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第65話【その名はジャッキー・シルバー!】

《8月1日 AM11:00 長崎県・新上五島町・山王山の山中》


ジー!ジージージー…!

ミーン!ミンミンミーン…!


 「暑い…アンナちゃんほんとにここであってるの〜…?」


 「あってる。」


 「車どころか人もいませんね…。」


 「獣道だからね。」


 「お前…全然…キツくねぇのかよ…。」


 「これだから都会育ちは。」


 というわけで…安成達は長崎県の新上五島町に来ていた。


 安成にとっては久しぶりの帰省となる。4人の居るこの場所は、上五島で2番目に高い標高を誇る"山王山(さんのうざん)"と呼ばれる山岳。標高439mとそこまで高い山ではない…が、安成が進んでいる道はとにかく整備されておらず、車で入ることはできない。來美、耐心、翔馬の3人は安成の後をついて行く以外にルートを知らない。


 「安成ちゃん…あと…どのくらい…?」


 「タエコ大丈夫?おんぶしよっか?」


 「お…お願い…ごめんね…。」


 「登りだもんね。仕方ないよ。」


 「え…タエコちゃんズルい…。」


 「じゃあ俺がおんぶしますよ。」


 「え!悪いよショウマ君それは!」


 「危ないからやめな。あんたじゃこの山道でバランス崩しやすくなるよ。」


 「へいへい。」


 なおも進み続ける4人。本当にこの道であっているのか?そんな不安が3人の頭をよぎるが、安成は進み続ける。どうしてこんなことになったのか?遡ること5時間前────



───────────────────────────


《8月1日 AM05:50 長崎県・新上五島町・某船着場》


 「着いた。」


 「ふぁ〜…まさか船のなかで一泊することになるなんて…。」


 「タエコ初めてだったの?」


 「うん…。」


 「スゲェなお前の地元。陸海空全部使わないといけねぇ場所なんて初めてだぞ俺。」


 「家から成田空港まで車、東京から福岡空港まで飛行機、福岡から上五島までフェリー…まあ長崎空港まで飛行機使うとしても同じか。どちらにせよ本土から離れてるから。」


 「3人とも忘れ物ない〜?」


 「ライミちゃんこそ忘れ物大丈夫?」


 「言われたら不安になるから…。」


 「冗談冗談。さ、降りるよ。」


 4人は安成の地元である上五島に来ていた。先日、安成の師匠に会いに行くと決まってから、内心楽しみにしていた來美と耐心、そして翔馬は、その移動の大変さに驚いたわけだが……。


 「ちなみにここから歩きだからね。」


 「とりあえず飯くおうぜ…俺腹減ったわ。」


 「何言ってんのこんな時間から空いてる店なんてないよ。」


 「は?」


 「え?アンナちゃんあのハンバーガーとかコーヒーとかでも良いんだよ?」


 「この島に全国チェーンの飲食店はない。」


 「安成ちゃんコンビニは…?」


 「あるけど24時間営業じゃないから閉まってる。まあ食べ物には困らないと思うよ。」


 「なんでだよ。」


 「道中にたくさんあるから。」


───────────────────────────


 そして現在に至る。


 「しっかし…本当に食べ物に困んないとは…。」


 そう。翔馬の言う通り、食べ物には困らなかった…理由は明白、山の中にあるからだ。


 「私、野生の果物とか初めて食べたかも…。」


 「アンナちゃん大丈夫だよね?お腹壊したりしないよね?」


 「しないよ。多分。」


 キノコや木の実、野草を見つけてきては、「これ食えるから。」「これ美味しいから。」と安成に言われるがままに、簡易調理キットで軽く調理して口に入れてきたが…不思議と不味いものは1つもなかった。中には高級な野草なども含まれており目が飛び出そうになりつつも、こうして山の中を進んでいるわけである。


 「タエコ大丈夫?」


 「うん。ごめんねこんなとこでも足引っ張って…。」


 「大丈夫大丈夫。2人とも〜もうすぐ広いとこに出るから休憩にしよっか。」


 「本当〜?っていうか…なんか寒くない?」


 「俺も思った…今8月だよな?」


 「安成ちゃん…。」


 「"この辺じゃ"普通だよ。休もうか。」


───────────────────────────


 「私上着着ようかな…。」


 「タエコちゃん上着持ってきたの?」


 「安成ちゃんが持ってきたほうがいいって。」


 「マジかよ。俺も言われたけど持ってこなかったわ。」


 「私も。」


 「安成ちゃんはまた食べられるもの探しに行きましたね…。」


 「まあアイツなら大丈夫だろ…多分…。」


 「私はちょっと…座るね。2人は?」


 「俺も休も。」


 「あ…トイレ行ってきます。」


 「ついていこっか?」


 「大丈夫です!そんなに離れないので。」


 「蛇とか気をつけろよ。」


 「うん。」


 もよおした耐心が森の中に入っていく。しかし不思議なものだ。8月というのに少し肌寒い。この辺ではこれが普通だと安成は言っていたが…それにしたって不自然だろう。というか普通に不自然だ。


 用を足して急いで休憩地点に戻る耐心。しかし、元来た道が分からなくなってしまった。


 (ど…どうしよう…!)


 戻っていると思っていたら別のルートに来てしまったらしい。今自分がどこにいるか分からない。


 その時だった─────。



───────────────────────────


 キャー!


 「え!?タエコちゃんの声!?」


 「迷ってんじゃないすか!?」


 「遅いと思ったら別のルートに行ったのか…ていうかなんで1人で行かせたのライミちゃん。」


 「すみません…。」


 「まあ声が聞こえた以上、そこまで遠くなさそうだし…聞こえたのはあっちのほうかな。」


 耐心の声が聞こえたほうに歩いていく3人。安成の言う通り、さほど離れていなかったのか耐心のことはすぐに見つかった。


 耐心は立ち尽くしていた。目の前に広がる光景があまりにも信じられないものだったからだ。それを見た來美と翔馬もフリーズ。


 「なにこれ!?」


 「あ…安成ちゃーん…!」


 「おいおい…!」


 挿絵(By みてみん)


 「凍ってる!?真夏の山の中で!?」


 そこには氷漬けにされた巨大なディストートがいた!


 「………師匠か…。」


 ポツリと呟く安成。振り向いて3人に言う。


 「もうすぐ着くよ。」


───────────────────────────


 「見えた見えた。」


 氷漬けのディストートを見つけたあと、山道を少し進んだ先で安成が立ち止まる。その指さした方向を見た3人は思わず息を呑んだ。


 「御屋敷…!?」


 「こんな山のなかに!」


 「スゲェ…!」


 「おー…結構久しぶり。」


 大きな扉をゆっくりと開ける安成。後ろについて行く3人。これだけ広い屋敷だ。その家主を探すのも一苦労だろう…そう思っていたが、尋ね人は大広間の中心に仁王立ちしていた。

 

 「ただいま。」


 〘よく帰ったな安成。そしてようこそ…その友人たちよ。心より歓迎するぞ。〙


 声の主の姿を見た3人が仰天する。安成の師匠…一体どのような人物なのだろうと各々が想像していたが…実際に目の前に現れた人物はその予想をどれも覆した。






 挿絵(By みてみん)







 「「「 ディストート!? 」」」


 〘言ってなかったのか?〙


 「言ってなかったかも。」


 〘ならば驚いても仕方あるまい…とにかく、東京からここへは長旅で疲れただろう。中で休むといい。〙


───────────────────────────


 〘改めて。私はジャッキー・シルバー。君たちにわかりやすく言えば"ニホンオオカミ:ディストート"だな。ルリ子、鶴、安成の師匠…兼保護者だ。〙


 案内された部屋は普通のリビングだった。


 「改装したの?」


 〘このほうが落ち着くと言われてな。〙


 「誰に?」


 〘鶴だ。〙


 普通に会話を進める2人の間に割ってはいるように來美が口を開く。


 「えーっと…。」


 〘ん?〙


 「お2人はどのような縁で…?」


 〘ルリ子、鶴、安成の親は私の知人でね…各々に理由(ワケ)あって引き取った。〙


 「私は自分の親のことは知らないけどね。」


 「へ…へぇ〜そうなんですねぇ…。」


 〘そんなに緊張しなくても良い…君たち2人もだ。〙


 「ビビってんだよ師匠に。」


 〘安成には君たちのような友達が何人かいると聞いている…。〙


 「ひゃい!」


 「う…うっす…!」


 〘3人の弟子のなかで…最も人付き合いが下手な末の娘だ。そんな安成と仲良くしてくれてありがとう…私からも礼を言わせてくれ。〙


 「「 は…はい! 」」


 「コミュ障って言われたんだけど。」


 〘実際そうだろう。〙


 「ひど。」


 まるで親子のように普通に会話をする安成とジャッキー・シルバー。3人の目から見れば異様な光景だ。当たり前だろう。SMOoDOからすればディストートは基本的に討伐対象である。あまり他のエージェントをみたことがないのだが、特に安成はその傾向が強いように感じている3人にとって、安成が自分たちよりも距離の近い関係を結んでいるディストートの存在を未だ受け止めきれていなかった。


 〘ディストートがいると聞いていたが?〙


 「ドラウガスのこと?」


 〘来ていないのか?〙


 「鳥ちゃんのところで修行してる。」


 〘そうか…。〙


 「あのー…。」


 〘どうした?安成のアシスタント。〙


 「あ…(さむ)來美(らいみ)です。」


 〘そうか…來美よ。どうした。〙


 「あの…えーっと一応私たちその〜SMOoDOの…」


 〘関係者だな。安心しろ。組織は私の存在を知っている。むしろSMOoDOという組織を作るにあたってその当事者の1人となった者が何人かいるが…私はそのうちの1人だ。〙


 「「「 え!? 」」」


 〘言ってなかったのか?〙


 「言ってなかった。」


 〘デジャヴだな。〙


 「そそそそーなんですか!?」


 〘そうだ。Ωランクエージェントの面々も全員と面識がある。〙


 「組織には何人かディストートが所属してるんだけど…本来討伐対象の怪人たちが組織に居られるのは一重に師匠のメンツがあるからだしねー。」


 〘それは違うぞ安成。同じディストートでも彼らが組織にいられるのは…それぞれのやり方で人間と丁度いい距離を保っているからだ。〙


 「ふーん。」


 「ちょっと良いっすか?」


 〘どうした銀髪の少年。〙


 「ここに来る途中にカチカチに凍ったバケモン見たんすけど。」


 〘ああ…安心してくれ。私が解凍しない限り動き出すことはない。〙


 「あれってどうやったんすか?」


 〘私の腕は絶対零度だ。容易い。〙


 「なんすかそれ…。」


 〘私がこの姿になった時にはこの力が使えていた…だがファンタジーの代物ではない…人類の科学力を大幅に超えた技術の1つだ。そうした頭脳を持つ何者かによって我々ディストートは作られているらしい。〙


 「それって誰なの?」


 〘私も知らん。〙


 「ふーん。」


 〘時に安成。〙


 「ん?」


 〘弱くなったな。〙


 「は?」


 〘目の下に薄い(くま)ができているな…しっかりと睡眠をとれていない証拠だ。少々肌荒れが見えるな…便秘気味だろう。気配の隠し方が雑になっているぞ…もっと周囲に気を配れ。背は伸びているのに体重は減っているな?育ち盛りなのに良くないことだ。それに伴って筋肉量が減っているぞ…トレーニングを怠っているな?〙


 次々とダメだしするジャッキー・シルバーに驚愕する來美。


 (それだけでそんなに分かるの!?たった少しだけお話しただけなのに…!?)


 〘しばらく会わないうちに随分と実力を落としたな…全く。〙


 安成は無言だ。図星なのだろう。互いに見つめ合うのみで一気に張り詰めた空気…誰も何も言わない空気を変えたのは────


 「あ…あの!」


 忍耐心であった。


 〘どうしたのかね?〙


 「私お腹減っちゃった…ので!ご飯…ご飯にしませんか!?」


 〘………そうだな。せっかくの客人だ…空気を悪くして済まない。夕飯は私が作ろう。安成、手伝ってくれ。〙


 「う…うん。」


 なんとか収まったようだ…台所へ向かうジャッキー・シルバー。準備の手伝いをするために立ち上がった安成は、耐心の方を一瞬振り返って思った。


 (タエコ…あんたがついてきてくれて本当よかった。)





















☆次回予告☆


 "弱くなった"───数々の戦いを経てレベルアップしたはずの安成に向けられたその言葉の真意は!?


─────次回!


 第66話


 【安成と師匠】


 最強の男の真意とは!?

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