第3話【勇気ある闘い】
アンナちゃんって前の学校で部活とかしてた?
アンナちゃんの服かっこいい!どこで買ったの?
アンナちゃんの好きなものってなに?教えて!
次から次へと…質問攻め。マシンガンかよ。そんな会話して疲れんか?私には絶対無理。ていうかマジうるせー…アンタ達と仲良し小好しする気なんてサラサラないんだけど。
開口一番に「晴夜さん!」と話しかけてきたのが、小学生のくせに髪を金髪に染めた…えーっとそうだ、【安達雛鳴】だ。
小学生のくせに偉そうに化粧までして…その爪は校則違反じゃないのか?明らかに字とか書きにくそうなんだけど。そしてこの女こそ、言うなればこのクラスの女子のトップ…で、そうなれば当然イジメの主犯格ということになる。
てか好きなもの言うたやん私。自己紹介聞いてないんか?まあ無難に答えとくか…と思った矢先のことである。
「あ…あの。」
ほぼ聞こえないくらいの小さな声で話しかけてきたのは…忍耐心だった。
「なにーーー?聞こえないんだけどーーーーー!」
「アンタさ、何気安く雛鳴ちゃんに話しかけてんの?」
強い言われ方をした忍耐心が、怖がりながら言う。
「…え…あの…も、もうすぐ休み時間終わりで…あの…あの…次の授業の準備したくて…。」
そうだそうだ。いやほんとにそのとおりで。何も間違ったこと言ってない。
もうすぐ授業だし、私の隣の子の席はこの子の…タエコちゃんの席であって。
当然の要求だ。
「は?犬が一丁前に人様と同じ授業受けてんじゃねぇよ。」
最速動物扱いか…どうやら「しつけ」って表現は正しかったらしい。
「アンナちゃんもこいつの言うことなんか聞かなくていいからね!あ、今日の昼休みにみんなでドッジボールするんだけどアンナちゃんもおいでよ!みんなで犬にボールぶつけて楽しいよ!」
周りの子たちも「そうそう!」と相槌を打つ。何いってんだコイツ等。脳みそ腐れてるんだろうか。
いやいや、授業始まるぞ…そうなったらあんたらも怒られるんじゃない?
なぜそんなこともわからんのだろうか…全く。
「それはそれとしてヒナリちゃん達も席に戻んないと怒られちゃうよ。」
そんな私の言葉に「そうだね〜」と気の抜けたように返す女子たち。周りに誰もいなくなった隣の席の椅子を引いて、立ち尽くすタエコちゃんに声を掛ける。
「席、空いたよ。授業の準備するんでしょ?」
「!」
「何?座りなよ。アンタの席じゃん。」
「い…嫌じゃないの?晴家さん…私の隣…。」
「全然?嫌になる理由ないし。私、アンタに何もされてないし、アンタは私に何もする気ないと思うし。普通にペアだし、友達になりたいし。」
そこまで言ったところで、シーン…と静まり返る教室。その場にいた全員がだ。変な目で私を見つめている。
あぁ…まあそうだよね。この子に対する嫌がらせはこのクラスでは当たり前のこと、私もそれに乗っかってくると当然のように考えて誘ったんだろうし。
そんなのクソ食らえだ。
「ワンワンワーン。隣のアンナワンコだワン。血統書付きの高級種だワン。」
「!!!!!!!!!?????????」
全員の顔…もう笑うしかない。
私はタエコちゃんと闘ってお前らに勝つ。
「は…晴家さん……なんで…。」
「あ、それ辞めてね。隣なんだから。タエコとアンナ。」
「えっ…。」
「だから、呼び捨てでタエコとアンナ。これで行こう。私、まだ初日でなんにも知らないから、一緒に色々教えて欲しいな。」
「え…え…。」
「…ダメなの?」
「…う…ううん…じゃなくて…いいえ…あの…嫌じゃないです。」
「ううん。でいいよ。その言葉遣いやめな?私とアンタは同じ人間で対等…同い年でタメ、OK?」
「う…うん。」
私たちの会話だけが教室に響き渡る。全員の私を見る顔から読み取れる「こいつまじかよ!?」の感情。
マジマジ、大マジ。
ん?おー…睨んでる睨んでる女王様が。恐ろしいことで…いや全然恐ろしくないけどね。
「さっきの話聞いた?ドッジボールだって。」
「う…うん…。」
「私もやるから。」
「え…。」
「タエコと同じチームで。絶対勝とうよ。」
「!」
大爆弾発言だ。もちろん、ドッジボールのチーム分けは、本来であれば1-23が想定されていたんだろう。タエコ1人とその他私も含めた23人。
ドッジボールなんて名目だが本来はただ全員でボールを当てるだけのイジメに他ならない。
まずは小手調べだ…文字通り鼻っ柱折ってわからせてやる。
「大丈夫。絶対負けない。」
「う…うん。」
──────────────────────────
ほで、昼休み。
「おい晴家。」
えー…さっきまでアンナちゃんだったのに。
「何?安達さんと…その他さん。」
「さっきの何だよ…なんでアイツのこと、あんな仲良くすんだよ?」
「うん。そうだよ?『アンナ仲良くする』。」
「ふざけんじゃねーよ…。」
「ふざけてないよ。私、別にタエコに恨むようなことされてないし。」
「そうじゃねーよッ!」
「何が?」
「アイツ…アイツと仲良くするなって言ってんの!」
「なんで?私タエコと友達になりたい。」
はっはーん?この子、タエコに味方ができそうなのが嫌で嫌でたまらないんだな?いやこの子だけじゃない。今や22人で私のこと囲んで…袋叩きもいいところだ。
んで隣のタエコは。
「カチカチカチカチカチカチカチカチ…。」
震えてる…この子にとって昼休みは恐怖の時間らしい。
「タエコー。」
「………!」
「みんながドッジボールしたいんだって。行こ。」
「え…えと…私…。」
「だーいじょうぶだって。さっきも言ったでしょ。」
私とタエコの会話を聞いて笑いをこらえきれなくなったのか…いや怒りが頂点に達して笑ってるだけか。安達雛鳴だけじゃなくて、その場にいた全員が笑う。
「おいおい!コイツ等まじかよ!」
「お前らにボール投げるターンなんかこねーよw』
「やる気じゃん!犬!飼い主ができて良かったな!」
「マジぶっ殺すからなお前ら…。」
もう暴言の嵐アラシあらし…半ば強制的に私たちを立たせたクズ共。
「グラウンドこいよ。」
安達の一言で歩きだすクラスメイト達。
タエコはもう怖くて怖くてたまらないといった感じだ。
不安そうな顔でずっと俯いている。気持ちで負けちゃだめなんだけどな…少しでも楽にしてあげたい。今の私にできること……………
「大丈夫だから。信じて。」
そう言ってタエコの手を握る。
「あ、アンナちゃん…。」
私の右手を両手で握ったその手は震えていた。普通こんなに早く人のこと信じる被害者は少ない。
優しいのは今のうちだけで、そのうち皆と同じように私のことをイジメだすんじゃないか?
本当はもう皆と話がついていて、味方だと思って安心した私を一番近くで攻撃して絶望させる作戦なんじゃないか?
どうしてもそんな考えがよぎっちゃうはずなんだけどな…この子多分、素直で凄く良い子なんじゃなかろうか?だから…イジメのターゲットになったのだろうか。
「ドッジボール久しぶりだから下手くそだったらメンゴリ」
「メ、メンゴリ?』
「あー…ごめんねって意味。」
そう言って、私は不安そうなタエコを引っ張りながらグラウンドへ向かった。
──────────────────────────
「はい。このラインがあんたら二人のエリア。」
マジかよー2割くらいしかね〜じゃん。
これほんとにドッジボールと言えるんかな。
そして相手のチームは内野11人で外野11人。
当然こっちのチームは…内野に私とタエコのみ。もちろん外野はいない。
「おっけー。このエリアがウチらのエリアね。十分なハンデだわ。」
「は?アンタ状況わかってるの?」
「わかってるわかってる。同じ広さのエリアだったら私が片っ端から動いてアンタ等全員ソッコーアウトになって外野行きになるから。ゲームとして遊ぶくらいなら丁度いいハンデだわ。」
「ふざけんなよ…クソブス!」
クソブス…女の子にクソブスとは不届きな奴め。お前ぶっ飛ばすからな武田力斗。
「さっさと始めようよ…昼休み終わっちゃうよ。」
「こ…コイツまじで…マジでぶっ殺す!」
安達と武田がハモる。性格終わってる同志お似合いなんじゃね?
「ハモってラブラブ。」
「うるせぇ!死ねや!」
そう言ってボールを全力投球する武田。おろ?狙いは私からか…
「ほい。」パシッ
「は?」
「いや…投げられたから取ったんだけど。ルール上問題ないよ。」
いやドッジボールですよね?投げられたボールをキャッチしただけですよ。それだけなのに皆なんかめちゃくちゃ驚いてない?それとも片手でキャッチされたことにビビってんのか?
ほんでタエコよ、お前もその顔か。どっちの味方だ。
「タエコ…タエコ〜。」
「えっ!?うん!え!?」
「ボールを取りましたが。」
「え?え?」
「いやだから、私がボールを取りました。誰に投げますか?チームリーダー。」
今、おそらく誰も予想だにしなかった事が起こっている。
長い事長い事…決してタエコのターンなど回ってこなかった…いや、タエコのターンなど存在するはずのなかったドッジボール…。
ただただ各々が自由に、力いっぱい一人の少女めがけてボールを投げつけ続けた日々。まさか投げ返されるなんて、全くの想定外。
って感じだね。
「あ、じゃあ私が選んで良い?」
「え!?う…うん。」
「おーっけいじゃあね…転校初日にクソブス呼ばわりしてきたアイツの鼻っ柱を折る。」
「は?なんですかー?俺ですかー?お前らにできるんですかー?」
完全になめ腐ってるなコイツ…さっきまで私にボール取られて呆気にとられてたくせに。
ちょっと力強く投げてやろうと思ってたけど…マジで鼻っ柱折ってやるか…。
グググ…
スオッ………
どぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!
「はい。捕球できなかったから武田アウト。」
再び訪れた静寂…今度はあれだ…私にビビってる?それとも今起こったことを認識できていないとか?
いやいや見たまんまじゃん。私の投げたボールが武田の顔面に当たりました。ボールが跳ね返って地面に落ちました。武田がアウトになりました。武田が倒れました。
ほんで
「ブフッ…カブ…んぇ?え?」
いっぱいの鼻血を垂らして混乱してます。
以上。現状。大惨状。
「なぁ…こ、これどーしよ俺オレおれこれ触んないほうが良いよな?これ…オレ保健室いくいかか…か。」
はよいけ。それ鼻の骨折れてるぞ多分。
「キョトーン。」
タエコよ。
やったじゃん一人アウトにしたぞ。しかも相手のチームの主戦力の武田を。
それを何をキョトーンとしてるのだ。
「タエコ〜武田アウトだってー。」
「………へ!?あ、う…うんゅ!」
「うんゅ。」
「え!あ…ごめん。」
「いや違う違う…謝るんじゃなくて喜ばな。ウェーイ。はいグーってして。」
「グーってして…あ、こ…こう?」
「そ。ウェーイ。」
コツン☆
未だ私たち以外は誰も喋らない。いや武田…コイツは喋ってるわずっと混乱して。
安達ゎっと…おっと、お口あんぐりベイベー。
「ちょっとー。ボールそっちサイドにあるんだけど。早くゲーム再開してくんないかなぁ。」
私のその言葉に我に返った22人が、ようやく状況を把握しだしたらしい。
そして元気が戻ってきたのか、武田の取り巻きの…えっとコイツは…田中翔馬。が、口を開く。
「お…お前!お前なんだよ何すんだよ!」
「ルールに則ってボール投げた。」
「ちげーよ!武田だよ!保健室行かなきゃだろ!コイツ…こんな鼻血だして…お前!お前先生に言ってからなッ!」
「言えば?私別にアゲヨシに怒られるくらいなら全然大丈夫だし。」
「はあ!?」
「それにアンタ等さ…タエコが同じように理不尽にボールぶつけられて…それで同じようなことになった事があるとして…保健室連れてってあげたの?」
「知らねーよ!かんけーねーだろ!」
「いや関係あるよ。あ…勝手に言ってごめんタエコ。実際さ、コイツ等とドッジボールしてて顔にボール投げられて鼻血出したことある?」
さっきからずっと私のこと見つめてたタエコが、急に話しかけられて「え?」と声を漏らす。
「どーなの?あんの?ないの?」
「……………。」
チラチラと私と相手の方を交互に何度も何度も見るタエコ。10秒くらいだろうか…そんな動きを繰り返した後…
ついに、犬は【しつけ】ではなく【抵抗】した。
「あ…ある…ある!やめてって言っても…みんな絶対…絶対やめてくれなかった!私痛かった…痛かったのに………!」
半べそかいて今にも泣きそうだ。いいのいいの。それで良い。
ここから私達の…って良い方はおかしいか私今日転校してきたばっかりだし。
タエコの下剋上のスタート。
「というわけで、アンタ等のいう犬は…実はアンタ等より何倍も勇気があって、アンタ等をビックリさせる力のある人間なのでした。」
「アンナちゃん…私勝ちたい!」
「おっけーキャプテン。楽しい昼休みにしよう。」
ほんの数時間前まで、犬だとなんだと言われ、恐怖と媚びのこもった目でずっと俯いて下を向いていた少女の目に…少なくとも今は、この時間だけは恐れも媚びへつらった感情も感じられない。
そう。これはまだほんの序章に過ぎないってこと。
これから始まるタエコと私の大逆転劇のね。
─かくして出会った晴家安成と忍耐心。この2人の出会いが…後に組織全体を巻き込み、この国の未来を左右する大戦へと繋がることを…今はまだ誰も知らない。─
──────────────────────────
【校舎屋上】
「ハッハッハッハッハ!やはり安成殿は流石でござる!組織内でも有名人なだけのことはあるでござるなぁ!」
☆次回予告☆
アンナの活躍で力関係はひっくり返った!
もう友達に手出しはさせないぞ!
───次回!
第4話
【消された休み時間】
悪に休息はあるのか!?
【設定を語ろうのコーナー②】
いつかの前書きに書いた通り、登場人物たちにはそれぞれモデルになった曲というか、イメージした曲があります。
その曲の厳密な名前とかは絶対に作中に出したりしませんが、セリフとかでなんとなくわかるかもしれません。
ちなみにアンナちゃんだと
◯青い果実
◯誰かが君を愛してる
◯イルカ
の3曲からイメージしてキャラクターを作っていきました。
特にイルカは好きな曲で歌詞からめちゃくちゃインスピレーション貰いました。