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第37話【令和忍道〜すむうど編〜】

 「………さて。」


 カラスたちの背中に仁王立ちしながら、影狼がオケラ:ディストートに語る。


 「御主の忍術とやら、拙者に見せてみよ。こちとら先祖代々、忍の道を生き・受け継いできた一族の出。もし拙者が御主に不覚を取るような事が、万が一にでも有れば、御主が自分自身を忍だと名乗ることに、もはや異論はあるまい。」


 影狼の台詞が終わるタイミングに合わせて、周りのカラス達が一斉に鳴き出す。


 まるで「御主人様はそう言ったが、お前に勝ち目はないぞ!」と全員で威嚇しているような光景に、思わず圧倒されるディストート。


 〘く………そうしていられるのも今のウチでござるぞ!〙


 「それを今から…確かめるので候!」


 影狼が言い返す…と同時に、カラスたちが一斉に陣形を変え、影狼とディストートの足元に、まるでカーペットのように広がっていく。


 〘何!?〙


 「ふむ………小奴(こやつ)らには無理をさせることになるが、御主を倒すためにどうしても足場が必要故。」


 彼らが立っている場所は、空を飛ぶカラスの大群の背中の上である。しかし、地面に立っているかのように安定している。


 〘ほう………これは確かに。敵ながら天晴。拙者も地に足をつけた戦いが好み故、その心遣いには素直に感謝するでござる。〙


 「気にするな。それに、いかに足場と言えど、小奴らもそう長くは持たぬのでな。悪いが早期決着で、勝負は急がせてもらう!」


 言い終わるや否や、その場で煙幕が「ボンッ」と言う音を出して立ったかと思うと、影狼の姿が消える。


 〘(何!?消えただと!?)〙


 辺りを見渡すオケラ:ディストート。しかし、その視界に影狼の姿を捉えることはできない。


 〘どこに消えた!姿を現さねば、拙者に攻撃は通せぬぞ!〙


 「後ろでござるよ。」


 耳元で影狼の声がした。ゾッとして振り返るオケラ:ディストート、しかし、そこに影狼の姿はない。


 次の瞬間!


 オケラ:ディストートの背中に激痛が走る!


 〘うぐごっ…な、なんだとぉ!?〙


 シュゥゥゥゥゥ………という音が背中から聞こえる。範囲は小さい…が、確かなダメージが背中に3点。


 「む…刺さりが浅いな。中々の硬さでござる!」


 すると離れた場所に影狼が姿を現した。


 〘一体何を!?〙


 「組織お手製の手裏剣を投げた。無論、『でぃーびーえむ』を多分に含んだ特殊な素材の代物…御主らディストートには、その刺さり具合でもダメージとしては十分でござる!」


 影狼の言う通り、オケラ:ディストートの背中には、手裏剣が3つ刺さっている。大きさは普通の手裏剣と変わらない…が、刺さり口から煙を上げている。 


 〘ぬう………厄介な物を!〙


 「傷に気を取られたな!」


 隙を見て、一気に距離を詰める影狼!目の前に現れた影狼に向かって、腕の鎌を勢いよく振り下ろすディストートだったが、影狼はディストートの目の前から再び消えた。


 空を裂くオケラ:ディストートの攻撃、一瞬だけ前方から目を逸らした油断を突いて、影狼がクナイでオケラ、ディストートの身体を斬りつける!


 ザン!ザン!ザン!


 ジュウウウウウ!


 〘ぐおおあおお!〙


 「ただ上に飛んだだけでござったが…そんな動きも見えぬのか!」


 たった2回だけの攻撃。それでもオケラ:ディストートは、接近戦では影狼の方が圧倒的に素早く有利であることを見抜く。


 〘(く…奴の言う通り、動きの素早さでは圧倒的に拙者が不利!中〜近距離の戦闘ではコチラに勝機はない!)〙


 パァン!パァン!パァン!


 〘うぐぉ!?なんだ!?〙


 戸惑うオケラ:ディストートに爆竹のような小さな爆発が3発!


 もちろん、炸裂した場所からは煙が上がり、ディストートの外皮は焼けたように音を立てている。


 かぁー!かぁー!かぁー!


 「油断したな…周りのカラスたちは拙者のお供!特殊な火薬玉でござる…一発一発は小さき火の粉も、積もれば大火となる!」


 〘この………!〙


 「先ほどまでの威勢は何処へ行った!防戦一方では拙者には勝てぬ!」


 〘(く…!悔しい事だが奴の言うことは正しい!かくなる上は!)〙


 何を思ったか、いきなり中腰の体勢になったオケラ:ディストート。足を大きく開き、先ほどまでとは明らかに異なる様相を見せるも、全く動かない敵の姿に疑問を抱く影狼。


 「(動きが止まった…何かを仕掛けて来るつもりか?接近戦では拙者が有利だったが、この状況で出してくる隠し球となれば、それをひっくり返せる何かということか…?)」


 少し距離を取った場所で構える影狼。その間も決して敵から目を離さない。クナイを力強く握りしめる。


 続く沈黙。互いに、一瞬の油断が命取りになることを理解している者同士であるが故に訪れた静寂。カラスたちの鳴く声は、今や2人の耳には入っていない。



 そして、その沈黙を破り先に動いたのは───



 シュタッ!


 「(少々距離を取って様子を!)」


 影狼だった!


 そのまま空中に飛んだかと思うと、斜め前方から、オケラ:ディストートの前方から手裏剣を投げつける!


 〘(ぬかったな!)〙


 ドボンッ!ドボンッ!


 ぎゅおっ!


 「何っ!?」


 次の瞬間!


 オケラ:ディストートの両腕が、ロケットパンチのように勢いよく飛び出る!腕の先端の鎌の部分が真っ直ぐ影狼に飛んできたかと思うと、そのまま影狼の身体を掴んだ!


 ガシィ!


 よく見ると、鎌と腕は完全に分離しているのではなく、紐のようなもので繋がっている。


 〘宙に舞う!その時を待っていたぞ!一度浮けば、そこに足場はない!行く先は変えられまい!〙


 ギュンッ!


 そして力いっぱい腕を振り、影狼の身体をカラスたちのいない場所までぶん投げた!


 〘フン!〙


 ぶぉん!


 「しまった………!」


 〘そのまま海原に落ちよ!〙


 その言葉通り、真っ逆さまに落ちていく影狼!九州は近い…ここは潮と潮が勢いよくぶつかり、大きな渦潮を作る、本州の玄関・関門海峡!落ちたが最後、いかに影狼と言えど、溺れてしまうだろう!


 「皆の衆!」


 かぁ!かぁー!かぁーっ!かぁーーーーっ!


 影狼の合図に合わせて、カラスたちが陣形を組んで向かってくる。落ちる影狼の身体を優しく背に乗せる。


 〘フハハハ!ここに御主と拙者の差が出たな!御主は飛べまい!拙者は自らの羽で飛べる!足場から剥がしてしまえば、有利なのは拙者の方!〙


 ドボンッ!ドボンッ!


 再び両腕を発射するオケラ:ディストート。間一髪でそれを避ける!


 しかし!


 〘油断したな!〙


 影狼が避けた方向に、素早く曲がるオケラ:ディストートの腕!


 ガシィ!


 「なに!?」


 〘捕らえたぞ!そして喰らえ!〙


 影狼をしっかりと掴んで離さないディストートの鎌!そのまま両腕を引き寄せる…と、同時にディストート自身も影狼に突っ込んでくる!


 そして───!



 どぼぎゅっ!


 「ごふっ………!」


 〘御主の方から向かってくる力…拙者から向かっていく力!2つ合わされば…この頭突きの威力は堪らぬだろう!〙


 強力な一撃に、口から出血する影狼。いくら鍛えているとは言え、彼はアンナやルリ子のような超人ではない。


 ディストートの直接の攻撃は、イコールで大ダメージである。ましてやこの威力、溜まったものではない。


 〘この手は離さぬぞ!御主は宙に放っても、このカラスどもに助けてもらえる故、ならば諸共、このまま海へ!拙者は死なぬが…人間の御主は耐えられまい!〙


 そのまま、真っ逆さまに落ちていく影狼とオケラ:ディストート。


 このままでは、敵の言う通り、真っ直ぐに海原に落ちて死んでしまう!


 「(まさかこれを使うことになるとは…致し方なし!)」


 〘大人しいな!潔く諦めたか!〙


 「であると思うか?これでも喰らえ!」


 ピカッ!


 〘ぐおっ!〙


 激しい閃光が輝き、一瞬だがオケラ:ディストートの力が緩む。その隙を突いて、影狼が脱出。落ちていく身体は、またカラスたちが優しくキャッチした。


 〘御主、次から次へと…!〙


 「対策は練っておくもの…こういう事もあろうかと、衣服に閃光弾を仕込んでおいた!」


 再び、距離を取る2人。カラスたちは影狼の周りを飛んでいる。そしてその前方には、ホバリングするオケラ:ディストート。


 「………互いに満身創痍。決着は近いでござる…!」


 〘…そのようだ。もはや手加減はせぬぞ!〙


 先ほどのように、睨み合う2人。周りではカラスたちが鳴いている。しかし、2人の耳には入っていない。


 訪れた沈黙。


 今度はそれを破ったのは───


 ドボンッ!ドボンッ!


 オケラ:ディストートの方だった!


 勢いよく発射される鎌!再び影狼の身体を捕らえた!


 〘動きが鈍ったな!この勝負、拙者の勝ちにござる!〙


 勝ち誇り、再び両腕を思いっきり引き寄せるオケラ:ディストート!勢いよく向かってくる影狼の身体に、先ほど見せた頭突きを見舞う!


 ずどぼぎゅっ!


 〘入った!この感触!やったぞ!この勝負拙者の勝ちにござる!〙


 己の脳天に伝わる鈍い感触…この感触は間違いなく、一撃が炸裂した物と同じ感触だ!


 勝った!勝利を確信し、死体を自らの目で確認しようと顔を上げたオケラ:ディストート!その両腕の鎌には、しっかりと己が仕留めた物が掴まれていた!











 「それが『変わり身の術』でござる。」


 〘な…なんだとぉぉぉぉお!〙


 カッ!




どっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーンッ!





 「拙者の()わり()人形(にんぎょう)は『でぃーびーえむ爆弾』にござる。」



 跡形もなく消え去るオケラ:ディストート。


 今宵の忍術合戦、制したのは伊賀の国から来た(しのび)伊賀珠影狼(いがたまかげろう)であった。


 「お前たちもよくここまで耐えてくれた!さあ!皆のところへ急ぐぞ!」


 かぁー!かぁー!かぁ!かぁかぁ!かぁぁぁぁあ!


 影狼の合図で、アンナ達を追うカラスたち。以上、刺客たちの猛攻を切り抜け、ついに一行は福岡へ足を踏み入れた!






















☆次回予告☆


 ついに福岡に上陸!

 目当ての物を探す一行の前に、新たな刺客が!?


 の前に、留守番組の様子を見てみよう!


───次回!


 第38話


 【一方そのころ東京では】!


 こっちはこっちで大変みたいです。

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