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第40話【その名はリオック:ディストート】

 〘これで任務完了か…意外とあっけなかったな。〙


 少女から奪ったUSBメモリを見つめながら、険しい山道を駆ける怪人が1人。彼の名はリオック:ディストート。軽い口調だが、義理堅く嘘はつかない性格の怪人である。


 大人しくUSBを渡せば乱暴はしない…先ほど少女に向けた言葉も偽りではない。大人しく渡してくれなかったから一撃入れはしたが、殺すほどの威力ではなかったし、これ以上手を出す気も無い。格闘家として手合わせ願いたかったが、不意打ちを食らわせた手前、今更真剣勝負を挑んでも相手は飲んでくれないだろう。できれば任務外で戦いたかったと思ってしまう。


 〘(蹴りの瞬間に身を引いて威力を押さえてたな…不意打ちのキックにあそこまで対応できるなんて。あのお嬢ちゃんはあと5年もすれば凄いことになるぜ…!)〙 


 あの歳で見せた抜群の戦闘センス…強者の片鱗を見せつけた少女の将来に期待しながら風を切って走る。あとはこのUSBを「あの方々」に届ければ─────






キュインッッッ






 〘ん?〙


 「いただき。」


 〘いただき………うおっ!?〙


 いただき宣言とともに横に現れた先ほどの少女。その姿は朧気(おぼろげ)にしか見えなかったが、何やら目とジャケットの線が青くなっていたような…と同時に、自らの手に違和感。


 〘USBが()ぇ!〙


 見つめる為に(つま)むようにして持っていたことが仇となったか、指と指の間からUSBは消えていた。どうやらあの一瞬で奪われたらしい。


 〘なるほど…宣戦布告と捉えるぜ?お嬢ちゃん。〙


 奪われはしたが、少女が何処へ行ったかは簡単に分かる。報告では仲間たちと来ているらしいからな…先ほどの場所に戻って仲間たちと合流する気だろう。往路の刺客が1人も減らせなかったらしいからな…そして仲間と合流されたら都合が悪い。


 〘今行くぜぇ〜!お嬢ちゃん!〙


───────────────────────────


《SMOoDO研究所・福岡支部跡地付近》


"TIME OVER!RAPID OFF!"


 「ハァ…ハァ…よし…取り返した!」


 90秒という短い間だけだが…やっぱりラピッドモードの速さは凄まじい。


 あの距離から追いつく→USBを奪う→そのまま研究所跡地まで戻ってくる


 という工程が全て完了してしまった。


 「よし………このままルリ姉達に連絡して…合流しなきゃ!」


 〘そりゃねーぜお嬢ちゃん…タイマン張るって選択肢は選んでくれねーのか?〙


 「!?」


 声のする方を振り向くと、先ほどのディストートが立っている!まさか追ってくるとは…って追ってくるに決まってるか。ここに帰ってくるってわかってたんだから。


 「……………私の目的はコレなの。アンタと戦って倒すことじゃないから。」


 〘そりゃ俺も同じさ。ただUSB(それ)は1つしか無い…目的を達成できるのは俺かお嬢ちゃんかどっちか1人だけ。なら〜?それを決めなきゃならんぜ?〙


 「………さっき私じゃ相手にならないって言ってたじゃん。と思ったら今度はタイマン張りたいってそれどういう風の吹き回しなの?」


 〘さっきの青いやつ見たぜ?それと最初の蹴りの時の咄嗟の回避…俺はお嬢ちゃんを舐めてたらしい。先ずはそれを詫びるよ。申し訳なかったな。〙


 「………それで?」


 〘お嬢ちゃんは俺と真剣勝負が成り立つ十分なレベルの強さを持ってる…だから俺は戦いに戻ったのさ。もちろんUSB(それ)は欲しいが…今の俺にとっては二の次だなぁ。〙


 「二の次ねぇ………良いのかな〜職務放棄でわざわざ敵と戦っても。」


 〘構わねぇな。勝ったらUSB(それ)を持って帰ればいいし、負けたってお嬢ちゃん達に殺されるか、上に殺されるかの違いでしか無い…そうなったら捕虜として死ぬより戦いの中で死ぬほうがマシってわけさ!〙


 「………アンタ、今まで出会ったどのディストートとも違うタイプだね。」


 〘へぇ〜…今褒められてる?〙


 「褒めてるよ…そこまで言うなら戦ったげるけど。ちょっと待ってくんない?あの青いの体力使うの…ちょっと休ませて。」


 〘勿論さ!存分に休んでくれや。準備できたら声かけてくれよ。それにタイマンって約束守ってくれるなら仲間呼んでもいいしな。〙


 「…そんなことしたらアンタ、私に勝てても他の4人が襲ってくるかもしんないじゃん。」


 〘いや〜お嬢ちゃんはそんなことさせないね。ちゃんと事情を説明するタイプだ。〙


 「滅茶苦茶信用してくれるじゃん…。」


 〘あと仲間は4人なのね。親切に教えてくれてありがと。〙


 「あ…。」


 〘お嬢ちゃんって意外と天然?〙


 「自覚はないね…。ちょっと座っていい?」


 〘どーぞどーぞ。俺も座りたい。〙



───────────────────────────


《40分後…》


 「アンタ…名前はなんていうの?」


 〘ん?〙


 「いや、アタシは名乗ったじゃん。タイマン張るなら名前くらい名乗りなよ。」


 〘リオックだよ。キミ達風に言うならリオック:ディストート。〙


 「リオックね………あんな危険な昆虫の怪人なら、アンタ相当強いんだろーね。」


 〘まあ…けど俺よりも強いやつなんてザラにいるよ。教えられる情報だけ言っとくと、残りの復路組は俺よりも全然強いしな。〙


 「嘘ぉ…。」


 〘ホントホント…俺なんてシンプルに身体能力が高いタイプだからさ。他の連中なんて、そこに元になった(もん)の能力を兼ね備えてるわけだ…悲しいかな、そんなバケモンには勝てねぇわけ。〙


 「………努力しても?」


 〘埋まらねー(もん)は、努力じゃ埋まらねーのよ。人間だって、どんだけ努力したって自分の足でチーターに追いつけねぇだろ?そういうことさ。〙


 「ふーん………アンタ話しやすいね。」


 〘よく言われるよ。〙


 なんだコイツ…本当に今までのディストートとは全然違う。ここまで人を襲う気配を感じさせない個体がいるのか。なんというか、全然私への敵対心が感じられないと言うか…いや実際にはあるんだろうけどさ。


 「…私の家族にさ、最近ディストートが加わったんだよね…アンタと同じで人は襲ったことないタイプ。」


 〘そういう奴らも時々だけど居るらしいな…いいんじゃね?誰に迷惑かけるでもねーもんな。〙


 「…アンタはそうはならないわけ?今からでもさ、私たち側についてくれるなら、組織は全力でアンタのこと守るし、アンタはアンタでいろんなディストートと戦えるし。」


 〘お嬢ちゃんは超超超優しいんだなー…お気持ちはありがてーけど。ごめんな、俺にも刺客としてのプライドがあるわけよ。雑魚どもなんて言ったけどよ、ここで俺が寝返ったら往路で倒された連中に申し訳ないじゃんか。だからそのお誘いには乗れない。ごめんね。〙


 「…そ。」


 リオックの答えを聞いて、私は立ち上がる。体力も回復した。これ以上話してても状況が前に進まない。


 〘お?回復した?〙


 「おかげさまで…なんだか名残惜しいけど。USBはここの岩の上に置くから。勝ったほうが取って帰る…OK?」


 〘OK!そして俺もさ、お嬢ちゃん…敵として出会いたくなかったぜ。〙



"SELECT NORMAL"

"DISTORT BRAKE MATERIAL"

"COLOR RED LET'S GO"


 「変身。」


"NORMAL MODE"



 〘本当に良いのかい?今更ながらUSB(それ)を渡してくれれば、お嬢ちゃんは見逃してあげたいもんだが。〙


 「二の次なんでしょ?USB(これ)はっ!」


 〘…そうだな。あぁそうだ!よっしゃぁ!じゃあ()りますか!生きるか死ぬか!結末は1つだ!行くぜ!〙


ヒュンッ!


 次の瞬間、お互いに走り出すアンナとリオック!両者とも一切の後退は考えていない!


 「はっ!」


 〘おりゃ!〙


        バキッ!

           バギャッ!


 ぶつかり合う拳と拳。鈍い音が響くが、2人には聞こえていない。すかさずアンナがリオックの顔に向かって上段蹴りを狙う!


 「てりゃあっ!」


 〘ふんっ!〙



        ドゴォ!

           どばぎょっ!


 互いに繰り出した蹴りと蹴りがぶつかり合う。傍から見れば、片足同士をくっつけて動かない女の子と怪人にしか見えないのだろうが、2人の間では凄まじい力で脚力の押し合いが起こっている…!


 「……………!」


 〘へぇ………!〙


くるんっ!


 〘!〙


 急に力を弱めたアンナ。リオックの足の力に押されてそのまま倒れてしまう…と思いきや、その勢いを利用してバック回転!今度は(かかと)でリオックの顔を狙う─────!


 〘うおっとぉ!〙


         ばしっ!


 「くっ…!」


 ギリギリで足を掴んでこれを回避したリオック!そしてそのまま!


 〘へへへ………んぉりゃぁ!〙


        ぶおん!


           ずどぅおんっ!


 地面にアンナの体を叩きつける!


 「んぶっ…。」


 〘そらもっかい!〙


       ぶおん!

          べぎょん!


 「ぐほ………。」


 〘はいドーン!〙


       ぶおん!

           どごもっ!


 「………………!」


 〘まだまだぁ!〙


 「(クソッ!)」


キュイーンッッッ………!


 "CARMINE STRIKE"


ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 〘なに!?〙


どじゅゅゅゅゅぅぅぁぅあうあうあううううううう!


 〘あっつぁ!〙


 「やっと離してくれた…くらいな!」


 〘(しまった!!)〙


キュインッッッ!どじゅぅぅぅぅぅう!


 今回は回転無しVer…カーマインストライクの突き蹴り版を思いっきりブチかますアンナ!回転のパワーが無くても威力十分!必殺キックはリオック:ディストートに直撃した!








 直撃したのだ…………しかし─────!





 じゅばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 「嘘でしょ…!?」


 〘へへへ…これがお嬢ちゃんの必殺技ってわけか。〙


 なんと…カーマインストライクが放たれた足に向かって全力パンチで応戦してくるリオック:ディストート!拳にダメージは入っているが、凄まじいパワーでカーマインストライクの威力自体は止めきっている!


 そして!拳を解き、今度はチョップでアンナの足を叩きつける!


 「こんなの………!」


 〘御返しだお嬢ちゃん!〙


 ヒュッ!


ばぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!


 「…………んむぐ!」


 〘綺麗な顔にごめんな!どりゃあ!〙


 キュンッ


どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!バリバリバリバリバリバリーン!


 「………ッッッ!」


 リオック:ディストートのカウンターパンチはアンナの頬にクリーンヒット!炸裂の勢いでアンナが吹っ飛ぶ!


 そのまま後方にあった3番ラボにぶつかり、壁を突き破って粉砕!


 〘体重(ウエイト)が軽すぎるぜお嬢ちゃん…!〙


 ガラガラと音を立てて崩れ落ちるラボの壁。かろうじて残っていた建物が完全に壊れてしまった。恐るべきはリオックのパンチの威力。いくら強力とはいえ、直前までディストートにとっては弱点極まりないD.B.Mの大量放出を受け止めていた拳である。


 〘あちゃ………もうこっちの手は使い物にならんね。〙


 流石にぶっ壊れてしまったらしいが…アンナのダメージを見れば、片手と引き換えに十分な効果を出したと言って良いだろう。



───────────────────────────


挿絵(By みてみん)


 「ぐぼほッッッ………あぁ…げほ!…ぶ…ぶふッッッ…!」


 吐血だ………何時以来だろうか。ヤバい。本当に死ぬ…死ぬかもしれん。


 少女の頭を駆け巡るのはそんな感情だった。


 アンナは気づいていないが、ラボの外壁はミサイルの直撃にだって耐える素材でできている。そんな代物をぶち破るレベルの勢いでふっ飛ばされたのだ。たかが一発…されど一発!リオック:ディストートのパンチの凄まじさを少女は今、改めて実感した!


 「(負ける…このままじゃ!)」







 〘お嬢ちゃん…まさかもうくたばったのか?んなわけねーよな…!〙


 ゆっくりと近づくリオック:ディストート。まさか人間にこんな奴が居たとは…興奮と興味でバフがかかった怪人は、とっくにUSBのことなど忘れている。


 〘さあ続きだ…もっと楽しませてくれ………ん?〙



 うぅぅぅぅぅぅぅう!うぅぅぅぅぅぅぅぅう!


 けたたましく鳴り響くサイレン…瞬間、少女が吹っ飛んで突き破ったラボの穴の中から、青い光が溢れてくる!



"Warning!Warning!"


 〘お!さっきの滅茶苦茶速いやつか!〙


"Warning!Warning!"


 〘良いねぇ!まだまだ楽しめそうだ!〙


"Warning!Warning!"


 「………90秒…だけね…!時間制限ッッッあるからッッッ…ブフッ!」


"SELECT RAPID"

"DISTORT BRAKE MATERIAL"

"COLOR BLUE LET'S DRIVE"


 口から血を吐き出しながら、瓦礫の中から少女が登場する。すでに満身創痍…しかし、その目から闘志は消えていない。


 〘……………最高だね。推しができるってこんな感情なのかもしれねーな!〙


 「行くよ……………!」


























☆次回予告☆


 満身創痍のアンナ!ボロボロながらもラピッドモードに!

 過去最強の敵を前に、勝利を掴めるか!?


───次回!


第41話


 【推しとの距離感=俺の(ラブ)が届く距離】


 この闘いの果てに、少女が得る物は─────。

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