第68話【ウルフとウルフ】
《8月3日 AM07:15 新上五島町・奈良尾港ターミナル》
ブルルルルルルルォォオン!
「よし!」
勢いよくエンジンを鳴らしたルリ子。本来は本土と上五島を繋ぐ船便はもっと遅い時間にしか存在しない…が、そこはSMOoDOのトップオブトップ。今回はプライベートサブマーリンでの入港となる。
愛車ごと帰省したのは、この島ではバスもタクシーも呼ばなければ来ないからだ。レンタカーを借りようにも、道は細いうえに草木が生い茂っている。車よりもバイクのほうが動きやすいのだ。
(鶴とは入れ違いになっちまったなぁ〜…てかアタシも久しぶりに帰省したもんで。)
バイクで港街を走るルリ子。そもそも人口の少ない島だったが、ほんの2〜3年の間でますます寂しくなってしまった。
自販機で飲み物でも買うか…休憩のために一旦バイクから降りて商店街を見て回るルリ子。カラオケ屋、焼肉屋、服屋…そのほとんどがシャッターを下ろしている。何時になっても絶対に開かないであろう、その錆びついたシャッターを見て、ルリ子は悲しくなってしまう。
(人もほとんど歩いてねぇ…あそこの店も、この前まで開いてたんだけどな。)
時は8月───。
響き渡るのは蝉の声とバイクの走る音だけだ。対向車線から車すらやってこない。逆に言えばツーリングするには持ってこいの島なのだが。
そうこうしているうちに山王山に着いてしまった。本来はバイクで走れるような道ではない森の中を進んでいく。
ここも前まではちゃんと草刈りや整理が行われていたのにな…。
なんて、自分が思ったところでどうこうなる問題ではないが。
「汗かいたな…。」
せっかくなのでインナーシャツを購入して着替えたルリ子。この暑い夏にライダースジャケットは明らかにチョイスミスだが、見た目のかっこよさを取ってしまった判断を少し後悔しながら道を急ぐのであった。
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《8月3日 AM10:30 山王山の館》
ブルルルルルルルォォオン!
館の外から勢いよくバイクのエンジン音が鳴り響く。いち早く反応したのは耐心だった。
「バイクのエンジン音ですね?」
「こんな山ん中にバイクで来るヤツなんていんの?」
不思議がる2人の正面に座っていたジャッキー・シルバーが静かな立ち上がる。
〘やれやれ…久しぶりに帰省したと思えば。〙
「ジャッキーさんどこへ?」
〘出迎えてくる…全く、今年の夏は騒がしいな。すまないがここで待っていてくれないか?〙
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実力者になると────
気配を感じ取れる範囲に入った人間の実力を把握できるという話がある。
ましてやこのジャッキー・シルバー…あのルリ子、鶴、安成を育て上げた武術家であり、"元人間の"ディストートである。気配だけではない、五感の全てを駆使すれば、大まかな強さを測ることができるのだ。
そんな男が、やってきた人物を迎え入れるため、館の扉に手をかけた。
ギィィィィィ…
「…………………よぉ。」
〘ルリ子…よく帰ったな。〙
「久々に顔見たくなってさ…へへへ。」
〘そうか…。〙
「安成と諸々も来てるだろ?」
〘安成はいないがな…。〙
「そうなの?」
〘バッドランドへ行った。〙
「へぇ…許可したのかよ。」
〘大丈夫だと判断したからな。〙
「ま、早かれ遅かれだったしな…てかそろそろ上げてくんね?腹減ったんだけど。」
〘ああ。〙
「へへへ…!」
ギィィィィィ…
「…ただいまオヤジ。元気してたか?」
〘有り余っている…元気そうだなルリ子。〙
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「おーっす…お!」
「ルリ子お姉さん!」
「よ!耐心。それと…」
「田中翔馬です。」
「そうだそうだ…安成の彼氏。」
〘そうなのか?〙
「ぜんっぜん違うッス。」
「そんな否定すんなよ…來美姉は?」
〘買い物に行った。〙
「やらせてんのかよ?」
〘まさか…自分から手伝うと申し出たのでありがたく言葉に甘えさせてもらっているだけだ。〙
「へへへ…冗談だよ。」
〘さて…鶴から色々と聞いているが、アメリカでの話をもう少し聞かせてくれないか?〙
「えー…アタシ寝たい朝早かったから。」
「アメリカ!?はいはーい!私聞きたいです!」
「安成の姉ちゃんの話は俺も聞きたい。」
〘フフフ…コチラの意見が多数だな。〙
「マジィ〜?めんどくせぇ…。」
〘この2人の目を見てみろ…お前に興味津々ではないか。子どもは未来の宝だ。ましてや知識の探求に蓋をしてならない。教えろと言われたことは…極力教えてやるべきだぞルリ子。〙
「へいへい…じゃあ何から話そうかな。」
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《2時間後───》
「アタシ英語話せないから鶴に頼ってたわ。」
「英語話せなくて大丈夫だったんですか?」
「割となんとかなったぞ?最近の外国人は日本語勉強してっからな。」
〘勉強といえばルリ子。〙
「ん?」
〘高校はどうだ?アメリカ在米中も鶴は通信制でしっかり勉強していたと言っていたが。〙
「余計なこと言いやがってあのデカパイ…!」
〘お前はどうしてた?〙
「え?アハハハ…アタシ忙しかったから色々。」
〘高校卒業認定は受けられそうか?〙
「当たり前だろアタシだってお前、分度器使えば角度くらい分からぁ。」
〘この子達もできるが?〙
「そりゃそうだ。アハハハハハ!」
〘フフフ…ハッハッハッハッハ。〙
「アハハハハハハw」
バギョオッ!
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」
〘この大馬鹿者が!学業を疎かにしてどうする!〙
「殴ったな!?可愛い娘を(泣)!」
〘昔から言い聞かせていたはずだったのに…お前たちもディストート問題を解決すれば普通の社会人として生きていくことになるのだから、ちゃんと学業には励めと!〙
「最近はコンプラとか厳しいんだぞ!女の子の…ましてや義理とは言え娘の脳天に鉄槌落としやがって!DVだ!DVウルフ!」
〘妹達を見習えこの馬鹿者!〙
「だいたい見習うっつったって…鶴なんてアイツ勉強しなくていいだろ!ノーベル賞物の脳みそじゃねぇか!なんでアイツあんな勉強できんだ!?アイツがイカれてんだよ!頭良すぎて逆に狂ってんの!あのデカチチ!余計なこと言いやがってよぉぉぉぉぉお!」
まるで普通の親子のように会話をするルリ子とジャッキー・シルバー。その様子を見ていた耐心が、ニコニコしながら翔馬に語りかける。
「フフフ…なんだか本当の親子みたい。私、パパのこと知らないからちょっと羨ましいかも。」
「そっか…母子家庭だったなオマエ。」
「うん…うち、ほら、ママも優しいし、身体も弱いからあんなに喧嘩したことなくて。」
「俺からしたらそっちが羨ましいわ…俺なんて家じゃもう居ない者扱いだから喧嘩どころかずーっと自分の部屋居るしな。」
「お父様が生きてた時は?喧嘩とかしなかったの?」
「あんましなかったかな…甘かったんだよ俺に。なんか…多分気ぃ使ってたんじゃねぇかな。俺がさ…こんな感じに大きくなってからさ…もっと色々口喧嘩とか、それこそ反抗期とか…そういうの楽しみにしてたんじゃねぇかな…多分。」
「そっか…。なんかごめんね。」
「いいよ。お互い大変だよな~…いや安成もそうだけどさ。小5で背負っていい許容範囲超えてるよな俺たち。」
「そうだね…フフフ♡」
口喧嘩を繰り広げるルリ子とジャッキー・シルバーを見つめる2人の目は少し羨ましそうだ。本当なら仲裁に入って止めるべきなのだろうが…方やSMOoDO最強のエージェント、方や最強レベルのディストートで安成たちの師匠、喧嘩をしているのは世界最強クラスの2人なので下手に止めに入ると無事に済まない可能性もあるし…あと、なんだが微笑ましくて…そんな風に思っていた時だった。
ピンポーン…!
「お?」
〘ん?〙
インターホンが鳴った。
「來美さんかな?」
「嘘だろ?15時くらいまでかかるって言ってたぜ?」
そうなのだ。上五島は店が開くのが10時くらい。車で走って買い物をしても、山王山の館に戻るとなると何時間もかかってしまう。そのくらい田舎なのである。
まるでタイミングを見計らったように鳴ったインターホン。"隙を見たり"と言ったようにルリ子が口を開く。
「客だぜ、出なくていいのかよ。」
〘……………話はまだ済んでいないぞ。〙
「へいへい…。」
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ギィィィィィ…
〘待たせてすまない…ん?〙
「戻ってきちゃった…♡」
〘鶴…。〙
「とっても賑やか…。」
〘ルリ子と…安成の客人がいる。〙
「ルリ子が?珍しい…!」
〘とりあえず上がってくれ鶴。〙
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「あら、耐心ちゃんに翔馬くん。」
「鶴お姉さん…!」
「うっす。」
「鶴ーーーーーーーッ!」
「ハーイ、ルリ子。」
「お前がちゃんと勉強するからアタシが怒られたじゃねぇか!」
早速つっかかるルリ子。もちろん、鶴には全く非はないのだが。
「お前…お前が勉強するから!」
「勉強することは偉いことでしょうに。」
「余計に頭良くなりやがってバカタレ!」
「鶴が知識をつけるのは人のためになると思っているからです。」
「すましやがってこのデカパイ!その無駄にデカい乳を力いっぱい引きちぎるぞ!」
「あらあら♡声が籠もってると思ったら、その風船みたいに大きなお尻で喋ってたのかと思っちゃった♡」
「なんだと〜〜〜〜〜〜…!」
「何かしら……………?」
喧嘩の相手を鶴に移したルリ子と、涼しい顔であしらう鶴。
今度はジャッキー・シルバーを間に挟んで座っていた耐心と翔馬が呟く。
「本当の姉妹みたい。」
「止めなくてイイんすか?」
〘いつものことだ。そのうち収まる。〙
「あの…狼さん。」
〘どうした?〙
「安成ちゃんも、あんなふうにお姉さん達と喧嘩してたんですか?」
〘いや、あの2人は安成に対して甘いからな…大抵のワガママはすんなり聞いてしまうのであまり喧嘩には発展しない。その状況に1番危機感を持ったのが何を隠そう安成本人だったからな…精神面では1番大人かもしれんな。〙
「そ…そうなんだ…安成ちゃんらしいかも…。」
〘だから君たち2人が〙
「へ?」
「お?」
〘安成にとって…そういう関係になってくれることを、私は望んでいる。〙
「あ…は、はい!」
「ふーん…。」
☆次回予告☆
バッドランドでの試練に挑む安成!
次々と襲いかかるディストートを前に苦戦していたその時、謎のドローンが現れる!?
─────次回!
第69話
【オレンジ・インパクト①】
新たなる力を掴め!
※ジャッキー・シルバーの鉄槌シーンですが、コミカルなタッチで描かれているだけで、危険度Aランクのディストートから殴られてもビクともしないルリ子が涙目になるレベルの物理的激痛なので凄まじい威力です。




