆されていた。
「フォフォフォ! 面白いじゃない! 私の血が、そんなに欲しいって言うなら、奪ってみなさいよ、この雑魚どもが!」
レヴィは、高笑いを響かせながら、右手に魔力を集中させる。彼女の瞳は、これまでの不安や迷いを振り払い、戦士としての鋭さを取り戻していた。隣にガイがいるという安心感が、彼女の力を最大限に引き出していた。
「レヴィ、無理はするな!」
ガイは剣を構え、襲い来る「終焉の手」の残党へと斬りかかる。キン、と金属がぶつかり合う甲高い音が響き、剣戟の嵐が吹き荒れる。ガイは、彼らの攻撃を受け流し、隙を見ては、その真意を探ろうとしていた。
レヴィの魔法は、相変わらず圧倒的な破壊力を誇っていた。だが、その中で、彼女は自身の魔力に、ある変化が起きていることに気づき始めていた。彼女が放つ「爆裂」の魔法は、ただ対象を破壊するだけでなく、その跡地に、新たな生命の萌芽、あるいは魔力の清らかな流れを生み出しているようにも感じられたのだ。
(これって……破壊だけじゃない……?)
魔物を消滅させた場所から、かすかに光るキノコが生えたり、枯れた地面から新しい草木が芽生えたりする。それは、レヴィの魔法が持つ「再生」の一面なのではないか。彼女の「破壊」の力は、世界を無に帰すだけでなく、新たな可能性を創造する力をも秘めているのではないか。
レヴィの脳裏に、ガイの言葉が蘇る。「君の魔法は、破壊じゃない。誰かを守れる力だ」。そして、「君の笑いは、この世界の希望だ」。もし、彼女の魔力が持つ「再生」の側面が真実であれば、彼女の力は、まさに「希望」そのものとなる。
「フォフォフォ! 面白いわね、私様の魔法! あんたたち、『終焉の手』とやら! 私様の真の力、お見せしてあげるわ!」
レヴィは、高笑いを響かせながら、研究所跡の奥深くへと進んだ。ガイもまた、彼女の隣に立ち、迫り来る敵を迎え撃つ。彼らの目の前には、旧王国の遺産と、世界の命運を左右する「真なる封印」が横たわっている。そして、その全てを狙う「終焉の手」との、避けられぬ戦いが、今、再び幕を開けたのだ。