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第26話【蒼光・加速するRAPID!!!!!(後編)】

《20分後 山頂・休憩場》


 「(ここ…昨日の。)」


 女王の反応を追ってたどり着いたのは、昨日の闘いの跡が残る山頂の休憩場だった。


 そして目の前には───。


 〘ようこそ戦場へ…荒事好きなお客様♡〙


 女王を筆頭に、後ろには昨日とは比べ物にならない数のキラービー:ディストートが綺麗に整列して並んでいた。


 なるほど…巣の周りに誰もいなかったのは、私を総動員で迎え撃つためか。


 ざっと5倍…いや10倍の数は居るであろうディストート達を代表して、女王が話を続ける。


 〘改めまして。私、この群れを束ねる長…クインビー:ディストートと申します。この度は…私の同胞達を相手に随分と派手に暴れたそうで。〙


 「私の方はアンタ達に乱暴する気は無かったよ…そもそも存在すら知らなかったんだ。先に仕掛けてきたのはそっち。それに…例え私と闘わなかったとして、いずれ組織に見つかって叩かれるのは時間の問題だったと思うけどね。」


 〘先程からアナタ…私たちの方から手を出したと言い続けていますが?〙


 「そうだよ。私は楽しく林間学校をエンジョイしたかったのに、アンタ達が出しゃばるから…。」


 〘…可哀想な御方ですね。何もご存知ないようで。〙


 「アンタさっきからちょくちょく話ずれるよね…何言ってるか分かんないんだけど?」


 〘…先程から何度もお伝えしている通りですよ。私達は…同胞の敵討ちのためにやって来たのです。〙


 「それはもうわかったよ…結局この闘いは、私が死ぬかアンタ達が死ぬかの強制二択。」


 〘ウフフ…ええ、その様ですね…それでは話している時間が勿体ないので…始めましょう!我らの恨み、今こそ人間に晴らす時!〙


 「わけわかんないことばっかり…言っとくけど、昨日みたいなことにはならないからね。」





















───────────────────────────


《数分後 山道》


ぶぎゅぅうーーーーーーんっ!


 「アンナちゃんの反応が山頂に!」


 大急ぎで山頂へ車を走らせる。幸いな事に、道は綺麗に舗装されていて車が走行しやすい。


 急がなければ…ディストートの巣窟に向かったはずのアンナちゃんが山頂の休憩場に移動した…となれば考えられる理由は───。


①手がかりが見つけられず、取り敢えず昨日の戦場に戻った。


②手がかりを見つけ、それを頼りに目指した場所が山頂の休憩場だった。


③敵を山頂の休憩場に追い詰めた。


④敵に山頂に追い詰められた。


⑤敵に誘い込まれた。



 まだまだアシスタントとして経験が浅い私にはこのくらいしか思いつかない…とにかく急いでアンナちゃんの所へ…!


 〘アンナ…大丈夫ナノカ?何カアッタラ、ドラウガスガ闘ウゾ!〙


 後部座席で心配そうに聞いてきたのはドラウガス。落ち着きはないが、覚悟はできているようだ。


 SMOoDOのエージェントの任務には最悪の場合の想定は付き物。


 アンナちゃんがやられていた場合は誰かがその役目を引き継がなければならない。ディストートの討伐失敗に、「あ、じゃあそのディストートはもうダメだね、諦めよう。」なんて甘っちょろい考えは通用しない。敵は知性ある怪人…放っておけば被害は大きくなってしまう。


 しかし、今この付近にアンナちゃん以外のエージェントは居ない。


 つまり私たちが何とかしなければならないのだ。私はともかく、ドラウガスの実力は未知数として…少なくともそうなった場合、私は生きては帰れないだろう。


 別に自分の身が心配な訳では無い…いや少しは心配だが、それ以前に───。


 アンナちゃんが居なくなるのが耐えきれないのだ。


 「無事でいて…無事でいてね…!」


 〘ライミ!モット車飛バセ!アンナ、助ケニイクゾ!〙


 「わかってるからッッッ!わかってるッッッ!」


 おおよそ上り坂で出すようなスピードではない速さで駆け上がっていく。一刻も速く山頂の休憩場へ…だんだん開けてきた山道、大きく広がる青空の下で、車は急停車した。


 「…静か…。」


 ここは山頂。


 アンナちゃんのスマホもこの付近から信号を出している…間違いなく200mほど先の休憩場に居るはずだ。


 なのに何故…何故こんなに静かなの!?


 「羽の音…しないッ闘ってる音も…!」


 まさか…本当に最悪の事態に!?


 いや、落ち着け。


 もうアンナちゃんが全員倒した可能性もあるじゃないか!


 そうだ…落ち着かなければ。


 いくら半年だけしか経っていないと言っても、私だって組織のアシスタントなのだ。


 有事の際にこそ、平静でいなければ…。


 〘…モシモノ時ハ、サッキノ作戦カ?〙


 「うん…もしもの時は…だよ。」


 そう…ここに来る前に立てた私達にできる精一杯のアンナちゃんのアシスト。ドラウガスの能力なら可能なことも確認済み。


 音で気づかれないように、車から降りてゆっくりと進む。


 対ディストート用の装備の数々。霞留博士の作った武器は私でも扱えるが…それでもエージェントの強さには遠く及ばない。


 一歩ずつ…確実に休憩場に近づいていく。


 ドラウガスも戦闘態勢に入った。組織の作った計測器曰く、この子の強さは危険度Cランクレベルとのことだ。


 カメレオンやアルマジロよりも強いのであれば…十分に戦力になる。


 恐る恐る歩き続ける。


【もうすぐ休憩場】


 の看板の前を通り過ぎた。


 休憩場までは階段だ。


 実際の様子は…登りきってみないと分からない。


 アンナちゃん…お願いだから無事でいて!


 大きな銃を構える。ドラウガスの後ろに隠れながら一気に階段を登りきり、山頂に出た───!






















 〘…あら?人間と…アナタは同胞の1人かしら?〙


 休憩場の真ん中にいた女の子がこちらを見てつぶやく。


 人間の姿に近いタイプのディストートだ。着ているドレスはボロボロで…ところどころ破けている。


 周りには大量のキラービー:ディストートの死体が転がっている。


 かなり激しい闘いだったようだ。









 そして───
























 「…アンナちゃん?」


 〘アンナダ!〙


 「…アンナちゃん…アンナちゃんッッッ!嘘…。」


 大量のキラービー:ディストートの死体に混じって、仰向けに倒れている人間の女の子。黒地に赤いラインのジャケットを着ているその子どもは間違いなく…










 アンナちゃんだった───!










 〘たった1人で…よくここまで頑張りました…。〙


 キラービー:ディストートの長…クインビー:ディストートが口を開く。


 次の瞬間、アンナちゃんのポニーテールを掴んで持ち上げる。


 〘中々の傑物…敵として出会ったのが心惜しい程に。〙


 「やめてよ!アンナちゃんをそんな…そんな乱暴にしないで!」


 怒りで飛び出した声は、もう自分では脳内で意識していなかった言葉だった。


 どんどん溢れ出てくる───


 「アンナちゃんに…アンナちゃんに酷いことしないでよ!」


 〘グルルルルルルルルルル…!〙


 私の横でドラウガスが唸り声を上げる。


 〘あらあら…随分と喧嘩っ早い方々ね…ご安心なさって?ほら…この通り!〙


ガッ!


 「かはぁッ…!」


 クインビー:ディストートに横顔を膝蹴りされ、アンナちゃんが痛がる───!


 「あ、アンナちゃん!」


 〘ライミ!アンナ生キテルゾ!〙


 アンナちゃんは死んでいない!


 ダメージは負っているが、なんとか命はあるようだ。


 「あ…ライミちゃん…ドラウガス…ごめ…わ、私の…私のこと…心…配になっ……て…来たんでしょ。」


 弱々しくアンナちゃんが口を開く。


 「アンナちゃん!無理しちゃダメ!」


 〘アナタ方…この女の御仲間ですね?ならば消えていただきます。〙


 こちらの話も聞かずに速攻排除…野生に生きる者達の性、特にスズメバチともなれば納得の習性だ。


 〘ライミ!危ナイ!〙


 次の瞬間、ドラウガスが私を包み込むように抱きつく!


 そして目にも止まらぬスピードで、自分の背中から大きな宝石のドームを展開して、ドラウガス自身と私を覆い隠すバリアのように包み込む!


ガシンガシン!


ギャンギャンギャンギャン!


ギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!


 外側から複数のディストートに殴られている…しかしドラウガスドームは一切傷つかない。


 透明なドームの中から外側の状況を確認する。


 クインビー:ディストートと、大勢のキラービー:ディストートがこちらを見ている。


 〘あらあら!閉じこもっていたのではこちらに抵抗もできないでしょうに!ただ少しだけ寿命が延びるだけですよ!〙


 その通り…このままでは何もできずに、ただ死ぬまでの時間を少しだけ延ばし続けるのみ。


 アンナちゃんも助けることはできない。進む先は全滅だ。


 まさしく万事休す…もはや終わりか───。























 だからこそ、だからこその作戦なのだ。


 「ドラウガス!今だよ!」


 〘アイアイサー!〙


カキカキカキカキカキ!


がっきぃぃぃぃぃぃぃぃぃいーーーーーーーん!



 私の合図とともにドラウガスドームの色が黒く変わる!


 地面には真っ黒な直径10m程の漆黒の物体が出現!

一点の迷いもないブラックドラウガスドームが完成した!


 〘!?〙


 そして次の瞬間!




ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ!

ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!ブゥゥゥゥウーーーーーン!


ガキャキャキャキャキャキャキャキャキャッッッ!!!!!


 一斉に外の世界から羽音と攻撃音が聞こえだした!

次々と私たちの周りに集まってくるディストート達!


 もちろん、その中には───!


 〘出てきなさい!出てきなさい!殺して差し上げます!〙


 クインビー:ディストートの声も聞こえる…先ほどとは比べ物にならないくらい凶暴な声色でドラウガスドームを殴りつけている!


 恐らく外にいるほぼ全てのディストート達が私達に釘付けのはず!


 すかさず手に持っていた端末でドローンを操作して、アンナちゃんの上を飛んでいるドローンから、透明の液体が入ったパックを落とす!


ヒュッ


ドムッ


 「おご…もちっと優しくしてよライミ先生。」


 ドローンカメラの映像でアンナちゃんがその液体をしっかり飲み干したことを確認!






 するとボロボロだったアンナちゃんがゆっくりと立ち上がった!







 次の瞬間、ドラウガスが体の色を元の煌びやかな色に戻す!


 「…ふー…。」


息を吐くアンナちゃん!


 その声を聞いてクインビー:ディストートが後方を振り向く!


 〘な…なぜ!?どうして立てるのです!?〙


 「これ博士が作ったD.B.M活性化薬ね…体内のD.B.Mが元気モリモリ…ご覧の通り、D.B.Mの回復作用が活発になって私も元気モリモリ…回復したってこと。」


 〘な…!し、しかしなぜ!?何故…と言うか…私は今まで何を…何故誰もあの女を見張っていないのです!?〙


 「それはアンタ等がキラービー…スズメバチだから。黒い色はそんなに敵に見える?女王様。」


 〘な…!〙


 アンナちゃんが少し言っちゃったけど…これが私達が即興で立てた作戦!アンナちゃんは巣窟に突入する前に、私達に一言伝えてくれた。





───────────────────────────


《巣窟突入前》


 "ライミちゃん、ドラウガス。"


 〘アンナカラダ!〙


 「うん、なに?アンナちゃん。」


 "多分、敵の数メチャクチャ多いと思うんだよね…想定なら昨日の5…いや10倍かな。さすがにその数で押し切られると私も全力で対応せざるを得ない。一匹一匹は大したことなくても、数の暴力って脅威だからね。"


 「うんうん…それで?」


 "だから私、最初は全力で数を減らす事にするよ…理由は後で言うけど、90秒しか時間がないんだ。"


 「90秒…?」


 "そ。だから90秒で敵を倒してしまえるように、それまではかなり無茶するから。だから1回ボロッボロになるまで抵抗して…一旦負けちゃうと思う。いや負けじゃないか…計画的疲労だね。だからそのタイミングで休憩場に来て、ドラウガスのドームに隠れて。"


 「ドラウガスドーム…この前練習したバリアのやつね!」


 "そ。ドラウガス〜練習の成果を見せる時だぞ〜。"


 〘分カッタ!ドラウガス、頑張ルゾ!〙


 "それからドローンで博士の回復薬を私の近くに落としてくれたらそれでいいから…あ、ドラウガス。"


 〘ハーイ〙


 "ドーム状になったら、体の色を真っ黒に変化させられる?"


 〘出来ルゾ!体ノ色、変エルノ簡単!〙


 "おっけーい…相手さんの習性を思いっきり利用してあげよう。そんでもってそのあと…90秒で全員倒す!だから敵を油断させるためにそれ相応の演技はしてください。"


 「わかった!…けど私はいつだって本気で心配してるんだからね!」


 〘ソウダソウダ!〙


 "アハハ…照れるなぁ。"


 「あ…それとアンナちゃん、そのさっきから言ってる90秒って何?」


 "あー…それはね…"



───────────────────────────


《再び現在》


 「この靴をポチッと…。」


ポチッ


キュイーン…!


キュイン!


うぅぅぅぅぅぅぅうぅうぅうぅうぅ!


うぅぅぅぅぅぅぅうぅうぅうぅうぅ!


 「このサイレンいるかね…。」


"Warning!Warning!"


 「あー…ハイハイわかったわかった。」


"Warning!Warning!"


 「あらよっと」


ピッピッ


ピッ!


キュインッ!








 あれ?


 アンナちゃんのジャケット…色が白くなった!?


 あれじゃあD.B.Mの力が最大限に使用できないんじゃ!?


 なんで!?アンナちゃん!?…と、アンナちゃんの姿を見て驚愕してしまう!























 その時だった─────!























"SELECT RAPID"

"DISTORT BRAKE MATERIAL"

"COLOR BLUE LET'S DRIVE"





シュイイイイイイイイイイイイイイイイイイン…






 アンナちゃんのジャケットのラインが…





 青色に!?








 「さて…アンタ等もうオシマイだよ。」






"RAPID MODE"




挿絵(By みてみん)





 そこに立っていたのは…いつもの赤いラインではなく青色ラインのジャケットに身を包んだアンナちゃんだった!


 いや…正確には着替えたわけではない。


 ジャケットのラインと瞳の色が赤から青に変わっただけだ。


 すると、アンナちゃんがスマホに目を落とす。


"90!89!88!87!"


 「これ始まるタイミング強制なんだやっぱり…扱いづらい新形態だな…。」


 〘く…なんですの!?色が変わっただけで…皆の者ッかかりなさいッ!〙


 「行くよ…3つも数えてらんない。」


 そのアンナちゃんのセリフを聞いた瞬間だった。
























シュヒュンッ





















                      え?























アンナちゃんが

消えt















いや!?

























          増えた!?

















挿絵(By みてみん)








"77!76!75!74!"


 英語で時を刻む音声


ファン!ファン!ファン!ファン!ファン!

ファン!ファン!ファン!ファン!ファン!


 鳴り止まないサイレン



 200は軽く超えているであろう数のキラービー:ディストート───。






















 の、一体一体各個体ごとに1人ずつのアンナちゃん!?


 目の前で起こっている状況に理解が追いつかない。




 アンナちゃんが青くなった → アンナちゃんがいっぱいに増えた → 1匹…また1匹とディストートがアンナちゃんに倒されていく → その度にアンナちゃんが1人減っていく




 ただそれだけだ。


 私に理解できるのはそれだけ。


 〘アンナガイッパイ!〙


 驚いているのは横のドラウガスも同じ…何が起こっているのかよく理解できていないのも同じ。


"34!33!32!31!30!"


 カウントが30を切った所で、アンナちゃんが突然私達の前に現れる───!


 そして何も言わずに右下を見て再び消える───!


"21!20!19!"


 〘な…何を…これは!?〙


 「もうアンタしかいないけど。」


 〘こんな…こんなことg


"14!13!12!"


                   ギュインッ



ズキュンッ




           ドドドゴッ




 〘かがぅ…ッ〙


 青色の光が縦横無尽にクインビー:ディストートの周りを何度も何度も駆け回り、それと同時に少しづつクインビー:ディストートの身体が宙に舞う。


 もはやアンナちゃんの姿は見えない。


 青い光のラインが描く軌道…恐らくそれがアンナちゃんがその瞬間まで存在していた場所なのだろうという認識だけ───





 いや、それすらもアンナちゃんには置いていかれてしまう。





"10!9!8!7!"


 次の瞬間───!





 宙に浮いたクインビー:ディストートの周りに青い光の螺旋が幾つも現れたかと思うと


 一瞬にして同時にクインビー:ディストートに襲いかかる!








"3!2!1!"


                    シュンッ





 「あ…アンナちゃん!」



"TIME OVER!RAPID OFF!"




 無数の青い螺旋がクインビー:ディストートに衝突したと同時に私達の目の前に現れたアンナちゃんの瞳の色とジャケットのラインがいつもの赤い色に戻っていく。




 「…ライミちゃん、ドラウガス、帰るよ。」



 〘……………………ッッッ!カフ…ッ!〙



キュイン…


      キュイン…


            キュイン…


                  キュイン…



 「え…?か、帰るの?」


 〘分カッタ!〙



 え?お相手さん、まだ空中に
















          キュンッ

















ひゅばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあんッ!















 「えぇぇぇぇぇぇぇえ!?今!?爆発した!?」


 〘ドカーン。〙


 「疲れたー。」


 「疲れたって…え?え?アンナちゃんだよね?本物だよね?ずっと辛うじて見えた時のアンナちゃんもうおぼろげで服とか着てるやつと違うやつに見えたけど。」


 「晴家安成ですよ〜。っていうかライミちゃん私の心配してる時ガチだったでしょ。」


 「あ、当たり前でしょ!ホントにやられちゃったかと思ったんだからぁ泣」


 〘ライミ泣キ虫。〙


 「途中まで凄い演技派女優だと思ってたよ。顔面蹴られた時くらいに「あ、これ作戦とかじゃなくてガチで心配してるやつだわ」ってなってからは逆に私が心配になったけどね。」


 「酷い!アンナちゃんヒドイ〜〜〜泣」


 「アハハ…でもありがと。」






















───────────────────────────


《6月20日(木) PM18:43》


 「アンナちゃん…大丈夫かな…。」


 心配そうに呟いたのは、親友の晴家安成が出ていってからずっと元気がない忍耐心だ。


 「…お前が信じてやんなくてどーすんだよ。」


 「………うん。」


 不思議なものだ。昨日までの自分なら、こうしてコイツと横に並んで座って話そうなんて絶対に思わなかっただろう。


 なんせ俺とコイツの関係は…あぁ、昨日までの関係は【イジメの被害者と加害者】だったのだから。


 そして謝ったのが昨日の夜…俺に呼び出された時のコイツの顔と目を、多分俺は一生忘れないだろう。


 知らなかった。


 同じ目をしてた。


 家で…まるでそこにいないかのように扱われている時の…俺と同じ目をしていたからだ。


 なんとも言えない…しかし確実にマイナスの感情の目。


 その時に…のしかかってきたよ。


 自分の罪の重さ…。


 そして1人で耐えて来たコイツの凄さも。


 罪滅ぼしと…償いはこれからして行くつもりだ。


 忍耐心…しのぶたえこ…にんたいしん


 か。


 名は体を表すと言うが、コイツはマジで凄えよ。


 なあ父さん…俺、これからちゃんとするから。


 だから…見ててくれよ。


 「おーい!タエコー!ショウマー!」


 遠くから聞き覚えのある声が聞こえる。


 自然の家の前に広がる海と砂浜…その向こうからやってきたのは晴家安成だった。


 「アンナちゃん!アンナちゃーん!」


 俯いていた忍耐心が駆け寄って行く。


 スピードを落とすことなく走って行って、そのまま晴家安成に飛びついて抱き着く。


 「痛…。」


 「え!あ、ご…ごめん…!」


 「有田は?みんなにはバレてない?」


 「バレてないバレてない!ずっと寝てることになってるからアンナちゃん!」


 「それはそれでどうなの?うちの学校はザル管理なの?」


 「アハハ…ザル管理かもね…。」


 そして2人が歩いてこちらに戻ってくる。


 近づいてくる2人に合わせて、俺は壁につけていた背中を前に倒して歩き出す。


 そして笑って、無事に帰還したヒーローに一言声をかける。


 「よっ…何とか生きてるみたいだな。」


 少しジョークも込めて…軽い言い方で迎える。


 それを聞いて晴家安成が少し眉を上げながら笑って言葉を返した。



 「私がいなくて寂しかったでしょ?ほら、ただいま。」




























次回予告


第27話

【毒に塗れて生きる】

【設定を語ろうのコーナー⑬】


〘RAPID MODE(ラピッド・モード)


"Warning!Warning!"


"SELECT RAPID"

"DISTORT BRAKE MATERIAL"

"COLOR BLUE LET'S DRIVE"


"TIME OVER!RAPID OFF!"


制限時間:1分30秒


【概要】


晴家安成が纏うD.B.M制御機能付きジャケット(以下、D.B.Mジャケット)のラインと安成本人の瞳の色が瑠璃色に変わり、D.B.Mその物も青い輝きを放つ戦闘形態。

この状態のD.B.Mは《素早く流動する》性質を持ち、それを身に纏う状態となるため、アンナ本人のスピードが爆発的に上がる。一般人どころか低級クラスのディストートでも、ラピッド・モードのアンナを視認することは不可能であり、辛うじてジャケットの青いラインが光り輝いているため、その軌道と残像を追うことしかできない。青い光がひたすらに動き回る様子を目で追うことしかできないのだ。


必殺技は超スピードで動き回り、空中に打ち上げた敵を囲むように回転蹴り(カーマインストライクの青くなった版)を放つ【セルリアンクラッシュ】。まるでアンナが大量に分身して同時に攻撃しているかのように敵の全方向から蹴りを放つその姿はまさしく群青の嵐。一撃だけでも十分にディストートを倒せるレベルの蹴りを四方八方から浴びせるラピッドモード最強の必殺技である。

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