第49話【雪兎】
ゆっくりとコチラに迫ってくるカミーラ。チラッと見えた腕は筋肉で盛り上がり、爪は槍のように鋭く尖りだす。
殺される………ヤバい…!
神様…イエス様…助けて…!
ヒュンっ!
〘うわぉっ♡〙
もうダメかと思われた瞬間、白い何かがカミーラに襲いかかった!当のカミーラ本人は余裕を持って避けた…といった感じだが…。
〘ん〜〜〜〜?また雑魚が増えた!〙
カミーラの意識が私から白い物体に移る。ニヤニヤしながらカミーラが振り向いた方に、私も目を向けた。
「(雪蘭…!)」
崩れた瓦礫の上には、先ほどまでボツリヌス菌に身体を蝕まれてダウンしていた雪蘭がいた!
「……今度は…雪蘭が…相手……!」
〘へぇ〜〜〜〜〜〜〜。〙
その場から一切動かず、刀を構える雪蘭。迫っていくカミーラの足取りは若干スキップ気味で、明らかに雪蘭のことを『敵』だとは認識していない。
無論、雪蘭の戦闘能力は今回の任務チーム内では1番下だ…私と影狼が2人がかりで手も足も出ないような怪物に勝てるわけない!
「せ…雪蘭…ダメ!」
〘死ね〜い!〙
カミーラが凄まじい勢いで両手を振りかざして襲いかかる!
私や影狼よりも速い…!ラピッドモードの私を少し見ただけで捕まえるようなスピードで動ける怪物が、雪蘭に襲いかかる!カミーラが振り下ろした両手は雪蘭の身体を捕らえ、夏の夜空に鮮血が飛び散った。
ぶしゅぅぅぅぅぅぅぅぅうーーーーーーっ!
〘………へ?〙
「…『間合い』…『間合い』でだけなら……雪蘭のほうが…速い…!」
………何が起こった?
カミーラが雪蘭に襲いかかった。そこまでは辛うじて目で追うことができた。
問題はその後…時間にしたら本当に一瞬、1秒にも満たない時間だったはずだ。それでカミーラの攻撃が雪蘭を捕らえて血が噴水のように………?
でも雪蘭は…無傷だ。ダメージを何も負っていない。じゃあこの血は誰の血?
〘え……え!?な、何これ…。〙
「……丈夫な…首……落としたかった…のに。」
ふしゅゅゅゅゅゆぅぅぅぁぁぁぁぅぅぅぅうーーーーー!
〘い…痛い……痛い痛い…!痛い!何これ!?なんで!?〙
「………お前…戦い…慣れてない……!」
両者の会話を聞いているうちに、目に映った光景が理解できるようになっていく…!
吹き出した血は雪蘭の物ではない!雪蘭に頸動脈を斬られ、噴水のように赤い液体を撒き散らしているのはカミーラの方だった!
「せつら…」
〘このチビガキャアぁぁぁあ!〙
私が名前を呼んでしまわないうちにカミーラが雪蘭に襲いかかる!さっきよりも力強く迫っていく敵からは、私や影狼には一切向けられていなかった殺意が肌を刺すように伝わってくる!最初からこの動きをされていたら勝負はもっと早くついていた…私でもそう感じるレベルの勢いで、カミーラが雪蘭に突っ込む!
「…………………!」
雪蘭は…動かない!?
なんで………!?
「危ない…!」
ヒュンッ
ザシュッ!
「……速いの…突っ込む時だけ……!」
〘う………嘘……!〙
ぶしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!
〘がふっ……………な…なんでぇ…!?〙
「…『攻撃までは』…速い…『攻撃自体は』……遅い………。」
再び雪蘭がカミーラのバックを取る。そして膝から崩れ落ちるカミーラ。今度は身体の前面…右肩から左脇腹にかけて、綺麗に斬撃が入り真っ赤な血が吹き出す!
「凄い…!」
私は、思えば雪蘭のことを何も知らない。ただ、この旅で先陣切って刺客と戦ってくれたってことと、船酔いして吐いちゃうくらいで…正直、私やルリ姉達に比べたら全然目立った活躍はしてなかった。
だけど…そもそも今回の任務は組織の切り札とも呼べるΩランクエージェントが3人(まあ私は正式にOKしてないので厳密にはルリ姉とポイちゃんの2人)、Aランクの影狼が1人と言う、破格のメンバーで構成されてる重要ミッションだ。
いくらポイちゃんのコネがあったとは言え、それでも並の使い手じゃ組織側だって同行を許可するはずがない。ルリ姉だって、説教してでも連れて行くことに反対するはずだ。
私が知らなかっただけなんだ………
雪蘭は…………あの子は………強い!
「……傲慢…軽率…舐めた態度………。」
〘あぐぁ………血…血がぁ!〙
「…戦場に…1つも要らない……お前…全部盛り…。」
〘雑魚のクセに……雑魚のクセに…!〙
舐めきっていた相手に深傷を負わされたカミーラは完全に冷静さを欠いている。1人でブツブツ傷を何度も触っては独り言を繰り返している始末だ。雪蘭の刀は組織お手製のD.B.M武器、大ダメージは免れない!
すると隙を見て雪蘭がコチラに駆け寄ってくる!
「…晴家安成……これ…。」
これ…と言うなり、肩にからっていた大きな荷物を私の目の前に置く雪蘭。
「えーっと…何これ?」
「………背が高い…髪が長い…女の人が…くれた…。」
「せ、背が高い女の人?」
「……雪蘭のこと…治してくれた……1回ルリ子のところ行くって……その後…すぐ戻ってきて…これ…『安成に渡して』…って…言われた。」
「安成に渡して………髪が長くて……背が高い…!?」
「…それで…これは…影狼の薬…イチゴ味…作ったって…。」
「安成、髪が長い、背が高い、薬作った…背が高い…薬…私…私!?」
「うん…。」
「ねえ雪蘭、その人さ、ボソボソ話してて、黒いレース付きの服着てなかった!?」
「…着てた……ボソボソ…してた…。」
………雪蘭が説明してくれた情報がパズルのピースのように、ひとつひとつ合わさっていく。脳内で完成した情報に当てはまる人物を、私は1人しか知らない…!
ピンチになったらと何か作ってくれていたのだろう…あまりに手際が良すぎるから、多分ツル姉本人は最初から着いてきてて、さしずめルリ姉が秘密にしてたってところか。あの2人が考えそうなことではあるな…。
「とりあえずコレの中身を…」
BKeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeN!
ブキィーン!と言う、激突音なのかノイズなのかわからないような大きな音が鳴り響く!鼓膜を破るような騒音に思わず耳を塞いでしまった私の視界から、次の瞬間に雪蘭が消える。
「雪蘭…!」
空気を割るような音と衝撃。何が起こっているのか全くわからない私は、雪蘭が持ってきてくれた『コレ』が飛んでいかないようにしっかりと抱きしめる。
イィィィィィィィィィィィン……………………!
やがて小さくなる音。静まり返って辺りを見渡す。
「雪蘭…!ちょっと…どこ!?大丈夫!?」
大きな音と共に視界から消え去った雪蘭を探して呼びかける。
「雪蘭…!」
謎の衝撃で地面が抉られて、元々散らかっていた廃工場は更に瓦礫でグチャグチャだ。その抉られた地面の先…私のいる場所から遥か後ろでガラガラと音を立てて崩れ落ちる瓦礫の中で、白い和服を着た女の子がヨロヨロと立ち上がっている。
「……がふっ……!」
「雪蘭!」
ダメージでボロボロになった雪蘭が吐血する。口からだけじゃない、服は所々破け、血が滲んでいる。わかりやすい出血の多さで、雪蘭が受けたダメージが凄まじいものであるとわかった。
〘雑魚相手にコレを使うことになるなんて…!〙
ゼエゼエ言いながら立ち上がったカミーラが恐ろしい形相でコチラを睨みつけながら呟く。非常に強力な遠距離攻撃…しかしそんな出力のある武器を持っているようには見えない。
だけどアイツは何かしたんだ…雪蘭を吹っ飛ばして地面を大きく抉るようなことを。とんでもない威力の飛び道具を!
〘あと1回でぶっ殺す…。〙
そう言うなり大きく息を吸い込みだしたカミーラ。あまりの勢いに軽く引っ張られそうになりながらも、足に力を込めて耐える。大量に空気を含んだカミーラの胸はまるで風船のように膨らんでいる。
「散漫でござる!」
その隙をついて先ほどまで瓦礫の中で倒れていた影狼が現れる!
力強く握ったD.B.M武器の小刀を、カミーラの首に向かって振り下ろした!
その時だった!
〘KYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!〙
BKeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeN!
「何!?」
再び凄まじい音が鳴り響く!鼓膜を突き破りそうな爆音の中で、吹き飛ばされそうになりながら影狼とカミーラの方に目をやる!この攻撃の正体を見破らなければ!
衝撃で周りの塵が飛んでいくその先で、私は見た。後ろから飛びかかってきた影狼に対して、ものすごい勢いでカミーラが何かを食らわせている!
己の両足はしっかりと地面を踏みしめ、吹き飛びそうな身体を支えながら、口から放たれた衝撃波は空気を波打ちながら影狼の身体を恐ろしい勢いで吹き飛ばした!
「これは……グガハッ…!」
そのまま上の階まで吹っ飛ばされた影狼が、再び壁を突き破り瓦礫に飲まれる。
〘………オンパァ……!〙
口から白い煙を出しながら、だら~んと上半身を前に倒すカミーラ。とっくに血の止まった切り傷を撫でながら、今度はコチラを睨みつけてくる!
けど、私もカミーラの攻撃の正体を瞬時に理解した。間違いない、アレは超音波だ!しかもただの超音波じゃない…物理的な破壊力を伴うほどの空気振動を起こすレベルの凄まじい超音波だ!
次は私に放ってオシマイ…そんな形相だ。
絶体絶命のこの状況…打開する1手は…!
「…これだ。ツル姉がくれた…コレ…!」
急いで雪蘭が持ってきたケースに視線を移す。私が手も足も出ない強敵に出会った時のためにとツル姉が作ってくれた物ならば、この如何ともしがたい戦況をひっくり返すパワーがある何かだ!
っていうかそうであってくれんと困る!
どうやらカミーラの超音波ブレスもインターバルが必要らしく、睨みつけているだけで何もしてこない。
次の攻撃に備えるため、大急ぎで開けたケースの中に入っていたのは───────
「デカい銃だ…!」
デカい銃だった!
大きさは1mとかそのくらいだろうか?持ち上げてみると、結構重量感もある。手だけで持つのは大変だな。
コレがツル姉が作った私の新しい武器!凄い!
いや凄いけど!
「使い方………!」
そう!説明書がない!今すぐにどうにかしなきゃならんこの状況で武器だけあっても使い方がわからないとどうしようもない!
「やば…。」
なんてこった…折角イイ感じのアイテムが手に入ったのに使い方がわからんから結局何も変わらんとは。
ワタワタしている間にカミーラが体勢を整えている!
ツル姉ごめん!これ使い方わかんなかった!
目をつぶってカミーラの超音波ブレスに備える。目を力強く瞑って、吹っ飛ばされるのを覚悟した!
〘KYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!〙
BKeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeN!
空気を震わせて迫る超音波ブレス。超スピードで向かってきているはずなのに、不思議とゆっくりに感じる。
もうダメか………ツル姉が託してくれた大型銃をぎゅっと握りしめて直撃の時を待った。
「…あ…危ない…!」
ギュッ
BKeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeN!
「…うぅ…!」
「雪蘭!」
カミーラの放った攻撃が直撃するギリギリのところで、雪蘭が私を助けてくれた!ボロボロの雪蘭に強く抱きしめられて、間一髪で避けられたようだ。
「あ…ありがと…!」
「……雪蘭…が…時間稼ぐ…から…!」
「!」
ヨロヨロと立ち上がった雪蘭が刀を抜く。両方の鞘から刀を抜いて二刀流の構えだ。
「…雪蘭…時間稼ぐ…だから…それでやっつけて…。」
「いやいやいやいや、ボロボロじゃん!あんなバケモノ1人で…」
「…大丈夫…あっちもボロボロ…あと…雪蘭…1人じゃない…。」
「え?」
その時、シュタッと音がして、後ろに影狼が現れる。
「拙者も居るでござる。」
「いや、アンタもボロボロじゃん…。」
「…だから…ボロボロだから…雪蘭達が死ぬ前に……それで助けて…。」
「おそらく5分程度が限界…その間にその銃で奴を仕留めるでござる。」
影狼が言い終わるのを合図に2人が立ち上がる。そしてカミーラの方を向いて、各々の刀を構えた!
「拙者と雪蘭殿の命!」
「………預けるね…。」
そして勢いよく二手に分かれてカミーラに突っ込んでいく2人、攻撃が終わったばかりのカミーラも満身創痍、あの状態ならば影狼の言う通り5分くらいなら全力で時間を作ってくれるだろう。
2人を助けて私も生きる!
思えば雪蘭が来てくれたのも、この武器が手元にあるのも、祈ってからだった…全ては神様とイエス様が繋いでくれたんだ!
このチャンスを絶対に離さない!
全力で応える!
覚悟を決めた私は、いつの間にか解けていた戦闘態勢を再び立て直す。
"SELECT NORMAL"
"DISTORT BRAKE MATERIAL"
"COLOR RED LET'S GO"
「変身!」
"NORMAL MODE"
溢れ出したD.B.Mが、両手に抱えた大型銃に集まっていく!
「…そうか!変身がトリガーだったんだ!」
赤いD.B.Mをいっぱいに吸収した銃。すると本体についていたモニターが起動する。
「ついた…!」
ブゥゥゥゥン…と音を立ててスイッチが入る。と同時に銃の赤いラインが輝き出した!
"ブブブブブブブブ………"
すると、モニターから音が聞こえてくる。いや、音…というか、声…?
「えぇ…?」
"ブブブブブブブブ………"
「な…何?」
キュイィィィィィィイ……………ィィィィィイン………。
"ツルリアンブルルルルラァスッタァァァァァァァァァァアーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!ブルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルラァァァァアッ!!!!!"
☆次回予告☆
"D.B.Mチャァァァァァァアーーーーーージッ完了ッッッ!!!!!"
"発射ァァァァァァァァァァァァァア!!!!!ブラァッ!!!!!"
────次回!
第50話
【グレート・マキシマム・ブラスター!!!!!】
"ぶちかませッッッ!!!!!ブラァッッッッッ!!!!!"




