王都の動乱と疑惑
魔王討伐後の束の間の平穏は、思っていたよりも早く終わりを告げた。王都の復興が進む一方で、水面下では不穏な動きが活発化していた。特に、王国評議会の一部勢力による魔導士管理強化の動きは、日増しにその圧力を強めていく。
ある日、レヴィは魔導局の上層部に呼び出された。通された部屋は、窓もない薄暗い小部屋で、普段の明るい執務室とはまるで違う。漂う埃っぽい空気が、尋問のような雰囲気を醸し出している。
「レヴィアナ・ファルメリア殿。貴殿の魔力について、いくつか質問がある」
評議会から派遣されたという文官が、冷たい声で切り出した。その背後には、騎士団の制服をまとった護衛が控えている。尋問は、レヴィの魔力の危険性、過去の暴走事例、そして魔王復活との関連性について執拗に繰り返された。彼らの言葉は、まるでレヴィが魔王復活の片棒を担いだかのような疑念を抱かせるものだった。
「フォフォフォ! なによ、今さらそんなこと聞くなんて! 私様が魔王を倒したんでしょ!? 感謝しなさいよね!」
レヴィは、いつもの高笑いで強がってみせたが、その心の中では、言いようのない不快感と、再び過去の闇に引き戻されるような恐怖が募っていた。彼女の瞳の奥には、不安の影が揺れている。この感じ、親友を失った後、皆が自分の力を恐れたあの時に似ている。
その情報は、すぐにガイの耳にも届いた。彼は、レヴィが不当な尋問を受けていると聞き、怒りに震えた。
「何を考えているんだ、あの評議会は! レヴィは、この世界を救った英雄だぞ!」
ガイは、評議会の議場へと怒鳴り込む勢いで駆けつけた。彼が所属する部隊の騎士たちが慌てて引き留めようとするが、ガイの熱い怒りは止まらない。彼は、この世界の理不尽さ、権力者の愚かさに、心の底から憤りを感じていた。
「局長! レヴィアナ様への尋問は不当です! 彼女がいなければ、この王都は今頃、魔王の支配下にありました! 英雄にこのような仕打ちをするとは、正気の沙汰ではありません!」
ガイは、エルドレッド局長に詰め寄った。彼の言葉は、正論であり、真実だった。しかし、評議会は、彼の言葉を「感情的」だと一蹴し、彼の反発は、かえって自身の政治的立場をも危うくすることになった。騎士団内でも、ガイの行動は「やりすぎだ」と囁かれ始める。彼は、孤立無援の状況に陥りつつあった。
その日の夜遅く、王都の中心部で、突如として大爆発が発生した。轟音と共に、王都の象徴である大聖堂の一部が破壊され、炎が夜空を赤く染め上げる。パニックに陥った人々が、悲鳴を上げながら逃げ惑う。あたりは、焦げ臭い匂いと、土煙が立ち込め、再び恐怖に包まれた。
「な、なんだ!?」
騎士団本部で、爆発音を聞いたガイは、すぐに現場へと駆けつけた。そこには、崩れ落ちた大聖堂の残骸と、混乱する人々の姿があった。しかし、その混乱の中、どこからともなく、囁き声が聞こえてくる。
「あれは……魔導の痕跡だ……」
「まさか……魔導姫の仕業か……?」
不穏な噂が、瞬く間に王都中に広まった。魔導の痕跡と、レヴィの圧倒的な魔力を結びつけ、彼女が爆発事件の犯人であるという濡れ衣がかけられ始めたのだ。それは、まさに「終焉の手」が仕組んだ、巧妙な罠だった。彼らは、レヴィの力を封じるため、あるいは王国の混乱に乗じてさらなる暗躍を企むため、彼女を陥れようとしていたのだ。
ガイは、その噂を聞き、血の気が引くのを感じた。レヴィを陥れるための、あまりにも卑劣な手口。彼女の立場は、絶望的なまでに追い詰められていた。
「くそっ……こんな、馬鹿なことが……!」
王都の夜空には、大聖堂の炎が赤々と燃え盛り、レヴィの運命を暗示するかのように、不吉な影を落としていた。再び、レヴィとガイの前に、試練が立ちはだかろうとしていた。