第5話【ニンジャエージェント参上!】
「……………ッ。…………ッ。」(※トレーニング中です。決して変なことしてるわけではないです。)
「あ…アンナちゃん。」
「ん?」
「いつも思うけど、そのダンベル何キロあるの?お昼に片付けようとしたら全然持ち上がんなくて…。」
「片方20kg。」
「どひぇ〜!」
皿洗いくらい私できるのに…何でも世話やこうとするなこの人。
………私は今日のことを振り返っていた。今思い出してもやり過ぎたと思っている。武田、本当にすまん。
そもそも相手は普通の小学生だぞ。あんなに強い力でボールを投げたら、ましてや鍛えている私がぶん投げたら、そりゃあんなことになるに決まってる。
…神様、身勝手な感情でみんなを傷つけた罪深い私を許して………。
「先生。」
「ん?なぁに?」
「私、もっと優しくなる。」
「え!?あ、うん…。」
…そう言えば、なんでこの人は私のこと、ここまでお世話してくれるんだろ。
ちょっと聞いてみるか。
「先生〜。」
「ん〜?な〜に?」
「なんで私のアシスタントやめないの?21歳なんて…仕事探せばいっぱいあるでしょ。」
「え〜?何急に。」
「いや別に…私のアシスタントの人ってみんなすぐ辞めちゃうから。先生も辛かったら辞めていいのに。」
「あ〜…私も最初そんなふうに言われたなぁ〜。」
「…そうなの?」
「え!?あ…ご、ごめん…。」
「いや別にいいよ。」
半年前…この人は私のアシスタントになった。
初対面の時のあの顔…真っ白な歯をニカっと…なんてぎこちない笑顔なんだろうかと、少し引いてしまったことを今でも覚えてる。
新入りだったらしい…つまり私が最初のエージェントってことねこの人にとって。
私のアシスタントは長続きしないって、組織内じゃ結構有名らしくて…どうせこの人もすぐに辞めるだろうと思ってた。
それがどうよ。ぜんっぜん辞める気配がない。なんでこんなに私にこだわるのだろうか。
「アンナちゃ〜ん。明日は何食べたい?」
「………牛丼。」
「牛丼!!」
「………ダメなの?」
「いや、ダメじゃないけど…もっと高いもの要求されるかと思いまして…。」
「そぉんなこと言わないよ………クスクス。」
「あ!アンナちゃん笑ってる!」
「笑ってない。あーアイス食べたい。私ちょっとコンビニ行ってくる。」
「えぇ〜1人で危ないよ?」
「大丈夫だからライミちゃんの分も買ってくるよ。」
「ホントに大丈夫〜?」
「大丈夫大丈夫。私武闘派だから。」
「そ…そうだけど…。」
「いてきまー。」
そう言ってマンションの部屋を出る。
組織が用意する部屋はいつも高級マンションだ。まあ色々思うところはあるけども。アイス食べたいからコンビニへGO。
春と言ってもまだ夜は冷える。
サッと行って、サッと帰ってこよう。
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PM21:00 アンナが家を出たすぐ後
「…………ん?はれぇ!?今ライミちゃんって呼んでくれた!?アンナちゃん!?いや、アンナさん!?」
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《PM21:10 夜道》
東京の夜は冷える。長﨑は温かいけんね。まあ結構離れてるから…それだけでも気候の差が出るのかもしれんけど。
それにしても…いやこれ…でもそんな事ある?
さっきのライミちゃんとの会話がフラグだったんかな?
………つけられとる。
ええ?マジかよ。こんな事ある?しかも奴さん…普通のストーカーじゃなくない?めちゃくちゃ手慣れてるっていうか…これ…プロだよ…プロフェッショナルの追跡だよ。
「…バレてるよーずっとついてきてんの。」
声掛け。こういう時は先に仕掛けちゃうタイプ。こういう所なのかな…アシスタントが辞めてくところ。
油断はしない。こういう時のために師匠は私に体術を仕込んだ…360度に意識を向ける。殺意に…敵意に敏感になれ…全方位、どこからでも来い!
「いやはや!まさか拙者の尾行に気づいていたとは!やはりアンナ殿は流石でござる!」
この声は…聞いたことある。私がまだ駆け出しの…Eランクエージェントだった頃に嫌んなるほど聞いた声だ。
そんでもって…身構えなくてもいい声だ。
あーあ…一気に全身の力が抜けた。構えを解いて敵意を消した。
それを見て安心したのか、声の主が姿を現す。
「ご無沙汰でござる!アンナ殿!」
「アンタもね…元気そうじゃん影狼。」
「いやはや…今朝、見覚えのある後ろ姿を見かけた物で…気になって後をつけてみれば、何と!アンナ殿でござった!」
「うん。今日からなんだ。新しい任務。」
「一部始終、拝見させて頂き申した。相変わらず…弱き者を放っておけぬ優しい御仁でござるな!」
「やめてよその言い方…それにタエコは…あの子は弱い人なんかじゃない。」
「タエコ殿…昼間、アンナ殿の横におられた者の名前でござるか。」
「そ。」
「珍しいでござるな…アンナ殿が友人を作るとは。」
「なんかね、ほっとけないんだよね。あ、安心してよ任務もちゃんとやってるから。」
「任務に関しては、わざわざ拙者から言うこともなし!アンナ殿なら大丈夫でござろう!拙者が知る限り組織内でも5本の指に入る兵にござる!」
「ヒッドーイオンナノコニーw」
「か、かたじけない…拙者もまだまだ女心に疎い…!」
「口に出してて恥ずかしくないの?」
「拙者、思ったことが全て口に出てしまう質故ッ!」
「知ってる知ってる。私、影狼のそう言う正直な所、大好きだよ。」
「11歳とは思えませぬな…物の考え方が大人びてござる!」
「それじゃ。そっちも任務頑張ってね。」
「うむ!アンナ殿も御武運を!」
そう言うなり、そこに誰もいなかったように消えた。凄い…声はでかいし派手好きだけど…やっぱり忍者としては超一流だ。
伊賀珠影狼。エージェントになりたての頃、任務で一緒になった時に知り合った。私みたいに積極的に前に出ると言うより、追跡や尾行を専門にするタイプのエージェントだ。
簡単に言うとあれね。標的の追跡とか、情報を集めて潜伏場所を特定したり、調査して報告したり…そんな感じの仕事を主に担当するタイプ。
だけどそこにかまけてない…戦っても相当強いはずだ。実際に戦ってるとこ見たことないけど…身体付きや身体能力を間近で見たことあるから…わかる。
おそらく近くで任務にあたっているのだろう。
完全に気配が消えた夜道を、私はまた歩き出した。心地よい風が、東京の街を吹き抜ける。久しぶりに旧友に会えた…やっぱりちょっと嬉しいよね。
そうだ、今回の任務の標的。今日は私が転校してきたから、警戒して妙な動きをしなかっただけで、私が無害な女の子だと判断したら、何かしらアクションを起こしてくるはずだ。
一応、タエコとは待ち合わせしてる…登下校は一緒にする予定だけど…対策もいくつか立ててるし…罠も張ってるけど…気を引き締めないとな。
夜空を見上げて、想いを馳せる。
他のみんなはどこでどんな任務についてるのかな?
どうやったら人とうまく付き合えるんだろう。
見た目に無頓着なのって女の子として失格?
師匠たち元気かな?寂しがってないかな?
…タエコ、辛かっただろうな…何とか元気に…学校が楽しいと思えるようにしてあげたい…。
頭の中に思い浮かぶ沢山の事も…その時に考えれば良いのかな。
やっぱり私ってまだ子どもだ…全然気持ちの整理つかないや。
人間は1人で完結することはできない。自分の力で完成することはできない。私はちっぽけな未熟者だ。だから神様に頼る生き方を選んだ。
だから選んだ、この仕事も。できる限りの人達を助けたいと思ったから。
「あ。」
色々な事を考えながら歩く道。1つ失敗したことに気づく。
「しまった…影狼の連絡先聞けばよかった。」
☆次回予告☆
Exhibitionism…それは自己顕示欲。
果たして人が欲求を支配しているのか
欲求に人が支配されているのか!?
───次回!
第6話
【エキシビショニズムの下僕】!
貴方は《本当の人間らしさ》を持っていますか?
【設定を語ろうのコーナー④】
☆伊賀珠影狼
《プロフィール》
◯出身地…三重県・伊賀
◯誕生日…2011年2月22日(忍者の日)
◯年齢…14歳
◯身長…167cm
◯体重…70kg
◯好物…目黒の秋刀魚、饅頭(周りには嫌いと偽っている)
◯好きな音楽…特にないでござる!
◯好きな本…五輪の書
《備考》
主に潜入や尾行調査を担当する隠密任務専門エージェントで、Bランクエージェント。その腕は組織内でもかなり買われており、Bランクながら依頼される任務の数や信頼度に関してはAランク並み。
三重県は伊賀からやってきた忍者の末裔であり、一族の中でも天才と呼ばれる現代忍者。忍として有り得ないほどに声がデカく堂々としているため、雰囲気だけ見れば『忍者として大丈夫か?』と心配になるが、腕前は本物。
捜査はもちろん、忍術を生かした戦闘能力、冷静な判断力も持ち合わせており、更には人としての器も大きく優しいと、飛の打ち所のない男。
なお細身の体に見えるが実際には引き締まった肉体を誇り、躍動する筋肉はまさしく【動く芸術】。そのため体重も相応に重いが、四肢のバネも半端じゃないため、非常に身軽である。
組織内では【疾風の影狼】と呼ばれる有名エージェントだ。




