第69話【オレンジ・インパクト①】
《8月5日 AM08:50 山王山の館・ガーデン》
ミーン…ミーン…ジビビビビビビビビビビィー…
「ごめんね…手伝ってもらって。」
ミーン…ジリジリジリジリ…
「全然大丈夫です!」
照りつける太陽、鳴り響く蝉の声、タダでさえ本土より気温の高いこの島で、2番目に空に近い場所にある館……………の、ガーデン。
この日の気温は35℃、だが体感気温はそれ以上だろう。
そんな猛暑のなかで、鶴と耐心は畑仕事に勤しんでいた。
「それにしても…すごく綺麗なお庭ですね。お花も畑もすごく手入れされてる。」
「ウフフ♡師匠の趣味なの♡」
「狼さん以外と器用ですよね。料理もガーデニングもとっても上手。」
「戦ったりするより、こういう細かい作業のほうが好きな人なの。」
「あ〜…なんか安成ちゃんと鶴お姉さん見てるとそんな感じするかも?」
「そうなの、ウフフ♡」
麦わら帽子を被って作業を続ける2人。來美と翔馬は家の中で掃除したり洗濯物を畳んだりしている。ジャッキー・シルバーは
〘せっかくの客人なのだ。ゆっくりしていたまえ。〙
と言ったが、流石に何もしないのは悪いので、家のことを手伝いたいを申し出たところ、快くOKしてくれたのだ。
「ん~…まあ…でも鶴と安成が器用なのは多分」
「多分?」
「ルリ子がチャランポランだからなのかな〜…なんて思ったり。」
「ルリ子さん?」
「そう。今だってほら。」
「ゲームしてますね…。」
「まあ…せっかく休養で帰ってきてるんだから、その辺はパパもわかってると思うケド。」
「あ〜…だから怒らないんですね。」
「結構お人好しなの。話が通じないタイプじゃないから。むしろ逆。」
「優しいですもんね狼さん。」
「ええ、とても。」
「……………あれ?」
「どうかした?」
「ルリ子お姉さんの後ろ髪…白かったかな…?」
「あ〜…アレ、超人化の副作用というか…。」
「ふくさよー?」
「うーん…なんだろう…肉体の限界を超えた変化に細胞が完全について来れてなくて、ちょっと異常をきたしてるの。ルリ子の場合は…寝起きのあと、しばらく髪の色素が抜けてたり。鶴は毎朝前髪がすごく伸びたり。」
「あ〜。だから毎朝切ってたんですね。」
「そうなの。それ以外は何ともないんだけど。」
「超人化のってことは…安成ちゃんも?」
「安成は体内循環が人より早いの。」
「たいないじゅんかん?」
「どう言ったら分かりやすいかな…あ、安成ってトイレによく行くでしょ?」
「たしかに!安成ちゃん1日何回もトイレ行きますね!」
「身体の中から要らない物を出そうとする力がすごく強いの。」
「なるほど〜……………安成ちゃん大丈夫かな…。」
「大丈夫。安成は絶対に帰ってくるよ。」
「そうですよね…うん、そうですよ!」
安成が修行のためにバッドランドへ渡り、早くも4日目。1週間経つまで帰ってこれないルールの上、安成が持って行ったのは修行専用のスマホなので、こちらから連絡を取ることはもちろん、あちらから連絡が来ることもない。ようやく修行期間が折り返しに入った親友に思いを馳せながら、鶴の畑仕事を手伝う耐心であった。
「安成ちゃんどうしてるかな……………。」
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《同時刻 バッドランドの森の中》
「……………4日目だ…。」
全身ボロボロの安成。ここまで既に6体のディストートを倒すことに成功していた。いずれも凶暴な個体で、こちらを見るなり襲いかかってきた。ドラウガスのように友好的なディストートならまだしも、そんな甘っちょろい奴は1体もいなかった。
なんとか倒して、こうして木の上で休んでいたというわけだ。両足にヒビが入るようにできた傷のほとんどは、ディストートの攻撃によってできたものでなく────
(もう使えない…ラピッドモード…。)
足に凄まじい負担をかけるラピッドモードによる物であった。毎回使ったあとに筋肉痛になるレベルの負担ではあったが、次々襲いかかるディストートを相手にほとんど連続で使わざるを得ない状況だった。
全く…おそらく師匠は五島市(上五島・福江市両方を含む)全域に目を光らせ、侵入したディストートを氷漬けにしてこの島に置いていたのだろう。
もっと言えば、"弱すぎるディストートは修行にならない"ので、弱すぎる個体はここには居ないはずだ。
「ほんと…弟子思いな人だわ…ん?」
遠くを見ていた安成。すると向こう側から何かがゆっくり近づいてくる。
ブゥゥゥゥゥン…!
(あれ…ドローン?……あ。)
向かってくるドローンを見て師匠から言われていた"あること"を思い出した安成。
(そう言えば師匠が)
〘中間日の4日目に物資を送る。〙
(って言ってたな。)
ブゥゥゥゥゥン…プシュー…!
「キャッチ。」
蓋になってる…ここを開けるのかな。
パカッ
「んなにこれ…?」
「指抜きグローブ…?と…手紙?ツル姉からだ。」
"博士とアリスと作ってみたよ。「死にたくないっ!」って思ったら使ってください。以下、使い方。
①手に装着します。
②身体に力を込めてD.B.Mをありったけ出します。
③そのD.B.Mを両手に一気に集中させます。"
「"ここぞと言う時に使え!そうじゃない場合は使うな!"ってことね…。」
それ以外のものは入っていなかった。まあ…魚は取れるしジビエはいくらでも取れるから大丈夫だけど。
とりあえず少し休みたい…連日連戦だった安成。なんとここまで全く眠っていなかった。やっとこさ戦いが落ち着いた安成は、体力を回復させるために休息を取るのであった。
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《その頃、バッドランドのどこかで─────》
〘まるで手応えがねぇ…。〙
俺は今、血に飢えている……………!
などという柄ではないが、戦いは好きだ。というか戦いに特化した身体なのだから、それしか自信を持てることがねぇ。
俺は自分が"こうなっちまう前"に何をしていたのか記憶がねぇ。おそらくはそういうデザインで作られたのだろう、頭の中を。
極稀に"覚えてるやつ"いるんだよな…そういう奴は大概、"人間だった"なんて馬鹿なこと言うがな。
俺は…いや俺たちはどうやら、人間から"ディストート"と呼ばれているらしい。まあ、他に名前らしい名前もないので、仲間たちも自分たちをそう呼ぶことにしている。
仲間たちと言ったが…仲間意識は薄い。俺だってそうだ。この島に来て、もう3人もぶっ倒した。ディストートをな…な?こんなもんだ。
俺たちディストートは強い…まあ個体差はあるが、少なくとも人間よりは手応えがある。まあここでぶっ殺した3人は弱かったが…。
ところがどっこい、この島には"もう1人"いるらしい…面白い戦いができそうなヤツがもう1人いるらしい…。そうだな"いるらしい"な。うん。
ソイツを探すか…一体どんなヤツなのやら。
次回
【オレンジ・インパクト②】




