第57話【You're All Need to Get by】
《7月10日(木) AM09:55 SMOoDO本部・総司令室》
「改めて礼を言うぞ諸君!此度の小旅、誠に良くやってくれた!」
「うわ…。」
「しばくぞ。」
「ポイ帰る。」
「身に余る評価でござる!」
「………………………?」
改めて本部に招集された任務メンバー。5人の目の前で、総司令席に座っている轟木総司令官が笑いながら褒める。
「まずはルリ子君。君にこの任務を任せて本当に良かったぞ。流石は組織最強のエージェントといったところだな!」
「言っとっけど、アタシあんまり上に立って指示すんのとか得意じゃねぇからな?」
「紫葡君。復路での活躍は耳にしている。今回の任務において襲いかかってきたディストート達は、君がいなければ大きな被害が出ていただろう。改めて礼を言う。ありがとう。」
「成功報酬覚えてる〜?約束通り自宅にドリンクバー設置してね〜?」
自宅にドリンクバー!?
ポイちゃんそんな報酬で今回の任務受けたのか……やはりドリンクバー、ドリンクバーは多くの人達の命を救った。流石ドリンクバーだ。
「影狼!やはり君は優秀なエージェントだな!先日Aランクに昇格したばかりだが…今回の任務での活躍を協議にかけ、Sランクに昇格させようと考えている!」
おっちゃんの言葉を聞いて全員で影狼の方を見る。凄まじい出世コースを駆け抜けている現代の忍者…だが、昔から影狼のことを知っている私とルリ姉に関しては全く異論はない。
「やったじゃん影狼。アンタの実力なら私達は納得。」
「やったな影狼!腑抜けた他のSランクの奴らにも良い刺激になるぜ!」
影狼をみんなで褒めちぎる。が、私たちに優しく微笑んだ影狼が、右手を軽く顔の高さまで上げたかと思うと……
「それに関してはもう少し答えを待って頂きとう御座る。拙者もまだまだ未熟。折角Aランクに昇格したのだから…夜虎と共に、Aランクとして経験を積みとう御座る!それに、たった1回の任務で一気にSランクにまで上り詰めることを、他のエージェント達は納得せぬで御座ろう。」
落ち着いて話す影狼。
自分の経験不足と他のエージェントたちへの気づかいが見える立派な理由だ。
だけど本心は、夜虎ちゃんの負担を増やさないためだろうな。
「………わかった。しかし、今回の任務の功績は残り続ける。君自身が納得の行くタイミングになったら、いつでも声をかけてくれたまえ。」
「御意!」
元気よく返事をした影狼の目を真っ直ぐに見つめて、轟木のおっちゃんが頷く。
そして雪蘭に目を移す。
「雪蘭。」
「…………はい…。」
「正直……今回の任務が始まる前の段階では、君のことは名前も知らなかった。いや、エージェント試験の合格者挨拶の際に顔は合わせていたのだろうが…正直忘れていた。」
「………………はい……。」
「だが…今回の任務で先陣を切ってディストートと戦ったのは君だと聞いた。あのまま新幹線で九州に向かっていれば、多くの被害が出ていただろう。この任務の流れは君が作ったと言っても過言ではない。そして名古屋での戦い…影狼と君がいなければ、横にいる安成は死んでいただろう……君の勇気と行動に最大限の敬意を表する。ありがとう。よくやった。」
「…………………はい…!」
「今回の任務だが、国から特別報酬が出る。そして実家の道場のリフォームと、今後SMOoDOのエージェントの剣術道場として、君の御実家に声を掛けさせて頂いた。」
「……………!」
おっちゃんの言葉を聞いた雪蘭が目を輝かせる。
そう言えば、この子がエージェントになったのは実家の道場を守るためだったっけ…良かった良かった、これにて一件落着だ。
「そして安成ちゃん!」
「ほーい。」
「お兄ちゃんとお姉ちゃん達とおでかけできて楽しかったかな?」
「ナメんな。」
「冗談だ。今回の任務はどうだったかな?」
「ん。成長できたと思うよ。今までにない強さのディストート達との戦闘経験は今後に活かせると思う。それと……誰もかれもさ…倒すんじゃなくて…共存もできないかなってさ…そうやってやるのがさ…やっぱり1番だって思ったよ。」
「そうか………その答えが聞けて良かった。そんな心がまた1人のディストートを組織に引き入れた。あの宝石のディストートの事d」
「昨日ルリ姉とツル姉から聞いたよ。」
「わかりました。」
テンション下がんな!この国を守る組織のトップがこんなことで!
「さて………それでは影狼、君はこの後は。」
「うむ。すぐに別の任務に向かうで御座る!」
「え?影狼もう次の任務行くの?」
「うむ。夜虎も待っているでござる。安成殿、そして皆の衆、此度の任務、御一緒できて至極光栄でござった!では!」
気さくな挨拶をして、普通に部屋を後にした影狼。扉が閉じるまで、私達の方をしっかりと見つめていた影狼。オケラ:ディストートの1件では本当に大活躍…本当に頼りになる男だ。
すると、おっちゃんが口を開く。
「さて、君たち残った4人だが。」
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《その頃、SMOoDO本部内………》
「アンナちゃんどこだろ……この建物大きいから、タエコちゃん大丈夫?疲れてない?」
「はい!ここに来るのは2回目ですけど……やっぱり緊張しますね…いろんな人たちから見られる…。」
「アハハ……アンナちゃんと一緒だから感覚おかしくなるけど、本当は子どもが関われる仕事じゃないからね……。」
談笑しながら本部の廊下を歩くライミとタエコ。2人はアンナの付き添いでやってきたのだが、総司令室に入って良いのはエージェントたちだけであったため、暇潰しに本部の中を見て回っていたのだ。
「夜虎さんも元気そうで良かったですね!」
「影狼君と次の任務に行っちゃったね…忍者の体力凄い…。」
ドンッ
「來美さん!前!」
「へ?んキャ!?」
「おっと。」
クルッ
ストン
話に夢中で前が見えていなかったライミが、前からやってきた男にぶつかった………が、男が空中でライミを一回転させたかと思うと、何事もなかったようにその場に優しく下ろす。
「失礼…前が見えていなかった。大丈夫かい?お嬢さん。」
「へ?あ、はひ!」
「君も大丈夫かい?」
「はい。あの、今のどうやったんですか?來美さんがクルッて………。」
キョトーンとする2人に対して、男が優しく微笑みながら答える。
「君たちを怪我させまいと考えて動いた…それだけだ。それじゃあ、僕はこれで。」
そしてその場から歩いていく男。その姿を2人はずっと見つめていた。
「外国人さんですね……2m近くありましたよ身長。筋肉質だし、俳優さんみたいでカッコよかったです!」
「………………………。」
「あの人もエージェントさんですかね?」
「………………………。」
「來美さん?おーい。」
「へ!?あ、うん。あの人もエージェント…さんなのかな?/////」
「(あ………女の子の顔だ)」
去っていく男の横顔を見つめる來美。そんな彼女を見て、耐心はニヤニヤしていた。
「(なるほど……彼女たちがアンナのアシスタントとその友人か。真っ直ぐで優しい瞳をしていた…彼女たちと一緒なら、アンナも大丈夫だろう。)」
ライミとタエコの方を振り向いて、再び優しく微笑む男。そして上へと続く階段を登っていくのであった。
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《再び総司令室………》
「……………なんて?」
「言った通りだよ安成ちゃん。この場に残って良いのは君たち3人だけだ。雪蘭には速やかに退室してもらう。」
「なんで?雪蘭も次の任務に行くの?」
「違う……これから見るUSBの中身を…彼女に知る権利はない。」
「いやいや、何言ってんの?今回の任務は雪蘭も一緒に行ったんだよ?十分に雪蘭にだって見る権利はあるよ。」
「………悪いが、こればっかりは安成ちゃんの頼みでも許可することはできない。雪蘭、退室してくれ。」
「雪蘭、出ていかなくていいよ。ここに居な。」
「ダメだ。退室してもらう。」
「それがダメ。」
激しく睨み合う安成と轟木総司令官。2人の間を切り裂くように、ルリ子が口を挟む。
「………安成。オマエの気持ちはわかる。アタシだって雪蘭にもUSBの中身を見る権利はあると思ってるさ。だけどな、それだけじゃ解決しない複雑な理由があるだよ…特に国と組織にはな。」
「ルリ姉本気なの?今このUSBがここにあるのは雪蘭が居てくれたからだよ。雪蘭がいなかったら、私は名古屋で……今ここに立ってない。」
すると今度は紫葡が口を開く。
「……安成ちゃんあのね?1人のわがままじゃ組織は動かないの。ポイだって雪ちゃんのことは大好き。感謝もしてるけど…これは大切なことなの。」
「ポイちゃんでしょ?今回の任務に雪蘭を連れてこさせたの。じゃあ責任持って一緒に説得してよ。」
「してるよ。安成ちゃんを説得してる。」
「ふざけないでよ!」
声を荒げる安成。ディストート相手にしか見せないような怒りの表情を、歳上の者達に向ける。
「雪蘭…アンタも何か言いなよ。」
「……………はい……。」
静かに返事をした雪蘭。クルッと安成達に背を向けて、部屋を出ようとする。
「ちょっと!なんでそんな素直なわけ!?」
「……命令だから………。」
「命令だからって…アンタUSB取りに行ったんでしょ!?命かけたんでしょ!?」
「…そう……それで…任務は完了……任務が終わったら…帰る…。」
「いや…違う違う……それは違うじゃん!影狼みたいに次の任務に行くってんならまだしも…アンタ…シンプルにハブられるんだよ!?馬鹿にされてると思わないわけ!?」
「……思わない……雪蘭…帰る……。」
「雪蘭!」
「…晴家安成……どいて……。」
「ちょっと…!」
そのまま部屋を出る雪蘭。雪蘭が出ていったドアと、3人の組織のトップを交互にしばらく見て、安成は────
「…………雪蘭ってば!」
雪蘭を追って、ドアを勢い良く開けて退室したのであった。
「あ~あ。行っちまった…。」
肩をすくめて呟くルリ子を見て、紫葡がニヤニヤしながら言う。
「ルリ子お姉様は最初からこうなるってわかってたんじゃないですか〜?」
「…どうかな。」
安成が出ていったドアを見つめる3人。すると、再びドアが開く。
入ってきたのは、数人の男女だった。
「待っていたぞ諸君!」
轟木総司令官の歓迎を意に介さず、白髪の男が口を開く。
「お嬢が走って出ていきましたけど、何かあったんスか?」
「…反抗期だよ。久しぶりだな又三郎君。」
【SMOoDO組織内最高戦力・Ωランクエージェント・風野又三郎】
「反抗期!お嬢もついに大人の階段を登りだしたんスねぇ。」
腕を組みながら頷く優男。その後ろからネクタイを正しながら、スーツ姿の男が登場する。
「さっさと座れ。我々は遊びに来たのではない。」
「クサカベちゃんは硬いっすねぇ…そんなんだからモテないんすよ?」
「女性にモテてこの国と国民の皆様を守れるのか?」
【SMOoDO組織内最高戦力・Ωランクエージェント・日下部時定】
「時定ちゃ〜ん。おじいちゃんに、消費税は下げて給料は上げてって伝えてくれた〜?」
「悪いな桃霧。祖父は裸の総理大臣だ。自分に都合のいい声しか聞こえていない。」
「ちぇ〜…。」
ソファに腰掛ける日下部時定。それに紫葡と又三郎が続く。
「反抗期の安成ちゃん……嗚呼!なんて美しいんだろう……まるでオーストラリアのグレートバリアリーフ…いや、モネの池ですら敵わないよ!」
【SMOoDO組織内最高戦力・Ωランクエージェント・アリス(?)】
安成を褒めちぎりながら入ってきた人物に、ルリ子が声を掛ける。
「………あの光線銃作ったのオマエだろ?アリス。」
「そうさ!僕が作ったと言ったら安成ちゃんは受け取ってくれないからね。だけど共同開発なのは本当さ。【ツルリアン・ブラスター】と言う名前だって、考え出したのはツルお姉様さ。だからツルお姉様は嘘はついていないよ!」
後ろから入ってきた鶴に笑いかけながらアリスと呼ばれる人物が熱弁する。
「まあまあルリ子……結果としてアンナは助かったんだし……アリスも嘘はついてないし…ね?」
「全く……けどまぁ、今回は素直に感謝するよ。ありがとなアリス。あとアタシとツルのこと『お姉様』って呼ぶな。」
ルリ子、鶴、アリスの3人もソファに腰掛ける。
そして─────!
「……総司令官、ただいま戻りました。」
「ご苦労キャプテン……今宵のアメリカでの活躍はニュースで見た。」
「ディストートを相手に戦う組織のトップが、国内に居らず申し訳ございません。」
「良いんだ。君のやったことは正しい……人類の敵はディストートだけではないからな。テロから守られた人々も君に感謝しているだろう。今や君は、アメリカの平和の象徴だからな。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「目が1つラインだな……非戦闘モードか。」
「はい…ここに来る途中で火災現場で救助を。人々の身の安全が第一ですから。人命救助の場で戦闘モードだと、うっかり攻撃が出て2次被害が出てしまう可能性がありましたので。」
「君がそんな初歩的なミスをすることなどあり得ん話だが……うむ!人命救助、御苦労だった!」
自分に向かって敬礼をする轟木総司令官。それに応えるように敬礼を返す男……パワードスーツを身にまとったスーパーヒーローが、そこには居た。
【SMOoDO組織内最高戦力・Ωランクエージェント兼SMOoDO内全エージェント総指揮隊長・CAPTAIN:SMOoDO】
「うむ。全員揃ったな!」
「いえ、総司令官…アンナと轟雷王…イーグルがまだ。」
「イーグルに関しては今日はこれないと連絡があった。轟雷王には後ほど霞留博士を通じてインプットを。安成ちゃんは…フフフ。青春だよ。」
「………青春ですか。」
すると横に座っていたルリ子がキャプテンに声を掛ける。
「そう言うこった。早く見ようぜ?USB。っとその前に。」
スマホで音楽を流しだしたルリ子。
「ルリ子ちゃん、その曲なに〜?」
「覚えとけ紫葡。アレサ・フランクリンだぜ。」
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《SMOoDO本部内・エントランス》
「雪蘭……ちょっと…!」
走って雪蘭に追いついた安成。そんな安成の方を向いて、雪蘭が口を開く。
「……なんで…追ってきたの…?」
「なんでって…アンタだって今回の任務の…!」
ため息をつきながら雪蘭が答える。
「…私…組織のエージェント……総司令官の…言う事…絶対…。」
「真面目すぎ…だけどアンタが…命かけて戦ったのも事実でしょ!そしてこうして生きて帰ってきたじゃん!みんなで!」
「……そう…だから…任務完了……。」
淡々と話す雪蘭。
「私…私ね、最初はアンタのこと、無口で無表情で、変なやつだと思ってたけど。」
「…………………。」
「アンタが先陣切って新幹線で戦った時も、船酔いして寝てる時に、敵の攻撃を感じ取った時も。」
「………うん…。」
「それで……名古屋で助けに来てくれた時も…ずっと一緒にいて……!」
「………うん…。」
「今はもう……アンタのこと変なやつだなんて思ってない!」
「…………そう……。」
「誰よりも勇敢で…誰よりも任務に真面目で…ちょっと海に弱いけど、1番冷静に判断ができて…食い意地張ってるけど…それと…!」
「………………?…」
「新幹線で引っ張り上げた時のあの笑顔…あれ最高!」
「…………薄い…。」
「え……あ、ごめん。私もそんなに人と話すの得意じゃないから……だけど…だけどさ!」
「…………だけど…?」
「私は…晴家安成は、雪蘭のことを友達だと思ってるからね…!」
「…………………!」
「だから…今度は遊びに来てよ!てか、私が行こうかな京都…約束ね!」
「……………………………クスクス。」
「あ…それそれ…アンタそのほうが絶対いいよ。」
「……………………クスクス。」
「………よし、戻ろう!」
「それは嫌。」
「なんで…。」
「………帰って寝たい…。」
「オッケー雪蘭。私の顔見て。」
「…うん…。」
「で、外見て。」
「……うん…。」
「また私見て。」
「…うん…。」
「帰る?」
「うん。」
「あっそ。わかったじゃあ止めない。」
「……………クスクスw」
クスクスと笑う雪蘭の肩から、両手を話した安成。そして雪蘭は、真っ直ぐに入口へと歩を進める。
クルッ
急に振り向く雪蘭。
そして────────
「………バイバイ……なーちゃん……。」
「な…なーちゃん!?」
「……安成の『な』……ダメ…?」
「いや、全然ダメじゃないけど…。」
「………良かった……じゃあ…またどこかで…ね。」
「うん。バイバイ、雪蘭。」
【アンナ ― 隣の席の女の子は、平和のために闘う変身ヒーローでした ―Season2】
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SETSU-RAN & OCEAN:Distort
WILL RETURN
(雪蘭とオーシャン:ディストートは帰ってくる)
☆次回、Season3スタート!☆
第58話
【夏休み前日の前日ッッッ!】
そして、安成達は日常へ!




