第61話【上から読んでも……!】
《7月20日(土) PM20:15 新宿区 某公園》
「夜になっちゃった。」
隣でそう呟くライミちゃん。彼女の言う通り、歌舞伎町全域に飛ばしたドローン達から目立った情報や手がかりは得られず、結局こんな時間になってしまった。
「もしかしてディストートじゃなくて、人間の通り魔の犯行…とか?」
タエコが言う。
うーん…確かに僅かながらその可能性も捨てきれなくなってきたぞ。
と言うのも、タエコが言ったようなパターンで捜査が終わる任務も、組織全体を見れば少なくはないのだ。原因不明の行方不明事件や殺人事件を追っていった結果、犯人はディストートではなくてただの人間でした…という事例は稀に起こるらしい。
もちろん、それはそれで犯人をしっかりと捕まえて警察に引き渡すのだが。
「こんなん貰ったから使おうと思ったけど……今回は出番無しか。」
そう言って私が取り出したのは、メカメカしい2丁の銃だった。SF作品に出てくるような見た目で、良くできたリアルな玩具だと言われても違和感はない。
「アンナちゃん…それ何?」
「ライミちゃん知らないの?これD.B.Mシューター。ここの持ち手の所にD.B.Mバッテリーを入れて、引き金を引いたらD.B.Mエネルギー弾が発射される武器。SMOoDOのエージェント全員に支給される基本装備。」
パカッ
スチャ……ガチャンッ
キュイィィィィィィイン…………!
バッテリーを装着してライミちゃんとタエコに1つずつ渡す。
「空に向かって撃ってみ?」
「そんな物騒n」
ズヒュキュンッ!
「うわッ!タエコちゃん……?」
「なんの躊躇もなく打ったねアンタ。」
「だって安成ちゃんが撃ってみろって言ったから……。」
「ちょいちょい心の闇が見えんの怖いよアンタ。」
赤い光が凄いスピードで空高く打ち上がる。そして一瞬にして星空に消えた。
「射程距離は50mくらいね。それ以上離れると効果薄れるから。」
「りょ、了解……タエコちゃんも気をつけてね。」
「ちなみに翔馬は先に私ん家に返しました。」
「アンナちゃんは誰に話しかけてるの?」
「何かあったらそれ使いながらタエコと逃げてね。」
「えぇ……。」
「わかった。コレでディストートを撃ち殺せばいいんだね?」
「なnどうしたの耐心。」
タエコさんの心の闇を感じつつ、公園の林の中で2人に護身用の武器を持たせる。なんでこんな場所にいるかというと、昼間に飛ばしたドローンを回収するためだ。自動飛行でちゃんと全機戻ってくるのだが、一般人に見られると流石にまずいからね。
「思い返せば…最後の被害者が襲われたのがこの公園の近くだったっけ。」
「そうだけど特別変なことは起こらずかぁ。もう20時過ぎだし、今日は帰ろっか。タエコちゃん、お片付け手伝ってくれる?」
「はい!」
7月といえど、流石にこの時間はもう星空が広がっている。夜も暑いしお腹減ったし、とりあえず何台かドローンを飛ばして今日は退散することに。
「あとは翔馬が私たちの私物とか漁ってないかどうかだね。」
「だ…大丈夫だよ多分…。」
トゥントゥントゥン…
「STOP2人とも。」
「え?」
「安成ちゃん?」
トゥントゥントゥントゥン…
「なんか聞こえる…。」
トゥントゥントゥントゥン……
「これって……!」 トゥントゥン…トゥントゥントゥントゥン…
「あ、安成ちゃん…來美さん…。」
トゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥン……
「2人とも下がって…お出ましだよ。」
トゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥン…………トゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥン!!!
木の棒で何かを叩く音が夜の街に響く……報告にあった特徴にそっくりだ。だんだん音の間隔が短くなるにつれて、辺りの空気が凍りつくように冷たくなる。
トゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥン!!!
徐々に近づいてくる音。それに合わせて2人を後ろに下げる。
バサバサッ!
バサバサバサバサバサバサバサバサッ!
「(羽音!?)」
夜の公園に響き渡る大きな羽ばたきの音色…近づいてくる気配をいち早く察知して見上げた星空から、私たちの目の前に何かが猛スピードで降りてくる!
ヒュドッ
シュドンッ!
「(何だコイツ…。)」
目の前に着地したディストートは、長い鋭利な脚爪を地面にしっかりと食い込ませ、ドッシリと2つの脚で立っている。
〘………………………………………………。〙
コチラを黙って見つめるディストート……互いに目は合っているが、マネキンのように固まって動かない。これまで出会ったどの怪人よりも、冷たくて…感情の無い眼差しでコチラに視線を向けている。
「あ…安成ちゃん…。」
「撃っちゃダメだよタエコ……ライミちゃん、絶対に視線を逸らしちゃダメ。」
「わかってる……アンナちゃんのタイミングに従うからね。」
これまでの…ディストートとは雰囲気が違う。『私達のことを食べてやる!』とか『こいつらぶっ殺してやる!』とか……そういう目的を感じない。本当に知性のない…それこそ機械みたいな…いや、上層部曰くアニマトロニクスらしいんだけど…それにしたって…これまで出会った中で1番恐ろしい目だ。
〘…………………………………………。〙
手に持ってるのは…なんだ?木の棒…と言うか太い枝をそのまま折って握っているような…そんな感じだ。
すると、目の前のディストートが急に木の棒を口元に運んだかと思えば────────。
トゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥン!!!
ものすごい勢いで突っつき始めた!
「あ…アンナちゃんあれって……。」
「なるほど音の正体はアレか。」
凄まじい速さで木の棒を嘴で突っつきながら形を整えていく。みるみるうちに鋭い槍のような形になっていく木の棒……それをディストートが真っ直ぐ持ちかえたかと思うと、握った腕を少し後ろに引く。
「(なにを)」
ドヒュンッ
「!?」
次の瞬間、小手先だけの力で手に握っていた槍を放つディストート!
「はぁっ!」
飛んできた槍を瞬時に蹴りで粉砕する!
ガシッ!
〘………………。〙
「しまった!」
槍の処理に気を取られた私の足を、いつの間にか間合いを詰めていたディストートが掴む!
そしてそのまま、勢い良く天高く飛び上がった!
「(コイツ………!)」
「安成ちゃぁぁぁあーーーーーんッッッ!」
「タエコちゃん!離れるよ!」
「でも安成ちゃんがッッッ!」
「大丈夫!むしろここに居たらアンナちゃんの邪魔になっちゃうから!アンナちゃんがアイツを捕まえてる間に早く!」
「え?捕まえてるって……安成ちゃんが捕まっちゃったんですよ!」
「ううん……アンナちゃんは……!」
───────────────────────────
《上空》
ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!
「(あれスカイツリーだ……ってことは上空600mくらい?)」
槍を蹴り上げた右足を掴まれ、そのまま天高く舞い上がる私とディストート。空は満天の星空、下に目を移す(体勢的には上を見上げてるってのが正しいか)と、東京の街が綺麗な夜景を作っている。
「ねぇ〜アンタ。」
私の足を掴んだまま、無言で飛んでいるディストートに向かって話しかける。
〘…………………………。〙
「結構高く飛んでるけど、このあと私どーなるの?」
〘………………………………。〙
「おーい。」
〘………………………………。〙
「無視ですか……まあ良いや。まず1つ、アンタは私のこと捕まえたつもりなんだろーけど、真っ先に分かりやすく動いたアタシに向かってくるように私が誘導したんですよって言っとくから。」
〘………………………………。〙
「2人が逃げる時間を稼ぐためにね。それと2つ…。」
〘………………………………。〙
「捕まってるのはアンタね。このキツツキ野郎。」
言い終わると同時に、掴まれていた足とフリー状態の左足を絡ませて、ディストートの太い腕に関節を極める!
〘…………………………!?〙
「そうそう………私、一般人じゃないからね!いくらアンタと言えどフルパワーで締め上げれば……結構痛いんじゃない!?」
〘…………………………………!〙
力強く締め上げていく腕と、絡みついた私を見つめるディストート。そのまま続いていた上昇が止まったのは、スカイツリーよりもはるかに高い……上空1000mくらいの場所だった。
「ずいぶん高いところまで連れてきてくれたんだ……命綱も無しに…酷いことするね。」
〘………………………………。〙
「さて……これから私g」 ブヒュンッ
キュインッ
「(投げやがった。)」
決めゼリフを言い終わらないうちに、思いっきり力を込めて地面に向かって私を振りほどいたらしい。とてつもない勢いで、真下にぶん投げられた私の身体は、上空1000mの高さから、ミサイルのように一直線に落ちていく……いや、これもう落ちるっていうか、突撃してるって言い方が正しいか。
視界にとらえた光景、街から離れた場所にある小さな山がコチラに向かってくる。
まあ、向かっていってるのは私の方なんだけどね。
キュインッ
キュボォォォォォォォォォォォォォォォォオーーーーーーーーーーーーーーンンンンンッッッッッ!!!!!
凄まじい勢いで地面に衝突し、あたりに大きな音が響き渡る。土と砂が舞い上がり、衝撃で周りの木々が倒れて吹っ飛ぶ。
全く…私が常人なら死んでる…どころか跡形もなく飛び散ってたところだぞ。
全身が痛いけど。
「あ〜…もう…。」
自分の体で作ったクレーターの中からゆっくり起き上がる。睨みつけた空の彼方から、キツツキ:ディストートがもの凄いスピードでこちらに飛んでくるのが見えた。
「やれやれ……最近はディストートが強くなってる気がするとかなんとかルリ姉が言ってたっけ…。」
スマホを構える。流石は博士の特性品。あの高さから落ちても、まだ使えるらしい。
"SELECT NORMAL"
"DISTORT BRAKE MATERIAL"
"COLOR RED LET'S GO"
「変身。」
"NORMAL MODE"
「さて…!」
突っ込んでくる敵に向かって構える。
コイツはここで絶対に倒す!
そう決心した私は、ディストートを迎え撃つために地面を蹴った!
☆次回予告☆
強力なキツツキ:ディストートの前に苦戦を強いられる安成!
その時、再びアイツがやってくる!
────次回!
第62話
【季節外れの紅葉!】
ぶちかませ!必殺の一撃!




