表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/77

第21話【お前はドラウガス】

《6月18日(火)PM15:40》


 「っと…良し、買い忘れたものないね。」


 「そもそも買うものあんまりなかったね。」


 「タエコの雨具くらいかな…それ以外はうちにあったしね大抵。」


 「ごめんね…うち貧乏で保育園の時のカッパしかなくて…。」


 「いいんだよ。貧しいことは謝るようなことじゃないし。」


 と、言うわけでだ。


 霞留博士の残念なお知らせを拝見させていただいてすぐ、私達は明日から始まる林間学校の買い出しに来たわけだ。


 まあ買い出しと言っても、必要なものはほとんど家にあったもんで…買ったものと言えば、タエコの雨具と私の日焼け止めくらいだった。


 「要らないけどね日焼け止め。」


 「あるに越したことはないけどね( ̄︶ ̄)」


 「いやだってライミちゃんが…ん?」


 「え?どうしたのアンナちゃん。」


 「いや…あそこ。」


 「あそこ?」


 そうあそこ。


 平日の昼間で人通りも少ない裏路地の近道を歩いていた私達の前方には、東京とは思えないくらいの陰気な大階段がノペーっと存在していた…のだが、その横の空間に何かいる。



ゴソゴソ…


 「…アンナちゃん、あれ何?」


 「いやわからん…。」


 何か得体のしれない物体?がガラクタを漁っている。恐らく捨てられたものだろう。


 いやこんな場所にそんな金属とか家電とかを捨て置くとは何事かと言ってやりたいのだが…それどころではない。


 めっちゃガチャンガチャンと音をたてながら何かがガラクタを漁っているのだ。


 「…タエコ、下がんな。」


 「う、うん。」


 こちらに気づいていない。夢中になって何かを探しているようだ。


 あえて声をかけずに観察する。下手に驚かせて、襲ってきたら…たまったものではない。


 すると、その何かの動きがピタッと止まる。


 それを見て私もタエコも警戒。いつでも動けるように全神経をその何かに集中させる…


 そして次の瞬間─────。








 〘アッタ!キラキラ!僕ノ物!僕ノオ宝!〙






 …宝石だ。


 宝石のバケモノが手にガラクタを持ってはしゃいでいる。


 金色の…壊れたオルゴール?見たいものを両手でしっかりと持って嬉しそうにピョンピョン跳ねている。


 「アンナちゃん…あれって…。」


 「うん。ディストート…だと思う。多分。」


 多分というか…100%ディストートだ。エージェントとしての勘が私にそう言っている。


 このまま気づかれないように…一旦距離をとって隠れながら尾行する。


 ディストートの討伐はできるだけ迅速に行わなくては…これ以上被害を出さないために、まだ向こうがこちらに気づいていないことを利用して追跡しようとしたその時───────。








〜♪〜♪






 しまったスマホの着信音!?


 ライミちゃんか!




 〘エエ!?誰!?〙


 「…ヤバッ」


 「アンナちゃん…っ!」


 気づかれた!


 私はいつでも闘えるように臨戦態勢に入る!


 タエコは私の袖をギュッと掴んで離さない!


"SELECT NORMAL"

"DISTORT BRAKE MATERIAL"

"COLOR RED LET'S GO"


 「変身!」


"NORMAL MODE"


キュイーーーーン!


 変身完了…さあ来い!










 〘僕悪イコト何モシテナイ!痛イノ嫌ダ!〙


ガシャガシャガシャガシャ…

ドタドタドタドタ…






 「…ん?」


 「あ…逃げた。アンナちゃんあのディストート逃げたよ。」


 「え?あ、うん。」



 逃げた…






 いや違う違う


 「タエコ、追うよ!」


 「うん!」


 奴の姿がまた視界に入っているうちにタエコをおんぶして追跡を開始。ディストートはそのまま裏路地に入って逃げていく。


 「入り組んでるね…頭とかぶつけないようにね!」


 「うん、アンナちゃんのこと離さない!」


 タエコをおんぶしたまま全速力で駆ける。階段を上がり、入り組んだ道に入り。


 また階段を上がり、裏路地に入り。


 今度は階段を下り、よくわからん道に入り…







 そうやって結構な時間、ディストートを尾行し続けた結果─────。






















 「しまった見失った…ってここどこ?」


 「うわぁ…こんなところあったんだ…東京って…。」


 そこには見たこともない洋風街が広がっていた。


 しかも結構高い。東京の街がかなりの範囲見渡せている。


 「映画の中みたいだ…。」


 「すごいねぇ…キレイなとこ…!」


 あまりの光景に街並みや東京に見入ってしまう。


 不思議な場所だ。しかも人気を感じない。


 すっかりその場の雰囲気に包まれ油断していたその時─────!



 〘…オマエ達…僕ノコト追ッテキタ?〙


 後ろからの声に驚く。


 振り返るとそこには…























挿絵(By みてみん)






















 先ほどまで追っていたディストートがいた!


 「タエコ!下がりな!」


 「う、うん!」


 やっと出てきたなコイツ!手っ取り早く終わらせる!


 ジャケットのラインも一層赤く光り輝く。


 明らかな危険の赤信号だぞ!


 さあどうする!





 〘オマエ達モ、コレ欲シイノカ?ソシタラ、コレアゲル。ソシタラ、僕ノコト見逃シテクレル?〙


 「……………はい?」


 そう言うと、ディストートは両手で大切に持っていたオルゴールを渡してくる。


 「ふざけるな!お前が渡してきた物なんて要らない!」


 〘エ!ソ、ソウナンダ…要ラナイ…怒ラレタ…。〙


 なんだコイツ…今まで倒してきたどのディストートよりも


 なんというか…獰猛さを感じないぞ?


 〘怒ラレタ…人間コワイ…ナンデミンナ…コンナニコワイノニ…アンナニ必死ニ襲ウンダロ…ワザワザ危険ナコトナノニ…。〙


 全然襲ってこない。


 それどころか、私だけじゃなくて、後ろで小さくなっているタエコにすら恐怖している感じだ。それを見たタエコが口を開く。


 「ねぇ…アンナちゃん。」


 「ん?」


 「この子…もしかして危なくないんじゃない?」


 「え?いやまあ、確かにそんな感じだけど。」


 「…ねえ、アナタ!」


 〘!〙


 タエコがディストートに話しかける。意外と根性あるなこの子。


 「アナタ、人間食べないの?」


 〘…人間タベナイ!ダッテ人間コワイ…何シテクルカワカラナイ…ソレニ、人間タベモノジャナイ…僕、石シカ食ベナイ…。〙


 「石しか食べないの?」


 〘ウン…僕、石シカ食ベナイ。他ノミンナ、人間襲ウケド、僕ニハ理解デキナイ。ワザワザコワイコト…!〙


 「…アンナちゃん。この子、人間食べないって…多分本当だと思う。」


 「え…いやいや、アンタ本当に言ってんの?演技してるかもしれないじゃん。油断させて襲ってくるかも。」


 「…ちょっと待ってて。」


 するとタエコが私の後ろからスッと前に出てディストートに向かって歩いていく。


 「ちょっと!」


 「大丈夫だから。」


 そのままディストートの前に立つタエコ。この距離で襲いかかってきたら、私でも助けられないかもしれない。一応、いつでも動けるように足に力を入れて構えておく。


 するとタエコが…


 「ねぇ!それ私たちにくれるの?」


 〘…ウン!コレ、オマエ達モ欲シインダロ?ダッタラコレアゲル!ダカラ、見逃シテ欲シイ…。〙


 「んーん。私たち、あなたに乱暴しないよ。」


 〘エ?本当ニ?〙


 「本当だよ。だからそれも、アナタが持ってて。宝物なんでしょ?」


 〘ウン、…キラキラ。〙


 「フフ…そうだね、キラキラしてるね。近くで見て良い?」


 〘ウン!キラキラ見テイイ!〙


 「ありがと〜!すご〜い!」


 えぇ…タエコとディストートが仲良くガラクタを見ている。


 仲良くなったのか?いや、まだ友好的と決まったわけでは…


 〘オマエモコッチキテ見テイイヨ!僕ノオ宝!〙


 「そうだよ〜アンナちゃんもこっち来て見なよ。」


 「え〜…マジかよ。」


 不安だなぁ…そう思いながらも2人のもとに歩いていく。


 コイツ、どうやら本当に襲ってこないらしい。近くまで来て変身を解く。


 「どれどれ…?」


 〘キラキラ!ホラ!コレ、オマエニアゲル!〙


 「え!?タエコじゃなくて私!?」


 〘ウン!オマエニアゲル!〙


 「えぇ〜…。」


 「アハハ〜良かったねアンナちゃん笑」


 ディストートが差し出してきたガラクタを受け取る。確かにキラキラと金色に光っているが…壊れたオルゴールだやっぱり。


 「…なんでコレがお宝なの?」


 〘キラキラシテルトウマイカラ。〙


 「あ結局食うのねコレ。」


 「アハハ〜アンナちゃんいいなぁ笑」


 「良いなぁってアンタね…。」


 〘コレ…アゲタカラ、僕トオマエ友達カ?〙


 「え?」


 〘僕トオマエ、友達?〙


 「えーっと…アハハ。」



 おいおいタエコ…あれよあれよと言う間にディストートと仲良しになってしまった…。


 上に知られたらどーすんだよ…一応、ディストートを倒すための秘密結社だぞ?SMOoDOは………。



───────────────────────────



《30分後》


 「へぇ〜、アナタずっと一人だったんだ…。」


 〘ウン…僕ズット1人…寂シカッタ。〙


 こんな感じでずーっとタエコとディストートが座って話をしている。そして私はそれを後ろで、腕を組みながら壁に背を預けて聞いていた。


 〘僕…人間襲ッタコトナイ…ソレデ、他ノミンナニイジメラレタ…オマエ意気地ナシダッテ…叩カレテ、蹴ラレテ…痛カッタ…。〙


 「それで良いんだよ…人間は襲っちゃダメ。絶対にダメだよ。」


 〘ワカッテル…人間、優シイヤツモイッパイイルカラ…ソレニ人間仕返シシテクル…コワイ…。〙


 「…私もイジメられてたの。最近までお友達いなくて…あなたと同じだよ。叩かれたし蹴られたし。誰も助けてくれなかった。」


 〘エ!?オマエモ同ジ…!?〙


 「うん。そうなの。だけどね、後ろにいるアンナちゃんが助けてくれて、お友達になってくれて、悪い人もいなくなって…もちろん、いなくなった事自体は良いことじゃなくて、その人達にも家族や友達がいたはずで…喜んで良いことじゃないけれど…それでも、前よりは辛くないよ。イジメもなくなったから。」


 〘ソウカ…オマエ、ガンバッタ…エライ…僕、ズットヒトリボッチ…。〙


 「だからね、私…自分と同じような人がいたら、アンナちゃんみたいに、手を差し伸べてあげようって決めてたの。多分それって…」


 〘?〙


 「それって今だと思うんだ。」


 〘今?〙


 「うん、だからね、私とアンナちゃん…あなたのお友達になりたいな。」


 「え!?ちょっとタエコ…!」


 「………。」ギロッ


 「なります。」


 〘ホ、本当カ!?嬉シイ!僕、友達デキタ!〙


 嬉しそうにディストートがピョンピョン踊る。そんな上機嫌なディストートを見て、タエコも笑っている…まあ、別にいいか。コイツ、本当に害はなさそうだし。


 「…全く。人が良すぎんの、アンタは。」


 「えへへ…だって友達は多いほうがいいもんね。」


 〘アンナ、タエコ、トモダチ!〙


 「そうそう!私たち友達だよ!…えーっと。」


 「そうだよ。アンタ、名前なんて言うの?」


 〘名前?僕、ナマエナイ…。〙


 そっか…コイツ、名前ないのか。


 そうだよな…人間からは逃げられて、仲間のディストートからも異常者扱い。ずっと孤独に生きてきて、名乗るような場面もなかったはず。


 名前なんてないか…それなら。


 「じゃあ…ドラウガスってのはどお?」


 〘ドラウガス?〙


 「アンナちゃん、それどういう意味?」


 「ドラウガス。リトアニア語で【ともだち】って意味。」


 「へぇ〜!なんかカッコいい!」


 〘ドラウガス!カッコイイ!僕ノ名前ハ、ドラウガス!〙


 「ハハハ…そうそう。お前はドラウガス。」


 「だって〜!良かったねドラちゃん!」


 「もうあだ名つけて…それでどうする?コイツ。」


 そう。コイツをどうするか決めなければ。ボチボチ暗くなってきたから私たちも帰らないと行けないし…このまま野放しにすれば事情を知らないエージェントに見つかって、組織に認知されれば最悪、討伐対象にされてしまう。


 「う〜ん…アンナちゃん。この子…。」


 「…しゃーない。ドラウガス。」


 〘アンナ、ドーシタノ?〙


 「アンタ、うちに来なよ。」


 「やった〜!アンナちゃん大好き!」




















───────────────────────────




《PM19:02》


 「ただいま〜。」


 「ライミさん、遅くなってごめんなさい…。」


 「アンナちゃん!タエコちゃん!心配したんだよ〜電話にはちゃんと出…て…。」


 「…アンナちゃん、ライミさんがフリーズしちゃった。」


 「うん。紹介するね。さっき友達になった…。」


 〘ドラウガス!オマエガ…ライミ!オマエモ友達!〙


 「ディディディディディ!ディストート!アンナちゃん!コレッディストートッ!」


 「いやそうなんだけど…ちょっと待ってな。」


 〘ウン。〙


 そう言うと、3人を待たせて部屋の奥に入る…っと、あったコレだ。


 「おまたせ。ドラウガス、気をつけ。」


 〘ハイ!〙


 キレイに気をつけをしたドラウガスの頭から足先に光を当てる。


 「はい次、ドラウガス、ア~ン。」


 〘ンァ〜ン。〙


 「ちょっと貼り付けるからね…痛いかも。」


ペタペタ


ブゥゥゥゥゥン…ピーッ!


 「よし!終わった。アンタ本当に人間襲ったことないんだね。」


 「え?アンナちゃん、今の何?」


 「あ〜、なんか人間食べたディストートって若干細胞に変化が現れるらしくってさ…それを判定する機械。」


 「霞留博士の発明品?」


 「そうそう。ドラウガス、今から体拭くから。そしたら上がっていいからね。」


 〘ワカッタ!アンナ、タエコ、ライミ、ミンナ良イ人!〙


 「ディストート…宝石の…。」


 「説明するから。」

















 腰を抜かして尻もち着いたライミちゃんを引っ張りながらリビングに入れる。


 そしてタオルでしっかりとドラウガスの体を拭いてあげる。


 そしてお風呂へ直行。あと消毒も。


 「はい。じゃあ今日からここがアンタの家だよ。」


 「アハハ!よろしくねドラちゃん!」


 「ほんとに一緒に住むんだ…。」


 〘アリガトウ!アンナ!タエコ!ライミ!ドラウガス!友達ーーーッ!〙




























☆次回予告☆


 ついに始まる林間学校。

 その班分けにアンナぶちギレ!?


───次回!


第22話


【林間学校開幕!】


 新しい担任の先生も登場するぞ!

【設定を語ろうのコーナー⑫】


●ドラウガス(クリスタル:ディストート)


◯身長…160cm


◯体重…200kg


◯危険度ランク…該当なし(強さ的にはC)


《備考》


アンナとタエコが出会った非生物型のディストートで、人間を襲って食べないうえ、争うことも嫌いな心優しいディストート。他のディストートたちに比べ、知能が低いのか、精神年齢が低いのか、厳密な理由は分からないが、カタコトで話す。

生まれてから今までずっと孤独に生きてきたが、買い出し中のアンナとタエコに見つかり、リトアニア語で『友達』という意味を持つ【ドラウガス】という名前を与えられる。以降、アンナとタエコとライミの事を『トモダチ』と呼び、非常によく懐く。

人見知りな性格で、相手が子どもであっても、恥ずかしさと恐ろしさのあまり2人の後ろに隠れてしまう。

行く場所もなく、放っておけば組織に見つかり討伐されてしまう可能性があったため、アンナの家に居候することとなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ