第25話【アンナとショウマ】
《6月19日(水)PM16:40 山道》
「…とまあ、これがさっきのバケモンのこと。」
かなり端折ったが…私のこと、組織のこと、ディストートのこと、簡単に田中に説明した。少なくとも私が知ってる限り、教えられる範囲でね。
「…信じらんね。」
「うん、いや田中…正しいよアンタが普通だよ。」
「1時間前までの俺なら信じてねーな。」
「タエコもそう言ってたよ…ハァ。」
ため息が出てしまう。いくら組織が私に甘いからと言って、タエコの時は本当に特例だった事くらい私にも理解できる。ライミちゃんには連絡した…ていうかうん、見てたもんねドローンで。
電話の向こうのライミちゃんは泣きそうだった。多分あれだな…責任とって辞めさせられるかもとか考えてんだろうな。
全力で庇います。
いやだって私の責任だし。
いや私の責任でもないんじゃないか?田中が戻ってきたのは完全に偶然だろ。
「…晴家。」
「ん?」
「…今日さ、風呂入ったあと自由時間だろ?」
「あー…らしいね。ミーティングと今日のまとめしたあとにお風呂で、その後は寝るまで自由時間だって。」
「…なんかさ…晴家…あのさ。」
「何さ。」
「…時間貰えねーかな。2人で話したいんだけど。」
「ハハハ…大胆じゃん。」
「バーカ。今の話もう少し詳しく聞かせろや。」
「う〜ん…まあいっか。いいよ。じゃあ20:30に大広間のベランダで待ち合わせ。」
「…わかった。」
なんかコイツ、急に素直になったな。ディストートを見てビビったのかそれとも信じられない光景を目にして逆に冷静になったか…
「とにかくまぁ…なんだ、晴家。」
「ん?どうしたん?」
「…悪かったな。ごめん。」
「え…どれについての謝罪?」
「…色々だよ。」
うわ………まじかよ、コイツ。人に謝る感性とかあったのか…なんかびっくりした。かわいいとこあるじゃん。
そろそろ自然の家に着く。
ずーっと2人で歩いてきた山道、何事もなかったように静かだった。
そうだよ…問題は何も解決してないんだ。結局のところディストート。親玉の女王蜂…早急に叩かないと!
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《6月19日(水)PM20:29 自然の家・ベランダ》
「…おーっす田中。」
「よ…ワリィな。」
「アンタほんとに田中?お昼までトゲトゲしかったのに。」
「うるせーな…そんな話したくて呼んだんじゃねーんだよ。」
「ハハハ…それそれ、いつもの田中。」
「うぜぇな…オメーだって髪結んでなくて誰だか分かんなかったよ。」
「あっそ。」
6月の夜は涼しくていい…話しやすいし聞きやすいし、何事も丁度いいのが良いよね。
「さて、改めて話そうかな…私たちのこと。」
「さっきより詳しく頼むわ…安心しろよ。有田には言わねーから。」
「…助かるよ。ありがと。」
※アンナちゃん、お話中─────
《PM22:00》
「へぇ…お前、親に捨てられたのかよ。」
「そ。」
「なんだ…じゃあ俺とあんま変わんねーな。」
「あんま変わんない?そう言えば私、アンタのこと何にも知らないかも。」
「あー…俺さ、親が再婚したんだよ。」
「再婚?」
「うん…俺さ、父さんの連れ子でさ。一人っ子なんだよな。それで父さんの再婚相手んとこにさ、子ども3人いたんだよ…俺、兄ちゃんと姉ちゃんと妹できてさ。」
「ヤバ…絶対仲良くなんないでしょ。腹の探りあいとかして。」
「いやマジで…そしたら父さん…死んじまった…バスジャックに襲われたって…帰ってこなかった…観光バスのさ…運転手やってたんだ。」
「観光バス…観光バス?ねぇ田中、それってさ去年の11月のニュースのやつ?」
「…うん。」
…そう言えば、去年の11月に観光バスがひっくり返ってボロボロんなって…乗ってた人が全員殺されたってニュースがあったっけ。
しかもそれって───。
「あのさ…田中、それ世間的にはバスジャック犯の犯行ってことになってるけど、実際にはディストート…あー、さっきの怪人だよ、犯人。」
「……………えっ…!」
「…うちの組織も驚いてた。白昼堂々とバスを襲って暴れるディストートなんて珍しいから。情報とかの操作が大変だったらしくてさ。上もバタバタしてたよ。」
「……それじゃあ父さんが帰ってこなかったのは…!」
「さっきも言った通り…ヤツ等が人間襲う理由は…。」
「…まじかよ。ハハハ…そうか。父さん、怖かっただろうな…俺、父さんが死んでから家であんまり扱い良くなくて…再婚相手の人は自分の子どもばっかり可愛がってさ…家事とか俺がやってんだぜ?小遣いも俺だけくれねーし…誕生日も祝ってくれねぇし…俺だけ怒られるし…コレ、髪染めたんだぜ?俺、無視されてんだぜ?最近…なんなんだよ…なんで俺ばっかり…父さんが…クソ…。」
…田中が泣いてる。
なんてことだ…確かにあの事件は組織内でもかなり話題になった。
あの事件で討伐されたディストートは危険度ランクSの文字通りバケモノだったらしい…討伐したのは組織のΩランクエージェントと、サポートに出向いた影狼だった。
泣きたいよな…私と違って、父親からちゃんと愛されていたんだろう。
こういう時…どうしたらいいんだろ。
肩を叩いてあげる?のはなんか馴れ馴れしいかな…
抱きしめる?のは嫌がりそうだし…
何もしてあげないのも…なんか薄情だしな
う〜ん…あ。
「アンタは頑張ってるよ…話聞く限りだけど。」
ポンポン…
ナデナデナデナデ…
「…子ども扱いすんなよ。」
「嫌ならちゃんと顔上げて言いなよ。」
「…父さんの事件の犯人、どうなったか聞いていいか?」
「ウチで1番強いランクのエージェントと…友達の忍者が退治したよ。まあほとんどそのΩランクエージェントの人が倒したけど、忍者の方は私…連絡先持ってるから…。」
「…今度会わせてくれよ。ちゃんとお礼したいから。」
「うん…そうだね、わかった。」
そっか…コイツがいつも周りに敵意剥き出しでキツく当たる理由が、なんとなくだけど分かった気がする。
コイツは…田中はそんなに難しい理由とかはなくて…
ただ純粋にストレスとか…精神的にダメージが大きくて、自分でもそれがコントロールできなくなって、周りに当たり散らして…発散してたんだろうな。
しかもそのことを…自分でも自覚できなくて、家のことも父親のことも自分のことだからって周りに相談できなくて…ずっと1人で闘ってたんだ。
「…忍のやつにさ。」
田中が切り出す。
「タエコに何?」
「俺…忍のやつに謝りてぇ…安達とか武田の悪ノリに乗っかって…自分のストレスの発散のために忍に当たり散らして…アイツん家、貧乏だろ?アイツが大切にしてた宝物、トイレに流しちまった。アイツの母親がさ、頑張って働いて買ってくれたんだって…マジで申し訳ないことしたよなぁ…許してくれねぇよな…流石に。」
「メチャクチャ反省するやん。」
「ったりめーだろ…。」
「それは直接タエコに言いなよ。私の方は…もうアンタに恨みとか無いから。」
「…マジでごめんな、晴家。」
「あ…それやめない?」
「それ?」
「そ。晴家とか忍とか…そういうの何か堅苦しくて嫌だからさ、アンナって呼びなよ。」
「そっか…じゃあ改めてよろしくなアンナ。」
「フフ…うん、よろしくショウマ。」
世間って狭い…私たちが解決した事件が巡り巡ってこんな縁を引き寄せる。
そして田中の父親の話を聞いて改めて自覚する、ディストートの恐ろしさと…ディストートの脅威からみんなを守るこの仕事の重要さ。
エージェントとして気を引き締め直すキッカケをくれた田中…意外と良いヤツじゃん。コイツの父親のためにも…頑張らないとな。
「てかアンナ…お前の方の問題なんも解決してなくね。」
「いや、そうなんだよね…なんとかこの林間学校中にさっきの…蜂のディストート達とその女王蜂を倒さないと。」
「実際には2日も無いな…明後日の15時には学校に戻っちまう。」
「そうなんだよ…しかもみんなに見られないようにしなきゃ…アンタ1人でもこんなに火消しに手間取るんだから。」
「ハハハ…それな。間違いないわ。」
「ハハハじゃないよ…とにかくショウマ、アンタとタエコの仕事は…ね。」
「分かってるよ。有田に知られないようにうまく誤魔化せってことだろ?」
「頼んだよ…信じてるから。」
「任せろ。」
ショウマがこっち向いて笑いかける。まあタエコも居るし、そのへんは大丈夫だろう。話が一段落したので時計に目を移す。もうすぐ日付が変わりそうだ。
「0時前じゃん。」
「もう遅いな…悪いなこんな時間まで。」
「え?あ、うん…全然、全然いいよ。」
「そっか…じゃあ俺、部屋戻るわ。」
「ん、明日朝早いしね。」
「おー…じゃあおやすみアンナ。」
「おやすみショウマ。バイバーイ。」
ポケットに手を突っ込んでショウマが歩き出す。私はその背中が、廊下を曲がって見えなくなるまでずっと見つめていた。
さて…リミットは30時間ってところか。今回は林間学校、影狼たちの助けも受けられない。
自分たちの力だけで切り抜けなければ…
そのための切り札は───。
博士に貰ったこの…この靴…なのかな?
☆次回予告☆
ついに動き出す女王蜂!
迫るリミットとディストートの脅威の中…アンナが新たな光を掴む!
───次回!
第26話
【蒼光・加速するRAPID!!!!!】
"COLOR BLUE LET'S DRIVE"
(前編・後編に分かれてお送りします)




