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第31話【鉄の華】

 〘(なんだ…先ほどから、この強さ!この速さ!)〙


 身長も体重も己の半分以下の人間の少女に力負けしている…ハナカマキリ:ディストートの中で募る不可思議、そして【こんな少女に押されている】という現実が種となって花開く、己の強さへの疑念。


 互いの刃をぶつけ合ったままの体勢、実は雪蘭との実力差はそこまで大きくない…いや、純粋な戦闘能力ではむしろハナカマキリ:ディストートのほうが上だろう。


 それでもここまで、少女が対等に渡り合えているのは…


 いや…現状、勝っているのは実のところディストート側の精神が不安定になっているのが大きいだろう。

戦闘において重要なのは冷静さである…当たり前の事だが、精神に生じたダメージは巡り巡って肉体に帰る。



    ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ…


 互いの刃がぶつかり合いながら、新幹線の音にも負けないほどの金属音を鳴らす。


 「……………………このまま、雪蘭が…押し切る。」


    ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃん!


 〘(一体何なのだこの力は…とにかく体勢を変えねば!)〙


 〘フンッ!〙


         ぎゃりゃぁん!


 「あ。」


 〘はぁっ!〙


 自身の両腕に突きつけられていた刀を翻し、突きの体勢だった雪蘭をなんとか鍔迫(つばぜ)()いの体勢に持ち込む。





        グッ…………!


 「………!」


        きぃん!ひゅたっ!


 〘何!?〙


 その瞬間、先ほどまで重かった雪蘭の身体をいとも簡単に押し出す。まるでこれまでの力比べが嘘だったかのように後方に下がった雪蘭。


 〘(なんだ…?今の一瞬、先ほどまでの力を感じなかったぞ…。そもそも、吾輩が力負けする時は必ず相手から動いた時のみだったではないか…?)〙


 睨み合う両者。互いに一歩も動かない。


 〘(何かを見落としているのだ!何かカラクリがあるのだ!まずはそれを見破らねば…そうと決まれば!)〙





         バラタタタタ!


        ギュンッ!しゅばっ!


 〘フンッ!〙


          ぎゃぁん!


 「………ッ!」


 今度はハナカマキリ:ディストートの方から、羽をはばたかせて突撃!両者再び鍔迫(つばぜ)()いの体勢!しかし…今度はディストートにいとも容易く押されてしまう雪蘭。


 〘どうした!先ほどまでとはまるで別人のように弱いぞ!〙


 「…………………!」


 〘(まただ!吾輩から攻めた分にはあのような力は発揮できておらぬ!)〙


 「………………ッ!」


          ヒョイッ



      ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃん!


 〘ヌオッ!?〙


 「…………これ?」


〘(そして奴から攻めてくればこの力…一体!?)〙


 「お望みの……………これ。」


 〘(何かをしている!何かを………していないか!)〙





─────ヒョイッ


─────シュダッ


─────ギャンッ


 これまで雪蘭が攻撃を仕掛けてきた場面を思い出すハナカマキリ:ディストート。


 何か道具を使っていないか


 何かカラクリがあるのではないか


 ありとあらゆる考えを巡らせ、頭をフル回転させ、ここまでの戦況を振り返る。


 〘(そうだ…攻められている時だけだ。この力は…こちらから攻撃する分には、一度も力負けしていない…こちらから………………)〙


 「………んッ!」


         ぴょんッ


      どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 「……………油断しすぎ。」


 雪蘭がハナカマキリ:ディストートの顔面にドロップキックを浴びせる。これまた凄まじいスピードとパワーの一撃に、吹っ飛ぶハナカマキリ:ディストート。


 〘(……………そうか!わかったぞ!)〙


 「………闘いの途中で」


 〘わかったぞ!雪蘭、御主の力のカラクリが!〙


 「!」


        バラタタタタ!


 羽をはばたかせ、雪蘭の後方に飛ぶハナカマキリ:ディストート!


 先程までとは逆になった二人の位置、その時!


 〘これだったのだな!御主の力の正体は!〙


 ハナカマキリ:ディストートが羽をはばたかせずにその場にジャンプした次の瞬間、ものすごいスピードで突っ込んできたハナカマキリ:ディストートの一撃を刀で受け止めるも、大きく後方に吹き飛ばされる雪蘭!


 あわや新幹線の遥か後ろに飛ばされるところだった…と思ったのも束の間、そのままディストートが刃を振り下ろす!


 急ぎ体勢を整え、それを刀で受け止める雪蘭!


 〘わかったぞ雪蘭よ…吾輩はてっきり、御主が凄まじい速さで吾輩に突っ込んで来ているものかと思っていた…!〙


 「……………………ッッッ!」


 〘だが!それが違ったのだなッ!その認識が全くの真逆だったのだな!〙


 「……………………………………………!」


 〘そうだ!あれは御主から突っ込んできていたのではない!〙
























 〘吾輩の方から、御主に近づいていたのだ!〙


 「……………………………バレたか…!」


 〘思えば常に、御主は新幹線が進む進行方向に背を向ける体勢で吾輩と対峙していた!そして吾輩は逆に新幹線の進行方向を向いて御主と闘っていたのだ!つまり、その場で御主が足場を離れれば慣性の法則に従い、空中に留まる…当然、新幹線に足をつけている吾輩は新幹線と共に動いているため、空中の御主に突っ込む形になる!〙


 「………………!」


 〘これが御主の力のカラクリ!圧倒的な体格差と身体能力を埋めるための策!言うなれば…御主は刃を手にしているが、其の実!弾丸の様なものだったのだ!剣客が飛び道具に化けるとは…皮肉極まれり!〙


       ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!


 〘さあどうする!立ち位置が逆転した以上!今やその戦法は使えぬ!最もカラクリがわかった以上、もはや同じ手に出ても対策などいくらでも出来るぞ!大人しく観念し、潔く散るが良い!〙


 上から押さえつけるように両腕の刃を押し付けるハナカマキリ:ディストート。なんとか全身に力を込め、刀で受け止める雪蘭。


 「………………………!!!!!」


 〘さあ!大人しく観念するが良い!〙


 思い切り片腕を上に振り上げたディストート…無情にも、その刃は少女の上に振り下ろされた─────!
























          ばきゃん


      ブォンッ!

          スカッ


 〘何ッ!?〙


 「……………仕方ない…。」


 なんと…雪蘭の刀が、刀身の中央から2つに折れた───!?


























 いや、綺麗に2つに分かれた!


 その瞬間!腰のさやに収められていた2本目の持ち手を手に取る雪蘭!


 そのまま2つに分かれた刃のうち、刀身だけの方の先端に持ち手を装着する!


 そして少女の手の中に持ち手は収まり、2本の小刀が完成したッッッ!


 刀にぶつからなかったハナカマキリ:ディストートの刃を軽い身のこなしでかわす雪蘭、そのままディストートの刃は空気を切り裂き、虚しく虚空を斬りつける!







 〘なんだと!?〙


 「見たがってた………これが…2つある意味…!」



         どしゅっ!


 〘くがはっ………!〙


 そのまま、これまでずっと持っていた方の持ち手の力…左手の刃をハナカマキリ:ディストートの胸に突き立てる!


 まるで最後に残ったジグソーパズルのピースのように、スッ…と胸を貫く!


 「……………これも………せっかく…だから。」


          カチッ



      ぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉあ!


 そして今しがた取り出した持ち手で作り出した2本目の刃…右手の刀の持ち手底についているボタンを押すと、刀身が赤く光を放つ!


 そのまま、ハナカマキリ:ディストートの両足を払い斬り…両断した!


 「…私の仕事は特攻………他の四人…の…代わりに…なることも含まれてる…から。」


 瞬間!雪蘭もジャンプ!刺し貫いた刃の手は離さず、そのまま2人で慣性の法則に従って後方にふっ飛ばされていく!


 〘…己の命も顧みず…不退転の覚悟、見事なりッ!〙


 「貴方も………今までの敵で…一番、強かった…よ。」





       シュゴーーーーッ!


 「(このまま…このカマキリと…道連れ…かな…。)」























    「はっ!」


               ガシィッ!



 「……………晴家安成。」


 「間に合った…ギリギリ手首…!」


 落ち行く雪蘭…その手首をギリギリのタイミングで掴んだのは、青いオーラを放つ晴家安成だった。


 「引っ張るよ。っしょ!」


 「うわぁ……………。」


 「よかった…全然戻んないからもしかしてと思ったんだよ…トイレにいないしどの車両にもいないし…そした案の定…。」


 「!」


『大丈夫?その様子だと勝ったみたいだけど…ていうかその刀、1本から2本になるってことだったの。持ち手が2つのやつ…。』


 「………もっと…温存…しときたかった。」


 「…刀だけは手放さなかったね。武士のプライドってやつ?それに、ディストートの身体だけ刀からスルッと抜けて飛んでった辺りに、あなたの日頃の手入れの良さが出てるんじゃない?」


 「…………クスクス。」


 「………え、何か的外れなこと言った?」


『別に……………クスクス。』


 「まあいいや…ルリ姉とポイちゃんが起きる前に戻ろうよ。私のラピッドモードもそろそろ解除されるし。」


 「わかった………。」




















───────────────────────────


《1時間後………》


 「そうか…じゃあ新幹線はもう使わねぇほうが良いな。予定変更だ。次の駅で降りるぞ。」


 腕組みしながらルリ子が言う。


 「今回は雪ちゃんが勝ってくれたから良いけど〜。次は他のお客さんが犠牲になっちゃうかもしれないもんね〜。」


 それに同意する紫葡。


 というわけで、2人の意向で新幹線は降車。


 「お前ら2人の話を聞くに、刺客は他にも居るな…よし、一気に福岡まで行くのは辞めて、少しずつ近づいていこう。」


 するとルリ子の作戦にアンナが口を挟む。


 「それじゃあまず…大阪を目指すべきじゃない?人も多くて目立つからディストートも襲ってきづらいだろうし、何かと買い物とか…必要なものも揃えられるし。」


 アンナの意見を聞いたルリ子が『そうだな…!』と同意する。


 行き先決定。


 目指すは日本の台所、商人の街・大阪!


 ひとまず一行は、船で大阪へ向かうこととなった!

























☆次回予告☆


 いざ、大海原へ!

 ルリ子と紫葡のアイデアで海路を選択した一行。しかし、新たな刺客が忍び寄る!


─────次回!


 第32話


 【虹を引く魚】


 海に虹がかかる時、それは恐怖のサイン。

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