第43話【水上のチャンピオン】
《7月5日(金) AM11:45 瀬戸内海》
USBを手に入れた一行は、海路で東京を目指していた!
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「結局海路が1番安全かもな…。」
「行きであんな目にあったのに。」
「まあまあ〜。海なら投げ出されても大丈夫だからね〜。陸路は叩きつけられたりするし〜、お空は怖いし〜。」
「高所恐怖症は紫葡だけだっつーの!」
「海路も最後まで抗議した約1名が居たけどね。」
「…ルリ子ちゃんは後で雪ちゃんに絶対謝ったほうが良いよ〜。」
「だな………ま、行きよりは安全だろうよ。影狼が空から周囲を見てくれてるしな。」
「水中から来られても休憩室の雪蘭が音で感知するだろうし、やっぱり海路が安全ってことか…でも海には落ちたくないかも…治ってきたとは言え傷口にシミるのはちょっと…。」
「アンナちゃん大丈夫〜?」
「無理すんなよアンナ。休んでていいからな。」
「いや、最低限見張りくらいするよ。」
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瀬戸内海を突き進むプライベートボート。もちろん、行きで活躍したエグゾセ号である。今回も全方向ソナーは問題なく作動している。前回は相手が例外だっただけで本当に優秀なレーダーなのだ。
「だからほら、後ろからなんか来てるだろ?」
「いや後ろからなんか来てるんかい。」
「ホントだ凄いスピードでこっち向かってきてる〜!」
〘と言うかもう横を並走している。〙
「へ〜、そう。」
「ルリ姉は暫く喋んなくて良いよ。」
〘お前達がSMOoDOのエージェントだな?私は、オーシャン:ディストート!〙
ピピピピピッ
〘ん?〙
「博士のディストート測定機〜?」
「データ取れた。アメンボの細胞を確認…なるほど、高速で水中を泳いで追ってきたと。で、水上に出てきて高速ボートと並走…動きが速いってわけか。」
「アメンボって水中泳げるっけ〜?」
〘そこは普通に身体能力で泳いで来たのだ!〙
「普通に身体能力で泳いで…。」
「なんか今回は話のテンポが速ぇな。」
「『今回』ってなんなん〜?」
〘フハハハ!ここで会ったが百年目!貴様達の持っているUSB、私のウォーターイリュージョンで奪い取ってやる!〙
「と、申しておりますが?ルリ姉様、ポイ姉様、どうしてやりましょう。」
「アンナは休んどけ。よっしゃ!ここはアタシが!」
〘まあ待て!ひとまずこの先に無人島がある!そこでゆっくり話をしようではないか!〙
「随分と正々堂々としてるな〜…。」
「良いじゃねぇか。白昼堂々と戦いに来てくれたその心意気に免じて、その島までついてってやろうじゃねーか。」
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《7月5日(金) PM12:26 瀬戸内海の無人島》
「おい!来てやったぞアメンボ野郎!」
〘ご苦労だったな人間どもよ!早速で悪いが少々離れてくれたまえ!〙
大げさな動きをしながら、元気よく話すオーシャン:ディストート。するとその声に合わせて、彼の立っている海面が盛り上がっていく!
「なんだ!?」
「わかんない!けど、アイツが立ってる場所が盛り上がって………ってあれ!」
オーシャン:ディストートが立っている場所を中心として、四角い何かが出現した!縦横15mほどの正方形の四隅に鉄柱が4本、そして鉄柱と鉄柱を繋ぐようにして3本の線が張ってある。
プロレスのリングだった。
しかし…普通のリングではない。
「(何あのリング…コーナーポストが1つだけ鉄柱じゃなくて壁になってる?)」
〘さあ!場所は提供したぞ!私に倒されるのはどいつだ!?〙
リング中央で腕を組みながら仁王立ちしているオーシャン:ディストート。すると、何かを思い出したかのように懐から何かを取り出し、こちら側に投げてきた!それを容易くキャッチするルリ姉と私。
「…何この名札とマイク。」
「…実況しろってことじゃねーか?」
「…はい?」
「いやだから、実況しろってことじゃねーか?」
「え?私たちに?なんで?」
「さ、さあ…っておい!紫葡が居ねぇ!?」
「え………あ、ホントだ…っていうかリングリング!ルリ姉!ポイちゃんリングインしようとしてる!」
「えぇーーーへへぇ!?なんでだよ!」
アンナの指さす先を見てルリ子が驚愕する。なんと桃霧紫葡がリングインしているではないか。
「ちょっとルリ姉、止めなくていいの!?普通の女の子の身体能力じゃディストートには勝てないってば!ていうか殺されるよ!?」
慌てふためくアンナ。そのとおりだ。もし普通の一般女性がディストートと戦った場合、一撃で殺されてしまうだろう。仮にビンタを1発くらったとして、首から上はこの世から消えてしまう。
しかし、アンナの心配とは裏腹に、ルリ子は落ち着いている。そして、服の裾を引っ張る妹分に向かって、静かに言った。
「………大丈夫だ。紫葡なら。」
「え?」
「へへ…まあそうか…思い返せばこの旅で、まだ1回も戦ってない無ぇもんな…ここらへんでストレス発散しとくか!なあ紫葡!」
ルリ子からの激励を受けて紫葡が振り返る。
「うん〜!だから実況よろしく〜!」
「了解!」
「え?え?いいの?ポイちゃんホントに大丈夫?」
"さぁーーー始まりました!場所は瀬戸内海の無人島!SMOoDOの誇る最強エージェントの1人、桃霧紫葡と、我々を追ってきた怪人、オーシャン:ディストートによるシングルマッチ!"
"(よくわからんけど…ルリ姉が大丈夫って言うなら大丈夫…だと思う!私もルリ姉とポイちゃんを信じる!)"
〘面白い!人間風情が木っ端微塵にしてやる!〙
「リングイン〜〜〜!」
"さぁ今回は60分1本勝負!実況は私、本郷ルリ子とゲスト解説の晴家安成さんに来ていただいております!"
"よろしくお願いします。"
"さぁ〜流石はアタシの妹分。すぐに状況を理解しノリを合わせてくれているのですが、今回の1戦、格闘家としてはどのように分析されますか?"
"そうですね。正直心配ですね。"
"心配?"
"はい。いくら浅瀬と言ってもリングは海上。おそらく実際のプロレス方式でリングアウトの概念は無い…四角いリングのように見えて、実際にはあのディストートにとっては活動範囲は無限のようなものですから。"
"なるほど…!"
〘おい人間どもよ!〙
"あーっと!ここでオーシャン:ディストートがマイクパフォーマンスかー!?"
〘審判とゴングが必要だな…先の報告では貴様らにはあと2人仲間がいると聞いているが?〙
"あーっと、確かにそのとおりだ!しかしそこに関しては大丈夫です!上空の影狼が審判・タイム・ゴングを担当いたします!"
"至れり尽くせりですね。"
「はいはーい!ルリ子ちゃん〜!アンナちゃん〜!」
"おーっと今度は紫葡選手からパフォーマンスかー!?"
「ここからはコンカフェで働いてる時の名前で呼んでほしいな〜。」
"あーっと!現実のプロレスに則って、リングネームを御所望だーーーっ!それではここからは『ぽいずんミルクてゃvsオーシャン:ディストート』の試合としてお送りいたします!"
「アナタは〜?」
〘何がだ?〙
「アナタはお名前ないの〜?」
〘我々ディストートは名前になど関心がない物でな…直接付けられたならば話は変わってくるが。〙
「付けられた?」
〘なんでもない…おいカラス忍者よ!ゴングを鳴らせぇい!〙
かぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーーーん!
【瀬戸内海上特設リング・ぽいずんミルクてゃvsオーシャン:ディストート】
〘まずは小手調べだ!〙
"さぁゴングが鳴るや否やオーシャン:ディストートのローリングソバットが牙を剥く〜!"
「おぉ〜!」ヒラッ
〘何!?〙
"あ〜〜〜っと!?ぽいずんミルクてゃ!ローリングソバットを華麗な動きでかわした〜〜〜っ!"
「とりゃ〜!」
シュタッ!ドゴォッ!
〘ぐ………!〙
"そして横からのドロップキックがオーシャン:ディストートの右顔面を捕らえた〜!"
"え…効いてる…!?なんで!?"
「マスプロダクション・ミサイルキック〜!」
〘く………ディストートの私にまともなダメージを…貴様、普通の人間ではないな!?〙
「そうだよ〜!ポイは普通の人間じゃないよ〜!」
〘…なるほど、噂で聞いたことがあるぞ。何やら我々の苦手とする物質が直接体内に存在する超人がいると…それが貴様か!〙
「違うよ〜?」
〘なんだと!?〙
「ポイは普通の人間じゃなくて〜………。」
シュタッ!クルンッ♡
「可愛い人間だよ〜〜〜〜〜ッ!」
"あーっと!今度は素早く後ろに回り込み延髄蹴りだ〜!"
"ルリ姉!なんでポイちゃんの攻撃…っていうかディストートの動きについて行けてるの!?もしかして私達みたいにD.B.Mと細胞が結合して"
"…いや、違う。実はなアンナ…おーっと!"
〘効いたぞ…しかし!この足は!〙
ガシッ!
「あ〜〜〜!」
〘絶対に離さん!〙
"おーっと!ぽいずんミルクてゃ!蹴りに出した足をオーシャン:ディストートに掴まれてしまったーーーっ!"
〘フンッ!〙
ばきゃっ
「………〜ッ!」
"そしてぽいずんミルクてゃを思いっきりリングのキャンバスに叩きつける〜〜〜!"
〘そして………これだ!〙
「……伝家の宝刀〜〜〜ッ」
"あ〜〜〜〜っと!出たぁ!スピニングトゥーホールドだーーーーっ!試合序盤で蹴りを食らい先手を奪われたオーシャン:ディストート、巧みなテクニックで反撃に出た〜〜〜ッ!"
「紫葡殿!?」
〘おおっと!レフェリーが一方の選手に口出しするのはフェアとは言い難いぞ!〙
「んんん〜〜〜〜…!」
"これは効いている効いている!レフェリーに対して注意をしながらも、その意識は完全にぽいずんミルクてゃの足へ向いている!さらに力強く固めていく〜!"
〘どうだ!このまま足を砕いてやるぞ!〙
「く〜〜〜…こうなったら〜〜〜!」
グイッーっ!ガツンッ!
〘ぬぐおっ!〙
"な………なんとぉぉぉお!?これはすごい!ぽいずんミルクてゃ!スピニングトゥーホールドに固められたまま、勢いをつけて上半身のみを起こし、オーシャン:ディストートの脳天にヘッドバッド〜!"
〘………ッ!〙
「今だ〜!えい〜っ!」
スルッ
"あーーーーっとぉ!?痛みでロックが緩んだか!?ぽいずんミルクてゃが固められていた足を抜いた〜〜〜!"
「は〜っ!」
"そしてドラゴンスクリューでオーシャン:ディストートの足を狙う〜!"
〘(踏ん張りが効かぬ!この女…一体どこにこのような力が!?)〙
ドシンッ!
「そして〜〜〜…これ〜〜〜!」
ガシッ!ガシッ!ガシィッ!
"え、S.T.F!?ポイちゃん凄い…あんなに難しい技を隙を見てかけるなんて…!?"
〘むぐ………(ぬ…抜け出せない!)〙
"…アンナ。さっきの話だけどな。"
"え…あ、あーポイちゃんの?実際なんでなの?生身でディストートと渡り合えるなんて…!"
"…アンナ、組織のディストートが起こした事件のファイルに、『ポイズンテロ事件』ってのがあるんだ。知ってるか?"
"え?う、うん。猛毒を持つディストート達が集まってテロを起こした事件でしょ?表向きには国際テロ組織の犯行ってことになってるけど…。"
"…紫葡はな、その時に襲撃された事件で家族と一緒に食事に来てたんだ…そして巻き込まれた。"
"………なるほど、それで家族は殺されて、生き残ったポイちゃんは組織に保護された…と。"
"………まぁな。けど外傷が死因だった家族と違って、アイツは毒で攻撃された被害者だった。同じように毒に侵された被害者が死んでいくなかで、霞留博士は幼い紫葡を救うために…アタシ達みたいD.B.Mを打ち込んだんだ。組織としても3人目のD.B.M適合者が欲しかった所だったんだとよ…そして博士の狙い通り、D.B.Mはアイツの身体の免疫力を飛躍的に上昇させた。"
"なるほど、それで一命を取り留めた…と。"
"けどな、それから博士も組織も予想してなかった反応が紫葡の体内で起こったんだ。"
"予想してなかった反応?"
"確かにアイツの身体の中に入ったD.B.Mは免疫力を高めた…そして毒と一緒に打ち込まれたディストートの細胞も破壊した…けどな、D.B.Mはディストートの細胞には攻撃するけど…毒には攻撃しなかった。それどころか、打ち込まれた多種に渡る毒とD.B.Mが融合したのさ。"
"毒とD.B.Mが融合!?だけどそんなことしたら…ポイちゃんの体内で暴走しちゃうんじゃ…!"
"…あぁ、したさ。体内で『身体を殺そうとする猛毒達』と『紫葡を生かそうとするD.B.M』が激しく争い出した…三日三晩、ベッドの上で痛みで絶叫し続けたらしい…そして4日目の朝だった…急に静かになった紫葡の細胞を博士が観察したらよ…そしたら。"
"………そ、そしたら?"
「ポイの細胞と〜!D.B.Mと〜!色んな毒が〜!がっちゃんこしちゃったのでした〜!共生しちゃったんだって〜!」
「なんと!そうでござったか…!」
〘な…何ぃぃぃぃぃぃぃい!?毒だとぉ!?〙
"そうだアンナ!アイツは私達と同じ…超人だ!"
「安心してよ〜!この戦いでは毒で攻撃しないから〜!」
"実況に戻ります!さあS.T.Fによる絞め上げをさらに強くするぽいずんミルクてゃ!オーシャン:ディストートのギブアップ狙いかーーーっ!?"
〘ギブアップだと………舐めるな!この状況から抜け出すための能力は…しっかり備わっているぞ!〙
「抜け出してみなよ〜!」
〘フフフ…ならばお望み通り…お前は私に密着していることを後悔するだろう!〙
☆次回予告☆
S.T.Fで絞め上げられるオーシャン:ディストートに秘策あり!?
紫葡、いきなり大ピンチか!?
───次回!
第44話
【波打つ一撃!!!!!】
リングがさらに熱くなる!




