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第29話【毒とバイクとジャケットと】

《7月1日(月) PM11:30 新幹線》


シュゴーーーー

シュゴーーーー




 新幹線です。

 うん、新幹線。


 ホントは高速とかで行くんじゃないのか?私は車が良かった…けど誰も車運転できないし。


 飛行機は場合によっては一番危険な乗り物だし。


 いざ行かん、福岡。



 っと、なぜ福岡に行くことになったのか…


 話は昨日に遡る────



















───────────────────────────


《6月30日(日) PM13:40 アンナ宅》


 「………。」


 日曜日の昼…1人で留守番。


 と言うか、むしろ逆かな。


 毎週日曜日の朝の礼拝が終わって帰り道を歩いていた時にライミちゃんとタエコから連絡が入った。何やら本部に呼ばれたらしい。


 ドラウガスもついてったから…今家には私しかいない。


 なんせ待ち合わせ場所が(ウチ)なのだ。


 そう、これから客人が来るのだ。


 本当は3人(というか2人と1匹)にも紹介したかったのだが…どうやらそれはまだ先の話になりそうだ。


 何故なら─────








ピンポーン











 「お…。」


 インターホンが鳴ると同時にロックを解除する。

このマンションに入れるという事は、それすなわち組織の人間なので警戒はしない。


 というかむしろ今日の客人は警戒して身構えた所で勝てないからな…。






ピッ


ガチャコ






 鍵が開いた玄関。


 それと同時にドアノブが下がり、ゆっくりと開いた隙間から陽の光が差し込む。


 そして陽の光をバックに来訪者が玄関に入ってきた。



 「よぉ〜〜〜〜〜アンナ。」


 「ルリ姉久しぶり。と言っても2週間くらいぶりだけど。」


 「ハハハ…今ひとりだよな?」


 「もちろん。」


 「おーっけい。上からの指示通りか…おい、お前も入れよ。」


 ルリ姉に声をかけられ、後ろで立っていた女の人がスーッと入ってくる。


 知ってる人だ。


 いや、まあ実際に合うのは実は初めてだったりする。


 有名人だからな…顔は組織の人間なら誰でも知っている。


 なるほど、ルリ姉とはまた違ったベクトルで美人だな。


 スラーっとした細くて長い脚が映えるミニスカート。腰まで伸ばした長い髪は綺麗にツインテールに纏められていて、インナーカラーの紫もよく似合っている。

涙袋を強調したこのメイクは…あれだ、確か地雷系とか言うやつだったかな…。顔はまるで珠のように小さい。見ているだけで引き込まれてしまいそうな雰囲気の女性だった。


 「初めまして…だよね、えーっと私は」


 「晴家安成ちゃんだよね〜!」


 「ん?」


 「アタシが教えた。てかまあ、ある程度の所属歴あるやつならオマエのことくらい知ってるだろ。」


 「あー…はいはい。」


 「つってもオマエは初対面だからな…紹介するわ。コイツは桃霧紫葡。」


 「またの名を『ぽいずんミルクてゃ』〜!ポイって呼んでいいよ〜。」


 「ふ〜ん…じゃあポイちゃんでいいや。とにかく上がってよ。」


 「お〜。邪魔するぜ。」


 「じゃましゃ〜。」

























───────────────────────────



 「それで?わざわざ私を1人にした挙げ句、Ωランクエージェントが2人も揃って会いに来たのはなんで?」


 取り敢えず2人をリビングに案内する。


 そうなのだ。さっきも言ったけど、3人には外出してもらった。


 というのも、実はルリ姉とポイちゃんが家に来ることは一昨日決まったことで、話の内容は組織からの命令で私たちしか知ってはいけないことになった。


 タエコとドラウガスはともかく、アシスタントのライミちゃんにすら知られちゃいけない何かと言うのはハッキリ言って異常だと思ってもらって良い。


 通常のミッションであればライミちゃんのアシスタント活動は絶対で、組織も基本的にエージェント+アシスタントでの任務を推奨しているからだ。


 それが今回はこのメンバーだけ。つまりエージェントだけで遂行する任務だ。


 しかも組織の切り札たるΩランクエージェントが2人も出動している。世界でも救いに行くのか?


 まあ、つまり…組織としては絶対に失敗できない任務ということだな。Ωランクエージェントが出動することなんて滅多にない。組織が公式に出したΩランクエージェントの出動要請は1年2ヶ月前が最後だ。


 それだけのことなのだ。


 私の質問を聞いて、ルリ姉が微笑みながら話し出す。


 「…アンナ、これ知ってるか?」


スッ…


 ルリ姉がポケットから取り出したもの。


 それはどこかの写真だった。


 「あ…これ組織の研究支部…数字が5番ってことは、福岡だね。」


 「流石アンナw」


 「お〜…すごい記憶力〜。」


 「いや覚えときなよ。」


 写真の場所はSMOoDOの第5番研究支部。ディストートの研究やD.B.Mを利用した新兵器の開発を行っている組織の研究所の一つで、九州の山奥にポツンと建っている。


 「これがどうしたの?」


 「壊滅した〜。生存者0名〜。」


 「はい?」


 「壊滅したんだよ。」


 「壊滅したって…あそこにはSランクエージェントだって居たはずじゃん。護衛のためのシステムだってちゃんとしてたはずなのに。」


 「ほんとだよ〜。現場に偵察に行ったエージェントの話では研究所はボロボロ、激しい戦闘の後、グチャグチャの…これ以上は説明不要〜?」


 「へぇ…犯人は?わかってんの?」


 「いや、監視カメラは全部ぶっ壊れてたらしい…いや、多分ぶっ壊されたってのが正しいだろうな。」


 「武闘派のSランクじゃ歯が立たない『何か』が襲撃したんだろ〜ね〜。」


 「なるほど…Sランクじゃ何人いても(らち)が明かないからΩランクエージェントを導入、確実に倒すために2人も同行させるだけじゃなくて更に応援も加勢させると…研究所が壊滅したことは限られた人間にだけ伝えて、秘密裏にターゲットを倒し帰還せよってことか。でもなんで私?しがないBランクエージェントの小学生ですけど。」


 「Bランク…Bねぇ………昇格蹴ってんだろオマエ。」


 「………バレてた?」


 「あたりめーだろ。」


 「オトちゃんから聞いたよ〜。Ωランクが9人だって嘘ついたでしょ〜w」


 「………実際Bなのは本当だよ。実力だってルリ姉やポイちゃんに比べたら足元にも及ばないし。良いところが危険度Bとどっこい、ギリギリAの中でも弱いやつになら勝てるってくらい。組織が勝手にΩランクにしてるだけで…私は認めてない。上が私をΩランクにしておきたいのは私がルリ姉と同じ、組織で2人しかいないD.B.Mと肉体が適合した超人だからでしょ?」


 「上はそう思ってないぜ。実際今回は強いやつになら誰にでも声かけてるわけじゃないしな…オマエを前線に出してまでやりたい事があるってことだ。」


 「話聞く限りターゲットのディストートかなり強いじゃん。私が行ってどうにかなると思えないけど。」


 「んっん〜!それが違うんだなぁアンナちん〜!」


 「違う?討伐しないの?」


 「いや、組織的には倒せれば万々歳なんだろうけどな。」


 「だけど今回のミッションは敵の討伐じゃなくて〜!」


 「じゃなくて?」


 「実はな…第5番研究所には、とあるディストートに関する研究データが入ってるUSBがあるらしい。幸運なことに研究所が壊滅した後もUSBに搭載された位置情報発信機能はくたばってなかったらしい。それを取りに行って帰ってくるってだけだ。」


 「え?これだけのメンバーでUSB取りに行くだけ?」


 「そだよ〜。」


 「おう。」


 「………ごめん私、明日からまた学校が」


 「インフルエンザってことになってる。10日は休めるぞ。」


 「恐ろしい組織だこと。」


 「出発は明日〜!あと2人合流するからお楽しみに〜!」


 「組織内ではアタシの応援で10日くらい出張することになってっから安心しろ。それと絶対に無事に帰すからな。」


 「わ〜かった。それじゃあ明日どこに集合にする?」


 「朝の10時に東京駅〜。」





















───────────────────────────


《7月1日(月) AM09:40 東京駅》


 と言うわけで


 東京駅に来ました。


 約束の時間より少し余裕を持って到着。ルリ姉とポイちゃんを探す。


 それにしても、朝の東京駅は人がすごいな…ってか東京駅自体に初めてきたかも。


 次から次に流れていくたくさんの人。電話してたりデートしてたり…改めて東京という大都会のパワーに触れる。



 「おーい!アンナー!」


 「こっちこっち〜!」


 いたいた、ルリ姉とポイちゃん…




 …と、横の子ゎ〜誰かな?


 私より小さい…絹糸みたいに白くて綺麗な髪の毛で、和服着てポツーンと立ってる。


挿絵(By みてみん)


 腰には刀が…でも両端が持ち手になってる?ていうか年下かな?可愛らしい子ですよ。




 「2人ともおはよ。あと…えーっとよろしくお願いします。」


 「早速だけどアンナ、紹介するぜ。コイツは雪蘭(せつらん)、お前と同じBランクエージェントだぜ。」


 「そうなんだ。」


 「(せっ)ちゃんも組織からの依頼で今回の任務に〜参加しま〜す!」


 ルリ姉とポイちゃんがニコニコしながら紹介してくれた。しかし、当の本人は全く喋らない。ずーっとじーっとしている。


 「えーっと…よ、よろしくね。」


 「ちなみに中1だぞ。」


 「え、あぁ…2つ上なんだ。」


 「おう、こう見えて結構やるんだぜ?ほら、雪蘭もなんか言えよ。」


 「…………………………………………………………。」


 「…………………………………………………………えーっと。」


 「…………………………………………………………。」


 「…………………………………………………………(•_•;)」


 「早速仲良くなったみてーだな!」


 「えぇ…。」


 ルリ姉やポイちゃんのアシストも無視して静かに私のことを見つめている。ロボットなんじゃないの?まあ、これから仲良くしていけば良いのか。


 取り敢えず話を進める。


 「あれ?もう1人は?5人なんでしょ?」


 「あとから遅れて合流するって〜。」


 「あ、そうなの。」


 「おう!そうとわかれば早速電車に乗って出発だ!」







───────────────────────────


《そして現在》


 と言うわけで新幹線に揺られているわけだ。


 「アンナ。」


 横の席の肘置きを収納して私の膝に頭を乗せていたルリ姉が語りだす。


 「ん?」


 「もうすぐ夏休みだろ?地元帰んのか?」


 「うん、帰るよ。師匠にも会いたいし。」


 「そうか…あんまりな、任務ばっかりだと疲れるし、無理に引き受けなくて良いんだぞ。今のうちにいっぱい遊んだら良いさ。今だけだぞ、小学校の夏なんて。」


 「そうだね…特に今年はそんな感じかもねぇ…。予定もあるしさ友達と…。」


 「友達?」


 「うん。なにしよっかなぁ…夏休み…。」


 「……そうか…ンフフ。」


 「どしたん?ニヤニヤして気持ちの悪い。」


 「なんでもねーよ………もう関東でたか…?アタシまだ寝とくわ…。」


 「わかった。ついたら起こすよ。」


 「お………よろしく頼むわ…………。」


 まあ東京から福岡までは軽く5時間くらいある。いくら新幹線と言っても、ほぼ日本を横断するわけだから当たり前っちゃ当たり前だけど。


 私も眠くなってきたな…みんなだって寝てるはずだし。


 ほら、私の膝の上にルリ姉がいて…


 前の席に向かい合ってポイちゃんがいて…


 その横に雪蘭がいて…雪蘭が…

























 あ、あれ?






















 いない…?

























───────────────────────────


《同時刻・新幹線上(走行中)》


 「……………そこ…危ない…。」


 〘……………………貴様は誰だ。〙


 「………あなたこそ………誰…?」


 〘2度言わすな………………貴様は誰だ。〙


 「………言わない…………先に教えて…そしたら教える…。」


 〘…………そうか。走る新幹線の上で涼しい顔をしている所を見るに、貴様が只者ではない事はわかった。〙


 「………………雪蘭も……あなたがディストート……なのはわかった…。」


 〘……………なるほど……それがわかったのなら去れ。吾輩はこのまま福岡まで行くのだ。邪魔さえしなければ見逃してやる。〙


 「………それは…ダメ。雪蘭も……福岡………研究所…行かなきゃ…それに…………ディストート…………倒すの仕事…。」


 〘研究所だと…!?〙


 「そう…………それが…雪蘭の…仕事…。」


 〘…なるほど、どうやら吾輩と貴様の目的は同じのようだ。早かれ遅かれ対立は避けられぬ。問題は先送りにせぬ主義でな。悪いが死んでもらうぞ。〙



    挿絵(By みてみん)





















☆次回予告☆


 走る新幹線の上、相対する2人の剣客!

 勝つのは雪蘭か!ハナカマキリ:ディストートか!


───次回!


第30話


【鍔迫合】


 雪蘭、参る!

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