紙飛行機飛んでプールに消えた
なろうラジオ大賞6参加作品です。純文学。
ある日のこと、俺は学校の屋上で紙飛行機を飛ばしている少女に出会った。
「何してんだ?」
「何してると思う?」
まあ、イタズラな笑みを浮かべるその少女は幼馴染みの雫なんだけど。
「紙飛行機をひたすらに飛ばしてる?」
そんな雫は大量の折り紙を床に置いて、紙飛行機を折っては屋上から投げていた。
「私はね、テキサスで竜巻を起こしてるのよ」
「……?」
雫はよく分からない答えを返してきた。いつものことだ。
「ふふ。今のは、ここはブラジルじゃないぞって突っ込んでほしい所ね」
俺が首を傾げていると、雫はそう言って笑った。
雫のこういう所に追い付こうといつも頭を働かせるけど、俺はいつまでたっても雫と同じ場所に行けなかった。
「……」
まるで飛んでしまった紙飛行機をただ下から眺めることしか出来ない今の俺のよう。
「ねえ」
「んー?」
雫が紙飛行機を飛ばす。
「なんで紙飛行機ってこのまま空に消えてくれないのかしら」
投げた紙飛行機はすぐに落ちて眼下のプールに着水した。
「……雲ひとつないこんな青空に色を差すのはやめとこうって思ったんじゃない?」
遠慮がちに青のプールに色を差した紙飛行機を見て、そんなことを思った。
「ふふ。今のはなかなか良い回答だったわよ」
「!」
雫が笑う。
まだまだ遠いけど、それでも雫はいつも隣で笑ってくれる。
それでいいのかもしれない。
「ところで、貴方は何しに来たの?」
あ。
「先生に、どうせ雫だろうからお前が責任持って止めてこいって言われたんだった」
ちなみに今は授業中だ。
「んー……はい」
「ん?」
雫が紙飛行機を渡してきた。
「投げて」
「え? はい」
言われた通りに投げる。
「これで共犯だね」
「……」
そう言われる気はしていた。
「どうする?」
だから答えは用意していた。
「逃げるか」
「逃げよっ」
雫と二人で走り出す。
追い付けないけど隣にいる。
俺はまだしばらくこれでいい。
プールに浮かぶ紙飛行機のように、青空を夢見て今は青を泳ごう。
ちなみに、俺たちはこのあと途中で先生に捕まって怒れて、二人で紙飛行機を回収することになるのだが、今の俺たちはまだそれを知らない。
「観測するまでは結果は確定しないのだよ!」
「いいから走れ!」