第23話【猛毒の針】
《6月18日(火)AM02:34》
「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!クソ!」
男が走っている。辺りに電灯や建物は無い。月の明かりのみを頼りに、男は山道を進む。
とっくの昔に疲れている。本当ならもう一歩も歩けないくらいだ。
だが、足を止めた時…その時は自分の命が尽きる時だ。なぜか体が前に進む。火事場の馬鹿力と言うやつか。
「ハァ…ハァ…ハァ…!なんだよ…なんなんだよあれ!」
逃げねば。
逃げねば。
奴らから逃げねば。
ブゥゥゥゥゥン
「ひぃ…っ!」
あの音だ…あの音だ!
クソ…なんでこんな事に!
俺たち4年生は登山部を引退。その前に思い出作りにと大自然の中で過ごそうとしていた矢先だった。
もうみんな奴らに…連れ去られた。
俺だけでも…俺だけでも逃げなければ!
ブゥゥゥゥゥン
ブゥゥゥゥゥン
ブゥゥゥゥゥン
ブゥゥゥゥゥン
ブゥゥゥゥゥン
ブゥゥゥゥゥン!
「ハァ…ハァ…クソ!クソぉ!」
ブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥンブゥゥゥゥゥン
ブゥゥゥゥゥン
ブゥゥゥゥゥン
ブゥゥゥゥゥン…
ギャァァァァァァァァァァァァァァァァア
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《6月19日(水)AM11:40》
「着いた。」
「着いたねぇー…!」
へぇ、東京の大都会から2時間くらいで行けるとこにこんな大自然に囲まれた自然の家があるのか。
目の前には海。と言うことは海沿いの山の中か?知る人ぞ知るって感じだな。
「空気がキレイですね。素晴らしいです。」
後ろから声をかけてきたのは有田。
そのさらに後ろには…田中。
「タエコさん、このあとのスケジュールはどうなっていますか?」
「うん、えっと…このあと班ごとに別れてカレー作りして…14時からウォークラリーだって。」
ふーん。結構1日目からしっかりしたスケジュールなんだな。
特にウォークラリー。多分山登りだろう。私は大丈夫だけどタエコと有田のことちょこちょこ見守りながらやるか。
「タエコ。カレー作る時の役割分担決めようよ。」
「う、うん!そうだね…取り敢えず着替えて集合だって!」
「なおさらさっきのお着替えタイム要らなかったじゃん。」
「ていうか山登りとかカレー作りするのに私服でいいのかな…。」
「まあ…道も鋪装されてるみたいだし、大丈夫なんじゃない?何かあったら学校の責任だし。」
というわけで、自然の家に着いたわけなので。いよいよ本格的に林間学校のスタート…ということになった。
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【カレー作り・女子サイド】
「まず何からすればいいの?」
「あ、えっとねアンナちゃんは野菜を切ってほしいな。」
「了解。」
ずだん!ずだん!
「アンナちゃんコワイよ!」
「え?だって切れば良いんでしょ?」
「…ライミさんのお手伝いとかしないでしょ。」
「しないね。」
「今度からしなよ…。」
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【カレー作り・男子サイド】
「さあ、田中君。我々は力仕事ですよ。」
「めんどくせぇからお前がやれよ。」
「いえ、林間学校のしおりに全員で協力して進めることと書いてありますので協力してください。」
「…うぜぇなお前。」
「ええ。重々承知してます。」
「…どれ運びゃ良いんだよ。」
「我々は飯盒炊爨担当なのでこれを2つ運んでください。僕はポリタンク2つ持つので。」
「は?お前、1人で2つ持つのかよ。水がいっぱいで重たいだろ。1個貸せよ。」
「いえ、持てますよ。」ヒョイッ
「……………!?」
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かくして始まった林間学校。子どもたちが和気あいあい(?)とカレー作りを楽しむ中、それを監視する者がいた。
〘…人間の子どもを多数確認。このまま監視を続け、タイミングを見て毒針で攻撃し、女王様へ持ち帰ります。〙
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そして──────。
《同刻、東京都内某所》
「あら可愛い♡よ〜く似合ってるわ♡」
その日、都内のとある一般家庭では、11歳を迎えた娘のために、特別な催しが行われていた。
父親と上の兄弟達は帰りが遅く、専業主婦の母親が本日の主役である娘のために買ってきた服の着付けをしていた。
しかし、当の本人は何やら悩ましげな表情で着ている服を見つめていた。
「(なんだろ…何か忘れてるような…。)」
「どうしたの?浮かない顔して。」
「あ、うん…ママ、何か忘れてない?何か大切なこと。」
「大切なこと?今日はあなたの誕生日じゃないの。それ以上に大切なことなんてある?」
「え…うん、なんか…誰かを忘れてるような。」
「そう?」
「うん…まあ気のせいかもしれないけど。」
「そうよ〜。今日はね、お誕生日なんだから、楽しみましょ♡パパたちももうすぐ帰ってくるからね!」
「うん…そうだね。」
「改めて、11歳のお誕生日おめでとう雛鳴ちゃん♡」
「ありがとうママ。」
少女は…安達雛鳴は俯く。
自らの脳内に浮かびそうで浮かばない、忘れてはならないと本能が訴えかける人物の顔と名前。
そう遠くない未来、それを思い出すのだが…それはまだ先の話である。
☆次回予告☆
キラービー:ディストート襲撃!
襲いかかる敵はまさかの大群!?
───次回!
第24話
【女王の為に】
アンナ敗北!?




