第6話【エキシビショニズムの下僕】
イライラする…なんなのアイツ!
誰に楯突いてんだ…私は安達雛鳴だぞ!
昨日から気持ちが優れない。体調は元気だが、何をしていても、全く精神的には休まらない。腹の底がムカムして、今にも何か得体のしれないものが、お腹を突き破って出てきそうなくらいだ。
昨日まで…私のクラスは、私の王国だった。武田がいて、田中がいて…そして下僕同然のクラスメイトがいて…さしてその中心に私がいた。
私は可愛い。ハッキリと自覚している。成績もいいし、習い事も完璧だ。親は市議会議員。家庭も裕福。
日々のストレスだって、上手く発散してきた。一匹犬を飼っていた…学校で。
蹴るも殴るも…何をするにも私の自由。ある時は大切にしている髪留めをトイレに流してやった。ある時はトイレに行かせなかった。案の定漏らしたのを汚いと罵り嘲笑った。
私は誰よりも優れてる。自分が一番…絶対に誰よりも上だ。
みんなの注目を集めて…一番目立って…何事も絶対に一番じゃないと気がすまない。
忍耐心は私の奴隷…自由は絶対に許さないし、鬱憤を晴らすには丁度良かった。
そんな楽しかった日常が、昨日ひっくり返った。
晴家安成…あの転校生のせいで。
なんでアイツ…耐心に味方するの?これが全くわからない。メリットがまるでないはずだし、普通、クラスの全員が敵になるようなことは御免のはずだ。
頭おかしいんじゃないか?本当におかしい。
同じようにイジメてやりたい…奴隷の味方をするやつは総じて同罪、奴隷の仲間入りだ!なのに…
なのに…アイツが、恐ろしい。
昨日の昼休み…お腹に受けたアイツの投げたボール。
まるで自転車に正面から衝突されたような…そんなイメージだった。具合が悪くなって…トイレに駆け込んで給食を全て吐き出した…この私が…なぜあんな目に遭わなければならない。
そして帰りの際に聞いた、他のクラスの子達の話…
「ねぇ!転校生来たらしいよ!」
「知ってる知ってるー!」
「私その子見たよ!キレイな顔してた…!」
「めっちゃ可愛かったよな!」
「安達さんも、あの顔には勝てないよね〜!」
私の心はえぐられた。正直ドッジボールよりも大ダメージだ。
だから決めた…アイツも忍耐心と同じようにしてやる。徹底的に追い詰めて、もう泣いたって許してあげない。
すでに計画は始まっている。昨夜、レインでクラスの女子に通達…晴家と忍の靴箱にゴミを入れて…まずは小さなイジメ…そこからだんだん大きくしてやる!
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《AM08:30 教室》
「…は?」
いやいや、私言ったじゃん。靴箱にゴミを…
「ごめんね…雛鳴ちゃん私…ちゃんとレインで言われた通りに靴箱開けて…。」
泣きながら池長美香が言う。私の取り巻きの1人だ。
「そしたらね…そしたら…。」
「いいよ美香、私が説明するから。それでさ、慎重に開けたんだよ。実際には私が。」
そう言って説明を始めたのは、山木仁仔。こっちも私の取り巻きだ。
「そしたらさ…防犯ブザーがすっごい音でなって…それで他のクラスの子達が集まってきてさ…みんなに見られたらさすがにまずいじゃん?だから…靴箱には何もできてない…。」
は?
え?
ぼ…防犯ブザー?何言ってるんだ?
辺りを見回す…晴家も忍もまだ登校していない。つまり、私たちが靴箱にゴミを入れようとしていることなんて知るはずもない…
まさか、あらかじめ私たちがこうしてくることを読んで…罠を張っていた!?
「ごめんね…雛鳴ちゃん…。」
「え!?あ、あうん…いいよ…次の作戦で絶対ギャフンと言わせてやる…。」
「へー…やったじゃん。よかったねタエコ。」
「うん!アンナちゃん、それでね!」
来た!アイツら…ニコニコ話しながら登校しやがって!
なんで私はこんなにイライラしてんのに…お前ら2人は笑ってんじゃねぇよ!
よし…次は…1時間目の国語だ。
アゲヨシのやつはパパの息がかかってる。イジメに関しては見て見ぬふりだ…大丈夫…私は大丈夫…!
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《1時間目 国語》
「辞書…辞書がない…。」
「あれ。私もないや。隠されたかなー。」
そのとおりだ…アンタ達2人の辞書はもうビリッビリに破いて捨ててあんだよ!
アゲヨシ!怒れ!とアイコンタクトで指示する。
「タエコ?アンナ?忘れ物か?なんでもっと早く言わn」
アゲヨシが様子のおかしい2人に声を掛ける。
よし!恥かけクソブス2人!
「良かった〜電子辞書持ってきとって。はい、タエコ。これ2人で使おう。」
…はい?
で、電子辞書?
「先生、私家から電子辞書持ってきたんで、タエコと使います。」
「お!おう…電子辞書な…タエコも…次からはちゃんと持ってくるんだぞ。」
「わ…わかりました…ごめんなさい上義先生…。」
電子辞書!?
小学生が電子辞書だと!?
いやいやいやいや!は!?なんで?
まさかこうなることも全部わかってたのか!?
い、いや…落ち着こう…落ち着け私…私は負けない絶対に…!
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《2時間目 体育》
「今日の体育は野球だぞ〜!12人と11人に分かれてチームを作るんだ!」
良し!良し!アゲヨシいいぞ!武田がいないのがネックとは言え…同じくスポーツ万能の田中がいる!
オールデッドボールだ!
これでアイツ等も…
かっきぃぃぃぃいーーーーーーん!
「ホームラン。」
「アンナちゃん凄い…!」
「先生、柵越えちゃったけど、ホームランですか?ノーカウントですか?」
え?あ…アイツ今何した?田中が投げたボール、明らかに身体に一直線だったのに…あ、アゲヨシ?え?え?いやホームの会話が聞こえないけど…ま、まさかアゲヨシあんた…!
「インコース甘め。絶好の球だったわ。」
おいおいおいおい!まさかホームラン扱いにしたのか!?
いや絶対そうだ!アイツ一周してるもん!
「タエコ、アレが王さんの一本足だよ。」
「オ、オーサン?」
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《3時間目 生活》
「タエコ上手い。今度私のアップリケ付け直してよ。」
「う、うん!いいよ…上手くできるかわかんないけど…!」
「いやー…まさか裁縫セットが無くなるなんてね。ほつれ直すためにミニ裁縫道具持ってきててよかった。」
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《4時間目 音楽》
「上義先生〜タエコちゃんとアンナちゃんの組から、お歌の発表したいそうで〜す。」
「お!そうか!じゃあ2人…頼んだぞ!」
昨日転校してきたばっかりのアンタは課題曲なんて知らないだろ!
この音楽の授業は他クラスと合同なんだよ!
忍耐心もずっとペアなんていなかったからまともに練習なんてしてないはずだ!
こればっかりは予想とか通じないぞ!
恥かけ!
「先生…私昨日来たばっかりで課題曲知らないんで好きな曲歌っていいですか?」
へ?
「楽器保管室のギター使いますね。」
あ、あれ?
「弾き語りですみません。あ、タエコもちょっと聴いててね。みんなもごめんね。じゃあ歌いまーす。」
おいアゲヨシ!呆気にとられてんじゃねーぞ!
怒れよ!怒…れ…。
ジャジャジャーン
ジャジャラジャララジャーン
ジャジャジャーン
ジャジャラジャララジャーン テンテン
カッコつけてる気分で得意になってぇ♪
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?
大事なことは全部そのままにしちゃってぇ♪
何?へ?
何が置きてる?晴家がうたってる?ギター弾きながら?
しかもなんか…他のクラスのヤツら盛り上がってきてない?
「これ僕知ってる!ウーターマンネックスのヤツ!」
「私も知ってる!弟と見てるよ!」
「土曜日の朝に流れてるやつだ!」
「かっこいい曲だよね!」
他のクラスのヤツらが次々に喋りだす
うっさい!なんでこんな…こんなことになるんだよ!
「知ってる人いたら一緒に歌ってね〜。いくよ〜、1,2,3!」
漢なら〜!みんなのために強くなれ!
女もそうだ〜!うつむいてちゃ弱いまま!
べそかいて良いよ〜!また歩き出せば良い!
た〜だそれだけ〜できたら〜ヒーローだ〜♪
オーライ!
「はーい、ありがとー。昨日転校してきました。晴家安成です。よろしくお願いします。」
キャーキャー!
アンナチャンカッコイイー!
ギターヒケルノスゴイネー!
ウーターマンネックススキナノー!?
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《給食》
アンタ達2人には配膳しない!
あんだけ歌ってお腹ペコペコのはずだ!
給食費払ってるのにご飯食べられない苦しみを味わえ!
「早くて美味くて〜♪」
「な、なんで牛丼?」
「持ってきた。」
「学校に牛丼を持ってきたの…?」
「はい。タエコさんも食べます?」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!???????????????????
なんで!?なんでだよ!
なんで思い通りに行かないんだよ!
このままじゃ…私の王国はひっくり返る!
絶対に嫌だ…いやだいやだいやだ!
私は一番かわいくて人気者…私は誰よりも注目されてみんなの中心。
私は一番かわいくて人気者…私は誰よりも注目されてみんなの中心。
私は一番かわいくて人気者…私は誰よりも注目されてみんなの中心…!
☆次回予告☆
ついに始まった奴らの襲撃!
日常を脅かす恐怖の毒牙に、最初にかかったのは誰だ!?
───次回!
第7話
【犠牲者‐ヴィクティム‐】
闇より狙う者の正体を暴け!
【設定を語ろうのコーナー⑤】
ライミちゃんの設定も今度載せますね。
年齢は21歳。
フルネームは寒來美です。