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第4話【消された休み時間】

 「(なんで…なんでこんなことになってんの…!?)」


 安達雛鳴は未だ頭の整理が追いついていない。


 昼休み明けの教室、おおよそ皆で遊んできたとは思えない、どんよりとした空気が漂っている。


 昨日まではこうじゃなかった。ただみんなで、楽しく遊んでいただけだ。ただそれだけの認識だった。


 ある時はアイツの持ち物を全部ゴミ箱に捨てたり。


 ある時は当番の仕事全部やらせたり。


 ある時は給食の残飯をグチャグチャにして食べさせたり。


 ある時はサッカーのゴール前に立たせて、みんなでボールを蹴り込んだり。


 誕生日に買ってもらったらしい髪留め…あれ凄くムカついたからトイレに流してやったっけ。なんでムカついたのか今でもよくわからない。理解しようなんてサラサラ思ってない。


 しいて言えばアイツだから…アイツが忍耐心だから。それが理由だった。


 今日も同じように、アイツで遊んでみんなで笑ってそれで帰って…いつも通りの楽しい学校生活になると思っていた。


 今日は何しようかな。虫でも食べさせようかな。


 トイレ舐めさせるのも楽しそう。


 いや、トイレ禁止にしてやろう。


 アイツが苦しんでるのが…楽しい。だからみんなもノリノリだった。武田も楽しそうだった…楽しそうだったのに。


 昼休みを過ごした気がまるでしない。


 何が起こった?一体何を見た?


 武田が保健室に行ったところまでは覚えてて、翔馬が何か言ってたのも知ってる…だけどそれ以降の事があまりに衝撃的すぎて…あまり覚えていないのだ。


 ただ1つ…確実に言えることは


 「昼休みなのに休んだ気がしない。」


 この虚無感だけだった。


 まるで…50分の貴重な時間を消されたみたいな…そんな感じだ。きっと私だけじゃない…他のみんなだってそうだ。誰も顔を上げようとしない。


 いや、厳密には違う。


 この教室において2人だけ、真っ直ぐに顔を上げて座って授業を受けている者がいる。


 1人は…昨日まで奴隷同然だった忍耐心。


 そしてもう1人は…転校生の晴家安成



 あの2人は…いや、アイツは…晴家安成は…私たちの1日から、休み時間を消した。


 そのくらいに感じたのだ…先の50分。


 それから6時間目の終わりまで、その空気感は変わらなかった。




















───────────────────────────


PM15:30 帰りの会



 「お前ら何かあったか?元気がないぞさっきから。」


 アゲヨシが心配そうに言う。そりゃそうだろう。昨日までタエコをイジメて優越感に浸ってた連中が、そのタエコ及びタエコの味方をした私から返り討ちにされたんだから。


 「みんな疲れてるんですよ。今日ちょっとハシャいじゃって…私のために歓迎ドッジボール大会までしてくれて…とっても楽しかったです。」


 「お、おお…そうか…なら良いが…。」


 私嘘ついてないからね。ドッジボール大会ほんとだもんね。


 2-22のクソゲー。勝者は私たち2人だった。私がボールを投げた回数は22回。つまり最初に外野だった人がバックで内野に入ったあとも1人1球でアウトにしたということだ。


 私とタエコは一度もアウトにならなかった。





 「きりーつ。気をつけ。礼。」



 さよーならー。



 「おう!気ぃつけて帰れな!」



 アゲヨシは武田が早退したことにあまり触れなかった。


 それもどうかと思うぞ。いやマジでホントに。


 あれ鼻血の量エゲツなかったぞ…少しは触れてやれよ武田が可哀想じゃん。


 そんな事を考えながら、一通り道具をランドセルに仕舞う。警戒は解かない…放課後の完全フリーな時間帯はイジメがエスカレートする時間帯だ。


 と、思っていたけれど…あれあれ、誰も絡んでこない。


 メンタル弱かコイツ等。まあいいけど。しかし、この状況に一番驚いて落ち着きがないのは…



 「…………!」キョロキョロ


 「タエコ〜」


 「は、はひ!」


 イジメられていた当事者のタエコだろう。


 「いつもこの時間?アイツ等から意地悪されてたの。」


 「………………。」


 コクン。と頷く。やっぱりそうか。


 「それも今日で終わりやねー。」


 「…………………。」


 「帰り歩き?一緒に帰らん?迎えこなくていいって連絡すればいいし私。」


 「…………………。」


 「え、私何かした?転校初日に。」


 「い、いやそうじゃなくて!」


 「喋った。」


 「そ…そうじゃなくて…。」


 「ん。」


 「な…なんで助けてくれたの?」


 「朝ひっぱられてたやん。」


 「そ…それだけで?だって…今日はみんなビックリしてたから何もしてこなかっただけで、明日になったらアンナちゃんも一緒に嫌なことされるかも…なのに…。」


 「そしたらぶっ飛ばすけど。」


 「え〜…ぶ、ぶっ飛ばすのはダメだよぉ…。」


 「なんで?だってアイツ等はタエコに酷いことしたんでしょ?」


 「それは…そうだけど…。」


 「確かに…私もやり過ぎたって思ってる。話し合いで解決できるなら話し合いで済ませるし。相手が痛がってたりするの見るのも嫌だよ。」


 「そ、そうなの?」


 「大人げないけどさ。自分もまだまだ子どもだなって思う。敵を愛しなさいって…それが大切なのに、カッとなっちゃう私は、まだまだ未熟者さ。」


 そうだ。私はまだまだ子どもだ。


 「凄いねアンナちゃん…私、そんなに強くなくて…。」


 「なに言ってんの。今日のタエコに…私は、タエコなりの強さを見たよ。」


 「へ?」


 「昼休みの…思いの丈をしっかり伝えられて偉いよ。」


 「それは…それはねアンナちゃんが…。」


 「はいはい。それ以上言わない。」


 そう言ってタエコの口に手を当てる。


 「ん〜!」と何かを言いたそう泣タエコ。だが、それは聞かない。


 「アンタが勇気を出したことが大切なの。」


 「んぱっ………アンナちゃん…。」


 「だからさ、もうクヨクヨすんの辞めな。アンタは強いよ。明日からもっと堂々としな。」


 「…う、うん。」


 そう言って席を立つタエコ。その目には恐れの感情なんて全くなかった。


 今日は歩いて帰るかぁ…先生には連絡入れとこ。


 ていうか…そろそろ先生呼びもやめてあげよっかなぁ…いい加減距離縮めてあげないと可哀想だし。


 それから…まあ特に何もされることなく、私たち2人は普通に下校した。




───────────────────────────


下校中



 「あ、タエコさ、好きなものある?」


 「え、えっとね!♡Cruis♡ってアイドルグループが好きなの!」


 「…ッ!?」


 「え…どうかした?アンナちゃん…。」


 「い、いや何でもない…。ちなみに好きな人とかいるの?そのアイドルの…中で。」


 「音在ドレミちゃん!」


 「…………!そ、そうなんだ…。」


 「え?え?アンナちゃん大丈夫?」




















☆次回予告☆


 闇夜に追われるアンナ、死闘覚悟で振り返ったその時!

 現れた忍者は敵か味方か!


───次回!


第5話


【ニンジャエージェント参上!】!


 陽気な忍者がやってくるぞ!

【設定を語ろうのコーナー③】


忍耐心(しのぶたえこ)


《プロフィール》


◯出身地…東京都・足立区


◯誕生日…5月5日


◯年齢…11歳


◯身長…147cm


◯体重…38kg


◯好物…お母さんのシチュー


◯好きな音楽…♡Cruis♡の曲全般


◯好きな本…アイドル雑誌、少女漫画


《備考》


病弱な母親と2人暮らしの少女。生活保護と、体が動く時だけ出勤する母親のわずかな収入で暮らしているため、家は貧しい。それでも優しい母親の愛情をいっぱいに受けて育った優しい性格をしており、いつも他人優先で行動している。貧乏であることや主体性がない事など、様々な要因が重なった結果、イジメの標的にされる。過酷な学校生活の中で、ひたすらに痛みに耐え続け、母親にも自身のイジメを打ち明けず、余計な心配をさせまいとして気丈に振る舞っていたが、その姿がかえってイジメをエスカレートさせてしまった。


物語開始時点で既にクラスメイトから【しつけ】という名目で様々なルールや厳罰を課せられており、常に他人に恐怖を感じながら生きていた。


♡Cruis♡というアイドルグループが大好きで、特にセンターのドレミ推し。アイドルのことになると、いつもの謙虚さが嘘のように饒舌に語りだす。

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