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第27話【毒にまみれて生きる】

今回のエピソードは本来28話でしたが


27話と内容を入れ替える形で掲載させて頂きます。


何卒ご了承ください。

《アンナ達が林間学校に向かう少し前───》








シュウゥゥ………………………


 〘ゲキョ……………〙



 「あ〜あ〜。だから触んないほうがいいよって…ポイ、ちゃんと教えてあげたのに〜。」








挿絵(By みてみん)











その少女は、生まれながらに毒に塗れていた。


2007年10月9日


少女は愛知県の名古屋市に生まれた。


医者の父親と弁護士の母親

上には、3歳年上の姉と2歳年上の姉がいた。


エリート家族だった。

父親と母親は愛し合って結婚したわけではなく

両家の取り持ったお見合いによって結ばれた、政略結婚であった。


父親の方は、とてもではないが恵まれているとは言えない容姿だった。

恐らくだが、お見合いでもしない限り

結婚どころか、絶対に異性と愛し合うことなど出来ないだろうというくらいの醜い男であった。


上の二人の姉は、父親に似た容姿で生まれたが、頭の良さも両親に似たのか、常に成績優秀で非の打ち所がない天才であった。



一方、少女は姉たちと違って、母親と瓜二つの顔立ちで生まれた。

母親は、美人弁護士としてテレビで特集されるほどの恵まれた容姿を持っていた。

街を歩けば、沢山の人間が寄ってきた。

母親本人も、自らの見た目が優れていることを自覚して生きていた。

だから彼女は、姉たちよりも母親から愛された。


少女は、所謂【出来損ない】であった。

両親や姉のように頭が良かったわけではなかったし、それどころか、重度の失読症(ディスレクシア)であり、両親の持っている本など、まともに読むことすら困難だった。


代々、医者と弁護士の家系であった両家は、少女のことをぞんざいに扱った。


親戚の集まりでは、少女だけが、まるでそこに存在していないかのように無視され、お小遣いも自分だけもらえなかったり

親戚たちが出した食べ残しやゴミは、全て一人で片付けさせられた。


当然、上の姉2人も、妹のことをよく思っていなかった。

昔から、絶え間ない努力のもと、多くの物を手に入れてきた姉たちだったが、父親から受け継いでしまった容姿のせいで、あまり良い扱いをされなかった。


せっかく好きになった男がいても、その男は末の妹である少女を好きになっていくし

学校の行事では、どれだけ頑張っても良い役回りはさせてもらえず、特に努力など何もしていない末の妹にばかりスポットが当たるので、その腹いせに、末の妹に暴力を振るっていた。


それでも、少女は二人の姉を尊敬していた。自分より頭が良いし、自分の知らないことをたくさん知っているからだ。


そんな少女に対して、母親だけはひたすらに優しかった。


 「アナタは今のままで良いのよ。お姉ちゃんたちのように優れていなくとも、その美しい容姿があれば、生きていくのに困らない。」


毎日のように、母親に言い聞かせられたその言葉は、今なお、少女の心に残り続け、刻まれている。





少女は、頭の出来が良くない代わりに、非常に感受性の強いタイプだった。


だからこそすぐに理解できたことがあった。


両親の関係だった。


父親は母親をとても愛していた。

今までの人生で、おおよそ女性から避けられていたであろう自分が、こんなに美しい嫁を手に入れられたものだから、すっかり有頂天になっていた。


母親の方は、父親を愛してはいなかった。

一度、母親と2人で食事に行った時、母親から友達を紹介されたことがあった。

非常にカッコいい男だったが、少女はすぐに、母親が本当に好きなのは、父親ではなくこの男なのだと理解した。

母親の友達は、少女にもとても優しく、欲しいものは全て買ってくれた。

母親からは、父に何か言われたら、母親から買ってもらったと言いなさい…と言い聞かせられていた。








そんな少女にとって、唯一の心の落ち着ける場所が保育園であった。

少女が年少の頃から担任だった先生がいて、その先生だけは絶対に自分のことを、母親のように良い意味でも、父親のように悪い意味でも特別扱いしなかった。


当時21歳だったその先生は、少女にとって姉たちよりも姉のようだったし、母親よりも深い愛を感じていた。感受性の高い少女は、この先生が、裏表のない、優しくて慈愛に溢れた人間であることを深く感じていた。


少女は、先生が大好きだったし、先生も少女が大好きだった。








少女が5歳の時、その先生は保育園を辞めた。


理由は不明だったが、少女は、自分が見捨てられたとは思っていなかった。


先生は自分にだけ、お腹の中に赤ちゃんがいることを話していくれていたから、それに関係する理由であることが少女にだけ分かっていたからだ。












































そして、少女が10歳になった頃


母親が出ていった。


母のお腹には、新しい命が宿っていたが


それが、父親の子どもでないことがわかり、父は母を勘当した。


母親は、自分だけに着いてくるように言ってくれたが、父親が親権を激しく主張し


結局、父親と2人の姉と一緒に暮らすこととなった。




それからだった。


父親の自分を見る眼差しが、娘に向けられる視線のそれとは違うことを感じ取ったのは。


離婚が成立してから、父親は異様に優しくなった。それまでは自分のことをぞんざいに扱っていたのに、急にスキンシップが増えたり、お風呂も一緒に入るようになっていった。


当時10歳の少女には、それが一体何なのか分からなかったが、11歳になった年の誕生日に

父親に自分だけ呼び出され、理由(ワケ)の解らないことをたくさんさせられた。


その時は自分が何をされたのかよく分からなかったが、おぞましい事をされたというのだけは分かった。


父親はその時、少女の名前ではなく、母親の名前を何度も口にしていた。
























そんなことが何度も続いて1年後、12歳の誕生日に、家族で訪れたレストランで、少女たち家族はディストートの襲撃にあった。


父親と姉達は殺されたが、なぜか自分だけは奇跡的に生き残る事ができた。


後に分かったことだが、この時、少女を襲撃したディストート達は、いずれもキロネックスやブラックマンバと言った、猛毒を持つディストート達の集まりであったこと、組織的な犯行であったこと、そして外傷が原因で死んだ父親や姉たちと違って、自分は毒に侵されたこと






そして…受けた毒が強過ぎたがために、自分の体の中で共食いを始め、結果として自分の身体と毒が調和したために、奇跡の生存を遂げたということを知った。


そして、自分の肉体に流れる血液が紫色の液体になっていたこと、それが非常に危険な猛毒であったことも知った。























家族が死に、さらにはディストートの事件に巻き込まれ、あまつさえ生き残ってしまった少女には、もはや行く場所など何処にも無かった。


そんな少女を引き取ったのは、彼女を保護した組織だった。

組織は、少女の能力を生かし、ディストート達を倒すための戦力として育て上げることにした。

以外にも、少女は手厚くもてなされた。

ここには平等な扱いがあるし人権もある。

温かい食事も出るし、ベッドも服もいつだって綺麗な物を使えるのだった。


そして何より、少女はこの組織において孤独ではなかった。

若干12歳にして、初めての友人ができたからだ。


1人は、自分と同じように組織に保護された少女だった。

男勝りな性格で、いつもみんなを引っ張って行くような印象の女の子だった。

単純で荒い言葉遣いも目立つが、心の奥底に芯の通った優しさを持っていた少女、本郷ルリ子の存在は、少女にとって灯台のように明るいものであった。


そしてもう1人は、自分と同じく、実の父親から虐待をされていたところを保護された少女だった。

歌と踊りが大好きで、テレビで見た歌手やアイドルを真似ては、それを見せて楽しませてくれた。

少女が14歳になった時、『自分がアイドルになって、みんなを喜ばせたい。』と言う理由で組織内の孤児院を出たその友人は、現在では人気アイドルとして活躍している。

住む世界が大分変わってしまった今でも、少女にとって、音在ドレミと言う存在はかけがえのない親友である。


そして、もう1人の友人はと言うと、実はそこまで、少女と関わりがあったわけではないのだが、その友人の境遇を聞いた少女は、命に変えてもその友人、晴家安成を守ることを心に決めた。

恐らく晴家安成の方は、自分のことを友人だとは微塵も思っていないだろうが、少女からすれば、命を懸けてでも守るべき存在であることを、組織最強の戦力であるΩランクエージェントになってから教えられた事情により悟った。























こうして、SMOoDO最強の切り札、Ωランクエージェントの一人である


【ぽいずんミルクてゃ】こと


桃霧紫葡(ももぎりしほ)という少女は形成された。


数多くのエージェントやアシスタント、司令部など、ディストートへの豊富戦力が揃う秘密結社SMOoDO内において、ある意味ぶっちぎりでモンスターと呼べるのが、この桃霧紫葡なのである。



普段はコンカフェに出勤し、自由気ままに生活を送りながら生きている。

組織最強のエージェントともなれば、生活に困ることはなく、その存在を大っぴらに出来ないため、世間的には周知されていないが、実際にはΩランクエージェント達は、全員が長者番付に乗れるくらいの莫大な遺産を持っている。今やこの国において、国家を滅ぼすほどの力を持つSランク以上の怪物たちと渡り合えるΩランクエージェント達に対して、国は惜しみない報酬を毎月支払っているのである。


桃霧紫葡も例外ではない。

本来は勤労など全くする必要もないのだが、コンカフェという仕事が、自分の性に合っているから働いているのである。

年齢的な問題は、全て国が目を瞑る。

今や彼女を縛るものは、ほとんど存在しない。
































自らの後ろでドロドロに溶けていく物体は、先ほどまで危険度Aのディストートだったものである。

桃霧紫葡の身体から滴り落ちる紫色の液体に触れたが最後、ディストートも生物であるので、その運命からは逃れられないのだ。


死体の方は、一切振り返らない。



明日には、今しがた倒したディストートの顔も忘れているだろう。


それが桃霧紫葡と言う少女なのである。






















☆次回予告☆


 林間学校最終日!

 3人だけの秘密が繋いだ友情を胸に語る想いとは?


───次回!


第28話


【さらば自然の家!】


 そして、物語は新展開へ───!?

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